1 現金と有価証券の機能やペーパーレス化の可能性の比較
2 現金と有価証券の機能面からの比較
3 現金と有価証券の券面と権利の結合状況の比較
4 日本銀行券所持者の日本銀行に対する債権(否定)
5 現金と有価証券のペーパーレス化の比較
6 現金のペーパーレス化の考察(概要)

1 現金と有価証券の機能やペーパーレス化の可能性の比較

有価証券の中には現金(金銭・貨幣)のように決済で使われるものもあります。
つまり,経済的な機能としては,現金有価証券は似ているところがあるのです。
また,有価証券はペーパーレス化されるものが増えつつあります。
一方,現金をペーパーレス化しようとすると,法的な扱いがはっきりと決まっていないことが出てきます。
本記事では,機能やペーパーレス化に関して,現金と有価証券を比較します。

2 現金と有価証券の機能面からの比較

現金と有価証券を機能面で比較します。
券面(紙幣・貨幣)が必要であることは共通しています。
券面を持っていれば権利者として扱われるという傾向や,仮に無権利者から譲り受けても救済的に権利を得られることになり,また券面以外の事情で権利を制限されないという方向性も同じです。
もちろん,個々の内容は,法的に違うところもあります。ただし,流通が保護されるという大きな方向性は同じといえるのです。

<現金と有価証券の機能面からの比較>

あ 証券の必要性

ア 有価証券
権利移転・行使のいずれにも証券が必要である
イ 現金
券面の交付が必要である

い 所持人の推定

ア 有価証券の所持人
原則として権利者として推定される
イ 現金の所持人
券面の所持人は権利行使の際に権利の立証を要しない

う 無権利者からの譲受

ア 有価証券(善意取得)
譲渡人が無権利であることについて
譲受人が善意無重過失であれば証券上の権利を取得する
詳しくはこちら|商法の有価証券と株式の善意取得(民法の即時取得よりも強化)
イ 現金(占有イコール所有権理論)
所持人の主観に関係なく現金の所有権を取得する(通説)
詳しくはこちら|現金についての占有イコール所有権理論(法理)の基本的内容

え 原因関係との切断

ア 有価証券
原因関係が無効であっても
譲受人が善意であれば,抗弁は切断される(人的抗弁の切断)
※手形法17条,77条1項1号,小切手法22条
イ 現金
券面上の情報は原因関係から完全に切断されている
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p121,122

3 現金と有価証券の券面と権利の結合状況の比較

現金と有価証券の理論的(法的)な権利券面との関係について比較してみます。
まず,有価証券は,権利自体と証券は別のものですが,原則的に結合しています。除権判決によってこの結合が解消されることがあります。
現金は,券面を持っていれば権利(財産権)が認められ,券面を喪失すると権利も失います。その意味で券面権利が常に結合しています。現金には除権判決のような制度はありません。

<現金と有価証券の券面と権利の結合状況の比較>

あ 有価証券

権利自体は証券とは別に存在する
除権判決によって証券と権利の結合を解くことができる
※民事訴訟法784条,785条

い 日本銀行券

ア 占有イコール所有権理論
券面を占有する者が現金の所有権を持つ
詳しくはこちら|現金についての占有イコール所有権理論(法理)の基本的内容
イ 全部滅失
滅失した場合は完全に権利を失う
ウ 一部滅失
3分の2以上残っていれば全額が補償(交換)される
5分の2以上残っていれば半額で補償(交換)される
※日本銀行法35条
エ 理論的解釈
権利を表彰する』ということを否定する見解もある
少なくとも発行者への債権は否定される(後記※1)
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p122,123

4 日本銀行券所持者の日本銀行に対する債権(否定)

日本銀行券を所持するものは権利(財産権)を持ちます(前記)。
この権利は,日本銀行券の所有権です。さらに,発行者である日本銀行に対する権利(債権)があるのでは,という発想も浮かびます。
手形や小切手であれば,発行者が一定の債務を負います。
しかし,日本銀行が何らかの債務を負う,つまり日本銀行券の所持者が日本銀行に何らかの具体的な請求をすることができるとは考えられません。
結局,手形や小切手の枠組みは現金には当てはまらないのです。

<日本銀行券所持者の日本銀行に対する債権(否定・※1)>

あ 振出という想定

日本銀行券を日本銀行(中央銀行)振り出したと想定する

い 債権の存在(否定)

日本銀行券の所持人が日本銀行に対して
日本銀行券の呈示によって何らかの対価を受けうるといった法律関係が生じていると捉えるのは困難である
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p123

5 現金と有価証券のペーパーレス化の比較

テクノロジーの進化に伴い,決済手段のペーパーレス化(オンライン化)は進んでいます。
有価証券についてはペーパーレス化したものについての法整備や法解釈が進みつつあります。
一方,現金(日本円)については,銀行預金として現金を手元に置かないということは普及しています。ペーパーレス化のように思えますが,法的には銀行への金銭債権となっている状態です。現金と同じ状態でペーパーレス化する方法自体がなかったので,法解釈や法整備は未開拓です。

<現金と有価証券のペーパーレス化の比較>

あ 有価証券

ペーパーレス化された有価証券というものを観念し,そこにも有価証券法理を用いて,占有,善意取得,物権的返還請求権を論じることが多い

い 現金

ブックエントリーのような制度は存在しない
銀行預金は現金の代替的機能を果たしている
しかし銀行預金は法律的には金銭債権である
銀行預金の準占有(民法205条)は考えられる
しかし現金(有体物・『物』)そのものではない
について適用される占有や善意取得などは観念されない
現金がその法的立場を保ったままでペーパーレス化される方法はない
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p124

6 現金のペーパーレス化の考察(概要)

前記のように現金をペーパーレス化(オンライン化)するということは,従前あまり考えられていませんでした。
しかし,既に株式(株券)についてはペーパーレス化が普及しています。
一方,法定通貨のペーパーレス化は進んでいませんが,仮想通貨として決済手段のペーパーレス化は既に普及しつつあります。
実は,以前から,株式のような既存のペーパーレス化の実例も踏まえて,現金をペーパーレス化することについての法解釈や法整備が必要であるという指摘はありました。
詳しくはこちら|ペーパーレス現金の所有権(排他的権利)の立法論・株券との比較

本記事では,現金と有価証券を,機能とペーパーレス化の可能性の点で比較しました。
このような分析は,仮想通貨のような新たな決済手段の法的扱いを考える上で非常に参考となるものです。
実際に,決済手段の法的扱いについて検討されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。