【遺産分割の前提問題|遺産の範囲・相続人の確定|遺言の有効性・所有権確認】
1 遺産分割の前提問題|遺産の範囲
2 遺産の範囲確定の手続|遺産確認/所有権確認訴訟
3 遺産確認訴訟の共同訴訟形態
4 遺産分割の前提問題|相続人の確定|夫婦・養子・親子関係・廃除・欠格
5 遺産分割の前提問題|遺言・遺産分割の有効性
6 遺産分割の前提問題の解消手続×遺産分割|2つの手続の関係
7 遺産分割の前提問題|既判力の作用
8 遺言の存否×遺産分割審判|一応可能だが好ましくない
1 遺産分割の前提問題|遺産の範囲
遺産分割の前提問題として位置付けられるものがあります。
その1つが『遺産の範囲』です。
典型的に問題となる事情をまとめます。
<遺産分割の前提問題|遺産の範囲>
あ 財産の帰属|基本
生前に被相続人に権利が帰属していたかどうか
い 財産の帰属|使途不明金
次のような事情による『使途不明金』として問題化する
・相続人の1人が無断で被相続人の財産を消費した
・相続人の1人が被相続人の預貯金を引き出していた
(別記事『使途不明金』;リンクは末尾に表示)
2 遺産の範囲確定の手続|遺産確認/所有権確認訴訟
『遺産の範囲』を確定させるための手続についてまとめます。
<遺産分割の前提問題|遺産の範囲確定の手続|種類>
あ 手続の種類
主張者=原告 | 訴訟の種類 |
相続人 | 遺産確認訴訟(※1) |
自身の固有財産と主張する者 | 所有権確認訴訟 |
※1 遺産確認訴訟について
かつては『共有持分権確認訴訟』が用いられたこともある
現在では通常用いられていない
い 管轄
地方裁判所(原則)
3 遺産確認訴訟の共同訴訟形態
遺産分割の『前提問題』に関する訴訟の性質について説明します。
遺産確認や相続人を確定する訴訟は『共同訴訟』です。
さらにその中での分類をまとめます。
<遺産確認訴訟の共同訴訟形態>
あ 遺産確認訴訟の当事者と内容(概要)
相続人が確認を求める手続(前記)
※最高裁昭和61年3月13日
い 遺産確認訴訟の共同訴訟形態
固有必要的共同訴訟である
→共同相続人の全員が当事者(=原告or被告)に含まれている必要がある
※最高裁平成元年3月28日
う 類似する訴訟との違い|まとめ
訴訟の種類 | 固有必要的共同訴訟 |
遺産確認訴訟 | 該当する |
相続人の地位がないことの確認の訴え | 該当する |
遺言無効確認訴訟 | 該当しない |
4 遺産分割の前提問題|相続人の確定|夫婦・養子・親子関係・廃除・欠格
遺産分割の前提問題として『相続人の確定』があります。
相続人が誰かという問題が生じる状況・種類をまとめます。
<遺産分割の前提問題|相続人の確定|種類>
あ 『合意』による身分行為の有効性を争う
婚姻・離婚・養子縁組の有効性
い 生物学的親子関係を争う
嫡出否認・認知・親子関係不存在の主張・手続
う 特殊事情による扱い
相続人の廃除・相続欠格
え 相続放棄/承認の効力
相続放棄・単純承認・法定承認などの効力・該当性を争う
5 遺産分割の前提問題|遺言・遺産分割の有効性
遺産分割の前提として『遺言の有効性』が問題となることが多いです。
さらに以前行った遺産分割が有効か無効か,という問題もあります。
<遺産分割の前提問題|遺言・遺産分割の有効性>
あ 遺言の存否・有効性
(遺言無効・全体)
い 遺産分割協議の有効性
既に相続人間で協議・合意したかどうか
6 遺産分割の前提問題の解消手続×遺産分割|2つの手続の関係
『遺産の範囲の確定』と『遺産分割』の手続は『前提』と『メイン』というような関係です。
遺産の範囲の確定は地方裁判所で,遺産分割は家庭裁判所で扱われます。
そこで,2つの手続の順序などの関係性について,実際に起きる状況を整理します。
<遺産分割の前提問題|遺産・相続人の確定手続×遺産分割手続>
あ 原則的順序
『遺産の範囲・相続人』確認・確定の手続→遺産分割手続
い 結果的に並行となる場合
遺産分割手続→遺産の範囲確認の手続
遺産分割の手続中に『前提問題』が発覚・浮上することがある
その場合に上記の流れとなる
う 遺産分割調停・審判×前提問題
ア 前提問題の存在による問題点
『遺産の範囲・相続人』の確定が必要な状態となった場合
→仮に調停成立・審判に至っても後から『無効』となる可能性がある
イ 裁判所による扱い
『遺産分割手続』は一時停止となる
裁判所が,いったん取り下げることを勧告する
→前提問題の解決後,当事者が改めて申し立てる
※『月報司法書士2011年12月』日本司法書士会連合会p3
7 遺産分割の前提問題|既判力の作用
『前提問題』の訴訟からメインの遺産分割へのつながりを説明します。
訴訟が判決で終わった場合,その判決には『既判力』が生じるのです。
これについてまとめます。
<遺産分割の前提問題|既判力の作用>
あ 訴訟の効果|既判力
前提問題が訴訟→判決確定に至った場合
→『確定判決』には既判力がある
い 既判力の意味
その後の裁判が『確定判決』に拘束される
=判決内容を前提として別の判断を行う
う 既判力の有無
裁判形式 | 既判力の有無 |
訴訟手続→判決 | あり |
審判手続→決定 | なし |
調停手続→調停調書 | なし |
既判力については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|家事審判|対立構造|緩和的|不成立なし・処分権主義・既判力
8 遺言の存否×遺産分割審判|一応可能だが好ましくない
遺言の存否は,遺産分割の前提問題です(前述)。
これについて『遺産分割審判で判断できる』という解釈もあります。
可能ではありますが不合理です。
そこで通常は『遺産分割』と『遺言確認』は別の手続で行います。
<遺言の存否×遺産分割審判>
あ 審判における判断
遺言の存否など
→遺産分割審判で判断できる
※最高裁昭和41年3月2日
い 実質的な問題
『審判』には既判力はない(前記)
→実質的に紛争を終了=確定できない
→当事者が『遺言無効確認訴訟』を提起できる
=2度手間となる
※民事訴訟法114条参照
う 現実的な手法
『遺産分割』の手続とは別に『遺言確認』の手続を行う(前述)
典型例=先に『遺言確認訴訟』を提起する

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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