【委任・請負に付随する信託引受に関する信託業法の適用除外】

1 委任・請負に付随する信託引受に関する信託業法の適用除外

委任や請負契約では顧客の金銭(資産)を事業者が預かることがよくあります。
これも一種の信託に該当することが多いです。
とはいっても、信託業法の免許を必要とするのは不合理です。
そこで、信託業法には、委任や請負契約に付随する資産の預かりについて、信託業法の適用を除外する規定が作られました。
本記事では、委任と請負契約に付随する信託に関する、信託業法の適用除外について説明します。

2 委任と請負契約に付随する信託が成立する例

まず、委任契約や請負契約に伴って資産を預かったことについて、信託が成立するという具体例(判例)を紹介します。

委任と請負契約に付随する信託が成立する例

あ 委任に付随する信託の成立(概要)

債務整理事務の処理に充てるために弁護士が依頼者(会社)から資産を預かった
→裁判所は信託の成立を認めた
※最高裁平成15年6月12日(補足意見)
詳しくはこちら|弁護士が保管する預り金の倒産隔離(権利の帰属と信託・平成15年判例)

い 請負に付随する信託の成立(概要)

A県がN建設に建設工事を発注した
A県は『前払金』をN建設に送金し、預けた
→裁判所は信託の成立を認めた
詳しくはこちら|工事前払金についての信託成立(最高裁平成14年1月17日)
※最高裁平成14年1月17日

3 信託業法適用除外となる信託の引受に関する規定

前記の判例のように、予期しない形で信託が成立することがあります。
そのままでは信託業法の免許が必要ということになってしまいます。
詳しくはこちら|エスクローの仕組みと出資法・資金決済法・信託業法との抵触
しかし、委任や請負に伴う資産の預かりは信託業法の免許を要する行為として想定されたものではありません。
そこで、信託業法2条1項には、このような思わぬ信託について、信託業法を適用しないという規定が作られています。
これを受けて、施行令で、適用除外となる信託引受の内容が規定されています。

信託業法適用除外となる信託の引受に関する規定

あ 信託業法2条1項

(定義)
第二条 この法律において『信託業』とは、信託の引受け(他の取引に係る費用に充てるべき金銭の預託を受けるものその他他の取引に付随して行われるものであって、その内容等を勘案し、委託者及び受益者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。以下同じ。)を行う営業をいう。
※信託業法2条1項

い 信託業法施行令1条の2

(信託業の適用除外)
第一条の二 法第二条第一項に規定する政令で定めるものは、次に掲げる行為であって、信託の引受けに該当するものとする。
一 弁護士又は弁護士法人がその行う弁護士業務に必要な費用に充てる目的で依頼者から金銭の預託を受ける行為その他の委任契約における受任者がその行う委任事務に必要な費用に充てる目的で委任者から金銭の預託を受ける行為
二 請負契約における請負人がその行う仕事に必要な費用に充てる目的で注文者から金銭の預託を受ける行為
三 前二号に掲げる行為に準ずるものとして内閣府令で定める行為
※信託業法施行令1条の2

4 信託業法適用除外となる信託引受の内容

前記の条文規定のうち、施行令の1号の条文では、弁護士や弁護士法人が記載されていますが、これはあくまでも例であって、委任契約についてはすべて含まれます。
また、施行令の3号はその他として内閣府令で定める行為、と記載されていますが、内閣府令では定めがありません。

信託業法適用除外となる信託引受の内容

あ 弁護士等→例示

ここで、信託業法施行令1条の2第1号で定めている「弁護士等」とあるのは、例示であり、委任契約における受任者が委任事務に必要な費用に充てる目的で金銭の預託を受ける行為一般が信託業法の適用除外とされている。
※小出卓哉著『逐条解説 信託業法』清文社2008年p19、20

い 3号→該当なし

信託業法施行令1条の2第3号の「内閣府令で定める行為」については、信託業法施行規則には対応する規定がない

5 信託業法適用除外となる信託引受の範囲

信託業法の適用除外となるのは、あくまでも予期しない信託の成立です。
意図的・明確に信託契約を締結して受託者となる行為は適用除外には該当しないと解釈されています。

信託業法適用除外となる信託引受の範囲

もっとも、ここで信託業法の適用除外とされているのは、他の契約を締結することにより、当事者間でも予期せぬ形で信託の成立が認められるような類型だけであり、信託契約を締結する行為そのもの適用除外とされているものではない
※小出卓哉著『逐条解説 信託業法』清文社2008年p20

また、委任(請負)事務の遂行に必要な範囲で資産を預かることが適用除外の前提です。
例えばエスクローなど、資産を預かること自体を引き受ける(受任する)ようなケースでは信託業法の適用除外にはなりません。

本記事では、委任、請負契約に付随する金銭の預託について、信託業法の規制が適用されない、という扱いについて説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断は違ってきます。
実際に信託業法の規制に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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