上告理由としての理由不備・理由齟齬|民事訴訟法312条2項6号

1 上告理由としての理由不備・理由齟齬|民事訴訟法312条2項6号

高等裁判所の判決に不服があるとき、最高裁判所への上告ができる場合は法律で限られています。その中で実際に最も多く主張されるのが、原判決に理由が付されていない、または理由に食い違いがある、という理由です(民事訴訟法312条2項6号)。

もっとも、この理由不備・理由齟齬は狭く解釈されています。原判決の判断の中身が誤っているという不服を、条文の文言に寄せて「理由不備」と呼んでも、上告の理由にはなりません。判断の中身は、上告受理の申立ての側で争うことになります。

本記事では、上告理由としての理由不備・理由齟齬が認められる範囲を、条文と判例、逐条解説にそくして説明します。

上告と上告受理の申立ての手続の種類や流れについては、別の記事で説明しています。

上告|申立・流れ|上告提起・上告受理申立|上告事由・上告受理事由

2 理由不備は主文を導く理由の欠缺に限られ、判断の内容の誤りは上告受理の申立てで争う

本記事の結論を先にまとめます。いずれの行も、後述の各節で条文と出典を挙げて説明します。

理由不備・理由齟齬が認められる範囲

問い 答え
理由不備(312条2項6号の前半)とは何か 主文を導き出すための理由の全部または一部が欠けていること
理由の食違い=理由齟齬(同号の後半)とは何か 理由の記載に前後矛盾があることが明らかな場合。個々の法律効果の発生に影響しない食違いは破棄の理由にならない
判決が当事者の主張の判断を落としているときはどうか 判決自体がその理由において論理的に完結していれば、6号の理由不備には当たらない
判断の中身の誤り(法令違反)はどこで争うか 上告受理の申立て(318条1項)。その申立てでは、逆に312条1項・2項の事由を理由にできない(318条2項)

3 条文は「判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること」と定めている

最高裁判所への上告ができるのは、判決に憲法の解釈の誤りその他の憲法違反があることを理由とするとき(312条1項)と、同条2項が列挙する事由があることを理由とするときです。理由不備・理由齟齬は、その2項の6号に置かれています。

6号が前提にしているのは、判決には理由を記録しなければならないという定めです。判決書の記載事項は、民事訴訟の電子化に伴う改正(令和4年法律第48号・令和8年5月21日施行)で条名が移り、現在は252条1項が電子判決書に記録する事項として定めています。その3号が「理由」です。

2項の各号は、いわゆる絶対的上告理由と呼ばれています。同条3項が高等裁判所にする上告について「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反」と定めているのに対して、2項の各号にはその限定が付いていません。

312条2項が列挙する上告の理由と、その6号

上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。

※民事訴訟法312条2項

判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。

※民事訴訟法312条2項6号

判決に記録する事項としての「理由」(252条1項3号)

裁判所は、判決の言渡しをするときは、最高裁判所規則で定めるところにより、次に掲げる事項を記録した電磁的記録(以下「電子判決書」という。)を作成しなければならない。

※民事訴訟法252条1項

理由

※民事訴訟法252条1項3号

上告理由を絶対的上告理由に限定した趣旨

現行法は、最高裁に対する上告の理由を①憲法違反と②法令違反のうち重大な手続法違反(いわゆる絶対的上告理由)に限定して、上告の理由が明らかにこれらの事由に該当しない場合には、決定で上告を棄却できることとした(民訴法312条1項、2項、317条2項)。

※福田剛久ほか稿『最高裁判所に対する民事上訴制度の運用』/『判例タイムズ1250号』2007年11月p7

4 理由不備とは、主文を導き出すための理由の全部または一部が欠けていることをいう

理由不備の意味は、条文には書かれていません。最高裁判所は、これを主文を導き出すための理由の全部または一部が欠けていることだとしています(平成11年6月29日判決)。逐条解説も、この定義をそのまま採っています。

したがって、判断の過程に不満があっても、判決の理由を読んで主文に至る筋道がたどれるのであれば、理由不備には当たりません。判決の結論が正しいかどうかとは別に、理由の記載自体が欠けているかどうかが問われます。

主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けていること

すなわち、いわゆる上告理由としての理由不備とは、主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けていることをいうものであるところ、原判決自体はその理由において論理的に完結しており、主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けているとはいえないからである。

※最高裁判所 1999-06-29 裁判集民 193号411頁/裁時 1246号4頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1009号93頁/判時 1684号59頁/金法 1565号87頁/金商 1076号9頁

本号にいう理由不備の定義

本号にいう理由を付さない(理由不備)とは、主文を導き出すための理由の全部または一部が欠けていることをいう

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p293

上告理由たる理由不備の内容は何か

そこで、上告理由たる理由不備の内容は何かが問題となる。
法令の解釈適用の違法がこれに含まれないことは新法の改正趣旨から明らかであり、他の上告事由との対比からは、判決の結論への影響にかかわらず放置することが許されないような判決の違法ということができよう。

※『判例タイムズ1009号』p93〜

5 判決自体が論理的に完結していれば、判断の遺脱があっても理由不備にならない

当事者が主張していた事実について判決が何も判断していない場合、それは判断の遺脱です。前述の平成11年6月29日判決は、控訴審が再抗弁の主張を摘示せずその判断を落としていた事案について、判断を遺脱した違法があるとしながら、それは6号の理由不備には当たらないとしました。主張の摘示が落ちているために、判決自体はその理由において論理的に完結していたからです。

この場面では、上告の理由になるかどうかと、救済されるかどうかが分かれます。同判決は、判断の遺脱を判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反として、職権で原判決を破棄し、事件を差し戻しました(325条2項)。他方で、判断の遺脱だけを上告理由に掲げた上告は、上告理由の記載を欠くものとして却下されうる、という指摘があります。

判断の遺脱は6号の理由不備に当たらない

しかしながら、原判決の右違法は、民訴法三一二条二項六号により上告の理由の一事由とされている「判決に理由を付さないこと」(理由不備)に当たるものではない。

※最高裁判所 1999-06-29 裁判集民 193号411頁/裁時 1246号4頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1009号93頁/判時 1684号59頁/金法 1565号87頁/金商 1076号9頁

判決要旨——再抗弁の判断の遺脱と理由不備

抗弁をいれながらこれに対する再抗弁事実を摘示せずその判断を遺脱した原判決の違法は、上告理由としての理由不備に当たらない。

※『判例タイムズ1009号』p93〜

判断遺脱だけを理由とした上告の行方

もっとも、理由不備の意義を本判決のように解するときは、主要事実の摘示及び判断の双方が遺脱している場合に、これが理由不備に該当しないと正しく解釈し「判断遺脱」のみを理由として上告したときは、上告事由の記載を欠くことになり、原審で却下し(民訴法三一六条)、最高裁においては決定却下(民訴法三一七条)すべきものであるから、速やかに判決を確定させた上、正当な救済方法である再審によるべきであるということになろう。

※『判例タイムズ1009号』p93〜

6 厳格に解釈されるのは、上告受理の申立てで争う法令違反と混同しないためである

現行の民事訴訟法は、最高裁判所への上告について、法令違反を上告理由から外しました。法令の解釈に関する重要な事項を含むものとして最高裁判所が事件を受理しない限り、法令違反は上告審の審理の対象になりません(318条1項)。しかも、上告受理の申立てでは、312条1項・2項の事由を理由とすることができません(318条2項)。

つまり、判決の理由の欠落は上告提起で、法令の解釈適用の誤りは上告受理の申立てで、という振り分けになっています。6号の理由不備・理由齟齬に法令違反の中身を読み込むと、この振り分けが崩れます。そのため、6号は厳格に解釈すべきだとされています。

上告受理の申立ての理由については、別の記事で説明しています。

民事訴訟の上告受理申立の理由(上告受理の要件)

上告受理の申立てでは312条1項・2項の事由を理由にできない(318条2項)

前項の申立て(以下「上告受理の申立て」という。)においては、第三百十二条第一項及び第二項に規定する事由を理由とすることができない。

※民事訴訟法318条2項

6号を厳格に解釈すべき理由

現行法は、最高裁判所に対する上告については、法令違反を上告理由とせず、最高裁が法令の解釈に関する重要な事項を含むものとしてこれを上告として受理しない限り、上告審の審理の対象にならないことにしており(318条)、最高裁に対する上告理由をこのように限定した法の趣旨
(負担加重の状態にある最高裁が、憲法問題や重要な意義を有する法令解釈の問題について速やかな判断を示し、その本来の責務を十分に果たすことができるようにする〔一問一答341頁~342頁〕)
からしても、上告理由である「判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること」は、上告受理の対象となる法令違反と混同されることがあってはならないし、法令違反の結果として生じる判断の欠落(旧法下の判例が理由不備と表現していたもの)と同視されることがあってもならず、
論理上、主文を導き出すための理由の全部または一部が欠けていることが明らかな場合(理由不備)
や、
理由の記載に前後矛盾があることが明らかな場合(理由の食違い)
に限られるように厳格に解釈されるべきである

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p295

改正で上告理由から法令違反が外れたこと

民訴法改正による上告制度の改正により、上告理由は、従来の法令違反を除外し、絶対的上告理由を中心に整理された。
そうすると、民訴法三一二条二項六号に規定する理由不備・齟齬の内容に、法令の解釈の過誤の結果、当該法令の適用についての理由が不十分であったり、理由に一貫性がないというものを含むと解することは相当ではない。

※『判例タイムズ1009号』p93〜

7 旧法の下で「理由不備」と呼ばれていたものには、法令違反が含まれている

判例を読むときに注意が要るのは、旧法の下では法令違反も上告理由だったことです。そのため、経験則違反などの法令違反に「理由不備」「理由齟齬」という言葉が使われていると解される判例が多数あります。

現行法では、この使い方は6号の理由不備とは別のものになります。もっとも、旧法下の判例が、どのような場合に理由の記載が足りないとされたかを示していること自体は、現行法の解釈でも参考になります。

旧法下では絶対的上告理由と法令違反が区別されていなかった

旧法下では、最高裁判所に対する上告についても、絶対的上告理由と法令違反が等しく上告理由であったため、絶対的上告理由である「判決ニ理由ヲ附セス又ハ理由ニ齟齬アルトキ」(旧395条1項6号)と経験則違反などの法令違反とが厳密に区別されず、法令違反に理由不備、理由齟齬の文言が使用されていると解される判例も多数あった

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p294

旧法下の判例は現行法の解釈でも参考になる

旧法下の判例には、経験則違反などの法令違反に理由不備、理由齟齬の文言が使用されていると解される判例も多数あったことは、前記(1)記載のとおりであるが、そうであっても、旧法下の判例は、現行法の解釈にあたっても参考となるので、以下、主要なものを掲げる。

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p296

8 旧法か現行法かは、判決の年月日ではなく原審の口頭弁論が終結した日で決まる

では、ある判例が旧法と現行法のどちらの下のものかは、どう見分けるのでしょうか。現行の民事訴訟法は平成8年に成立し、平成10年1月1日から施行されました。

分かれ目はこの施行日ですが、基準になる日は判決の年月日ではありません。附則は、改正前の民事訴訟法を「旧法」と呼び、新法(現行法)の規定は施行前に生じた事項にも適用するのが原則だとしています。もっとも、最高裁判所にする上告には特則があり、施行前に高等裁判所の口頭弁論が終結した事件には312条と325条を適用せず、なお従前の例によるとしています。決定による上告棄却(317条2項)と上告受理の申立て(318条)も、その事件には適用されません。

したがって、原審の口頭弁論が平成9年中に終結していれば、判決が平成10年以後に言い渡されていても、上告理由は旧法の395条1項で判断されます。判決の年月日が平成10年より前であれば、口頭弁論の終結はそれ以前なので、当然に旧法の事件です。

読むときの目印は、その判決が引く条文です。旧法の下の判決は絶対的上告理由を395条1項6号として引き、現行法の下の判決は312条2項6号として引きます。前述の平成11年6月29日判決が312条2項6号を引いているのは、現行法の事件だからです。

経過措置の原則と、最高裁判所にする上告の特則(附則3条・20条)

新法の規定(罰則を除く。)は、この附則に特別の定めがある場合を除き、新法の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、前条の規定による改正前の民事訴訟法(以下「旧法」という。)の規定により生じた効力を妨げない。

※民事訴訟法附則(平成八年法律第百九号)3条

新法の施行前に、第二審又は第一審である高等裁判所における口頭弁論が終結した事件及び地方裁判所が第一審としてした判決に対して上告をする権利を留保して控訴をしない旨の合意をした事件についての最高裁判所にする上告及びその上告審の訴訟手続については、新法第三百十二条及び第三百二十五条の規定にかかわらず、なお従前の例によるものとし、新法第三百十七条第二項及び第三百十八条の規定は、適用しない。

※民事訴訟法附則(平成八年法律第百九号)20条

現行民訴法の施行日

平成8年に制定され、平成10年1月1日から施行された現行民訴法(以下、単に「現行法」という。)も、施行後10年を経過しようとしている。

※福田剛久ほか稿『最高裁判所に対する民事上訴制度の運用』/『判例タイムズ1250号』2007年11月p5

9 証拠を採用しない理由を書かないことは、原則として理由不備にならない

事実認定の場面で問題になるのは、採用しなかった証拠についてどこまで説明が要るかです。判例は、信用しないとして排斥した証拠について、排斥した理由を判決に記載する必要はないとしています。

現在の判決は、いわゆる新様式判決の提言に沿って、書証の成立についての判断や、反対証拠を採用しない旨の断り書きを省いています。この簡潔な書き方が、それだけで理由不備になるわけではありません。

排斥した証拠について理由の記載は要らない

判例は、裁判所が信用しないとして排斥した証拠について、排斥した理由を記載する必要はなく、記載しなくても理由不備にはならないとしている

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p303

新様式判決の理由の記載

現在、多くの判決が、いわゆる新様式判決になっており、その理由の記載内容は、
「書証の成立に関する判断は、それが重要な争点になっている場合を除き、記載しない。
成立に争いがない旨の説示もしない」
「証拠の評価が訴訟の勝敗を決するような場合には、証拠を採用する理由又はこれを排斥する理由を丁寧に説明するが、このような場合を除き、反対証拠を採用しない旨又はそれが存在しない旨の断り書きはしない」
という新様式判決の提言に沿ったものになっている

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p293〜294

10 記載どおりの事実を認めるのが当然である書証を、理由を示さずに排斥すると理由不備になる

例外は書証です。処分証書のように、その記載から契約の事実が一応認められる書証が提出されているのに、反対の事実を認定するのであれば、その書証を排斥する合理的な理由を解明する必要があります。これを示さないまま排斥することは、理由不備とされてきました。

証拠から読み取れる事実を打ち消す過程が判決に書かれていない、という形の主張になります。ここで挙がる判例はいずれも旧法下のものですが、理由の記載が足りているかどうかを測る手がかりになります。

書証を排斥するには合理的な理由の解明が必要

書証、特に処分証書、例えば借用証書のように、消費貸借契約の事実を一応認定できる証書が提出されているのに、消費貸借契約の事実がないというように、反対の事実を認定する場合には、その証書を排斥する合理的な理由を解明しなければ理由不備である、とするのが判例である

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p304

書証を理由なく排斥することは理由不備になる

書証の記載およびその体裁から、特段の事情のない限り、その記載どおりの事実を認むべきである場合に、なんら首肯するに足る理由を示すことなくその書証を排斥するのは、理由不備の違法を免れない。

※最高裁判所 1957-10-31 民集 11巻10号1779頁/判タ 76号31頁/ジュリ 144号85頁

書証を排斥する特段の事情を説示しなかった例

具体的な説示として、例えば、最判昭和37・2・22(民集16巻2号350頁)は、自作農創設特別措置法15条2項1号の「主たる所得が農業以外の職業から得られている場合」であるかどうかの判断にあたり、継続的にみて常態として主たる所得が農業から得られていると認められるべき証拠(乙3号証)があるにもかかわらず、これを排斥する特段の事情を説示することなく、ある特定年度の所得の状況のみに基づいて主たる所得が農業以外の職業から得られていると認定した第一審判決を維持し、かつ「乙第2ないし第4号証によっても、原審(第一審)がした事実認定」が相当であると判示した第二審判決は理由不備の違法ありとしている。

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p305

11 理由の食違いは、個々の法律効果に影響しないかぎり破棄の理由にならない

理由の食違い(理由齟齬)は、理由の記載に前後矛盾があることが明らかな場合をいいます。前述の逐条解説の定義のうち、後半がこれに当たります。主文と理由の食い違いや、理由の前段と後段の食い違いが、その典型です。

もっとも、矛盾があっても、それが個々の法律効果の発生に影響しないのであれば、破棄の理由にはなりません。

法律効果に影響しない食違い

なお、理由の食違いがある場合でも、個々の法律効果の発生に影響のないような場合、例え消費貸借の弁済期を一方では平成24年12月末日と認定し、他方では平成25年3月末日と認定していても、原告主張の消費貸借の成立または被告主張の時効その他の抗弁に、その食違いがまったく関係しないような場合には、破棄の理由とはならない。

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p296

12 6号を挙げた上告の大半は、実質が事実誤認や法令違反だとして決定で棄却されている

実務の姿を数字で見ておきます。最高裁判所の調査官らが公表した運用の報告によれば、平成18年に終わった上告事件のうち、理由の不備・食違いを上告理由とするものは34.8パーセントで、憲法違反の41.7パーセントに次ぐ多さでした。他方で、同じ年の上告事件の94パーセントが決定による上告棄却で終わっています。

6号を掲げた上告の多くが、実質は事実誤認または単なる法令違反の主張だと判断されて棄却されてきた、というのが逐条解説の見方です。

上告理由として挙げられる事由の内訳(平成18年)

上告理由としては、多くの場合、民訴法312条1項所定の憲法違反か同条2項6号所定の理由の不備・食違いが挙げられている
(平成18年の上告事件既済事件のうち、憲法違反を上告理由とするものが41.7%、理由の不備・食違いを上告理由とするものが34.8%であり、312条2項1号~5号の事由を上告理由とするものは、0.2%である。)
が、実質的には、法令違反を主張するか、旧法下と同じく原審の事実認定に不服をいうにすぎないものがほとんどである。

※福田剛久ほか稿『最高裁判所に対する民事上訴制度の運用』/『判例タイムズ1250号』2007年11月p7〜8

決定による上告棄却の割合(平成18年)

このようなことから、上告事件のほとんどは、上告理由が明らかに民訴法312条1項、2項に該当しないとして、決定によって上告棄却されている
(例えば、平成18年の上告事件既済事件のうち、94%が決定による上告棄却により終了しており、判決により終了したものは1.4%にすぎない。)。

※福田剛久ほか稿『最高裁判所に対する民事上訴制度の運用』/『判例タイムズ1250号』2007年11月p8

6号を理由とする上告の大半は棄却されてきた

現行法施行後、理由不備や理由の食違いがあることを上告理由とする上告の大半は、その実質は事実誤認または単なる法令違反を主張するものであって、312条1項または2項に規定する事由に該当しないと判断されて、棄却されてきた。

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p295

13 実質が法令違反であれば、上告受理の申立てに絞ることになる

以上を踏まえると、原判決への不服が判断の中身に向いているとき、それを6号に寄せて上告理由に仕立てても通りません。理由不備・理由齟齬がないとされた判例の大半も、事実認定についての不満や法令違反の主張を6号にこじつけたと見られる事案です。前述の運用の報告も、苦しい理由付けをして上告するのは控えて、上告受理の申立てに絞るべきだとしています。

逆に、主文と理由が食い違っているなど、6号に当たる瑕疵が現にあるときは、上告提起で争うことになります。決定で棄却されるまでの審理の流れは、別の記事で説明しています。

上告・最高裁の審理の基本(法律審・書面審理・結論のバリエーション・審理期間)

理由不備・理由齟齬なしとされる事案の大半

理由不備または理由齟齬なしとする判例は多いが、大半は、事実認定についての不満や法令違反の主張を無理に理由不備や理由齟齬にこじつけたと思われる事案に関するものである。

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p306

上告受理の申立てに絞るべきだという指摘

実質的にみて法令違反しか理由がないのであれば、制度趣旨からして、苦しい理由付けをしてまで上告をするのは控えて、上告受理申立てだけに絞るべきであろう
(「高橋ほか民事訴訟法改正10年座談会」38頁参照)。

※福田剛久ほか稿『最高裁判所に対する民事上訴制度の運用』/『判例タイムズ1250号』2007年11月p8

14 おわりに

理由不備・理由齟齬は、条文の文言が広く読めるために主張しやすく、実際にも多く主張されていますが、認められる範囲は、主文を導く理由の欠缺と、理由の前後矛盾に限られています。原判決のどこを、どちらの手続で争うのかは、判決の理由の書きぶりを読んだうえで決めることになります。

上告の手続の全体については、別の記事で説明しています。

上告|申立・流れ|上告提起・上告受理申立|上告事由・上告受理事由

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

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