1 宅建業者は不動産の評価額の根拠を説明する義務がある;評価額根拠説明義務
2 売買契約締結後に,別の購入希望者に売却可能だが,違約金支払義務がある
3 宅建業者が評価額根拠説明の内容は,同種の取引事例が主なものである
4 評価額根拠説明は,鑑定評価ほどの精度は求められない
5 評価額根拠説明自体には対価は発生しない
6 評価額根拠説明に違反した宅建業者は業務停止などの行政処分の対象となる
7 宅建業者の評価額の説明が誤っていた場合,損害賠償の対象となる
8 会社+営業マンの責任を認めた実例
9 宅建業者の評価額説明が誤っていた場合でも原則的に売買契約は解消できない

1 宅建業者は不動産の評価額の根拠を説明する義務がある;評価額根拠説明義務

(1)宅建業者は評価が根拠説明義務を負う

一般の方が不動産の売買を行う場合,詳しく知らないことから被害を受けることがあり得ます。
そのために,不動産取引の仲介(媒介)は,宅地建物取引業者として登録した業者だけが行えるようになっています。
資格・登録制度があるのです。
宅建業者は,まさに,一般の売主や買主を保護する役目を負っています。
依頼者に売買価格や評価額をアドヴァイスするのは重要な任務の1つです。

<宅建業者の評価額根拠説明義務

宅建業者が依頼者に売買価格や評価額について意見を述べる時は根拠を明らかにする
※宅建業法34条の2第1項2号,2項

(2)評価額の根拠は,売買契約をするかに直結する要素なので重要とされる

宅建業者に依頼した一般の方にとって,売買価格は非常に重要です。
売買契約成立後に『値段を間違えたのでやり直ししてくれ』ということは原則としてできません。
例えば『3500万円で売る契約書に調印したけど,よく考えたら5300万円で売りたかった。白紙に戻してくれ』ということは通用しません。
売買契約が成立すると,売主・買主ともに,原則的に拘束されるのです。
特殊な例外を除いては,やり直しが効かない取り返しがつかないことなのです。
ですから,売買金額の設定,評価額,は非常に重要なのです。

2 売買契約締結後に,別の購入希望者に売却可能だが,違約金支払義務がある

<事例設定>

売買契約が成立した後,もっと高く買ってくれる方が現れた
売買契約をキャンセルしたい

(1)2重売買自体は認められている;対抗要件

まさに,『後からもっと高く買ってくれる方が現れた』ということを民法は想定しています。
前より良い買主が現れたら『浮気』してもOKというのが民法のルールです。
正確には,買主1・買主2が現れても,先に登記を取得した者が所有権を得る,というルールです(民法177条)。
別項目;不動産登記;対抗要件,不完全物権変動理論,背信的悪意者
より高い方に売るというのはビジネスの世界ではOK,ということです。

(2)手付放棄or違約金の支払義務発生

もちろん,最初の売買契約を,売主都合で反故にすることになります。
損害賠償の義務があります。
通常は売買契約書に違約金として規定されています。
逆に言えば,違約金を払ってでも新たな購入希望者の条件が良いという場合に,乗り換える検討をすることになります。
『履行の着手』前であれば,手付解除ができます。
別項目;履行の着手までは,手付解除により無条件に契約を解消できる

3 宅建業者が評価額根拠説明の内容は,同種の取引事例が主なものである

不動産の評価額というのは,機械的に計算式にあてはめると自動的に出る,という単純なものではありません。
公的な評価である,不動産鑑定士による鑑定書でも,鑑定する者によって差があるのです。
ただし,目安としてはある程度分かりやすく算出することができます。
有力なデータは,近隣の取引事例です。
対象となる不動産から距離的に近い・時間的に近い(最近)という売買事例を参考にするのです。
取引事例のデータは,レインズ(REINS;指定流通機構;宅建業法50条の3等)というネットワークに蓄積されています。
レインズのデータは宅建業者が共有しています。
一般の方に公開されてはいません。
また,取引事例は,個々の取引の特殊事情による影響を含んでいます。
複数の取引事例から,平均的な条件における価格(坪単価)を算定するというのが通常です。
このような内容の説明であれば評価額根拠説明義務を履行したことになります。

4 評価額根拠説明は,鑑定評価ほどの精度は求められない

(1)鑑定評価不動産鑑定士が行う精度の高い評価である

不動産の評価について資格を持っている不動産鑑定士は,正式な鑑定を業務にしています。
正式な鑑定の書面を鑑定書とか鑑定評価書と呼んでいます。
もっと正確に言えば不動産鑑定評価法に基づく鑑定評価書です。

(2)宅建業者の評価額根拠説明鑑定評価より簡易なもの

一方,宅建業者が依頼者への情報提供・説明の一環として行う評価は,このような正式なものではありません。
そこで,宅建業者が評価について書面を作成する場合,『鑑定書鑑定評価書ではない』ことを明記することとされています。
評価という用語を用いると紛らわしいので査定(書)というタイトルを付けることもよくあります。

5 評価額根拠説明自体には対価は発生しない

不動産鑑定士に不動産の評価,を依頼した場合は,業務のフィーが発生します。
しかし,これは不動産鑑定士に鑑定(評価)を依頼した場合です。
宅建業者は不動産の評価を有償で行うことはできません。
そもそも,宅建業法により,依頼者に対する評価額の根拠の明示,は義務とされています。
媒介(仲介)業務の一環,とされているのです。
媒介業務の対価も,宅建業法において明確に規定されています。
そこで,媒介業務の一環である評価は,媒介業務の対価(仲介手数料)に含まれる,と解釈されます。
つまり,仲介手数料とは別に,評価の対価(料金)を請求することはできないのです。

6 評価額根拠説明に違反した宅建業者は業務停止などの行政処分の対象となる

売買価格,評価額の根拠説明義務の違反については,罰金などのストレートな罰則は規定がありません。
都道府県知事や国土交通省大臣による監督処分の対象となります。
具体的内容としては,指示処分業務停止処分が規定されています(宅建業法65条)。
詳しくはこちら|宅建業者に対する監督処分の基本(種類・対象行為)
実際にこれらの処分が発動されるかどうかは,個別的な事情によって判断されます。
なお,極端なケース,例えば騙したと言える程悪質な場合は,刑法上の詐欺罪に該当することもあります。

7 宅建業者の評価額の説明が誤っていた場合,損害賠償の対象となる

<事例設定>

私は不動産を購入した
後から分かったのだが,仲介業者の出してくれた評価額が極端に高い金額だった
無駄に高い金額で購入してしまった
仲介業者に賠償してもらえないのか

仲介業者の出した評価額を信じて不動産を購入した後,実際の評価額は,購入価格よりも著しく低い,というケースがあります。
意図的に不当に高い評価額を示した場合は,一種の詐欺となります。
いずれにしましても,宅建業者の不当な評価額によって,依頼者である買主が損害を被ったことになります。
状況によっては,不法行為として損害賠償責任が認められることもあります。
仲介業者である会社が責任を負うのは当然として,関与した者個人にも責任が認められることもあります。

8 会社+営業マンの責任を認めた実例

不当な勧誘した仲介業者(会社)とその代表者個人に連帯責任を認めた裁判例もあります。現実の相場の約10倍の評価額を示したセールスについての裁判例を紹介します。

<会社+営業マンの責任を認めた実例>

あ 取引の背景

別荘用に適する土地の売却
直ちに利用することは目的としていない

い セールストーク

開発計画・工場の進出・交通の利便により
→近い将来の土地の値上りが確実である
大幅に値上がりするかの如く断定的な説明をした
1年後の転売を確約した
→出資分の回収が容易であるかのように誤信させた

う 現実

近い将来,土地の価格に影響を及ぼす事情・可能性は全くない
売買代金以上に値上がりすることは到底考えられない

え 異常な高値

ア 実際の評価 1坪約7300円(全体で22万円)
イ 説明内容(虚偽) 1坪14〜15万円
ウ 成約代金 1坪7万5000円(全体で225万円)

お セクシャル勧誘

ターゲット(買主)は若い独身男性である
若い女子従業員を使って関心を引いた
現地案内と同時に,現地に近い旅館で勧誘説得をくり返した
→十分な考慮の余裕を与えなかった

か 裁判所の判断

顧客獲得のための正常な宣伝,勧誘行為の範囲を著しく逸脱する
→違法なものというべきである。
他の多数の者にも同様の勧誘を行っていた
→会社は把握していた
→会社にも責任がある
※大阪地裁昭和63年2月24日

9 宅建業者の評価額説明が誤っていた場合でも原則的に売買契約は解消できない

<事例設定>

私は不動産を購入した
後から分かったのだが,仲介業者の出した評価額が極端に高い金額だった
売買契約をキャンセルしたい

仮に仲介業者が不当な評価額をアドヴァイスしたために,不本意な金額で売買契約を締結した場合は売買契約自体を解消したいところでしょう。
確かに,仲介業者による一種の詐欺に近い状態です。
しかし,ストレートに売買契約が解消できるわけではありません。
まず,仲介業者(宅建業者)の義務違反売買契約の効力は別問題とされているからです。
実質的に考えても,売主自信が騙したというわけではないからです。
逆に言えば,売主が仲介業者の詐欺に関連していた場合は,事情によっては,契約を解消することが可能になります。

<契約解消の根拠>

・詐欺取消;民法96条2項
・錯誤無効;民法95条

<詐欺取消,錯誤無効による契約解消が可能な場合>

ア 売主が仲介業者による詐欺について結託していた場合
 →売主自体による詐欺
イ 買主が仲介業者によって騙されていることを売主が知っていた場合
 →詐欺・誤認便乗型