1 信託財産の付合・混和・加工と識別不能(信託法17〜19条)
2 信託財産の付合・混和・加工(信託法17条)
3 信託財産の識別不能における扱い(信託法18条)
4 識別不能の内容や具体例
5 識別不能の規定と特定性の関係
6 混和と識別不能(信託法17・18条)の区別
7 金銭の帰属不明瞭に適用される規定(3つの見解)
8 金銭の帰属不明瞭の状況と法的扱いの具体例
9 預金への混和・識別不能の規定の適用(否定)

1 信託財産の付合・混和・加工と識別不能(信託法17〜19条)

信託財産は,受託者が分別管理を行う義務を負っているので,通常は他の財産と混ざって識別できなくなることは生じません。
しかし,受託者が分別管理義務に違反したとか,最初から信託契約の中で分別管理を緩和した場合には,信託財産を識別できない状況が生じます。
このような場合の法的扱いが,信託法17〜19条に規定されています。
本記事では,これらの規定について説明します。

2 信託財産の付合・混和・加工(信託法17条)

信託財産が他の財産と混ざったケースは,複数の所有者の所有物が混ざった状態と実質的に同じです。そこで,民法上の付合・混和・加工の規定が適用されます。
その結果,原則として全体がである財産と同じ帰属になります。例外的に,主従がない場合は共有となります。つまり,共有持分が信託財産に属するという意味です。

<信託財産の付合・混和・加工(信託法17条)>

信託財産に属する財産と固有財産または他の信託財産に属する財産の間に
付合・混和・加工が生じた場合
→各別の所有者に属するものとみなして民法の規定を適用する(民法242〜248条)
詳しくはこちら|民法の添付(付合・混和・加工)の規定(民法242〜248条)
※信託法17条

3 信託財産の識別不能における扱い(信託法18条)

信託法18条は,信託財産が識別不能である場合の法的扱いを定めています。この場合は,共有となります。
共有割合は,原則として価格の割合となりますが,価格の割合が判明しない場合は例外的に均等割合となります。
全体がの財産の帰属と同じになる,ということはありません。

<信託財産の識別不能における扱い(信託法18条)>

あ 価格の割合による共有

『ア・イ』のいずれかについて識別不能となった場合
→各財産の価格の割合による共有となる
ア 信託財産に属する財産と固有財産に属する財産
イ 信託財産と他の信託財産それぞれに属する財産
※信託法18条1項,3項

い 均等割合による共有

『あ』において,価格の割合を立証できない場合
→共有持分の割合は均等であると推定する
※信託法18条2項

4 識別不能の内容や具体例

信託財産が識別不能となると,前記のように共有となる扱いになります。
ここで識別不能となる原因にはいくつかのパターンがありますが,この原因に関わらず,信託法18条は適用されます。

<識別不能の内容や具体例>

あ 識別不能の原因との関係

識別不能となった原因が何であっても信託法18条は適用される

い 識別不能の原因の具体例

ア 分別管理義務が免除されているケース
イ 天災などの不可抗力によるケース
ウ 受託者の分別管理義務違反によるケース
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p91

う 当初からの分別管理不履行

受託者が最初から分別管理をしていなかったことも含めるべきである
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p92

5 識別不能の規定と特定性の関係

ある財産が信託財産かそれ以外の財産なのかが不明瞭となった場合には,以上のように識別不能の規定が適用され,一定の範囲で信託財産としての扱いが維持されます。
しかしこれは特定性があることが前提です。
少なくとも問題となっている財産に信託財産が含まれることが明らか(証明できる)ことが前提です。信託財産が含まれることは間違いないけれど,その部分や割合がはっきりしないというような状況で,信託法18条が適用されるのです。

<識別不能の規定と特定性の関係>

あ 信託財産の独立性と特定性の関係(前提)

信託財産の独立性(信託法14条)の効果は
特定性(信託法34条)を前提(要件)として初めて認められる
詳しくはこちら|信託財産の倒産隔離効(独立性)の要件(特定性・対抗力)

い 識別不能の規定と特定性の関係

特定性が信託法18条の適用の前提である

う 特定性の内容

(信託法18条の適用の前提となる特定性の内容は)
『ア・イ』のいずれかが明らかであることである
ア ある財産が信託財産であること
イ ある財産に信託財産が含まれていること
※四宮和夫『信託法 新版』有斐閣1989年p220
※能見善久『現代信託法』有斐閣2004年p46
※『信託と倒産』商事法務2008年p152
※田中幸弘ほか稿『分散型暗号通貨・貨幣の法的問題と倒産法上の対応・規制の法的枠組み(下)−マウントゴックス社の再生手続開始申立て後の状況を踏まえて−』/『金融法務事情1996号』金融財政事情研究会2014年6月p77参照

6 混和と識別不能(信託法17・18条)の区別

信託財産と他の財産が混ざりあって区別できなくなった場合に,混和(信託法17条)と識別不能(信託法18条)のどちらが適用されるのか,という問題があります。
混和識別不能という用語の意味の違いは物理的な弁別(区別)が可能かどうかです。
液体や穀物のように最小単位が小さすぎる場合は(事実上)物理的な分離がほぼ不可能です。そこで混和に該当します。
例えば羊のように,もう少し大きい単位(個体)であれば物理的な分離自体は可能です。単に判別・判定ができないという状態です。そこで識別不能に該当します。

<混和と識別不能(信託法17・18条)の区別>

あ 混和の典型的状態

液体や穀物が混合または融和して事実上弁別できなくなった
物理的な弁別自体が不可能である

い 識別不能の典型的状態

複数の物がそれぞれ物理的には弁別が可能である
しかし権利の帰属関係が不明瞭な状態である
例=多頭の羊を区分けしていた柵が壊れて混ざりあった
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p89

7 金銭の帰属不明瞭に適用される規定(3つの見解)

信託財産が金銭である場合に,他の財産と識別不能(帰属不明瞭)となった場合にも,混和(信託法17条)と識別不能(信託法18条)のどちらを適用するのか,という問題が生じます。
前記の例でいうと,金銭はよりも液体・穀物に近いので混和に該当するようにも思えます。
しかし,一般的には識別不能として信託法18条が適用されると考えられています。もともと金銭は価値の量なので,結果的に価値に応じた共有とすることが望ましいというような発想です。

<金銭の帰属不明瞭に適用される規定(3つの見解)>

あ 信託法18条適用説(通説)

金銭について識別不能(帰属が不明瞭)となった場合
→信託法18条が適用される(通説的見解)
→共有となる
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p89
※信託法改正要項試案補足説明2005年7月p18脚注16
※能見善久ほか話『信託財産(5)』/『ジュリスト1418号』2011年3月p110
※信託と倒産実務研究会編『信託と倒産』商事法務2008年p149〜152
※寺本直広『逐条解説 新しい信託法 補正版』商事法務2008年p80の注3

い 信託法17条適用説

信託法17条が適用される
→共有となる
※井上聡編『新しい信託30講』弘文堂2007年p16
※田中和明『詳解信託法務』清文堂2010年p168

う 信託法17・18条適用否定説

信託法17条,18条のいずれも適用されない
帳簿に記載された金額の金銭が信託財産に当然に帰属する
※田中幸弘ほか稿『分散型暗号通貨・貨幣の法的問題と倒産法上の対応・規制の法的枠組み(下)−マウントゴックス社の再生手続開始申立て後の状況を踏まえて−』/『金融法務事情1996号』金融財政事情研究会2014年6月p78参照

8 金銭の帰属不明瞭の状況と法的扱いの具体例

ある金銭が信託財産であるかどうかが不明瞭となった場合,前記のように,一般的には共有として扱います。
具体的には,盗まれた金銭信託財産なのか固有財産なのかを特定(識別)できないような状況です。結論として,盗まれる前の金銭の比率で盗まれたとして扱うことになります。

<金銭の帰属不明瞭の状況と法的扱いの具体例>

あ 金銭の帰属不明瞭が生じる状況の例

金銭について固有財産と信託財産が混ざった状態になっていた
この金銭の一部が盗まれた
受託者に過失はない

い 紛失した財産の特定

紛失した財産は固有財産と信託財産の両方に及ぶとして扱う
金額の比率による
※能見善久著『現代信託法』有斐閣2004年p48

9 預金への混和・識別不能の規定の適用(否定)

以上の説明は金銭(現金)が識別不能となった場合の法的扱いです。ところで一般的には信託財産のうち金銭を保管するために預金としておくことが多いです。
法的には現金(そのもの)ではなく,預金債権となっているので,混和や識別不能の規定が適用されることはありません。

<預金への混和・識別不能の規定の適用(否定)>

金銭を預金として保管している場合
預金債権なので,混和・識別不能には該当しない
※能見善久ほか話『信託財産(5)』/『ジュリスト1418号』2011年3月p108

本記事では,信託財産が他の財産と混ざって区別できなくなったケースでの法的扱いを説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方によってどのような規定が適用されてどのような結果となるのかが違ってきます。
実際に信託財産が他の財産と混ざってしまう問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。