【受託者の破産手続における信託財産や受益者の扱い(倒産隔離)】

1 受託者の破産手続における信託財産や受益者の扱い(倒産隔離)
2 受託者の破産手続における信託財産の倒産隔離
3 信託財産を責任財産とする債権の具体例(前提)
4 信託財産を責任財産とする債権の扱い
5 信託財産を責任財産とする債権への免責の効力
6 受益者の損失填補請求権と受託者の破産の関係
7 破産手続における受益者の損失填補請求権の特殊扱い

1 受託者の破産手続における信託財産や受益者の扱い(倒産隔離)

信託によって信託財産が受託者のもとにある時に,受託者が破産すると,受益者(や委託者)は,信託財産がどうなるのか,とても心配になります。
しかし,法律上,受託者個人が破産(倒産)しても,信託財産が毀損されることはないことになっています。
詳しくはこちら|信託財産の倒産隔離効(独立性)の要件(特定性・対抗力)
本記事では,受託者についての破産手続における,信託財産の扱いや受益者の立場について説明します。

2 受託者の破産手続における信託財産の倒産隔離

まず,信託の根本的な原理(倒産隔離)として,受託者(個人)が破産しても,信託財産が破産債権者への配当に使われることはありません。配当に用いられるのは,信託財産以外の財産(受託者の固有財産)だけです。

<受託者の破産手続における信託財産の倒産隔離>

あ 信託財産と破産財団の帰属の隔離

受託者の破産手続において
信託財産に属する財産は,受託者の破産財団に属しない
※信託法25条1項
※最高裁平成14年1月17日(信託法改正前)
詳しくはこちら|工事前払金についての信託成立(最高裁平成14年1月17日)

い 破産管財人の権限の範囲

受託者の破産において
破産管財人の管理・処分権の対象は固有財産に属する財産に限られる
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p128

3 信託財産を責任財産とする債権の具体例(前提)

前記のように,受託者の破産手続で結論として信託財産が毀損されることはないのですが,もう少し詳しく法的な扱いを説明します。
具体的には,信託財産を引き当てとする債権を持つ者の立場を中心に考えます。法律的には受益債権や信託債権を持つ者です。要するに典型例は受益者のことです。

<信託財産を責任財産とする債権の具体例(前提)>

あ 受益債権

※信託法25条2項

い 信託債権

※信託法21条2項2号

4 信託財産を責任財産とする債権の扱い

信託の受益者が持つ権利は破産債権としては扱われません。そのため,(受託者自身を破産者とする)”破産手続開始の申立もできませんし,破産手続の中で配当を受けることもありません。
つまり,受託者の破産手続から隔離された状態となるのです。

<信託財産を責任財産とする債権の扱い>

あ 債権の扱い(破産手続との隔離)

信託財産のみを責任財産とする債権について
例=返還請求権
破産債権とならない
※信託法25条2項

い 破産手続の申立への関与(否定)

『あ』の債権を有する者(債権者)について
破産法18条1項の『債権者』に該当しない
破産手続開始の申立はできない

う 破産手続への関与(否定)

『あ』の債権について
債権届出・配当の対象とはならない
免責の対象とはならない(後記※1
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p130

5 信託財産を責任財産とする債権への免責の効力

一般的に,破産して,最終的に免責決定を受けると,一般的な債権については文字どおり債務を免れることになります。しかし,受益者の持つ権利はこれについても隔離されていて,影響を受けません。
つまり,従前どおりに信託財産に対する権利行使が可能な状態が維持されているのです。

<信託財産を責任財産とする債権への免責の効力(※1)

あ 免責の効力の範囲

受託者の破産手続において免責許可決定がなされた場合
受託者の固有財産を責任財産とする債権は免責の対象となる

い 信託財産を責任財産とする債権への効力(なし)

信託財産との関係では免責許可決定の効果を主張できない
→免責決定後も,信託財産を責任財産とする債権の権利行使はできる
(信託財産に属する財産に対する権利行使である)
※信託法25条3項

6 受益者の損失填補請求権と受託者の破産の関係

実際に受託者自身が破産したケースでは,受託者が任務をしっかり行っていないために信託財産が毀損していることが発覚するということもよくあります。
そのような場合には,受益者は損失填補(原状回復)を請求できます。この損失填補請求権信託財産を責任財産をする債権ではなく,受託者自身への債権(固有財産を責任財産とする債権)となります。ということは(損失填補請求権については)破産手続開始の申立ができて,破産手続の中で配当を受ける対象となるのです。

<受益者の損失填補請求権と受託者の破産の関係>

あ 受託者の任務懈怠の責任(前提)

受託者が信託事務の処理について任務を怠った場合
→受益者は受託者に対し,信託財産の損失の填補or原状回復を請求する権利を有する
※信託法40条1項

い 損失填補・原状回復請求権の性質

『あ』の損失填補・原状回復請求権は受託者の固有財産を責任財産とする債権である
破産債権である

う 破産手続への関与

受益者は,『い』の請求権に基づいて
受託者に対する破産手続開始の申立権を有する
『い』の請求権を破産債権として届け出ることができる

え 将来発生する請求権

将来の損失填補or原状回復請求権について
→『破産者に対して将来行うことがある求償権』に該当する
→その全額について破産債権の届出をすることができる
※破産法104条3項本文
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p132

7 破産手続における受益者の損失填補請求権の特殊扱い

受益者が持つ損失填補(原状回復)請求権は,受託者自身への請求権なので,
受託者の破産手続では破産債権となります(前記)。この点,損失填補請求権は,形式的には受益者が持つ債権なのですが,実質的には信託財産に帰属する債権であるという特殊性があります。
そこで,破産手続の中での配当は,受益者ではなく新受託者か信託財産管理人に渡されることになります。

<破産手続における受益者の損失填補請求権の特殊扱い>

あ 損失填補・原状回復請求の特徴(前提)

破産手続開始以前において(一般的に)
受益者は,受託者に対して,信託財産への損失の填補or信託財産の原状の回復を求めることができるに過ぎない

い 受益者への配当(否定)

破産手続において破産配当として支払われる金銭について
→これも,本来信託財産に帰属すべきものである
=信託財産が配当を受けることである
受益者は配当を受領することができない
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p132

う 新受託者への配当

破産配当の時点で新受託者が選任されている場合
→破産管財人は破産配当を新受託者に対して行うべきである
=破産配当は信託財産の一部を構成する

え 信託財産管理者への配当

新受託者が未だ選任されていない場合
→破産管財人は,信託財産管理者の選任を申し立てる
※信託法63条1項,64条1項
破産管財人は破産配当を信託財産管理者に引き渡すべきである
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p132

本記事では,信託の受託者の破産手続における信託財産や受益者の扱いについて説明しました。
実際には,法的な位置付け・解釈が複雑になり,個別的な事情や主張・立証のやり方によって結論が違ってくることがあります。
実際に受託者の破産に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【弁護士が保管する預り金の倒産隔離(権利の帰属と信託・平成15年判例)】
【受託者の民事再生・更生手続における信託財産の扱い(倒産隔離)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00