【親権者・監護権者の指定の判断要素や判断基準の全体像(子の利益と4原則)】

1 親権者・監護権者の指定の判断要素や判断基準の全体像
2 親権者・監護権者に関する条文上の判断要素
3 『子の福祉』から『子の利益』への用語の変更(参考)
4 親権者・監護権者の判断要素(子の利益)の内容
5 子の利益の判断の4つの原則(枠組み・概要)
6 子の年齢別の親権者・監護権者の簡易判断方法
7 離婚の有責性と親権者・監護権者の判断の関係(否定・概要)

1 親権者・監護権者の指定の判断要素や判断基準の全体像

夫婦(父母)の間で,どちらが親権者や監護権者になるのかについて熾烈に対立するケースは多いです。
当事者の間で合意できない場合には家裁が指定することになります。
詳しくはこちら|親権者・監護権者の指定の手続(手続の種類や法的根拠)
裁判所は,一定の基準(枠組み)によって親権者や監護権者を判断します。
本記事では,親権者や監護権者の指定の判断要素(材料)や判断基準の枠組みについて説明します。

2 親権者・監護権者に関する条文上の判断要素

親権者や監護権者の指定の判断に関して,条文の規定としては子の利益を重視するということだけは読み取れます。それ以上に詳しい判断要素や基準は規定されていません。

<親権者・監護権者に関する条文上の判断要素>

あ 親権者の判断要素

『子の利益』(のため必要がある時に親権者の変更をする)
※民法819条6項

い 監護権者の判断要素

『子の利益を最も優先して考慮しなければならない』
※民法766条1項,2項

3 『子の福祉』から『子の利益』への用語の変更(参考)

なお,以前の民法の規定では『子の福祉』という用語が使われていました。現在は『子の利益』に変更されています。古い判例や文献では『子の福祉』が使われていますので注意が必要です。

<『子の福祉』から『子の利益』への用語の変更(参考)>

平成23年民法改正により『子の福祉』から『子の利益』と変更された
より分かりやすい用語への改良するという趣旨である

4 親権者・監護権者の判断要素(子の利益)の内容

親権者や監護権者の指定で重視する子の利益(前記)の内容をさらに考えます。要は,子供にとって,どちらの親のもとで育てられた方が良いか,ということになります。
子の利益について判断する際の要素を整理します。

<親権者・監護権者の判断要素(子の利益)の内容>

あ 父・母の事情

ア 監護の意欲(子に対する愛情の度合い)イ 監護に対する現在・将来の能力 親の年齢
親の心身の健康状態
時間的余裕
資産・収入などの経済力
実家の援助
ウ 生活環境 住宅事情
居住地域
学校関係
エ 奪取の違法性オ 面接交渉への許容性

い 子の事情

ア 子の年齢・性別イ 子の意思 審理の中で子の意見の陳述の聴取が行われることがある
詳しくはこちら|監護に関する事項・親権者の裁判(審判・附帯処分等)における子の意見の聴取
ウ 子の心身の発育状況エ 兄弟姉妹の関係オ 環境の変化による影響の度合い カ 親や親族との情緒的結びつき

5 子の利益の判断の4つの原則(枠組み・概要)

子の利益と言うのは簡単ですが,父・母のいずれを親権者や監護権者と指定した方が子の利益が大きいかということを判断することは単純ではありません。
子の利益を判断する大きな枠組みとして,4つの原則的な考え方があります。これまでの判例の蓄積で形成された4原則です。
実際にはこれら以外にも考慮されることはあります。実際の個別的な事情によっては,これらの原則とは反対の結論となることもあります。ご注意ください。

<子の利益の判断の4つの原則(枠組み・概要)>

あ 継続性の原則

実際にそれまでに子を監護してきた者を優先する,という原則である
現状維持を重視するものである
子供の友人関係を含めて,親の事情で子供の環境をできるだけ変えない方が望ましい,という考え方による

い 子の意思の尊重

子の意思(意見)は尊重される
ただし,子供の発言1つで結論が決まるわけではない
子供の発言がどの程度の深い意味を持つか,ということを判断した上で考慮される
実務では10歳程度以上の子であれば意見の聴取が行われる
詳しくはこちら|監護に関する事項・親権者の裁判(審判・附帯処分等)における子の意見の聴取
詳しくはこちら|家裁調査官による子供の意見の調査(真意を把握する工夫や心理テスト)

う 兄弟姉妹不分離の原則

兄弟姉妹を一緒に育てる方が子供にとって望ましい,という考え方である
この原則については,継続性の原則と衝突することがよくある

え 母親(母性)優先の基準

特に子供の年齢が低い場合は,母親が育てることが望ましい,という考え方である
最近は男女平等の考え方が拡がっている
→以前ほどは重視されなくなってきている傾向がある

それぞれの原則の詳しい内容は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|親権者指定での『子の利益』では4つの原則が基準となる

6 子の年齢別の親権者・監護権者の簡易判断方法

親権者,監護権者の指定について,簡略的な判断方法を説明します。
実際の訴訟・審判では,このような簡易な判断方法を用いるわけではありません。
あくまでも目安として考えて下さい。

<子の年齢別の親権者・監護権者の簡易判断方法>

あ 0~10歳(子の年齢)

母が指定される可能性が高い

い 10~15歳

父・母に優劣が付けられない場合には母とされる可能性が高い

う 15~20歳

子供自身の意見が尊重される

え 20歳以上

成人に達しているので親権者を決める必要はない
親権が存続するのは子供が20歳になるまでである
※民法4条,818条1項

7 離婚の有責性と親権者・監護権者の判断の関係(否定・概要)

離婚の要因についての責任,有責性が親権者や監護権者の判断で指摘されることがあります。代表例は不貞(不倫)をした者は親権者や監護権者になるべきではないというような主張です。
心情的には分かりますが,子の利益を害するかどうか,とは直結しません。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|離婚要因の『有責』は親権者の判断には関係しない

本記事では,親権者や監護権者の指定の判断要素や判断基準の基本的事項を説明しました。
実際には個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に子供の親権や監護権(子供の引渡)の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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