【遺産分割|手続の流れ|協議・調停・審判・保全処分・欠席対応・寄与分との関係】
1 遺産分割の全体的な手続の流れ(協議→調停→審判)
遺産分割が完了するまでの手続にはいろいろなものがあります。本記事では手続の全体的な流れを説明します。
2 遺産分割の全体の流れ=協議→調停→審判
遺産分割は、相続人で話し合って、それでまとまらなければ家庭裁判所の家事調停、それでも合意に達しない場合には家事審判に進む、というのが大きな流れです。
遺産分割の全体の流れ=協議→調停→審判
あ 協議
相続人同士で協議する
『遺産分割協議』と呼ぶ
通常、最初に行う
い 審判前の保全処分
必要に応じて行うことがある
う 調停
家庭裁判所に申し立てる
え 審判
通常は『調停の後』に行われる
調停が不成立となった時に『審判に移行』する
お 抗告
審判に不服がある場合は『即時抗告』ができる
抗告審は高裁で審理される
3 審判前の保全処分(暫定的な措置ができる)
遺産分割の手続は完了までにある程度の期間を要します。
そこで、事前に、完了までの間に暫定措置を行う手続もあります。
審判前の保全処分(暫定的な措置ができる)
あ 保全処分利用が望まれる事情
次のいずれにも該当する場合
ア 調停が長期化することが想定されるイ その間の遺産の管理が必要である
い 典型的具体例
遺産の中に補修の必要な危険な不動産がある
定期的な家賃収入の管理が必要である
う 手続の流れ
『審判前の保全処分』の申立を行う
→家裁が『財産の管理者=遺産管理人』を選任する
※家事事件手続法189条
※『月報司法書士11年12月』日本司法書士会連合会p22〜
4 家庭裁判所の遺産分割の流れ→調停・審判
協議で決められない場合は家裁の手続を利用できます。
家庭裁判所の遺産分割の流れ→調停・審判
あ 調停前置
『遺産分割』の調停・審判のいずれかを申し立てる
最初から審判を申し立てたとしても、家裁が調停に付することが多い
詳しくはこちら|一般的付調停|事実上の調停前置・必要的付調停との違い
※民法904条の2第2項
い 審判移行
調停が不成立となると審判に自動的に移行する
詳しくはこちら|別表第2事件の家事調停の不成立による審判移行(対象事件・管轄・資料の扱い)
5 家庭裁判所の調停における「調停に代わる審判」(概要)
調停は基本的に相続人全員が合意しない限り成立しないのが原則ですが、「調停に代わる審判」という方法を使えば、一部の相続人が協力しない場合にも調停成立と同じ解決に至る、ということもあります。
詳しくはこちら|遺産分割調停における調停に代わる審判の活用(整理ノート)
6 審判に対する即時抗告|期限は2週間・高裁へ移る
最初に『裁判所としての正式な判断結果』が出るのは『審判』です。
当然、当事者が内容に納得できない、ということもあります。
その場合には『即時抗告』ができます。
審判に対する即時抗告は期限に注意が必要です。
抗告審は高裁となり、実質的な最終の審理・判断となります。
審判に対する即時抗告
あ 即時抗告の方法
(即時)抗告状を裁判所に提出する
い 即時抗告の期限
審判の告知を受けた日から2週間
告知を受けた者によって期限が異なる
※家事事件手続法198条1項1号、86条
7 家事調停・審判×欠席のフォロー|受託和解・電話会議・調停に代わる審判
調停の手続は『当事者全員が合意』しないと調停成立とはなりません。
また、出席しないことによる不利益もありません。
そこで当事者が『出席しない』ということがよくあります。
そこまで対立が激しくない場合でも『忙しくて時間が取れない』ということもあります。
このような状況で活用できる制度があります。
家事調停・審判×当事者の欠席のフォロー
あ 書面受諾和解
当事者が書面で受諾の意思を伝える
→出席しなくても調停成立となる
※家事事件手続法270条
詳しくはこちら|書面受諾和解・調停|期日に出席せずに和解成立・電話会議システムにリプレイスされ気味
い 電話会議システム
当事者が電話で調停・審判に出席できる
→調停成立もできる
※家事事件手続法268条
詳しくはこちら|電話会議システム|電話で裁判に参加できる|離婚・離縁成立だけはNG
う 調停に代わる審判
裁判所が調停段階で『審判』を行うことができる
当事者の『異議』により効力を失う
『異議』がなければ確定する
詳しくはこちら|調停に代わる審判(家事事件手続法284条)の理論と解釈
調停に代わる審判については、本来、実質的に合意成立に近い場合に利用されます。
しかし『相手が出頭しない』場合にも発動されることがあります。
もちろん、相手が納得しない内容があれば『異議』を出されてしまいます。
一方で『異議を出す』ことすら見逃されて、うまく確定に至ることもあります。
8 遺産分割と寄与分|手続としては別だが『セット』が前提
『寄与分』の制度については家裁の調停・審判は『別の事件』扱いです。
とは言っても、実際には『併合』つまり『セットとする』ことが前提となっています。
詳しくはこちら|寄与分の手続|協議・家事調停・審判|遺産分割との併合・申立が遅い→却下
なお、寄与分と似ている制度として、特別受益があります。特別受益はもともと遺産分割と別の手続という扱いがありません。理論的にも現実にも、遺産分割に含まれることになります。
詳しくはこちら|特別受益に関する裁判手続(遺産分割手続と確認訴訟)と法的性質論
9 関連テーマ
(1)遺産分割の手続の種類→別表第2事件
『家事審判対象事件−別表第2事件』に分類されている
詳しくはこちら|家事事件(案件)の種類の分類(別表第1/2事件・一般/特殊調停)
本記事では、遺産分割の手続の全体的な流れについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺産分割など、相続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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