1 弁護士が保管する預り金の倒産隔離(平成15年判例)
2 弁護士が保管する依頼者の預り金の信託成立
3 弁護士の保管する預り金の信託による倒産隔離
4 依頼者の債権者による預り金の差押の効力

1 弁護士が保管する預り金の倒産隔離(平成15年判例)

弁護士は,依頼業務で使う実費を建て替えることは原則として禁止されています。
詳しくはこちら|弁護士と依頼者との金銭貸借・保証は原則禁止(基本規程25条)
そのため,依頼を受ける際に預り金として想定される実費相当の金銭を依頼者から預かります。
この預り金の法的性質の判断を示した最高裁判例があります。
本記事では,この判例を中心に,弁護士の預り金の法的扱いを説明します。

2 弁護士が保管する依頼者の預り金の信託成立

弁護士が保管する預り金については,一般的に信託が成立すると考えられています。信託業法の例外的な適用除外として弁護士の預り金が規定されているのです。直接的には信託をしても信託業の免許は不要という意味ですが,預り金は信託財産となることが当然の前提となっているのです。
信託が成立する結果として,信託法によって他の財産との分別管理が義務付けられます。
なお,弁護士会の会則も通常,預り金と他の財産の分別管理を要求しています。
実際には預金口座の名義だけで弁護士(法人)の固有の財産ではないことが分かるように『預り口』のような表記を入れるのが一般的です。

<弁護士が保管する依頼者の預り金の信託成立(※1)>

あ 信託の成立

弁護士・弁護士法人が依頼者から預り金を受け取った場合
信託財産となる
※最高裁平成15年6月12日(補足意見)
※新井誠著『信託法 第4版』有斐閣2014年p196
※信託業法2条1項,施行令1条の2第1号(が前提としてる)
詳しくはこちら|契約による信託の成立の要件・判断基準(信託の性質決定)

い 分別管理

分別管理義務が生じる
※信託法32条
詳しくはこちら|信託の受託者の義務(分別管理・帳簿作成・報告義務)
→預金口座に『預り口(あずかりぐち)』を付けるのが通常である
詳しくはこちら|信託財産の種類ごとの分別管理の方法(特定性の内容)

3 弁護士の保管する預り金の信託による倒産隔離

弁護士が保管する預り金は信託財産となるので,倒産隔離の効果が生じます。
ただし,前提として分別管理義務が履行されていることが必要です。
倒産隔離の具体的な内容は要するに,弁護士の債権者がこの預り金を差し押えることができないというものです。
一方,依頼者の債権者も預り金を差し押えることはできません。ただ,この理由は信託の成立ではなく預金者(預金債権の帰属)の判断です(後記)。

<弁護士の保管する預り金の信託による倒産隔離>

あ 信託の成立(前提)

弁護士が預り金を受領すると信託が成立する(前記※1)

い 弁護士の債権者からの倒産隔離

預り金について分別管理義務が履行されている限り
→弁護士の債権者による差押・弁護士の破産による影響を受けない
※信託法23条1項,25条1項,4項
詳しくはこちら|信託財産の倒産隔離効(独立性)の要件(特定性・対抗力)

う 依頼者の債権者からの倒産隔離

依頼者の債権者は,弁護士が管理している預り金を差し押さえることはできない
※信託法23条1項参照
※最高裁平成15年6月12日(後記※2)

4 依頼者の債権者による預り金の差押の効力

弁護士が保管する預り金依頼者の債権者が差し押さえたというケースがあります。
最高裁は,預金は弁護士に帰属する(預金者は弁護士である)ことを理由として,差押は無効であると判断しました。預金債権の帰属が理由ではありますが,結論として,信託の委託者の債権者からの倒産隔離の効果が認められたのです。

<依頼者の債権者による預り金の差押の効力(※2)>

あ 預り金の保管

依頼を受けた弁護士が依頼者から預り金を受け取った
この金銭は弁護士名義の預金口座に保管されていた

い 依頼者の債権者による差押

依頼者の債権者(国)がこの預金口座を差し押さえた

う 預金者(預金債権の帰属)の判断

預金(債権)は受任した弁護士に帰属する
→(依頼者を債務者とする)差押は無効である
※信託法23条1項
※最高裁平成15年6月12日

本記事では,弁護士が依頼者から受け取って保管する預り金の倒産隔離の効果(機能)を説明しました。
実務では,このような解釈論を他のいろいろな場面に適用できることが多いです。
実際に,倒産隔離の問題に直面されている方や,倒産隔離の活用を検討されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。