【権限の定めのない代理人の代理権の範囲(民法103条)の基本】

1 権限の定めのない代理人の代理権の範囲(民法103条)の基本

民法103条は、権限のない代理人の代理権の範囲を規定しています。この条文自体はマイナーですが、実はいろいろな場面で使う(流用する)ことがあり、事案によっては活躍します。
本記事では、民法103条の基本的な内容を説明します。

2 民法103条の条文

最初に、民法103条の条文を確認しておきます。条文自体は抽象的で味気ないものです。

民法103条の条文

(権限の定めのない代理人の権限)
第百三条 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
※民法103条

3 民法103条の適用範囲→任意代理+法定代理

民法103条がストレートに適用されるのは、権限の定めのない代理人です。任意代理、つまり、AがBにある行為の代理を依頼する場合は通常、代理の範囲を決めます。逆に、「建物甲の管理」を頼んだ、というざっくりした依頼の場合に民法103条が発動するのです。
また、法定代理でも、状況によっては代理(権限)の範囲が明確に定められない状況が起きることもあります。その場合でも民法103条が発動します。

民法103条の適用範囲→任意代理+法定代理

あ 任意代理への適用→肯定

本条は、任意代理の場合にも、法定代理の場合(法典調査会民法議事速記録〔法務図書館版〕一〔昭50〕61〔梅発言〕)にも適用がある

い 法定代理への適用→肯定(反対説あり)

法定代理については、それを認める規定によって個別的に確定されるべきであるとして、本条の適用はないとする見解が存在する(→旧注民第4巻48〔浜上則雄〕)。
しかしながら、選任行為において範囲が定められる法定代理権(たとえば、保佐人や補助人の代理権)もある。その場合において、選任行為の内容を一義的に確定することができないときに、本条の適用を除外する理由はない
なお、法定代理権については、不在者の管理人の代理権(28)、相続財産の管理人の代理権(918III・953)など、本条を代理権の範囲の標準とする規定もある。

4 任意代理の範囲の不明確と代理権授与行為の有効性の関係

前述のように民法103条は委任(依頼)の範囲を決めなかった場合に発動するのですが、実はこのメカニズムは特殊なものです。というのは、本来、契約(法律行為)の原則的ルールとして、内容が確定していないなら無効になるというものがあります。たとえば売買契約で代金が決まっていない場合は売買契約全体が無効になります(柚木馨・生熊長幸稿/柚木馨ほか編『新版 注釈民法(14)』有斐閣2010年p155)。
詳しくはこちら|共有状態を維持するニーズ・ハードル
委任契約でも、委任した範囲(代理権の範囲)が決まっていないと本来無効になるのですが、民法103条が発動してくれる結果、代理権の範囲が決まるので、無効にならなくて済む、というメカニズムがあるのです。
この点たとえば、どの不動産の管理を委任(依頼)したのかが決まっていない、というケースでは、民法103条では対象物(どの不動産か)を決めることはできないので、原則どおりに委任契約は無効となります。

任意代理の範囲の不明確と代理権授与行為の有効性の関係

あ 原則論→無効

任意代理の場合、代理権授与行為は代理人に代理権を与える法律行為である。
法律行為の効力に関する一般的な準則からすれば、いかなる範囲の代理権が授与されることになるかを一義的に確定することができず不明である場合には、法律行為たる代理権授与行為は内容不確定を理由として無効となるはずである。

い 民法103条による有効化(無効回避)

しかしながら、本条により、代理権授与行為については、それにより与えられる代理権の内容を確定することができなくても、代理権がどの物または財産(本人の財産関係全般であってもよい)に関して与えられたのかさえ確定することができるならば、有効に成立する
(代理の目的となる物または財産も確定することができなければ、本条を適用することができないから、代理権授与行為は無効とならざるをえない)。
※佐久間毅稿/於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(4)』有斐閣2015年p83

5 民法103条1号の保存行為(概要)

民法103条が適用される(発動する)場合、代理権の範囲はまず、保存行為(1号)については認められます。抽象的には現状を維持する行為ということになります。単純な行為は容易に判別できますが、中には判別が難しいものもあります。
詳しくはこちら|民法103条1号の「保存行為」の意味

6 民法103条2号の利用行為・改良行為(概要)

民法103条が適用される場合に認められる代理権の範囲の2つ目は、(物または権利の)性質を変えない範囲内の利用行為改良行為です。利用改良はプリミティブな日本語の意味そのものです。
利用収益を得る行為、改良価値を増加させる行為です。判別で問題となるのは、前置き部分の性質を変えないといえるかどうか、という部分です。
詳しくはこちら|民法103条2号の利用行為・改良行為の意味
ちなみに、利用行為の典型の1つは賃貸することです。対象物から賃料収入を得るという、分かりやすい収益を得る(=利用)行為です。権限の定めのない代理人が行うことができる賃貸借の範囲については、民法602条が定めています。民法602条の条文は期間だけで判定するというシンプルなものですが、解釈は複雑です。
詳しくはこちら|処分権限のない者による短期賃貸借(長期賃貸借との判別・民法602条)

本記事では、民法103条の基本的な内容について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に代理人や管理人など、所有者自身ではない者による契約に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【処分権限のない者による短期賃貸借(長期賃貸借との判別・民法602条)】
【民法103条1号の「保存行為」の意味】

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