【親権者指定での『子の利益』では4つの原則が基準となる】
1 現状維持の考え方=継続性の原則
2 子供との面会に協力すると継続性が重視される傾向ある
3 子供から聴取した意向が尊重される=子の意思の尊重
4 子供の年齢が10〜15歳程度以上だと子の意思は特に尊重される
5 兄弟は分離しない方が良い=兄弟姉妹不分離
6 父より母が優先される=母親優先の基準
1 現状維持の考え方=継続性の原則
親権者や監護権者を指定する際の判断では,子の利益が基準になります(※1)。
そして,子の利益の内訳として,4つの原則があります。
詳しくはこちら|親権者・監護権者の指定の判断要素や判断基準の全体像(子の利益と4原則)
このそれぞれの内容について順に説明します。
『継続性の原則』とは,現状維持,現状の尊重ということです。
それまでの子供の生活環境(監護状況)が安定している場合は,この実績は重要です。
現実的な監護者と子供の継続的な心理的結びつきは保護した方が子供のためになる,と考えられているからです。
情緒性の環境を尊重するという言い方もします。
さらに,子供の友人関係を含めて,現状を維持するメリットもあります。
簡単に言えば,親の事情で子供の環境をできるだけ変えない方が望ましい,という考え方です。
裁判例で継続性が重視されるケースを紹介します。
<裁判例における継続性の尊重>
あ 兄弟の分属よりも継続性の優先
兄弟が分属するという不都合を甘受しても『継続性』を優先させた
※東京高裁昭和56年5月26日
い 継続性による最終判断
いずれの親についても監護者として不適切であり,決定的な妥当性判断が困難であった。
最終的には,『継続性』を元にした判断を下した
※大阪家裁昭和50年3月17日
<用語の改良>
平成23年民法改正により『子の福祉』→『子の利益』と変更された
趣旨=より分かりやすい用語への改良
2 子供との面会に協力すると継続性が重視される傾向ある
親権者(監護権者)が父・母のどちらであるか,とは関係なく,父・母とも親であることに変わりはありません。
子供と面会する権利はあります(面会交流権)。
子供を引き取っている親としては,親権について対立中の相手と子供を会わせたくないと思うのが通常です。
しかし,子供との面会を拒否すると,不当な妨害をするという印象を持たれ,親権者の判断で不利に扱われることがあります。
つまり同居している親は継続性の原則で,原則プラスです。
しかし子供と親(相手方)との交流を妨害する→子の利益に反する,という評価につながるのです。
子供と相手方の面会に協力的であった事例で,このことが評価されて親権を獲得できた,という事例があります。
※仙台高裁;平成15年2月27日
3 子供から聴取した意向が尊重される=子の意思の尊重
親権者や監護権者を指定する際の判断の原則に子の意思の尊重があります。
実際の『子の意思』の聴取方法について説明します。
家裁の手続の一環として,子の意見を聴取する方法にはいくつかのものがあります。その1つとして調査官が子供から意見を聴取するというものがあります。この場合,調査官が子供から話を聴く,という形で調査が行われます。
詳しくはこちら|監護に関する事項・親権者の裁判(審判・附帯処分等)における子の意見の聴取
詳しくはこちら|家裁調査官による子供の意見の調査(真意を把握する工夫や心理テスト)
調査官による調査(子供からのヒアリング)がなされた場合,調査報告を元に,審判官(裁判官)が最終判断をすることになります。
最終的には,年齢,子供の態度,表情等から総合的に判断することになります。
<裁判例の概要>
あ 東京高裁昭和31年9月21日
子供=11歳
→子供の希望を尊重した
い 東京高裁平成11年9月20日
子供=5,6歳
→子供の希望を尊重しなかった
4 子供の年齢が10〜15歳程度以上だと子の意思は特に尊重される
子供からの意見聴取,については法律上のルールがあります。
<親権者の判断×『子の陳述』>
子供が15歳以上の場合,『子の陳述』を聴く必要がある
※人事訴訟法32条4号
※家事事件手続法152条2項,169条2項
15歳以上であれば,子供自身が,自分の環境について判断できるからです。
法律上『子供の意見のとおりとする』とは決まっていません。
しかし,15歳以上であれば,子供自身の希望は非常に重視されます。
また,子供が15歳未満でも,実際の家事審判においては,子供の意向を聴取することがあります。
10歳前後以上であれば,子供が自分の意思を表明する能力がある,と考えられています。
もちろん,個々の子供によって,能力には違いがありますし,また環境の影響の程度も違ってくるはずです。
例えば,子供がしっかりと意思表明をしている場合で,その状況から,真意であると思われるような場合であれば,その意向は尊重されることになります。
逆に,発育の程度がそれ程進んでいなかったり,また,周囲の影響を受けた発言(意思表明)であると思われるような場合は,その意向は重視されないことになります。
6歳未満(就学前)の子供の場合は,子供の意向はあまり考慮されません。
周囲の影響を受けているなど,どちらの親の元で育った方が生育環境として良いのかという判断を適切にできていないと考えられるからです。
5 兄弟は分離しない方が良い=兄弟姉妹不分離
兄弟が一緒に暮らすことにより,お互いに得る経験は人格形成上非常に貴重であるという考えがあります。
これについて,幼児期については,当てはまるが,年齢が上がってくると,必ずしも当てはまらないという考えが主流になってきています。
兄弟姉妹不分離の原則が適用されない典型例は,一定期間,兄弟姉妹が別に暮らしている,という場合です。
要は継続性の原則が兄弟姉妹不分離の原則よりも優先されることがある,ということです。
兄弟姉妹不分離の原則,とは,あくまでも親権者(監護権者)の判断方法の1つです。
重視されることも重視されない(逆の結論となる)こともあります。
<裁判例の事案概要>
あ 京都地裁昭和30年9月12日
→兄弟姉妹不分離の原則が重視された
い 仙台家裁昭和45年12月25日
子供が幼児期
→兄弟姉妹不分離の原則が重視された
う 東京高裁昭和63年4月25日
子供が15歳と12歳
子供の意向が一致ではなかった
→兄弟姉妹不分離の原則よりも『子供の意思の尊重』などが重視された
6 父より母が優先される=母親優先の基準
乳幼児であれば,授乳という身体的な問題から,母親が子供の養育者として適切と言えるでしょう。
また,身体的ダメージを受けて出産した,という『母親のみ』のプロセスもリスペクトされます。
そこで,親権者は『母親優先』という原則があります。
重視される=母親が親権者となる,可能性が高いケースをまとめておきます。
<母親優先の原則を重視する状況>
ア 他の要素からは父・母に甲乙付け難い場合イ 子供が乳幼児の場合
しかし最近では,本質的な目的である『子供の利益(福祉)』と『母親優先』が,理論的に結び付かないという批判が強くなっています。
理論ではなく『先入観』である,という批判も強いです。
そこで,他の考え方ほどには重視されなくなってきています。
判例の一例を紹介しておきます。
<裁判例の事案概要>
あ 札幌高裁昭和40年11月27日
子供=3歳
『母親優先の基準』が重視された
い 東京高裁昭和56年5月26日
母親優先の基準よりも継続性の原則が重視された
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