【不動産売買における調査・説明義務の基本(一般的基準)】

1 不動産売買における調査・説明義務(総論)

不動産は規模の大きな財産の取引といえます。
後から想定していなかったことが発覚して問題となるケースがよくあります。
法律的な責任としては売主や仲介業者の調査や説明の義務に違反があったというものがあります。
本記事では、不動産売買における調査や説明義務の基本的な内容を説明します。
なお、これとは別に、不動産に発覚した欠陥(瑕疵)によって売主に生じる瑕疵担保責任というものもあります。瑕疵担保責任については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|売買・請負の瑕疵担保責任の基本

2 仲介業者の一般的な善管注意義務(概要)

買主からみると、売主は契約の相手方であり、利益が対立する立場です。
この点、買主が依頼した仲介業者は立場が大きく異なります。
買主は、有利・スムーズな取引ができるようにするために料金を支払って頼んでいるのです。仲介業者は、法的には善管注意義務という高度な義務を負います。

仲介業者の一般的な善管注意義務(概要)

あ 善管注意義務

委託の趣旨に則り善良な管理者の注意をもって
売主買主双方の間をあっせん仲介する
※民法644条

い 具体的な配慮義務

『ア・イ』の配慮をする義務がある
ア 売買契約が支障なく履行されるイ 当事者双方がその契約の目的を達する ※東京高裁昭和28年1月30日
詳しくはこちら|仲介契約の基本(元付/客付・準委任の扱い・誠実義務・善管注意義務)

3 売買における仲介業者の一般的な調査・説明義務

不動産の売買契約の中心は『対象物(不動産)を譲渡する』というものです。
解釈上、これに加えて付随的に『安全性について調査する義務』も認められています。

売買における仲介業者の一般的な調査・説明義務

あ 調査・説明義務を負う者

売主・仲介業者
仲介業者は事情によって責任の有無が違う

い 調査のレベル(原則)

ア 予見可能かつ通常の調査で判明する範囲の調査で足りるイ 公的機関による検査の実施の有無についての調査で足りるウ 安全性について独自に調査する必要はない ※大阪地裁平成10年7月29日

う 調査のレベル(例外=高度な調査)

次の事項については『独自の調査』も行う義務がある
例;買主(候補者)の購入目的・趣旨に関わる事項など
※神戸地裁昭和61年9月3日

なお土地売買での地盤に関する調査義務・責任については別に説明しています。
詳しくはこちら|土地売買の後に地盤沈下・軟弱地盤・液状化が発覚・発生した場合の法的責任・判断基準

4 仲介業者が行う調査の範囲

前述のように、仲介業者は、調査をして取引に間違いがないようにすることが使命(の1つ)です。仲介業者が行うべき調査の対象(事項)の範囲は、主に、人と物についての基本的なものです。
それ以外の事項については原則として調査義務の対象とはなりません。ただし、具体的な事情によって調査義務に含まれることもあります。
なお、売主が負う調査義務も基本的に同じように考えられます。

仲介業者が行う調査の範囲

あ 最低限の要請

次の事項については、原則として仲介業者(宅建業者)の調査義務の対象となる
ア 人(取引の当事者) 取引当事者の同一性の調査・確認
当事者の代理人と称する者の代理権の有無の調査・確認
イ 物(取引の対象不動産) 目的物の権利関係、特にそれの上に制限物権等の有無の調査・確認

い 調査義務の対象外

次の事項については、原則として仲介業者(宅建業者)の調査義務の対象とはならない
ア 評価(額) 目的物の代価の妥当性
イ 目的物の物的状況 土地の実測面積、建物の建坪、使用材質、建築後の経過年数など
ウ 隠れた瑕疵(契約不適合)の有無エ 当事者の資力 ※明石三郎『不動産仲介契約の総合的判例研究(6)』/判例評論190号p127

5 売買における売主の説明義務

以上のように、仲介業者はプロとして、買主が、後から想定外のことを気づくということを防ぐために一定の調査をしてそれを買主(候補者)に説明する義務があります。では、売主自身はどうでしょうか。買主への説明などを自分自身でしなくてよいように仲介業者に依頼しているのですから、原則として、売主自身が説明する義務はありません
しかし、買主が売主に直接質問してきた場合には、説明をする義務があります。当然ですが、あらゆることについて質問に回答する義務があるわけではなく、買主候補者が買うかどうかを判断するために必要なこと(判断に影響を及ぼすこと)に限られます。

売買における売主の説明義務

あ 原則→説明義務なし

・・・契約当事者が宅地建物取引業者に仲介を委託する場合、契約当事者の意思としては、重要事項の説明は自らが依頼した宅地建物取引業者が行うものとしてその説明に委ねているということができ、売主本人は原則として買主に対して説明義務を負わないというべきである。

い 例外→説明義務あり

しかし、売主が買主から直接説明することを求められかつ、その事項が購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合には、
売主は、信義則上、当該事項につき事実に反する説明をすることが許されないことはもちろん、説明をしなかったり、買主を誤信させるような説明をすることは許されないというべきであり、当該事項について説明義務を負うと解するのが相当である。
※大阪高判平成16年12月2日

6 高層マンション建設予定に関する調査・説明義務

前述のように、仲介業者や売主の調査・説明義務の範囲は限られており、周辺環境については原則として含まれません。しかし、特別な事情がある場合は調査・説明義務に含まれることもあります。
売買の対象不動産の近くに高層マンションが建設される予定を調査して買主に説明する義務を認めた裁判例もあります。

高層マンション建設予定に関する調査・説明義務

あ 前提事情

次のいずれも該当する場合調査・説明義務が生じる
ア 近隣の環境変化+対象物件の環境悪化が生じる事情が存在するイ 売主に明らかな認識可能性がある

い 認識可能性|内容

次のいずれかに該当するという意味である
ア 環境悪化の事情を知っていたイ 簡単な調査により環境悪化の事情を知り得た

う 環境悪化の例|日照系

近隣に高層マンションが建設される事情が存在した
売買対象のマンションの日照・眺望・通風に悪影響が生じる
※札幌地裁昭和63年6月28日

7 浸水リスクに関する調査・説明義務

売買の対象不動産の環境についての調査・説明義務が認められた別の裁判例を紹介します。これは、浸水リスクがあることを調査して把握し、買主に説明すべきであった、というケースです。

浸水リスクに関する調査・説明義務

あ 基本的事項

一定の重要な事項について
→信義則による説明義務が生じる
場所的・環境的要因による土地の性状も対象となる
例=建物の浸水リスク
詳しくはこちら|建物・マンション売買における水害・浸水リスクの責任

い 説明義務|知っていた場合

重要な事項を具体的に認識していた場合
→説明義務が生じる

う 説明義務|知らなかった場合

次のすべてに該当する場合に説明義務が生じる
ア 法令上の義務または業界の慣行がある 重大な事態の発生可能性を説明する法的義務または慣行
イ 情報入手の容易性 情報を入手することが現実的に可能である
※東京高裁平成15年9月25日

売主や仲介業者の知っている事情によって説明義務の有無が違うのです。

8 売買の対象不動産の評価額の調査義務(概要)

前述のように、仲介業者が負う調査義務の中に不動産の評価(額)は含まれません。一方、宅建業者が提案した売出価格について、依頼者が評価の根拠の説明を求めた場合、宅建業者は説明する義務があります。依頼者が要求しなくても評価額について調査をして説明する義務が認められることもあります。このことについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|宅建業者の不動産評価額(評価根拠)の調査・説明義務

9 調査・説明義務違反による責任

不動産売買で調査・説明義務があるのに不十分だった場合の責任をまとめます。

調査・説明義務違反による責任

あ 法的根拠

債務不履行責任

い 責任の内容

ア 損害賠償責任 調査義務や説明義務の違反によって生じた損害について賠償責任が生じる
イ 契約解除 程度・事情によって解除が認められることもある
※民法415条、541条
※札幌地裁昭和63年6月28日
ウ 報酬請求権の否定 宅建業者の報酬請求が権利の濫用として否定されることもある
東京地判平成元年3月29日

10 周辺環境についての調査・説明義務の実例(概要)

不動産の購入後に周辺環境について想定と違うことに気付くケースは多いです。
このようなトラブルについて、実際に裁判所が判断をした判例が蓄積されています。
いくつかの判例について、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|セールストーク×法的責任|環境保証タイプ|眺望・日照・通風・騒音
詳しくはこちら|土地売買における境界未確定と売主・仲介業者の調査・説明義務違反
詳しくはこちら|建物・マンション売買における水害・浸水リスクの責任

本記事では、不動産の取引における調査義務や説明義務の基本的なことを説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産の取引に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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