【決済手段の支払完了性(ファイナリティ)の4つの意味】

1 決済手段の支払完了性(ファイナリティ)の4つの意味
2 支払完了性(ファイナリティ)の4つの内容
3 当事者間の完結性の内容
4 対第三者完結性の内容
5 資金決済完了性の内容
6 支払指図の撤回不能性の内容
7 小切手による決済の撤回不能性

1 決済手段の支払完了性(ファイナリティ)の4つの意味

一般的に決済手段に求められる機能に支払完了性(ファイナリティ)があります。
大雑把な意味は文字どおり,支払が完了・完結する,というものです。
しかし,詳細な内容としては,主に4つの意味があります。
本記事では決済手段のファイナリティについて説明します。

2 支払完了性(ファイナリティ)の4つの内容

ファイナリティという用語には4つの意味があります。実際にはあまり区別せずに使われることが多いです。

<支払完了性(ファイナリティ)の4つの内容>

あ 当事者間の完結性

当事者間の債権債務関係が消滅すること(後記※1

い 対第三者完結性

いったん受け取れば,事後的に第三者から返還請求されるおそれがないこと(後記※2

う 資金決済完了性

追加的な資金決済が必要ではないこと(後記※3

え 支払指図の撤回不能性

支払指図or支払のための行為が撤回不能になること(後記※4

お 用語の用法(まとめ)

決済のファイナリティの概念は多義的である
『あ〜え』の4つの意味が明確に区別されることなく使われている
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p117

4つのそれぞれの意味の詳しい内容は,以下,順に説明します。

3 当事者間の完結性の内容

ファイナリティという用語の意味の1つに,当事者間の完結性というものがあります(前記)。
これは,債務が消滅するという決済(弁済)の主要な効果のことです。
現金であれば交付した時であり,銀行振込であれば着金の時です。
銀行振込が着金した時点でも,仮に銀行が倒産すると受け取ったはずの者(債権者)は現金を獲得できない可能性があります。このように厳密には確実とはいえないのですが,現実には銀行の倒産リスクは無視(排除)されています。

<当事者間の完結性の内容(※1)

あ 当事者間の完結性の意味

債務消滅の時点(タイミング)という意味である

い 債務消滅の時点の内容

従来の解釈(判例)による

う 銀行の倒産リスクの排除

銀行振込は着金時に債務が消滅する
詳しくはこちら|いろいろな決済手段による金銭債務の消滅時期
銀行の倒産リスクを無視(排除)している

え 銀行の倒産リスクの分配の妥当性

着金の後は,債権者は銀行から現金として引き出すことができる
一方,債務者は何もできない
→倒産リスクを債権者が負うのは公平とも考えられる
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p118

4 対第三者完結性の内容

ファイナリティという用語の意味の1つに,第三者との関係での完結性というものがあります(前記)。
決済の後から,第三者からの請求を受けることがないという意味です。
現金であれば,受領さえすれば第三者からの返還請求などは認められません。
この点,手形や小切手を受領した場合には,状況によっては第三者に返還することになる可能性があります。
この意味で,手形や小切手は現金よりファイナリティが劣るのです。

<対第三者完結性の内容(※2)

あ 対第三者完結性の意味

決済後に,第三者から返還請求されるおそれがないこと
返還請求の根拠=所有権やそれ以前の原因関係

い 現金決済の対第三者完結性

現金は受領すれば権利者から返還を請求されることはない(通説)
詳しくはこちら|現金についての物権的返還請求権の原則的な扱い(否定)
現金の匿名性が基礎になっている
詳しくはこちら|現金の特徴(匿名性・不特定性・代替性)と入手の容易性

う 手形・小切手の対第三者完結性

手形・小切手については一定の受領者保護の規定(え)がある
→譲受人が少なくとも善意である必要がある
→手形・小切手は現金よりも支払完了性が低い

え 手形・小切手の受領者保護の規定

ア 善意取得 ※手形法16条2項,77条1項1号,小切手法21条
詳しくはこちら|商法の有価証券と株式の善意取得(民法の即時取得よりも強化)
イ 人的抗弁の切断 ※手形法17条,77条1項1号,小切手法22条
詳しくはこちら|無記名債権の民法上の扱い(動産みなし・即時取得・弁済の保護)

5 資金決済完了性の内容

ファイナリティという用語の意味の1つに,資金決済(資金の移動)が完結する,というものがあります(前記)。
分かりやすいのは小切手による決済です。小切手を受け取った者の預金口座の残高として入金が反映され,かつ,引き出せる状態になるまでにいくつかのステップがあるのです。
その意味で,小切手は現金よりもファイナリティが劣るのです。

<資金決済完了性の内容(※3)

あ 資金決済完了性の意味

追加的な資金決済が必要ではないこと
=支払自体が完結していること
未決済残高があるかどうかという点を重視する

い 小切手による決済の支払完了性の具体例

債権者が債務者から小切手を受け取った
債権者が自己の取引銀行に入金した
手形交換による銀行間の資金移動が必要になる
不渡りの可能性がある
それ以上の資金移動がないことが確定するのは,さらに翌日になる
→小切手による決済では追加的な資金決済が必要である
=支払完了性はない(程度が低い)

う 銀行振込による支払完了性の具体例

銀行振込により決済が行われた
入金記帳と同時に債権者の預金が成立する+資金解放となる
ただし,銀行間で追加的な資金移動が必要である(ことに変わりはない)
→現金よりは支払完了性が劣る
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p119

6 支払指図の撤回不能性の内容

ファイナリティという用語の意味の1つに,支払指図の撤回不能性というものがあります(前記)。
現金であれば物理的に受領すれば,理論的に交付を撤回するということはできなくなります。
この点,電子資金振替については,実際の送金の実行までは,送金する者が撤回できます。小切手についても,一定の範囲で実質的に撤回,つまり債権者が現金を受領できないようにすることができます。

<支払指図の撤回不能性の内容(※4)

あ 支払指図の撤回不能性の意味

支払指図or支払のための行為が撤回不能になること

い 現金決済の撤回不能性

現金の交付により,受領者は所有権(物権としての支配)を取得する
→弁済は撤回不可能である
詳しくはこちら|現金についての占有イコール所有権理論(法理)の基本的内容

う 電子資金振替の撤回不能性

電子資金振替(EFT)における支払指図の場合
支払指図が実行される時点まで撤回可能ということもある

え 小切手による決済の撤回不能性(概要)

原則として交付後は撤回不可能である
しかし特殊事情により撤回可能となることもある(後記※5

7 小切手による決済の撤回不能性

小切手を交付した時点では,決済が完了したとはいいきれません(前記)。
支払呈示期間の満了後であれば支払委託の取消が可能です。また,事故申出による支払の差止が可能です。
ただし,いずれも小切手を交付した者(債務者)が無条件に撤回できるわけではありません。

<小切手による決済の撤回不能性(※5)

あ 一般論

小切手の交付の後は原則として撤回不可能である
しかしこれに代わる有効な弁済をすることによって小切手の返還を求める余地がある
※民法475条,476条参照

い 支払呈示期間経過後

支払呈示期間経過後であれば
支払委託の取消が可能である
※小切手法32条1項

う 事故申出による差止

支払呈示期間経過前であっても
契約不履行などに基づく事故申出により支払を差し止めることは可能である
※東京手形交換所規則施行細則77条

え まとめ

小切手の撤回不能性は,現金と電子資金振替の中間といえるかもしれない
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p119

本記事では,現金やその他の決済手段の支払完了性(ファイナリティ)について説明しました。
実際にファイナリティが問題となるのは,大きな規模の取引の決済方法を考える時や,仮想通貨などの新しい決済手段の法的扱いを考える時などです。
実際に決済方法やこれに関する法的扱いの問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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