1 現金の特徴(匿名性・不特定性・代替性)と入手の容易性
2 現金の匿名性
3 オンライン貨幣の匿名性と現金との関係(引用)
4 現金の不特定性(概要)
5 現金の高度な代替性
6 匿名性・不特定性・代替性による現金入手の容易性

1 現金の特徴(匿名性・不特定性・代替性)と入手の容易性

現金(金銭・貨幣)は独特の特徴があります。主な特徴として匿名性・不特定性・(高度な)代替性があります。
これらの特徴があるおかげで,現金は入手が容易になっています。
このような特徴は,いろいろな法的な扱い(見解)につながっています。
本記事では,現金の匿名性・不特定性・代替性について説明します。

2 現金の匿名性

現金には匿名という特徴があります。
つまり,決済(支払)が行われる元となった取引が行われたこともその内容も現金(券面)上の記録として残らないということです。受け取った者としては,以前どのような人がどのような取引の決済に使ったのかが分からないということになります。

<現金の匿名性>

あ 現金の匿名性の意味

現金を使って決済をする際に『ア・イ』に関する情報が,その後の受取人を含めた第三者に伝わらないこと
ア 取引(決済)が行われたこと
イ 取引の内容

い 現金受領者の立場

現金を受け取った者にとって,券面からは履歴を知ることができない
履歴の内容=それ以前に,いつ,どこで,誰が,どのような目的で用いたのか

う 法律上の位置づけ

現行法上,現金の匿名性を基礎づける規定は特に見当たらない

え 原因関係からの切断との関連

現金の匿名性(あ・い)が基礎となって
現金に表彰されている権利が,それ以前のあらゆる原因関係から切断されている
詳しくはこちら|決済手段の支払完了性(ファイナリティ)の4つの意味
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p120

3 オンライン貨幣の匿名性と現金との関係(引用)

現在,金銭(貨幣)のオンライン化(ペーパーレス化)は仮想通貨として実現しています。実は1995年から,金銭のオンライン化を想定して,その場合には匿名性がなくなる,つまり取引の記録が残ることが指摘されていました。仮想通貨でいえばブロックチェーン(上の記録)にあたります。
ただし,現金の匿名性は,現金の特徴の1つにすぎません。逆にこの特徴がないからといって現金という法的扱いができなくなるわけではないという指摘がなされています。

<オンライン貨幣の匿名性と現金との関係(引用)>

『電子現金のようなものを考えてみた場合,取引記録が残るシステムとすることはありえようが,そのことのみをもって電子現金は,現行法上の銀行券や硬貨とは法的地位が異なることにはならないように思われる。』
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p120

4 現金の不特定性(概要)

現金の特徴の1つとして不特定性があります。
現金(紙幣・貨幣)の1つ1つには個性がなく特定できないというものです。
一定の例外もありますが,法律的な扱いにはいろいろな見解があります。
現金の不特定性については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|現金の特徴のうち不特定性(識別できない)と特定される例外

5 現金の高度な代替性

現金の特徴の1つに,高度な代替性があります。
個々の紙幣や貨幣には個性がないので,ある紙幣や貨幣と,別の紙幣や貨幣は同じように扱うことができるというものです。

<現金の高度な代替性>

あ 現金の代替性

現金には個性がない
→高度の代替性がある

い 具体例

1万円を千円札10枚で借りた場合でも,借りた千円札10枚そのものを返す必要はない
別の千円札10枚や一万円札1枚を返済してもよい
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p121

6 匿名性・不特定性・代替性による現金入手の容易性

以上のように,現金には,匿名性・不特定性・代替性という特徴があります。
これらの特徴があるおかげで,現金の入手が非常に容易になっています。現金以外の一般的な民法上の代替物よりもさらに現金の方が容易に入手できるものとなっています。
そこで民法上も不可抗力によって金銭債務の履行ができなくなる(責任が生じない)ということは否定されています。

<匿名性・不特定性・代替性による現金入手の容易性>

あ 入手の容易性

現金には,匿名性・不特定性・高度の代替性という特徴がある
現金入手の容易性が他の代替物よりも高められている

い 債務不履行責任免除の否定との関係

現金は入手が容易である(あ)
→金銭債務は不可抗力による債務不履行責任の免責は否定される
※民法419条2項後段
詳しくはこちら|民法402条の『金銭債権・金銭・通貨』の意味(自由貨幣を含むか)
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p121

本記事では,現金の特徴である匿名性・不特定性・代替性について説明しました。
実際にこのような特徴が問題となるのは,仮想通貨などの新しい決済手段の法的扱いを考える時などです。
実際に決済方法やこれに関する法的扱いの問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。