1 私立大学運営の問題点|財政改善の必要性・大学の自治
2 私立大学|収支の内容
3 私立大学運営の将来に向けた改善方法
4 私立大学|高等教育の無償化
5 資金調達ルートの拡張
6 収益事業|一般的な収益事業の規制
7 収益事業|資金運用に関する問題
8 借入金収入|デットファイナンスの活用
9 『擬似』マーケット|医科系・法科大学院

1 私立大学運営の問題点|財政改善の必要性・大学の自治

(1)私立大学運営の問題点

私立大学の運営については,多くの問題点が指摘されています。
整理してまとめました。

<私立大学運営の問題点>

あ 補助金への常習性・依存性

ア 従来の状態
『官製経済』のなかで生かされてきた
現在でも、補助金を通じた私大に対する政府規制は過重である
イ 問題点
・大学の独立性・自治が害されている
・国家財政状況の悪化
ウ 解決策=独立性を確立する方策
一般の『市場経済』に果敢に挑戦し,自律した生き方を実現する
資金調達ルートの拡張

い 学生納入金の減少

ア 現状
『学生納入金』割合が大きい
イ 社会的状況変化・要請
・入学者人口の減少
・大学間競争の激化
・高等教育の『漸進的無償化』
政府としては留保を撤回する方針
※国際人権規約A規約13条2項

う 学生への『寄附金』強要傾向

(2)大学の自治は憲法公認|東大ポポロ事件

『大学の独立・自治』というのは憲法でも認められている重要な根本的な原理です。

<憲法における『大学の自治』>

『学問の自由』の一環として『大学の自治』も認められる
※憲法27条
※最高裁昭和38年5月22日;東大ポポロ事件
(『ポポロン事件』という誤解が多いので注意)

一方『大学の自治』という主張には注意も必要,という指摘があります。

<『大学の自治』×揶揄(格言)>

不祥事を起こす大学ほど,大学の自治とか言い張る

2 私立大学|収支の内容

上記で指摘した問題点に関しては,収支の実情を見るとより把握しやすいです。

<私立大学の収支の内訳|平成25年度>

あ 収入
費目 金額・億円
学生納入金 13249 51.9%
手数料 633 2.5%
寄付金 726 2.8%
補助金 2488 9.7%
資産運用収入 441 1.7%
資産売却差額 107 0.4%
事業収入 7250 28.4%
雑収入 649 2.5%
い 消費支出
費目 金額・億円
人件費 12722 49.8%
教育研究経費 9502 37.2%
管理経費 1514 5.9%
借入金等利息 62 0.2%
その他支出 234 0.9%

※日本私立大学連盟『加盟大学財務状況の推移(平成5年度〜平成24年度)』

<補足;『補助金』『学生納付金』>

あ 補助金

私立大学が受け取る公的資金
例;運営費交付金・私学助成金など

い 学生納付金

ア 授業料
イ 入学料
ウ 検定料

なお,比較・参考として,国立大学の収支などは別の記事にまとめています。
詳しくはこちら|国立大学の意義・法人化したが独立採算ではない

3 私立大学運営の将来に向けた改善方法

上記の『私立大学運営の問題点』を解消する方法・方向性についてまとめます。

<私立大学の問題点の解消方法>

あ 補助金への常習性・依存性

解決策=独立性を確立する方策
一般の『市場経済』に果敢に挑戦し,自律した生き方を実現する
資金調達ルートの拡張

い 学生納入金の減少

解決策=事業収入などのアップ→無償化

う 学生への『寄附金』強要傾向

『寄附金』受領の適正化の徹底

<今後の方向性の概要>

補助金 減る方向
学生納入金 減る(ゼロ)方向
事業収入 増やす方向
ファイナンス(融資) (必要に応じて)増やす方向

ここでよく登場する『補助金』については,憲法上の問題があります。
これも含めて『補助金制度』の全体的な説明は別記事にて行っています。
詳しくはこちら|私立大学の補助金|合憲性|公的規制・監督は過剰/納税者の監督は不十分

次に『い(高等教育の無償化)』と『あ(資金調達ルート拡張)』の順で説明を続けます。

4 私立大学|高等教育の無償化

『大学』の学費については,国際人権規約で『無償化』が要請されています。

<国際人権規約|A規約|13条2項>

この規約の締約国は,『1』の権利の完全な実現を達成するため,次のことを認める。
(c)高等教育は,すべての適当な方法により,特に,無償教育の漸進的な導入により,能力に応じ,すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。

実際には,一斉に『全面無償化』を行うことは非現実的です。
徐々に『無償化』を進める,という政策が取られるはずです。
成績・収入などの基準で一定の学生を対象とした無償・優遇措置を取る,ということが考えられます。
この方法もまた問題点を抱えています。

<優遇措置の問題点>

一部学生を対象とした優遇措置
法人運営陣による健全かつ合理的な経営判断(sound business judgment rule)から逸脱するリスクがある
基準=全体の学生の納入金の適正な使途・負担の公平

この点『教育バウチャー制度』による『実質的な無償化』という方法もあります。
これは,大学運営をマーケットメカニズムによって最適化する,という有用な機能を発揮します。
詳しくはこちら|私立大学運営に『ユーザー=学生』が参加|教育バウチャー制度vs既得勢力

5 資金調達ルートの拡張

私立大学運営の改善方策として『資金調達ルートの拡張』があります(前述)。
まず,その内容を大きく分類します。

<資金調達ルートの拡張の候補>

あ 収益事業収入

金融収益/財テク収益含む

い 借入金収入

ア 学校債発行を含むデットファイナンス/借入金融
イ その他産業界からの委託費や奨励金など(外部資金)

それぞれについては,次に説明します。

6 収益事業|一般的な収益事業の規制

『大学が収益事業を行う』ということについては法的規制があります。

<学校法人の収益事業に対する規制>

あ 収益事業の範囲

ア 本来の学校事業を超えるような事業はできない
イ 事業収益は,本来の学校事業の運営に充てる
※私立学校法26条1項

い 収益に対する課税

ア みなし寄附金
所得のうち最大50%を,本来の学校事業に無税で組み入れることができる
イ 優遇税率
残りの所得には普通法人(株式会社)よりも低い法人税率で課税される
※法人税法37条5校,法人税法施行令73条1項3号ロ

具体的に,大学が『できる』『できない』事業について整理します。

<学校法人が『できない』収益事業>

ア 経営が投機的に行われるもの
イ いわゆる風俗営業に該当するような方法で経営されるもの
ウ その規模が当該学校法人の設置する学校の状態に照らして不適当なもの
エ 学校法人以外の者に対する名義の貸与その他不当な方法によって経営されるもの
オ 当該学校法人の設置する学校の教育に支障のあるもの
カ その他学校法人としてふさわしくない方法によって経営されるもの

<学校法人が『できる』収益事業>

ア 農業・林業
イ 漁業
ウ 鉱業・採石業・砂利採取業
エ 建設業
オ 製造業(『武器製造業』を除く)
カ 電気・ガス・熱供給・水道業
キ 情報通信業
ク 運輸業・郵便業
ケ 卸売業・小売業
コ 保険業(『保険媒介代理業』『保険サービス業』に限る)
サ 不動産業(『建物売買業・土地売買業』を除く)・物品賃貸業
シ 学術研究・専門・技術サービス業
ス 宿泊業・飲食サービス業(『料亭』・『バー・キャバレー』等を除く)
セ 生活関連サービス業・娯楽業(『遊戯場』を除く)
ソ 教育・学習支援業
タ 医療・福祉
チ 複合サービス事業
ツ サービス業(他に分類されないもの)
※私立学校法26条
※文部科学大臣の所轄に属する学校法人の行うことのできる収益事業の種類を定める件;平成20年8月20日文部科学省告示第141号

例えば,18歳以上の学生であれば,一定の『ソフト性的サービス』は適法となります。
詳しくはこちら|ソフト性的サービスと労働基準法の抵触
しかし『学校自体が主催する』ことは違法になってしまうのです。
関連コンテンツ|『女性の美貌』の経済的価値|判例における逸失利益の算定

7 収益事業|資金運用に関する問題

(1)学校の資金運用における『事故』

収益事業の中には『資金・資産運用』というカテゴリもあります。
この点『大学が資金運用を行った』ことについては,有名になってしまったケースがありました。

<学校の資金運用の『事故』>

あ 資金運用の『事故』

財テク運用の失敗→巨額損失の責任の所在が問われた

い 実例
大学 リスキー取引 損失額
駒沢大学 デリバティブ・金利スワップ・通貨スワップ 約200億円
南山大学 デリバティブ取引 約160億円

(2)学校の資金運用のリスク

この例からも分かるように,リターンと比例してリスクも存在するのです。

<学校の資金運用のリスク>

あ 市場リスク

マーケットの動きによる(純粋な)損失リスク

い ブローカーリスク

仲介・運用手数料目当ての業者にカモられるリスク

(3)学校の資金運用に関する公的介入

学校の資金運用に関して,世論に押されて政府も『警鐘』を発しています。

<学校の資金運用に対する公的警鐘>

あ 文科省通知の内容

平成21年1月6日『学校法人における資産運用について(通知)』
『公教育を担う学校法人の資産運用については,その安全性の確保に十分留意し,必要な規程等の整備を行い,学校法人としての責任ある意思決定を行うとともに,執行管理についても規程等に基づいて適正に行うなど,統制環境の確立に努める必要がある』

い 文科省通知の問題点

財政への指導強化(政府規制強化論)は,“私大財務の自律”を損ねるリスクがある

8 借入金収入|デットファイナンスの活用

私立大学の収入の多様化の1つとして『借入金』が挙げられます。
当然,返還義務を伴う『収入』です。
暫定的・流動的な資金調達,という位置付けです。
借入金のバラエティとその規制についてまとめます。

<デットファイナンス;借入金の種類と規制>

あ 資金貸付業務を行う期間

ア 民間金融機関
イ 官製市場
例;日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)
※私学事業団法23条1項2号

い 学校債

ア 法的な種類

法的な種類 金融商品取引法
『有価証券』扱い 2条1項
『みなし有価証券』扱い 2条2項

イ 規制(義務)
一定の情報の管理
投資家が500人以上+金額1億円以上→『開示義務』
※有価証券発行学校法人の財務諸表の用語,様式及び作成方法に関する規則(文部省令)

<学校債|平成19年時点の実績>

学校債の種類 発行する学校数
『みなし有価証券』としての学校債 26(全学校法人=7884)
開示義務のある学校債 ゼロ

9 『擬似』マーケット|医科系・法科大学院

『収益事業』については,書籍・グッズの販売など広い範囲に渡ります。
この点『事業』の中には特殊なマーケットに位置するものがあります。
また『学生納入金』というメイン収入自体が『特殊なマーケット』の中にある,というものもあります。
2つを紹介しておきます。

(1)医科系|事業収入が『擬似マーケット』にある

医科系の私立大学の『事業収入』は非常に特殊です。
『大学病院』は,大学の本体と『外部顧客へのサービス販売』が融合しています。
また『外部顧客へのサービス販売』の規模が桁違いに大きいのです。
詳しくはこちら|医科系私立大学の事業収入の特殊性・擬似市場経済の錯覚と依存

(2)法科大学院の現状|学生納入金が『擬似マーケット』にある

司法制度改革の一環として,法曹になる過程で『法科大学院』が制度化されています。
当初の目的が現実と乖離しており,単なる利権争奪戦,という様相を露出している状態です。
背景はともかく,現在の現象をまとめます。

<近年の法科大学院の状況>

『授業料の減免競争』が熾烈になっている
官製の疑似市場経済の中で『政策』に翻弄されている
※石村耕治『規制緩和時代の私立大学運営と税財政法務』p536