【離婚などの慰謝料への課税(基本的に非課税・例外あり)】

1 離婚などの慰謝料への課税(基本的に非課税・例外あり)

離婚、男女関係、交通事故など、いろいろな場面で慰謝料が支払われることがあります。普通は慰謝料支払で税金はかからないのですが、特殊な事情がある場合には課税されることもあります。本記事では、慰謝料への課税について説明します。

2 慰謝料への所得税→課税なし

まず、金銭を獲得したことによる税金としては所得税が思いつきます。しかし、慰謝料の中身(実質)は、精神的な損害の填補です。受けたダメージを金銭的に穴埋めする、という意味合いです。トクしていない戻っただけということになります。そこで、所得税は課税されません。
なお、慰謝料そのものはもちろん、慰謝料に相当する保険金も同じように所得税課税の対象外となっています。

慰謝料への所得税→課税なし

あ 所得税法

(非課税所得)
第九条 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
・・・
十八 保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第四項(定義)に規定する損害保険会社又は同条第九項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの
※所得税法9条1項18号

い 所得税法施行令→損害保険の保険金・生命保険の給付金・共済金

(非課税とされる保険金、損害賠償金等)
第三十条 法第九条第一項第十八号(非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)は、次に掲げるものその他これらに類するもの(これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補塡するための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分)とする。
一 損害保険契約(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第四項(定義)に規定する損害保険会社若しくは同条第九項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約又は同条第十八項に規定する少額短期保険業者(以下この号において「少額短期保険業者」という。)の締結したこれに類する保険契約をいう。以下この条において同じ。)に基づく保険金生命保険契約(同法第二条第三項に規定する生命保険会社若しくは同条第八項に規定する外国生命保険会社等の締結した保険契約又は少額短期保険業者の締結したこれに類する保険契約をいう。以下この号において同じ。)又は旧簡易生命保険契約(郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成十七年法律第百二号)第二条(法律の廃止)の規定による廃止前の簡易生命保険法(昭和二十四年法律第六十八号)第三条(政府保証)に規定する簡易生命保険契約をいう。)に基づく給付金及び損害保険契約又は生命保険契約に類する共済に係る契約に基づく共済金で、身体の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(その損害に基因して勤務又は業務に従事することができなかつたことによる給与又は収益の補償として受けるものを含む。)
※所得税法施行令30条1号

3 慰謝料への贈与税→課税なし

(1)贈与税の課税対象→「贈与」(前提)

金銭を得た、という面では贈与税も思いつきます。
ここで贈与税の課税対象を確認します。相続税法で、(当然ですが)贈与税は「贈与」に対して課税する、と明記されています。

原則=贈与税の課税対象→「贈与」

(贈与税の納税義務者)
第一条の四 次の各号のいずれかに掲げる者は、この法律により、贈与税を納める義務がある。
一 贈与により財産を取得した次に掲げる者であつて、当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するもの
・・・
※相続税法1条の4

(2)慰謝料支払→「贈与」ではない

「贈与」とは任意で、かつ、無償で財産(金銭)を移転するものです。慰謝料が発生したということは、法律上不法行為が成立し、慰謝料(損害賠償)の支払義務が発生した、ということになります。慰謝料の支払は義務を履行したにすぎません。
常識的にも理論的にも「贈与」ではありません。贈与税が課税されるものではありません。

(3)例外=実質的贈与は贈与税課税あり

ただし、「慰謝料」は名目だけで実質的に無償で金銭を移転させた、という場合には実質を基準にして、贈与税が課税されることになります。
たとえば、精神的なダメージを与えるようなことは一切ないのに「慰謝料」を支払ったケースや、精神的なダメージよりも極端に大きな金銭を「慰謝料」として支払ったケースでは贈与税が課税されることになります。
とはいっても、慰謝料の金額は個別的な事情によるブレが非常に大きいです。そもそも慰謝料というのは精神的苦痛を金銭に換算したものです。厳密、科学的な意味での換算式はないのです。
もちろん、争いになった場合、裁判所で判断する必要が最終的にはあります。その場合、相場が用いられます。
しかし、裁判ではなく、当事者同士の話し合いで決める場合、この算定方法を使わなくてはならないというようなルール、基準はありません。文字どおり気持ちの問題なのです。

そこで、仮に税務調査などがあった場合でも、慰謝料額がよほど極端に高額でなければ贈与とみなされる可能性は低いでしょう。逆に、たとえば離婚の後も元夫婦が仲良く同居しているなど離婚自体が仮装という場合であれば慰謝料も名目だけ(ダミー)と認められる可能性は高くなりましょう。

(4)贈与税と所得税の関係→重複課税なし(参考)

前述のように、「慰謝料」名目でも、実質に着目して贈与税が課税されることがあります。そのような例外ケースでは、実質的には所得だと考えて所得税もかかるのでしょうか。これについては、一般的に贈与税と所得税の重複課税はしないルールとなっています。

贈与税と所得税の関係→重複課税なし(参考)

(非課税所得)
第九条 次に掲げる所得については、所得税を課さない
・・・
十七 相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)
※所得税法9条1項17号

4 金銭以外の財産による慰謝料→譲渡所得税課税あり

(1)金銭以外の財産による慰謝料→譲渡所得税課税あり

ところで、慰謝料を支払う場面では通常、金銭で支払います。この点、特に離婚の場面では、たとえば慰謝料として不動産を渡す(譲渡する)ということも行われます。このように、金銭以外の財産を譲渡した場合は、譲渡所得税はかかります。
そもそも譲渡所得税はその財産の値上がり益(キャピタルゲイン)を課税するタイミング、きっかけをいつにするか、という問題にすぎません。広く、資産の譲渡にあたるタイミングで渡した側(譲渡人)値上がり益に対する税金(譲渡所得税)を支払うという設計になっているのです。

金銭以外の財産による慰謝料→譲渡所得税課税あり

この点でしばしば問題となるのは、離婚にあたって夫から妻に対して慰謝料・・・としてなす財産の移転が、ここにいう資産の譲渡に該当し譲渡所得を発生させるかどうかである。
慰謝料としての財産の移転は、その財産の価額の範囲内で慰謝料債務を消滅させるから、その財産の時価相当額の対価による資産の譲渡があったものと解すべきである・・・。
※金子宏著『租税法 第24版』弘文堂2021年p267、268

(2)財産分与への譲渡所得税課税(参考)

前述のように譲渡所得税は、売却のような、譲渡人(元所有者)が金銭を得る場面ではなくても課税されます。前述の慰謝料だけではなく、離婚の時の財産分与であっても譲渡所得税は課税されます。
詳しくはこちら|財産分与に譲渡所得税が課税される(判例・通達)
このように譲渡人が金銭を得ていないのに譲渡所得税がかかると、「想定していなかった、支払う金銭がない」ということが起きることがあります。このような事情で財産分与の取消が認められることがあるくらいです。
詳しくはこちら|財産分与での高額譲渡所得税発生時の無効・取消と代理人責任

本記事では、慰謝料への課税について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に慰謝料への課税に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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