1 信託の受託者は管理に関する義務を負う
2 信託財産の分別管理|登記・預貯金は『信託口』名義がベスト
3 信託財産の分別管理|通帳・届出印の保管・信託財産目録
4 信託財産に関する『事故』で,受託者個人が責任を負うこともある
5 『限定責任信託』という方式であれば,受託者の負う責任,リスクを制限できる

1 信託の受託者は管理に関する義務を負う

信託の根本的な機能として『他者の資産を預かる,管理・運用する』というものがあります。
受託者の,『財産を預かる』という任務の性質上,一定のルールが規定されています。
以下,原則的なものをまとめます。
当然,個別的な信託契約で細かく設定(カスタマイズ)することもできます。

<受託者の基本的な義務>

あ 帳簿作成義務

ア 毎年1回
イ 典型的な作成書面
・貸借対照表
・損益計算書
・信託概況報告(書)
・付属明細書
※信託法37条1号,2号,信託計算規則4,5条

い 報告義務

受益者への報告義務
信託契約で『報告を必要としない』旨を定めることも可能です。
※信託法37条3号

う 受託者の分別管理

固有財産と信託財産を分別管理する義務
※信託法34条

2 信託財産の分別管理|登記・預貯金は『信託口』名義がベスト

信託財産は『受託者固有の財産』と分別して管理することが義務付けられています。
この点,不動産,預貯金について,『外見上区別する』ということが重要になります。

<不動産,預貯金の『信託財産』としての明示>

あ 不動産

登記上『信託』を明示(登記)する

い 金銭・預貯金

信託財産専用の預金口座を設けて,口座の入出金として管理する
預金口座名義に『信託口(しんたくぐち)』を付けるとパーフェクト
→最近はこの名義を認める金融機関が増えつつある
※遠藤英嗣『新しい家族信託』日本加除出版p98

3 信託財産の分別管理|通帳・届出印の保管・信託財産目録

外形的に,信託財産である表示がしっかりとできないこともあります。
そのような場合,次のようにして分別管理を行います。

<一般的な資産管理上の『分別管理』>

あ 通帳・届出印の保管

金庫・封筒にまとめておくなど,物理的に隔離する

い 信託財産目録の作成

信託財産の目録(リスト)を作成し,適切に保管しておく
この目録さえ見れば,『区別がハッキリする』という状態にしておく

4 信託財産に関する『事故』で,受託者個人が責任を負うこともある

受託者は,信託財産を『分別管理』しています。
受託者特有の財産との『混在』は禁止されているのです。
ここまでは当然なのですが,『マイナス財産』が混在するリスクがあります。
信託に関する債務,を直接受託者自身がかぶる,という責任・リスクです。

<受託者の負うリスク具体例>

ア 信託財産である建物が倒壊して通行人・お隣さんに損害賠償責任を負った
イ 信託財産であるマンションで水漏れ等のトラブルが生じ,賃借人に対し損害賠償債務を負った
ウ 信託財産である不動産の固定資産税・管理費が高い一方,テナントが見つからず,収支マイナスとなっている

これらの責任については,『預かったものだから,私(受託者)自身の責任ではない』と誤解される方もいらっしゃいます。
しかし,受託者は所有者であります。
そもそも,預かった者という立場としても,一定の責任を負うのは一般論として信託以外でもあり得ます。

5 『限定責任信託』という方式であれば,受託者の負う責任,リスクを制限できる

(1)『限定責任信託』の制度

受託者の負う責任が強い,ということは,受託者が引き受ける時のブレーキになるということです。
ここで,信託法上,受託者の負う責任を制限する,という方法があります。
信託から生じる債務の引当を信託財産限定にする方法です(信託法216条)。
『限定責任信託』と言います。

(2)限定責任信託の手続

限定責任信託とするためには,一定の手続を行う必要があります。

<限定責任信託の手続(要件);いずれも>

ア 信託契約(信託行為)に『限定責任信託』である旨を規定する
イ 『限定責任信託』という旨の登記を行う
ウ 受託者としての取引の相手方に『限定責任信託』であることを示す

特に登記も必要というところは重要です。
登記をしていない場合,それだけで限定責任の部分は無効となります。

(3)限定責任信託の効果

限定責任信託については,受託者は,信託財産の範囲だけで責任を負います。
具体的には,次のとおりです。

<限定責任信託の効果>

・受託者は,信託財産以外の財産から賠償等を拠出しなくて良い
・受託者は,信託財産以外の財産の差押を受けない

条文

[信託法]
(限定責任信託の要件)
第二百十六条  限定責任信託は、信託行為においてそのすべての信託財産責任負担債務について受託者が信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う旨の定めをし、第二百三十二条の定めるところにより登記をすることによって、限定責任信託としての効力を生ずる。
2  前項の信託行為においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一  限定責任信託の目的
二  限定責任信託の名称
三  委託者及び受託者の氏名又は名称及び住所
四  限定責任信託の主たる信託事務の処理を行うべき場所(第三節において「事務処理地」という。)
五  信託財産に属する財産の管理又は処分の方法
六  その他法務省令で定める事項