1 有価証券と株式の善意取得(民法の即時取得よりも強化)
2 有価証券の内容と善意取得
3 有価証券の善意取得の趣旨
4 有価証券の善意取得の(緩和の)内容
5 有価証券の占有による動産の即時取得
6 有価証券と動産自体の占有による即時取得の優劣
7 貨物引換証と動産自体の即時取得者の優劣の判例
8 株式の善意取得

1 有価証券と株式の善意取得(民法の即時取得よりも強化)

民法上に,動産や一般的な無記名債権即時取得の規定があります。
詳しくはこちら|無記名債権の民法上の扱い(動産みなし・即時取得・弁済の保護)
一方,一定の有価証券株式については,商法と会社法に善意取得(即時取得)の規定があります。これらは,民法上の即時取得よりも要件を緩和して,取引を保護する趣旨の規定です。
本記事では,商法と会社法の有価証券と株式の善意取得について説明します。

2 有価証券の内容と善意取得

商法の善意取得の対象となる有価証券は,金銭・一般的な物・有価証券給付を目的とするものです。
公社債や商品券が具体例です。

<有価証券の内容と善意取得>

あ 有価証券の内容(即時取得の対象)

金銭その他物または有価証券の給付を目的とする有価証券(の譲渡)

い 有価証券の具体例

無記名の公社債,商品券

う 善意取得の特別規定

商法上の善意取得の規定が適用される(後記※1)
※商法519条,手形法16条2項,小切手法21条

3 有価証券の善意取得の趣旨

有価証券善意取得は,一般的な民法上の即時取得よりも認められやすくなっています。
より強く,有価証券の取引を保護するという趣旨によります。

<有価証券の善意取得の趣旨>

あ 商法の善意取得の趣旨

有価証券は,その流通保護のために,即時取得の要件が緩和されている

い 民法の即時取得の適用(否定)

一般法である民法192条以下は適用しない
(商法上の規定の方が強く保護される)
※大判大正6年3月23日
※林良平ほか編『新版注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p628

4 有価証券の善意取得の(緩和の)内容

有価証券の善意取得民法上の即時取得の違いは,軽過失があっても成立することと,盗品・遺失物であっても適用除外とならない(成立する)というところです。

<有価証券の善意取得の(緩和の)内容(※1)>

あ 民法の即時取得との差異

有価証券の即時取得には『い・う』の特徴がある
これらは民法の即時取得にはない特徴である

い 取得者の主観的要件

取得者に悪意or重過失がなければ即時取得できる

う 盗品・遺失物の制限なし

盗品・遺留品であっても即時取得は制限されない
(民法193条,194条は即時取得を制限する)
※大判大正6年3月23日;盗品の公債について
※宮城控判大正5年7月28日;盗品の勧業債権について
※東京控判大正13年6月28日;盗品の農工債権について
※東京地裁昭和34年10月12日;盗品の投資信託受益証券について

5 有価証券の占有による動産の即時取得

有価証券はある動産の引渡請求権を伴っていることがあります(前記)。
そのような有価証券を取得して善意取得が成立した場合,有価証券の所持者は引き渡すべき動産を取得したことになります。
具体例としては,貨物引換証を取得した者が運送品を取得するいうケースです。

<有価証券の占有による動産の即時取得>

あ 証券の即時取得(前提)

証券自体を即時取得した
※商法519条,小切手法21条

い 動産の即時取得

『あ』の場合
一般的に(証券が表象する)動産をも即時取得したことになる
※大判昭和7年2月23日
※川島武宣ほか編『新版注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p147,148

う 表象する動産の例(商法上の規定)
証券 表象する動産 根拠
貨物引換証 運送品 商法575条
倉庫証券(預証券) 受寄物 商法604条
船荷証券 運送品 商法776条

6 有価証券と動産自体の占有による即時取得の優劣

有価証券の善意取得動産自体の即時取得が同時に成立することもあります。
この場合,判例は,動産の即時取得を優先すると判断しています。

<有価証券と動産自体の占有による即時取得の優劣>

あ 条文規定

有価証券の引渡をもって動産の引渡と同一の効力を有する
※商法575条,604条,627条2項,776条参照

い 即時取得の適用

『あ』の規定は商法上の諸効力に関する限りで意義を持つ
少なくとも,動産自体の占有取得による即時取得と競合する時は,証券の占有取得による即時取得は劣後となるべきである
※大判昭和7年2月23日(後記※2)
※川島武宣ほか編『新版注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p147

7 貨物引換証と動産自体の即時取得者の優劣の判例

有価証券の善意取得動産自体の即時取得の両方が成り立ったケースを審理した判例の内容を紹介します。
実際の事案は少し複雑です。ただし,結論は前記のように動産の即時取得が優先と単純化できます。

<貨物引換証と動産自体の即時取得者の優劣の判例(※2)>

あ 運送品の預託と不当引渡

運送人XとAは『AがBに送る物品(運送品)』の運送契約を締結した
AはXに運送品を預けた
XはAに貨物引換証を交付した
Xは運送品を到着地の運送業者Cの元に運送した
CはBに運送品を引き渡した
この際,CはBから貨物引換証を受け取らなかった(不当引渡)

い 運送品自体の善意取得

Cは倉庫業者Dに運送品を預け,倉荷証券の交付を受けた
CはY銀行に,既存債務の担保として倉荷証券を質入れした
運送品についてYの善意取得が成立した(商法575条)
Yは質権を実行した

う 裁判所の判断(理論)

運送品が貨物引換証と引き換えずに引き渡された場合
引換証所持人は,運送品自体の善意取得者の権利を否定できない
引換証所持人は,運送品について所有権その他の物権をも持たない

え 裁判所の判断(結論)

Yによる質権実行は有効である
Aは所有権その他の権利を持たない
(実際にはAが貨物引換証をXに譲渡し,Xが上記のような主張をした)
※大判昭和7年2月23日

8 株式の善意取得

株式の善意取得は,会社法に規定があります。商法上の有価証券の善意取得と同じように,取引を保護するために,一般的な民法の即時取得よりも緩和されています。
なお,株主名簿への記録対抗要件にすぎません。株主名簿への記録がなくても株式の交付を受ければ(一定の要件で)株式の善意取得は成立します。

<株式の善意取得>

あ 譲渡の方式

株式の譲渡は株券の交付のみで足りる
※会社法128条1項

い 対抗要件(参考)

株式の譲渡には対抗要件を要する
対抗要件=株主名簿への記載・記録
※会社法130条1項

う 善意取得の適用(あり)

株式の譲渡には善意取得の適用がある
→強度に保護されている
※会社法131条2項,小切手法21条

本記事では,商法の有価証券の善意取得と会社法の株式の善意取得について説明しました。
実際には,有価証券にあたるかどうかとか,重過失はなかったかという判定が問題なることが多いです。また,仮想通貨などの新しい決済手段への適用が問題となることもあります。
実際に,有価証券や株式などの権利に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。