1 経営者が陥る男女問題に関する法則
2 収入が高い方は婚姻することの負担が非常に重い
3 結婚しないことに対する法的責任は原則なし
4 裁判所の考え方=合意がなければ義務なし
5 裁判所の考える結婚に関する期待権利義務の峻別
6 妊娠→中絶,ということに直接起因する心身の苦痛については男女半分で負担すべき
7 今後の予測可能性アップ予告
7 注記

1 経営者が陥る男女問題に関する法則

業務を通じて感じている法則があります。

<経営者が陥る男女問題に関する法則>

順風満帆の経営者はプライベートでトラブルになって規模が大きくなる

ちょうどタイムリーなニュースがありました。

規模の大きい会社の社長とその彼女との問題。
交際→妊娠→おろすことに→交際中止→慰謝料請求の提訴!

このことに関して,ネット上でいろんな意見が交換されています(表現の自由市場)。
価値観としては良いのですが法律論との混同,誤解が目立ちます。
恋愛なり恋愛市場は自由であるべきです。
国家の介入は極力避けるべきです。
自由恋愛というか恋愛の自由の侵害は違法です(※1,※2)。

以下,法律解釈の一般論として論じます。
なお,個別的な内容やその真偽,単純な価値観には踏み込みません。

2 収入が高い方は婚姻することの負担が非常に重い

仮に夫婦仲が悪くなった場合解消に要する費用がものすごいです。

(1)コンピ地獄→結婚債権

収入が大きい方は扶養義務(相互扶助義務=婚姻費用分担義務=扶養的財産分与)は非常に重くなります。
これが原因で協議離婚に応じる対価が億円単位になることもあります。
結婚債権評価額;算定式

(2)財産分与

上場企業代表者の裁判例で財産分与として10億円で済んだケースがあります。
財産分与割合は原則として2分の1;例外=特に高収入

3 結婚しないことに対する法的責任は原則なし

一方負担が重い拘束が強いからって,妊娠後に別れるのはひどいじゃないか!という発想もあるようです。
法的な説明を続けます。

(1)交際終了の法的責任はない

自由恋愛恋愛の自由と言われるところです。
なお,婚約内縁に該当した場合は交際終了により法的責任が生じます(※2)。

(2)ベッドの上での約束は無効,と宣言した裁判例

参考として,ベッドの上での約束は無効と,俗に称される裁判例があります。

ベッドの上での約束は無効と宣言した裁判例>

事案=男性が結婚するという手紙を出した+女性が妊娠した
判決=婚約として認めなかった
※前橋地裁昭和25年8月24日ほか
詳しくはこちら|婚約の成立を認めなかった多くの裁判例(ベッドの上での契約は無効判決)

法的責任の姿は,見る角度によっては控え目に映りますね。
これは,裁判所の解釈論の根本に原因があるのです。

4 裁判所の考え方=合意がなければ義務なし

<裁判所の一般的考え方の根本>

法律も合意がないのに,国家が特定の価値観を根拠として義務を負担させることは避ける

理由としては予測可能性を害する,ということです。
信義則(民法1条2項)など,特殊なものもありますが,ここでは省略します。

5 裁判所の考える結婚に関する期待権利義務の峻別

前記の一般論を男女関係に1段階具体化します。

<結婚に関する期待権利義務の峻別>

(合意ではなく一定の状況から)結婚しないなんてひどいということは法的には保護しない

さらに,2段階目で口語,教訓的な表現に変えます。

<結婚に関する思惑のすれ違いを回避する方法の具体例>

あ 結婚して欲しい側

(あ)結婚しないなら別れるを宣言しておく。
(い)避妊するか結婚するか別れるかのどれかにしてくれという宣言をしておく。
(う)結婚して欲しいと言うと相手が離れてしまうから言わない。その代わり相手を拘束しない。子供を作ることだけは希望する。
 ↑このような実例,見解が最近増えているようです。

い 相手方の立場

・そのような選択の機会がなくて後から結婚すべきだった法的責任を負うということは不意打ちになる。
・そのような意向を分かっていれば,別の判断,行動を取ったはずだ。

6 妊娠→中絶,ということに直接起因する心身の苦痛については男女半分で負担すべき

ようやく,法的な責任が登場です。

結婚するしないは既に説明したとおり,話題から除外します。
純粋に妊娠→中絶というプロセスは,にとって心身ともに苦痛を被ります。
この苦痛については,が半分ずつ負担すべきだ,という素朴な感覚があります。
これは不法行為による損害賠償請求における違法性の判断です。
この違法性判断に国家が介入しても不当な介入とは言えません。
実際に生じた損害の負担をどうするか,という判断にとどまるからです。

逆に言えば婚約不履行と同じ考え方で賠償額を算定する方法は否定されます。

この点,裁判例において,苦痛=200万円,としてその半額100万円を慰謝料として認めたものがあります。
別項目;男性=中絶希望,女性=出産希望→中絶した場合;具体例

7 今後の予測可能性アップ予告

(1)未解決の法的男女問題は多い

経営者が陥りがちな男女問題,の分野はもっともっと広いです。
経営者に限らないです。
少子化解消につながる生殖関連のサイエンスに,法律がブレーキをかけています!
恋愛に国家が不当な介入をしています!
婚約,内縁,結婚,親子(人工授精,代理母における戸籍上の処理),条例による交際への介入・・・
これらについて,条文が不明確,とか,判例で示した解釈もこれまた不明確,というものがたくさんあります。

いずれにしてもできる限り分かりやすくまとめて,予測可能性向上に貢献したいと思います。
これらはまた別の機会に論じます。

(2)免責的注意

繰り返しになりますが,個別的事情を反映していない一般論です。
具体的,個別的事情により法的効果は大きく異なる場合があります。
また,敢えて分かりやすさ優先のため,説明や用語を省略しているものもあります。
詳しくは,当事務所のホームページの該当項目をご覧ください。
Q&Aをお読みになる方へのご注意

7 注記

※1
国会中のクイズで登場した憲法13条の包括的人権規定幸福追求権というのがあります。
この解釈としても人権として恋愛の自由が認められているわけではありません。
便宜的な語法です。

※2
突き詰めると価値観権利義務オープンな法律でつながっています。
つまり合意がなくても,判断の幅の大きい法律(条文)により権利義務が認められることがあります。
主要なものを示しておきます。

<オープンな法律上の規定>

あ 不法行為による慰謝料請求(民法709条)
い 信義則(民法1条2項)

これらのオープンな条文規定を介在した場合にも,実質的な価値観の強要が生じます。
そこで,解釈上,抑制的な方針が取られることが多いです。
結局,↓のような公式が成り立ちます。

<法律,合意の具体性価値観介入程度の関係>

法律や合意の明確性具体性が低い → 解釈の幅価値観の介入の程度が増える

交際解消に関する一般的な法律問題は別に説明しています。
別項目;交際破棄と法的責任;妊娠,出産,慰謝料,過去の生活費の分担