1 破産手続における100%配当の典型例と残余財産の処理
2 100%配当の可能性(原則論)
3 100%配当が実現する特殊事情の典型例
4 破産手続における100%配当の処理
5 100%配当後の残余財産の引き継ぎ(自然人)
6 100%配当後の残余財産の引き継ぎ(法人)
7 MTGOX破産手続における不合理な100%配当(概要)

1 破産手続における100%配当の典型例と残余財産の処理

実際の破産手続では,債権の返済率は非常に小さい割合となることが多いです。
しかし,特殊な事情があると100%の配当が実現することもあります。
本記事では,100%配当が実現する事情と,その場合の配当やその後の財産の扱い(行方)について説明します。

2 100%配当の可能性(原則論)

そもそも,100%の配当が実現するということは普通のことではありません。
ただし,実際に破産手続で100%の配当が実現することもあります。

<100%配当の可能性(原則論)>

あ 一般的な100%配当の可能性

破産手続開始の原因は支払不能or債務超過である
詳しくはこちら|民事再生手続開始決定の判断枠組みと手続開始原因(積極的要件)
一般的には100%配当という事態は想定されない

い 例外的な100%配当の実現

特殊事情によって100%配当が実現することもある(後記※1)

3 100%配当が実現する特殊事情の典型例

100%の配当が実現することになる特殊事情としては,プラス財産が想定よりも多くなったか,あるいはマイナス財産(債務)が想定よりも少なくなったことが原因です。典型的な具体例を整理します。

<100%配当が実現する特殊事情の典型例(※1)>

あ 新たな財産の発覚

破産手続開始決定時において把握されていなかった新たな財産が発見された

い 想定外の高値での売却

財産が想定を超える高値で換価・処分できた
例=不動産,株式,仮想通貨
詳しくはこちら|MTGOX破産手続におけるビットコイン返還請求権(BTC建て債権)の評価と不合理な配当

う 死亡保険金の受給

破産手続開始決定後に破産財産に属する死亡保険金請求権が具体化した
※最高裁平成28年4月28日

え 債務(破産債権)の減少

破産債権の時効消滅や破産債権者からの債権放棄によって
破産債権総額が減少した
※岡伸浩ほか編著『破産管財人の債権調査・配当』商事法務2017年p465

4 破産手続における100%配当の処理

実際に破産手続で100%の配当が行われる際には,逆に財産が余ることになります。
つまり残余財産がある状態で破産の手続が終了するのです。

<破産手続における100%配当の処理>

あ 換価

破産管財人は,配当に必要な範囲で換価する

い 弁済・配当

破産管財人は,優先順位に従い,財団債権に対する弁済,確定債権に対する100%配当を実施する

う 残余財産の引き継ぎ

破産管財人は残余財産の引き継ぎを行う
引き継ぎの方法は自然人(個人)(後記※2),法人(後記※3)とで異なる
→破産管財業務を終える
※岡伸浩ほか編著『破産管財人の債権調査・配当』商事法務2017年p465

5 100%配当後の残余財産の引き継ぎ(自然人)

100%の配当の後に,管財人が自然人(個人)の破産者に対して残余財産の引き継ぎを行う際には,免責決定をすべきかどうかが問題となります。
配当後に債務は残らないように思えますが,確実に消滅するとは限らないので,実務的には念のため免責決定を行う(審査する)のが一般的です。

<100%配当後の残余財産の引き継ぎ(自然人・※2)>

あ 残余財産の引き継ぎ

破産者が自然人(個人)である場合
→管財人から破産者に残余財産を引き継ぐ

い 免責決定の要否

100%配当により破産債権はすべて消滅する
→原則的に免責決定の必要はなくなる

う 消滅しない債権が残る具体例(※3)

『ア・イ』の場合,配当により消滅しない債権が残ってしまう
ア 破産債権者表に漏れがあった
イ 一部の債権者が遅延損害金について債権届出をしていない
実体法上は遅延損害金の請求権はあるが記載を省略した状況など

え 実務的な免責決定

実務では念のため免責決定をする方が望ましい
※岡伸浩ほか編著『破産管財人の債権調査・配当』商事法務2017年p465,466

6 100%配当後の残余財産の引き継ぎ(法人)

破産者が法人である場合,すでに代表取締役などの役員は財産の管理権限を喪失しています。そこで,100%の配当の後の残余財産を渡す相手がいない状態になります。
そこで,清算人が選任された後に,管財人から清算人に残余財産を渡すことになります。
その後は,清算人が主に株主への残余財産の分配を行います。

<100%配当後の残余財産の引き継ぎ(法人・※3)>

あ 財産の管理権限を持つ者の不存在

破産者が法人の場合
→(そのままでは)管財人が残余財産を引き継ぐべき相手がいない

い 清算人の選任

法人or裁判所が清算人を選任する
※会社法478条1項,2項

う 清算人への引き継ぎ

破産管財人から清算人に対して残余財産を引き継ぐ

え 清算人による残余財産の処理

清算人は通常の清算手続に従って,債務の弁済,株主への分配などを行う
配当後に債務が残った場合(前記※3)には,清算人が弁済することになる
※岡伸浩ほか編著『破産管財人の債権調査・配当』商事法務2017年p466

7 MTGOX破産手続における不合理な100%配当(概要)

以上は,一般的な破産手続における100%配当についての説明でした。
ところで,MTGOX破産手続では,実際に,このままだと100%配当が実施される(その後株主に分配される)状況にあります。
その経緯を考えると,実質的・常識的に100%配当の実施は不合理です。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|MTGOX破産手続におけるビットコイン返還請求権(BTC建て債権)の評価と不合理な配当