1 信託財産の倒産隔離効(独立性)の要件(特定性・対抗力)
2 信託財産の対抗関係(倒産隔離効)が生じる具体例
3 倒産隔離(独立性)の要件としての特定性・対抗力
4 分別管理の内容と対抗力
5 信託財産の特定性と信託成立要件との関係
6 信託財産の識別不能と信託財産の確定性(倒産隔離)

1 信託財産の倒産隔離効(独立性)の要件(特定性・対抗力)

信託における信託財産は,受託者の破産受託者の債権者による差押の影響を受けません。
詳しくはこちら|預けた財産の権利の帰属と信託による倒産隔離の全体像
このような倒産隔離の効果(独立性)は信託の重要な特徴の1つです。
ところで,倒産隔離が認められるためには,信託財産である(信託が成立している)だけでは足りません。信託財産としての特定性や対抗力が必要です。
本記事では,信託財産としての特定性と対抗力について説明します。

2 信託財産の対抗関係(倒産隔離効)が生じる具体例

最初に,倒産隔離の効力が問題となる状況について説明しておきます。実際には,信託財産の差押受託者の破産の時に倒産隔離の効果が生じるかどうかで具体的な違いが出てくるのです。

<信託財産の対抗関係(倒産隔離効)が生じる具体例>

あ 対抗関係の発生(共通)

第三者に対して信託財産の対抗が問題となる状況には『い・う』がある
倒産隔離の効果が主張される状況である

い 信託財産に対する強制執行

受託者の固有財産に属する債務に係る債権によって
信託財産に対し強制執行がされた
→受託者or受益者が異議を主張する
※信託法23条5項

う 受託者の破産

受託者が破産手続開始の決定を受けた
信託財産が受託者の破産財団に属しないことを主張する
※信託法25条1項
詳しくはこちら|信託財産の倒産隔離効(独立性)の要件(特定性・対抗力)

3 倒産隔離(独立性)の要件としての特定性・対抗力

信託財産に倒産隔離の効果が生じるには,(信託財産としての)特定性と対抗力が必要です。
実際には,信託法が定める受託者の分別管理義務が履行されているならば特定性と対抗力は認められます。

<倒産隔離(独立性)の要件としての特定性・対抗力>

あ 倒産隔離の要件

信託による倒産隔離(信託財産の独立性)を確保するためには
信託財産としての特定性第三者への対抗力の両方が認められる必要がある

い 分別管理義務の履行

信託法による分別管理義務(後記※1)が尽くされている限り,信託財産の独立性(倒産隔離)を第三者(破産管財人)に対抗できる
※竹下守夫ほか編『破産法大系 第3巻 破産の諸相』青林書院2015年p257

4 分別管理の内容と対抗力

信託法は,受託者には信託財産の分別管理義務があると定めるとともに,分別管理の方法についても定めています。公示(登記・登録)による管理と,帳簿などの方法による管理の方法があります。
いずれの分別管理の方法でも,履行されているならば対抗力を持つと考えられています。(その結果,分別管理の効果が生じます。)

<分別管理の内容と対抗力(※1)>

あ 公示による分別管理(対抗力)

信託財産のうち
登記・登録をしなければ権利の得喪・変更を第三者に対抗できない財産について
→信託の登記・登録がなければ対抗できない
※信託法14条
例=不動産所有権・特許権

い 公示以外による分別管理(対抗力)

対抗要件の制度がない財産について
信託財産であることを証明できれば,信託の公示がなくても,当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができる
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p81
※高田賢治『譲渡担保権者の破産と受託者の破産』大阪市立大学法学雑誌57巻4号p14

実際には,信託財産の種類によって具体的な管理方法は違います。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|信託財産の種類ごとの分別管理の方法(特定性の内容)

5 信託財産の特定性と信託成立要件との関係

以上の説明は,倒産隔離の効果が生じるためには特定性(分別管理義務の履行)が必要であるというものでした。
一方,信託財産としての特定性(や分別管理義務)がないと信託が成立しないという発想もあります。
しかし,信託法の規定を素直に読むと,信託の成立のために分別管理義務が必要という記載にはなっていません。

<信託財産の特定性と信託成立要件との関係>

あ 信託成立の要件との関係(否定)

信託財産の特定性(確定性)について
信託行為自体の有効要件(成立要件)ではない
信託の成立のためには,信託財産として特定『可能』であれば足りる
※信託法4条1項参照(諾成契約)
ただし分別管理義務信託の成立要件の1つとする見解もある
詳しくはこちら|契約による信託の成立の要件・判断基準(信託の性質決定)

い 特定性により生じる効果

信託財産の特定性・確定性は
処分の効果がその目的物(信託財産)に帰属するための要件である
効果の内容の例=受託者の分別管理義務の発生,信託財産の倒産隔離
※信託と倒産実務研究会編『信託と倒産』商事法務2008年p82,83

6 信託財産の識別不能と信託財産の確定性(倒産隔離)

前記のように,信託財産の分別管理義務が行われていないと,特定性や対抗力が欠けることになり,倒産隔離の効果は生じません。
しかし,分別管理義務を履行していても信託財産が特定(識別)できない状態が生じることがあります。例えば,信託契約の中で信託財産の識別(特定)の基準が定めてある場合には,信託財産の特定性や対抗力は認められます。また,信託法の規定によって信託財産を特定できることもあります。

<信託財産の識別不能と信託財産の確定性(倒産隔離)>

あ 識別不能状態の発生

分別管理の方法によっては,具体的に,どの財産が信託財産であるか定まらなくなる場合がある

い 識別不能の具体例

動産について混和や特定不能状態が生じた
金銭について物理的に分別されず,計算を明らかにする方法で分別管理されている
※信託法34条1項2号(分別管理義務)参照

う 財産帰属の決定基準(概要)

信託財産が識別・特定できないケースにおいて
財産帰属の決定基準により,何が信託財産に属するかを決定できることがある
この場合,信託の公示がなくても,信託財産であることを対抗できる
ただし,一定の特定性は必要である
詳しくはこちら|信託財産の付合・混和・加工と識別不能(信託法17〜19条)

本記事では,信託における信託財産の倒産隔離の効力が認められる要件を説明しました。
実際には,個別的な事情によって倒産隔離の効力の結論(判断)は違ってきます。
実際に倒産隔離の問題に直面されている方やこれから行う事業の中で信託の活用を検討されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。