【現金についての占有イコール所有権理論(法理)の基本的内容】

1 現金についての占有イコール所有権理論の基本的内容
2 占有と所有権が分離する原則形態(前提)
3 占有イコール所有権理論(学説)
4 占有イコール所有権理論(判例)
5 占有イコール所有権理論の現実的な効用

1 現金についての占有イコール所有権理論の基本的内容

現金(金銭・貨幣)は,民法上の動産(『物』)にあたります。
しかし,一般的な動産と比べると大きく違う特徴があります。そのため,民法上の占有・所有権に関して特殊な扱い(解釈)がなされています。
詳しくはこちら|現金の特殊性による変則的な占有・所有権の扱い
現金の特殊な法的扱いの中でも根幹的なものとして,占有イコール所有権理論(法理)があります。
本記事では,この理論の内容について説明します。

2 占有と所有権が分離する原則形態(前提)

まず,民事的な財産の基本的な扱いとして,占有所有権(などの権利)は別個のものです。
ある財産を引き渡した(占有移転)としても,権利が移転するとは限りません。
具体的には,権利者に『権利を移転する』意思がある場合にだけ権利が移転するという効果が生じるのです。これを法律行為(制度)と呼びます。
詳しくはこちら|『法律行為』の意味・基礎(私的自治の原則との関係)・根拠
しかし,現金だけはこの根本的な制度が適用されないのです。非常に特殊な例外です。順に説明します。

3 占有イコール所有権理論(学説)

現金の主な特徴は,流通することが想定されていて個性がないというものです。逆に流通することを保護する要請があるともいえます。
そこで,他の動産にはない理論が編み出されました。現金の占有者が所有権を持つというものです。常識的な内容ですが,民法の規定から大きく離れる特殊な解釈です。現在では一般的な見解となっています。

<占有イコール所有権理論(学説)>

あ 占有と所有を一致させる要請

現実の支配から遊離した単なる支配の可能としての所有権では現金を現実に流通過程の中にぶちこむことはできない
現金は,直接にその物自体が交換現象の中に飛び込むときにのみ現金としての職能を果たす
現金については,これを現実に支配する占有を離れての所有権は成り立たないのが原則である
占有と所有が離れる場合は,現金は生きたものとして所有されているのではない

い 占有と所有の融合

現金の所有権が占有に融け込んでしまう様相となっている
現金の占有が現金の所有権の所在を推定させる
第三者は現金の占有者をその所有者だとして取引できる

う 占有に対する公信力

現金の占有に対して公信力が与えられている
現金の占有自体において所有権が存在する
現金はこれを占有する者に属するという格言が生まれた
※末川博稿『貨幣とその所有権』/『経済学雑誌1巻2号(1937年)』/末川博著『物権・親族・相続』岩波書店1970年所収p266〜268
※林良平ほか編『新版注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p630

4 占有イコール所有権理論(判例)

戦前,現金の占有イコール所有権理論は学説として普及していました。判例が採用したのは戦後です。

<占有イコール所有権理論(判例)>

あ 価値交換媒体

交換手段たる価値の表象としての現金について
国家により強制通用力を保障されている
打刻された金銭価値の担い手として流通過程におかれる

い 占有イコール所有権法理

もはや『物』としての個性は問題とならない
その占有あるところに所有権もあると解する
即時取得を問題とするまでもない
あとは不当利得返還請求権としての金銭債権の問題として処理する
※最高裁昭和39年1月24
※最高裁昭和29年11月5日;同趣旨
※最判昭和28年1月8日;同趣旨

う 判例の流れ

戦後になって,判例は占有イコール所有権理論をとるようになった(い)
※能見善久稿『金銭の法律上の地位』/星野英一編『民法講義 別巻1』有斐閣1990年p113

5 占有イコール所有権理論の現実的な効用

占有イコール所有権理論を前提とすると,多くの他の法的扱い(解釈)として現金の流通を保護する結論になります。
むしろ,流通を保護するために,占有イコール所有権理論を作ったといえます。

<占有イコール所有権理論の現実的な効用>

あ 占有と所有権の分離の想定

現金について所有権と占有が分立したと仮定すると
現金の占有者に対して所有権に基づく返還請求権が可能である
貨幣の所在にどこまでも追求しうるものとするならば
人は安心して貨幣を受け取ることができない
貨幣の交換手段という職能は破壊されてしまう
※末川博稿『貨幣とその所有権』/『経済学雑誌1巻2号(1937年)』/末川博著『物権・親族・相続』岩波書店1970年所収p268

い 流通機能との関係

現金の占有と所有権が一致すること
現金がいかなる経済価値を有する財貨とも交換され,流通する職能を果たす上で必要不可欠である

う 代替性・消費物という性質との関係

現金の代替性・消費物という性質は,占有と所有権の一致に基づく当然の結果である
※末川博稿『貨幣とその所有権』/『経済学雑誌1巻2号(1937年)』/末川博著『物権・親族・相続』岩波書店1970年所収p267,268

本記事では現金についての占有イコール所有権理論の内容を説明しました。
この理論は,従来の現金や仮想通貨に関する実際の広範な問題の解決をする時に,ベースとして使うことがあります。
実際に現金や仮想通貨の法解釈に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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