【民事訴訟の上告受理申立の理由(上告受理の要件)】

1 民事訴訟の上告受理申立の理由(上告受理の要件)

民事訴訟は3審制がとられており、最終段階は通常、上告審(最高裁)です。
上告審が行われるのは、上告申立があった場合と、上告受理申立があった(受理された)場合です。
詳しくはこちら|上告|申立・流れ|上告提起・上告受理申立|上告事由・上告受理事由
両方とも、認められない傾向が強いですが、このふたつでは上告受理申立の方が多いです。では、どのような場合に上告受理申立ができるのでしょうか。
本記事では、上告受理申立の理由について説明します。
なお、通常は、第1審が地方裁判所であり、第3審は最高裁になります。この点、第1審が簡易裁判所であった場合は、第3審は高等裁判所になります。本記事では通常のケースを前提に説明します。

2 民事訴訟法の条文

上告受理申立の理由は、民事訴訟法318条1項に規定されています。法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認めた場合に受理する、と定められているのです。

民事訴訟法の条文

(上告受理の申立て)
第三百十八条 上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。
※民事訴訟法318条1項

3 「法令の解釈に関する重要な事項を含む事件」の解釈

前述のように、「法令の解釈に関する重要な事項を含む(事件)」であれば、上告として受理されると規定されています。この文言、特に「重要」とはどんな意味なのでしょうか。
それは、当該事案だけではなく他の事案にも適用される解釈を含むという意味です。要するに、判例として公表され、多くの事案で解釈として使われるというものです。
実務でよく問題になるのは、事実認定についても上告審でやり直してもらえるのか、ということです。事実認定経験則に基づく証拠評価であり、法令解釈となります。ただし、事実認定の不当性のみを審理するという状況では法令解釈に関する重要な事項とはいえません(上告受理はされません)。

「法令の解釈に関する重要な事項を含む事件」の解釈

あ 基本的な意味

「法令の解釈に関する重要な事項を含む事件」とは
当該事件に限られず他の事件にも一般的に通用し得るものであり、最高裁判所がその法令の解釈を示すことが法令の解釈適用の統一のために必要である場合である

い 具体例 

ア 証拠の評価方法や経験則についての判断  一般性を有する法令解釈となり得る
証拠の評価方法経験則のとらえ方も、他の事件にも通用する一般性を有する 
上告受理申立ての理由となり得る 
イ 釈明義務の範囲  釈明義務の範囲についても、一般性を有する法令解釈となり得る 
上告受理申立ての理由となり得る

う 否定される可能性

経験則違反や釈明義務違反の主張について
実質的には原判決の事実認定の結果の不当性のみを問題にするに過ぎないとみるべき場合がある
このような場合は上告受理決定はされない
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p108

4 「判例違反」の解釈

民事訴訟法318条1項の条文には、「判例と相反する判断」という文言があります。要するに判例違反ということです。位置づけとしては、上告受理の理由(法令の解釈に関する重要な事項を含む事件)のひとつの例が判例違反となっているのです。
原則として、過去の判例の主論(結論を導く規範)のことですが、それ以外の部分(傍論)を一切含まないわけではありません。

「判例違反」の解釈

あ 例示という位置づけ

「判例違反」とは、原則として最高裁判所の判例に違反することである
「法令の解釈に関する重要な事項を含む事件」の典型例(のひとつ)として条文に例示されている 
※民事訴訟法318条1項

い 「判例」の意味

「判例」とは、理由中で示された法律的な判断をいう 
厳密には主文の結論に不可欠な判断である「主論」をいう
もっとも、傍論における判断を排除することはできない 
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p108

5 重要な法律判断と判決への影響の関係

仮に、重要な法解釈を含むが、それを審理したとしても判決(結論)には影響がない、という場合はどのように扱われるでしょうか。結論は変わらないので、上告として受理する必要はない、という発想もあります。しかし、法解釈として最高裁が統一的見解を示すと他の事案にも(一般的に)役立ちます。そこで、この場合でも上告として受理されます。
逆に、法解釈として重要なものは含まないが、当該事案の結論に影響がある場合はどうでしょうか。条文上は上告受理の理由にはあたらないですが、上告審で判断する必要があるので、審理を認める見解が有力です。

重要な法律判断と判決への影響の関係

あ 基本

原判決の法令違反が判決に影響を及ぼすことは上告受理の要件ではない 

い 有力説

ア 見解の内容 原判決に法令違反があってそれが判決に影響を及ぼすと考えられるが、必ずしも一般的に通用する法令解釈上の重要問題を含むものではない場合、上告受理決定をすべきである、とする見解が有力である
イ 理由 誤った法令解釈を含む高等裁判所の判決を確定させることは妥当ではない
上告理由が認められない場合でもいわゆる職権破棄が認められている
※民事訴訟法325条2項
上告受理申立があった場合にも最高裁判所の職権破棄の余地が認められるべきである
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p109

6 上告受理申立の理由と再審(事由)との関係

ところで、判決への不服申立の手段として、上告受理申立とは別に、再審もあります。では、再審の理由(再審事由)があるケースで(再審ではなく)上告受理申立がなされたらどう扱うのでしょうか。この場合でも上告受理を認めるという見解があり、この見解をとった判例もあります。

上告受理申立の理由と再審(事由)との関係

あ 基本

再審事由(上告理由となるもの以外のもの)が存在する場合
そのような事由の存する原判決を確定させることは妥当でない
上告受理申立の理由となる

い 裁判例

判決に、民事訴訟法338条1項8号所定の再審事由があった
上告受理申立に基づき上告審として事件を受理した
民事訴訟法325条2項によって原判決を破棄した
※最判平成15年10月31日

7 上告受理申立の審理の特徴(概要)

実際に上告受理申立をすると、最高裁は、以上で説明したような事情があるかどうか(受理するべきかどうか)を判断します。この審理の特徴については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|上告・最高裁の審理|法律審・書面審理|結論のバリエーション・審理期間

本記事では、上告受理申立の理由について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、不当な判決への対応に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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