【監護に関する事項・親権者の裁判(審判・附帯処分等)における子の意見の聴取】

1 監護に関する事項・親権者の裁判における子の意見の聴取
2 裁判所の審理における子の意見の聴取の規定と趣旨
3 子の意見の聴取がなされる手続の具体例
4 聴取(調査)対象とする子の年齢
5 調停における子の意見の聴取
6 子の意見の陳述の聴取の方法
7 子の意見の評価
8 子の意見への親の影響や調査の工夫(概要)

1 監護に関する事項・親権者の裁判における子の意見の聴取

家裁が裁判(家事審判や離婚訴訟の附帯処分等)として子の監護に関する事項を定めることや親権者を指定する手続があります。
詳しくはこちら|子の監護・財産分与・親権者を定める基本的な方法(協議・家事審判)
家裁がこのような子供が関係する事項(監護に関する事項・親権者の指定)を審理する際には,子供自身の意見を聴取することがあります。
本記事では,家裁の審理における子の意見の聴取について説明します。

2 裁判所の審理における子の意見の聴取の規定と趣旨

子に関係する審理では,子供の年齢が15歳以上である場合には一律に子の陳述(意見)を聴くことが必要となっています。代表的な決定事項である親権者の指定を考えるとよく分かりますが,子供自身への影響が非常に大きいです。そこで,子供自身の意見を判断に反映させるという趣旨です。

<裁判所の審理における子の意見の聴取の規定と趣旨>

あ 規定内容

(子に関係する)家事審判・附帯処分等の裁判において
子が15歳以上である時は,子の陳述を聴かなければならない
※人事訴訟法32条4項
※家事事件手続法152条2項

い 趣旨

子に対する手続保障の一部といえる
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p84

3 子の意見の聴取がなされる手続の具体例

子の意見が尊重されるために子の意見の聴取が行われる手続の代表的なものは,親権者や監護権者を指定する,あるいは面会交流を定める調停や審判です。

<子の意見の聴取がなされる手続の具体例>

あ 親権者,監護権者指定(調停・審判)

子供にとってどちらの養育が適切かを判断する
→子供自身の意見が重視・尊重される
詳しくはこちら|親権者・監護権者の指定の判断要素や判断基準の全体像(子の利益と4原則)

い 面会交流(調停・審判)

面会交流をさせるか否か・面会方法や頻度を判断する
→子供自身の意見が重視・尊重される
詳しくはこちら|子供と親の面会交流の手続(調停・審判のプロセスと禁止する状況)

う 未成年後見(審判)

未成年者に後見人を選任するかどうか
※裁判所職員総合研修所監『家事事件手続法概説』司法協会2016年p59

4 聴取(調査)対象とする子の年齢

前記のように法律上15歳以上の子の意見の聴取が義務付けられています。だからといって,15歳未満の子の意見は聴取する必要がないというわけではありません。
裁判所の個別的な判断で,子の意見が必要であると考えれば,子の意見の聴取を実施します。
実務では,10歳程度に達している子供であれば意見の聴取を行っています。

<聴取(調査)対象とする子の年齢>

あ 方向性

15歳未満の子について
ある程度の判断力のある子についてはその意思を十分に斟酌して判断するために可能な限り子の意見を聴くべきである

い 実務的な傾向

実務では10歳程度以上の子について陳述の聴取が行われている
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p84
※金子修ほか編著『講座 実務家事事件手続法(上)』日本加除出版2017年p419

5 調停における子の意見の聴取

一般的に調停の段階では裁判所による調査はあまり行われません。
しかし子の意見の聴取は,例外的に行われることが比較的多いです。

<調停における子の意見の聴取>

あ 調停の根本的性格

当事者の話し合いがメインである
最終的に当事者の両方が合意しない限り成立しない

い 子の意見の確認の特殊性

調停での話し合いを促進するという効果がある
子の意見の確認のために聴取を実施することがある

う 子の意見の聴取結果の活用

調停委員が聴取結果を当事者に説明する
調停委員が当事者に,一定の合意に向けた説得をする

6 子の意見の陳述の聴取の方法

裁判所が子の意見(陳述)を聴取する場合に,具体的な聴取の方法はいくつかあります。
より正式な手続としては,証人尋問や審問があります。
ただし,例えば長期間母親と子が一緒に住んでいて,母が親権者となることについて父も母も意見が一致しているような場合は,子の意見の聴取を厳格に行う必要性は低いです。そこで,陳述書の提出だけで済ませることもよくあります。
それ以外に,家裁の調査官が子と直接会って話をする(調査官による調査)という方法もあります。

<子の意見の陳述の聴取の方法>

あ 理想的な方法

『ア・イ』のいずれかの方法が適切である
ア 証人尋問手続イ 事実の調査としての審問

い 他の方法

事情によって,『ウ・エ』の方法も可能である
ウ 陳述書の提出エ 家庭裁判所調査官の面接調査 直接子供に意見を質問する方法以外の調査もある
詳しくはこちら|家裁調査官による子供の意見の調査(真意を把握する工夫や心理テスト)
※家事事件手続法65条(子の意思の考慮)参照
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p84

う 実務の傾向

実務上,調査官に対して子の意向や子の状況についての調査命令が出されることが多い
※裁判所職員総合研修所監『家事事件手続法概説』司法協会2016年p60

7 子の意見の評価

子供の意見を聴取しても,その意見(子供の希望)どおりに親権者を決めるというわけではありません。親権者の指定の判断は多くの事情が考慮されます。
詳しくはこちら|親権者・監護権者の指定の判断要素や判断基準の全体像(子の利益と4原則)
子の意見の考慮は法律上の要請されています。しかし,子の意見がどの程度の比重を持つかということについて一律の答えはありません。

<子の意見の評価>

あ 子の意思の尊重(前提)

子の年齢,発達の程度に応じて子の意思を考慮しなければならない
※家事事件手続法65条

い 子の意思の評価の基準

子の意見の評価について
一律の判断枠組みの形成は困難である
※最高裁昭和61年7月18日参照

う 子の意思の評価の傾向

ア 混乱なし・高い年齢 紛争性がそれ程高くなく,また,子の年齢が比較的高い場合
→子の意思を審判の判断に反映させる
イ 混乱あり・低い年齢 父母の紛争下における不安や混乱などから自己の意見を言語的に表明できない
→子の立場に配慮した判断をする
※裁判所職員総合研修所監『家事事件手続法概説』司法協会2016年p60,61

8 子の意見への親の影響や調査の工夫(概要)

両親が別居している状況では,子供の気持ちは親の影響を大きく受ける傾向があります。具体的には,同居している親に子供が迎合することがよくあるのです。
詳しくはこちら|両親の対立状況での子供の心理(親への迎合・忠誠葛藤や敵意の発生)
そこで,子の意見の評価ではこのようなことに配慮する必要があります。また,子の意見の聴取の段階でもこのようなバイアスを見抜くことが求められます。この点,家裁の調査官は専門的知識や経験を活かして子供の真意を把握するように努力しています。
詳しくはこちら|家裁調査官による子供の意見の調査(真意を把握する工夫や心理テスト)

本記事では,子の監護に関する事項や親権者の指定の審理における子の意見の聴取について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に離婚に伴う子供に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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