建売住宅を購入する契約をして,手付も払いました。
その後いろいろ考えて後悔しています。
キャンセルできますか。

1 手付を放棄することにより無条件の解除ができる;手付解除
2 手付解除における『履行の着手』は欠くことのできない前提行為も含む
3 不動産売買,建築契約の『履行の着手』は移転登記引渡建設工事のいずれかである

1 手付を放棄することにより無条件の解除ができる;手付解除

売買契約を特に理由なく解除できる方法として手付解除があります。
ただし,手付解除をするためには,手付が解約手付である必要があります。
売買契約書に『解約手付』と書いてあれば良いです。
なお,何も書いてない場合は解約手付として推定されることになっています。
解約手付が支払われている場合は,買主は,これを放棄すれば契約の解除ができます。
俗に手付流しと言うこともあります。
ただし当事者の一方が契約の履行に着手するまでが手付放棄による解除の締切とされています(民法557条1項)。

2 手付解除における『履行の着手』は欠くことのできない前提行為も含む

(1)手付解除における『履行の着手』時期の解釈

手付解除は,条文上,『当事者の一方が契約の履行に着手するまで』と規定されています(民法575条1項)。
この部分の解釈について,最高裁の判例があります。

<手付解除における『履行の着手』の解釈>

『履行』には,欠くことのできない前提行為も含む
※判例1

簡単に言えば,準備のうち,ある程度本格的なプロセスに入っている場合は手付解除ができない,ということになります。

3 不動産売買,建築契約の『履行の着手』は移転登記引渡建設工事のいずれかである

(1)一般的な不動産売買契約の『履行の着手』は登記移転物件引渡である

不動産売買契約の場合,『履行の着手』とは,登記移転物件引渡が原則です。
ただし,特殊な内容だと,別の解釈もあります。

(2)建売住宅は,原則どおり,登記移転物件引渡が『履行の着手』となる

建売住宅の場合,売主の履行すべき内容は土地と,完成した建物の引渡しです。
建築工事等は引き渡しのための準備行為ですらないので,『履行の着手』にはあたりません。
原則として土地・完成した建物の引渡や登記の移転が『履行の着手』時期となります。

(3)注文住宅は,建築工事が『履行の着手』となる

注文住宅(売建てということもあります)の場合は,建物について,請負契約が締結されているはずです。
建物の建築請負契約について考えると,建築工事が履行(の着手)に該当します。
建売住宅(規格の設計に基づいた建物を売買する契約)とは違ってきますので注意が必要です。

(4)建売住宅でもオプション工事があると個性のある工事施工が『履行の着手』となる

オプション工事があると,建売住宅だけど注文住宅に近い性質を持つ,ということになります。
オプション購入した機器の種類や設置工事の進捗状況,他の購入者等への汎用性等によって解釈されます。
簡単に言えば,買主の要望により,個性の強い仕様にした部分の工事が進んでいると,『履行の着手』ありとして手付解除が認められないことになりましょう。
別の見方をすると,他の顧客に売却することが難しい状態になっていれば,手付解除ができなくなる,ということです。
履行の着手の典型的な具体例としては,間仕切り等の事後的に変更することが容易ではない部分の工事が挙げられます。

条文

[民法]
(手付)
第五百五十七条  買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
2(略)

判例・参考情報

(判例1)
[最高裁判所 昭和40年11月24日]
(要旨)
「履行に着手する」=「客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すもの」
「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」=「相手方が履行に着手するまでは」
 →解除しようとする者が履行に着手していても,手付の放棄又は倍返しによって解除することができるという意味。