1 ビットコインのハードフォークのリスクと仮想通貨交換業者の扱い
2 一般的なHFによるリスク
3 事務ガイドラインにおける『仮想通貨の適切性』(参考)
4 HFに対する仮想通貨交換業者の対応姿勢
5 新コインをユーザーに付与する義務
6 取り扱う仮想通貨の追加の法的手続
7 金融庁からの任意の要請
8 新コインの付与(JCBA自主規制の引用)
9 新コインの売買の扱い(JCBA自主規制の引用)
10 利用者の保護の行為規制との関係
11 HFと新コインに関するJCBA自主規制の情報ソース

1 ビットコインのハードフォークのリスクと仮想通貨交換業者の扱い

(平成29年12月時点の状況を前提にしています)
現在,ビットコインのハードフォーク(HF)が続いていて,いろいろな新たな仮想通貨(HFコイン・新コイン)が誕生しています。
本記事では,HFにより生じるリスクと仮想通貨交換業者が新コインをどのように扱うか,ということについて説明します。

2 一般的なHFによるリスク

ビットコイン(仮想通貨)のHFに関して,仮想通貨交換業者は,どのように扱うべきかということの判断を迫られています。
そこで,多くの仮想通貨交換業者が会員となっている業界団体JCBAが,これに関する姿勢・指針を公表しています(後記)。
この公表された通知の中に,HFのリスクが記載されています。
これを元にしてリスクを整理します。

<一般的なHFによるリスク>

あ ハッシュパワー分散リスク

HFにより新コインが組成された場合
オリジナルコインのマイナーの一部が新コインに移行する
→オリジナルコインの移転記録機能が低下する
→オリジナルコインの価値が下落するリスクがある

い プログラムの欠陥による無価値

新コインを支えるプログラムに欠陥があり新コインが価値を有しないことになる可能性がある

う オリジナルコインの奪取

新コインを支えるプログラムに不正なプログラムが組み入れられている
→オリジナルコインが奪われる事態が生じる可能性がある

え HFの乱用の可能性

最近のHFによる仮想通貨価格の上昇から『ア・イ』のようなHFの乱用がなされる可能性がある
ア 実行性に欠けるHF計画を公表する
イ 継続的に利用できる仕組みや環境が整っていない新コインを組成する

お まとめ

以上の行為や現象は,仮想通貨交換業者の業務コストの上昇を引き起こす
+顧客資産の安全管理や仮想通貨の資産価値そのものに深刻な影響を及ぼす可能性がある
※JCBA|HF・新コインへの対応指針(後記)

主に,仮想通貨(ビットコイン)の所有者(仮想通貨交換業者のユーザー)が負うリスクのことが記載されています。
ただし,最後の方は仮想通貨交換業者が負うリスクも含まれています。

3 事務ガイドラインにおける『仮想通貨の適切性』(参考)

金融庁の事務ガイドラインにおいても,取り扱う仮想通貨の適切性についての指摘があります。
詳しくはこちら|仮想通貨や取引の『適切性』の判断方法(事務ガイドライン)
ただし,これは新規の仮想通貨交換業登録における審査項目の説明です。
既に登録済で,実際にサービスを提供している仮想通貨交換業者を対象とする規制ではありません。

4 HFに対する仮想通貨交換業者の対応姿勢

JCBAは,通知の中で,仮想通貨交換業者としてHFに対応する基本的な姿勢表明しています。

<HFに対する仮想通貨交換業者の対応姿勢>

適切な仮想通貨としての条件を満たさない新コインについては
お客様に付与すべきではない
流通市場への参入を未然に防ぐ必要がある
※JCBA|HF・新コインへの対応指針(後記)

5 新コインをユーザーに付与する義務

視点を変えて,新たに誕生した新コイン(HFコイン)は法律的に誰に帰属するのか(誰のものか)という問題もあります。
例えば株式分割・株式無償割当や株主への利益配当であれば,新たな株式や配当は株主に帰属します。
HFによる新コインは,株式分割や配当とまったく同じとはいいきれません。しかし基本的な理論は同様であると考える方向性だと思われます。
この解釈論に関する公的判断(裁判所の判断・裁判例)はまだありません。
この点,MTGOX破産手続では,管財人がビットコインを含む財産を換価(日本円に換える)する任務を負っています。管財人の任務の遂行において,HFコインをどのように扱うかという問題が表面化します。
なお現在,管財人はビットコインを管理(Krakenに保管)しており,まだ日本円に換価していません。
詳しくはこちら|MTGOX破産手続におけるビットコインと返還請求権の法的扱い
管財人の任務の遂行に注目したいところですが,現在の破産手続では100%の配当をしても財産が余るという異常な事態となっています。ビットコインだけを日本円に換えれば配当は完了する状態です。このままではKrakenにHFコインの付与を請求することをしないで済むので,HFコインを付与する義務の有無の問題が表面化しないといえます。
詳しくはこちら|MTGOX破産手続におけるビットコイン返還請求権(BTC建て債権)の評価と不合理な配当

6 取り扱う仮想通貨の追加の法的手続

次に,仮想通貨交換業者の法規制との関係について説明します。
仮想通貨交換業者が新コインを扱う(新コインの売買サービスの提供を開始する)ということを想定します。
資金決済法の規制上は,登録上の『扱うコイン』に新コインを追加する手続が必要です。
これは,売買サービスの提供届出をするだけで足ります。
(法律上は)事前に金融庁の審査が必要,というようなことはありません。

<取り扱う仮想通貨の追加の法的手続>

あ 登録事項という位置づけ

『取り扱う仮想通貨の名称』は仮想通貨交換業の登録の記載事項となっている
※資金決済法63条の3第1項7号

い 変更届出

登録の記載事項(あ)に変更があった場合
→仮想通貨交換業者は遅滞なく内閣総理大臣に届け出なければならない
※資金決済法63条の6

う 他の登録事項(参考)

『他に事業を行っているときは、その事業の種類』も登録事項となっている
※資金決済法63条の3第1項10号
新たに扱うHFコインが資金決済法の仮想通貨の定義に該当しない場合
(売買のサービスの提供を始める場合)
他に行う事業として内閣総理大臣に届け出なければならない
※資金決済法63条の6

なお,仮に新コインXが仮想通貨の定義に該当しない場合は,『扱う仮想通貨』には該当しません。
詳しくはこちら|仮想通貨の定義と該当性判断の方法(改正資金決済法とガイドライン)
『新コインXの売買のサービス』は『仮想通貨交換ではないサービス』ということになります。『他に行う事業』として金融庁に届出をすることになります。

7 金融庁からの任意の要請

前記のように,仮想通貨交換業者が新コインを扱うには,金融庁の審査や承諾を得ることは不要です。
しかし,現実には,金融庁は届出前に相談することを要請しています。
業界全体で判断する(共通の扱いとする)ことを理想と考えているような感じもします。

<金融庁からの任意の要請>

あ 法的な扱い

新たなコイン(HFコイン)の売買サービスの開始するには届出だけでよい
それ以上に規制することはない
形式が整っていない以外で受理しないということはない

い 任意の要請

金融庁としては,新コインの安全性を確認した後に届出をする(売買サービス提供を開始する)ことを推奨している

う 業界団体の取り組み

業界団体では,扱うコインを取り決めているはずである
この会員であれば各社が単独で判断することはないと思われる
※金融庁監督局金融会社室仮想通貨第1係ヒアリング平成29年12月

8 新コインの付与(JCBA自主規制の引用)

実際に,多くの仮想通貨交換業者が会員となっている団体であるJCBAでは,HFによる新コインの付与についての指針を作って公表しています。
引用して紹介します。
要するに付与する・しないを各社で判断して,事前にユーザーに周知するという内容です。
ユーザーが各社の扱いをみて,他の業者(交換所)にビットコインを送金するということも想定されます。

<新コインの付与(JCBA自主規制の引用)>

2.新コインの顧客への付与について
1 会員は、会員の判断により新コインを顧客に付与しないことがある旨および付与する場合にあっては新コインの流通上の安全性等を確認するために HF の直後には付与することができないことがある旨その他新コインの付与に関わる事項を約款その他顧客との契約書面に明示し、顧客にあらかじめ説明しなければならない。
2 会員は、新コインの付与を判断するための基準を設け、その概要についてあらかじめ公表しなければならない。
3 会員は、顧客に新コインを付与する場合には、少なくとも以下の事項については十分に確認を行わなければならない。
イ.新コインについて二重移転を防止する措置が講じられていること
ロ.新コインに顧客の資産を侵害する仕組みが講じられていないこと
ハ.新コインの有する機能が不法、不正な行為を誘引するものではないこと
4 会員は、HF によりブロックチェーンを支える機能が新コインに割譲されたことに伴い、HF の基となる仮想通貨(以下『オリジナルコイン』)の価値が新コインに移転したと認められる場合には、原則として、HF により組成された新コインを顧客に付与しなければならない。ただし、前号の確認事項を新コインが満たしていない場合その他新コインを顧客に付与することが適切でないと認められる場合を除く。
5 会員は、前項の場合において、新コインの付与に代え、新コイン相当額の金銭を顧客に交付することができる。この場合、新コイン相当額を算出する基準を予め顧客に周知しなければならない。
6 会員は、顧客に付与するためにあらかじめ取得する場合又は前項の措置を講ずる場合を除き、顧客の持ち分により生ずる新コインを会員が顧客に代わって自らが所有するものとして取得してはならない。
7 会員は、現に会員の取り扱う仮想通貨について HF により新コインが組成され顧客の保有するオリジナルコインの価値に影響を与える可能性がある場合には、あらかじめ、当該 HF 計画の概要および HF により組成される新コインの内容、新コインの付与対応について、顧客に周知しなければならない。
8 会員は、新コインの顧客への付与に伴い生ずる業務コストを、手数料として顧客に 請求することができる。ただし、あらかじめ約款その他顧客との契約書面に明示し、顧客に周知しなければならない。また、その額は実際に付与を行った場合に限り生 ずるコストを超えてはならない。
※JCBA|HF・新コインへの対応指針(後記)

9 新コインの売買の扱い(JCBA自主規制の引用)

JCBAの通知には,HFによる新コインの付与とは別に売買の扱いについても指針が示されています。
あくまでも付与するかどうか売買サービスを提供するかどうかは別事項としてそれぞれ判断するということです。

<新コインの売買の扱い(JCBA自主規制の引用)>

5.新コインの売買等の取扱い
1 会員は、取り扱う仮想通貨のHFによって生じた新コインを、仮想通貨交換業における取扱い仮想通貨とすること又は取扱い仮想通貨としないことができる。
2 会員は、オリジナルコインを保有していた顧客に新コインを付与した後でなければ、新コインを取扱い仮想通貨とすることができない。ただし、オリジナルコイン を HF 時点では取り扱っていない場合および HF 後 10 年を経過した場合を除く。
3 新コインを取扱い仮想通貨とする場合には、他の新たに取扱う仮想通貨と同様に、社内審査その他の手続きを行い、取扱いの決定を行わなければならない。
4 会員は、顧客に新コインを付与した場合であっても、当該新コインを仮想通貨交換業上の取扱い仮想通貨としないことができる。
※JCBA|HF・新コインへの対応指針(後記)

10 利用者の保護の行為規制との関係

ところで,登録済の仮想通貨交換業に適用される規制の中に利用者の保護の措置をとるというものがあります。
※資金決済法63条の10
仮に,『ふさわしくない』HFによる新コインをユーザーに付与することが利用者保護の義務に違反するか,という問題もあります。
この点,利用者保護の内容を定める内閣府令16〜19条と,この解釈を示す事務ガイドラインは,主にリスクの説明を規定しています。扱う仮想通貨の種類の選択・HFコインの配布の有無という趣旨のことは含まれていません。
詳しくはこちら|資金決済法63条の10(利用者保護措置)と内閣府令・ガイドラインの条文規定
素朴に利用者の保護という言葉の解釈としては,HFコインの付与によりユーザーに損害が生じるとすれば付与することが違法となる可能性もあるといえるでしょう。
しかし,むしろHFコインを事業者の一存でユーザーに付与しないことの方がユーザーに損害を与えると考えることができるでしょう。

11 HFと新コインに関するJCBA自主規制の情報ソース

本記事で紹介したHFと新コインに関するJCBAの通知(自主規制)の情報ソースをまとめておきます。
なお,この通知の中には仮想通貨を原資産とするデリバディブに関する,HFの際の扱いについても示されています。

<HFと新コインに関するJCBA自主規制の情報ソース>

あ 作成した団体

一般社団法人日本仮想通貨事業者協会(JCBA)
平成29年12月1日時点で登録済仮想通貨交換業者12社が会員となっている
(登録済業者の総数は15社)
外部サイト|一般社団法人日本仮想通貨事業者協会(JCBA)

い 通知の日付

平成29年11月10日

う 通知のタイトル

計画されたハードフォークおよび新コインへの対応指針の作成・公表について
※本記事では『HF・新コインへの対応指針』と呼ぶ

え 大まかな内容

JCBAの正会員の合意で自主規制を定めた
その内容を会員に通知するもの

お 情報ソース

外部サイト|JCBA|計画されたハードフォークおよび新コインへの対応指針の公表について