【法定地上権の対抗力は地上権設定登記or建物所有者の登記】

法定地上権が成立する状態で建物を競落しました。
敷地の地主に対して,地上権設定登記請求を行えますか。

1 地主に対して法定地上権の登記を請求できる
2 1筆の土地の一部に法定地上権成立→分筆地上権設定登記を請求できる
3 建物の登記だけでも法定地上権対抗力はある
4 建物の登記よりも地上権登記の方が,売却時に有利

1 地主に対して法定地上権の登記を請求できる

<発想>

法定地上権が成立する状態で建物を競落した
敷地の地主に対して,地上権設定登記をしてもらいたい

法定地上権も,当然ながら地上権です(民法388条,民事執行法81条)。
つまり物権の1つ,ということになります。
物権の性質の1つとして,登記請求権が含まれます。

法定地上権が成立した場合の登記請求>

対象の土地=建物敷地,の所有者に対し,地上権設定登記請求を行える

仮に地主が応じない場合でも,訴訟を提起し,勝訴判決を獲得すれば単独登記が可能です(裁判例1)。

2 1筆の土地の一部に法定地上権成立→分筆地上権設定登記を請求できる

<事例設定>

法定地上権が成立している建物を所有している
ただ,法定地上権の範囲は1筆の土地の一部だけである
地主に対して地上権設定登記請求を行いたい

(1)登記制度上1筆の土地の一部を対象とした地上権の登記はできない

地上権設定登記については,登記というシステム上,1筆単位でしかできません。
『n番地のうち・・・の部分』という記載が使えないのです。
結局,理論上の結論(実体法上の地上権の範囲)と,登記システムがミスマッチ,ということになります。
なお,地上権ではなく地役権の場合は,登記システム上地役権図面を添付して1筆の土地の一部を対象とした登記が可能です。

このようなケースにおいては,分筆登記をした上で地上権設定登記をするということを請求することになります(裁判例2)。
分筆登記とは,1筆の土地が2つ(以上)の筆に分ける手続きなのです。

3 建物の登記だけでも法定地上権対抗力はある

(1)地上権設定登記ではなく建物の所有者の登記だけでも地上権の対抗力はある

法定地上権について,対抗力を得るためには,原則として敷地について地上権設定登記が必要です。
ただ,建物所有目的の地上権については,非常に特殊な例外ルールがあります。
(土地について)地上権設定登記の代わりに建物の所有者の登記があれば同じ(対抗力がある),というルールです(借地借家法10条,旧建物保護法1条)。
<→別項目;建物登記が土地賃借権登記の代わりになる

(2)競売の場合,裁判所が建物所有権登記を嘱託で行ってくれる

ちなみに,法定地上権が成立するということは,競売によって落札しているはずです。
その場合,裁判所が嘱託として建物の所有権移転登記を済ませているはずです。
言わば,アフターサービスで登記まで済ませることになっているのです。
そこで,このルールによって,わざわざ土地について地上権設定登記を行わなくても,対抗力は完備されている,ということになります。

4 建物の登記よりも地上権登記の方が,売却時に有利

(1)売却時は地上権設定登記の方が,権利が明確なのでベター

法定地上権の対抗力という意味では,建物所有者の登記でも地上権設定登記でも同じです。
しかし,法定地上権付建物として第三者に売却する場合は,地上権設定登記がある方が売却しやすいです。
当然ながら,買主(候補者)としては,購入した後,面倒なことが生じないで安心・確実に使用(居住)できるか,ということについて慎重に考えるからです。

(2)建物登記だけだと法定地上権の範囲が明確にならない

地主との間で法定地上権についての確認が,書面(契約書など)によってなされているなら範囲は明確です。
しかし,明確な合意がない場合,地主との間で地上権の範囲について見解が異なる可能性があります。
買主としては,事後的に裁判を利用せざるを得ないという可能性があります。
結局,法定地上権の内容(範囲)について,不明確な点があると,売却が事実上不可能となり得るのです。

(3)地上権登記がある場合,地上権の範囲確定が済んでいるはず

法定地上権の範囲を確定させるには,建物所有者と地主とで協議するか,訴訟→判決獲得,が必要です。
このような手段で,法定地上権の範囲が確定されれば,地上権設定登記で記録化ができます。
例えば,法定地上権の範囲と一致させるように分筆登記がなされ,法定地上権の登記を行う,ということです。
逆に言えば,地上権登記がなされている場合は,権利関係が明確であることを意味するのです。
売買において,買主が,安心して購入できることにつながります。

条文

[民法]
(法定地上権)
第三百八十八条  土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。

[民事執行法]
(法定地上権)
第八十一条  土地及びその上にある建物が債務者の所有に属する場合において、その土地又は建物の差押えがあり、その売却により所有者を異にするに至つたときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合においては、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。

[借地借家法]
第十条  借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
2~4(略)

[建物保護ニ関スル法律]
第1条 建物ノ所有ヲ目的トスル地上権又ハ土地ノ賃借権ニ因リ地上権者又ハ土地ノ賃借人カ其ノ土地ノ上ニ登記シタル建物ヲ有スルトキハ地上権又ハ土地ノ賃貸借ハ其ノ登記ナキモ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得

判例・参考情報

(判例1)
[東京地方裁判所平成17年(ワ)第6251号、平成18年(ワ)第1001号、平成19年(ワ)第21602号地上権設定登記請求事件、地代確定請求事件、建物収去土地明渡請求事件平成20年4月23日]
前提事実によれば,原告は,昭和40年11月15日,本件土地について,本件法定地上権を取得したものであるから,被告は,原告に対し,本件法定地上権の設定登記手続をすべき義務がある。

(判例2)
[東京地方裁判所昭和48年(ワ)第2438号地上権確認請求事件昭和50年12月19日]
法定地上権の範囲は必ずしもその建物敷地のみに限定せられるものではなくして、建物として利用するに必要な限度において敷地以外にも及ぶものであるところ、法定地上権制度の根拠が抵当権者・競落人及び設定者の意思の推測に求められるにとどまらず、社会経済上の不利益防止という公益的理由に求められることに鑑みると、右の建物として利用するに必要な限度とは単に主観的に建物の利用のため必要であるにとどまらず、客観的にも建物の利用のため必要であることを要すると解するのが相当である。
(略)
(三)(イ) 一般に前記のような霊園の墓の造成、販売については、墓石自体及びその陳列自体はそれ程意味を有するものでないこと明らかであり、前記(一)、(二)の各事実及び《証拠略》によると本件において前記墓石につき、本件建物内にこれを陳列しえないわけではなく、またそのパンフレットでもまかないうることが認められ(右認定を左右するに足る証拠はない)、
(ロ) 前記(二)の認定の用に供した各証拠及び前記(一)、(二)の各事実(特に原告会社の事業内容、本件建物自体の使用状況、プレハブ建物設置の時期、その当初の使用状況)に徴すると(a)前記プレハブ建物も事務所として使用している本件建物の利用に必要なものとは認め難く、(b)原告において、本件法定地上権の範囲を本件土地全部に及ばしめる目的のために右プレハブの建物を設置した疑いがないわけではなく、その範囲が本件土地の全部に及ぶものと考えていたものとは認め難い。
(四) 前記(一)、(二)の事実及び(三)において説示したところに、弁論の全趣旨により認められる本件土地が近隣商業地域かつ準防火地域に属し、建築面積の敷地面積に対する割合が十分の七をこえることができない事実及び前掲(二)の認定の用に供した各証拠をあわせ徴すると別紙図面中、イ、ト、チ、リ、イの各点を直線で結んだ線内の三七・九六平方メートルの土地(別紙図面朱線内の土地)が本件建物の利用に必要な範囲すなわち本件法定地上権の及ぶ範囲であると認めるのが相当である。
(略)
四 よって原告は本件土地中、前記三七・九六平方メートルの土地につき前記のような法定地上権を有するというべく、また被告は、原告に対して右三七・九六平方メートルの土地につき分筆登記手続をなしたうえ、右の法定地上権の設定登記手続をなす義務があるというべく、従って原告の本訴請求中、右の三七・九六平方メートルの土地につき、右の法定地上権の確認及び分筆登記手続のうえその設定登記手続(原告の請求の趣旨は本件土地全部にまで法定地上権を認められない場合には右分筆を求める趣旨もふくまれると解せられる)を求める部分は理由があるから認容し、(略)

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