1 『女性の収入』『美貌価値』は時代による変化が激しい
2 女性の収入のまとめ|『美貌算定期間』と『基底状態』の変遷
3 『美貌算定期間』『収入基底状態』の時代変化の理由(仮説)
4 美貌算定期間は35歳まで+36歳以降は収入なし|昭和41年高知地裁
5 美貌算定期間は38歳まで+39歳以降は女子平均年収に下がる|昭和52年新潟地裁
6 美貌算定期間は35歳まで+36歳以降は女子平均年収に下がる|平成21年名古屋地裁

<注意>

※当テーマは法解釈の検討を中立的に行うものです。『美貌の金銭換算』とはショッキングですが,裁判所の使命として,『金銭への換算』を避けられないのです(民法417条,722条;金銭賠償の原則)。
※離婚時の『夫婦共有財産』or『特有財産』という解釈でも似ている考察が登場します。
※現在社会では,『美貌』とは関係なく,女性の社会進出が当然となっています。社会制度,法整備によってこれを促進すべきだと考えます。
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1 『女性の収入』『美貌価値』は時代による変化が激しい

女性の美貌は,一定のビジネスの基本リソースとなっています。
特に明確なものの典型例の1つは『ホステス業』です。
裁判所が『女性の美貌』の価値・存続期間を公的に判決として判断する,という現象があります。
『女性の美貌』が事故により損なわれたり,女性が死亡に至った事案で『損害賠償の算定』として表面化するのです。
法的には『逸失利益』と言います。
つまり,『将来得ることが可能であった収益(力)』を算定する,というものです。

<女性の収入(逸失利益)算定メカニズム>

あ 美貌の価値

『ホステス業での収益が何歳まで続くはずか』

い 一般的稼働能力

一般的な職種に就き,収入を得ることができるか

このいずれも,時代によって『評価』に変化がみられます。
現在考えると『男女差別』とも思えるような状況です。
いずれにしても裁判所が『評価』を科学的に行う努力・苦心した跡がうかがわれます。
複数の判例を分析すると,一定の『法則』が帰納的に仮定できます。
『科学的』な分析手法の検証として,複数の判例について説明します。

2 女性の収入のまとめ|『美貌算定期間』と『基底状態』の変遷

(1)『美貌算定期間』と『基底状態』の時代変化のまとめ

『美貌の価値』を含めた,女性の収入を算定した判例はいくつかあります。
最初に,それらをまとめたものを示します。

<女性の収入の時代変化のまとめ|仮説>

時代 美貌算定期間(上限年齢) 収入基底状態 判例
昭和50年代より前 35歳 ゼロ 後記『4』
昭和50年代 38歳 女子平均年収 後記『5』
昭和50年代より後 35歳 女子平均年収 後記『6』

『収入基底状態』とは,『美貌』とは関係ない稼働能力のことです。
以上は,ちょっと無理矢理に帰納的に法則化した仮説です。
さらに,時代変化の理由として考えられるものをまとめます。

3 『美貌算定期間』『収入基底状態』の時代変化の理由(仮説)

(1)『美貌算定期間』の変化の理由

<『美貌算定期間』の時代変化の理由|仮説>

あ 昭和50年代に『美貌算定期間』が一時的に延長(38歳)

化粧品の進化→商品化

い その後『美貌算定期間』が戻った(35歳)

『化粧(品)』のコモディティ化
素人とプロの『差』=競争力,がなくなった(マーケットメカニズム)

なお,具体的な案件・当事者によって個別的な『美貌』評価の反映に過ぎない(法則自体に変化はない)という説もあるようです。

(2)『基底状態』の変化の理由

昭和50年代頃から,女性についても『稼働能力』が前提とされるようになりました。
これは単純に,『昔は女性が働くことが想定されていなかった=専業主婦』という社会的な動向の反映です。
今は驚くようなことですが,判例でもハッキリと述べているものがあります(下記)。

<『女性が働くことは想定外』判決>

『近時結婚前の女性が就職する事例が,以前より増加しつつある傾向は否定できないけれども,これが結婚前の女性の大部分の通例といえるかどうかは疑問であり,前記控訴本人の供述によって窺われる家庭状況よりすれば,いわゆる花嫁修業の途を選ぶことも十分予想されるのであって,就職の蓋然性は肯定できないものといわねばらなない。』
大阪高裁昭和40年10月26日;下民集16巻10号p1636

要するに昭和50年代ころに,女性の社会進出が展開した,ということです。
ちなみに,女性の社会進出が広く普及した後,『雇用における男女差別』が問題になりました。
それに対応して,昭和60年に『男女雇用機会均等法』が制定されています(翌年施行)。
余談ですが,平成26年には,最高裁が『産休・育休取得』後の差別的扱いについて『違法』という判断を下しました。
『公平』『平等』の確保・維持は望ましいものです。
ただし,公的な介入とマーケットの選択とのバランス,という難しい問題もあります。

次に『美貌算定期間』に関して判断した判例を説明します。

4 美貌算定期間は35歳まで+36歳以降は収入なし|昭和41年高知地裁

<『美貌算定期間』判例事案概要|昭和41年高知地裁>

あ 事案概要

『キャバレーホステス』の殺害事案

い 逸失利益算定の前提

ア 35歳まではホステスの収入が継続する
イ 36歳以降の収入はゼロ

う 判決の言葉(引用)

『妙齢の頃から引き続きホステスとして勤務すると,容貌,客扱いなどホステスとしての条件が整っている限り,最高35歳頃まで在籍できる。被害者は,同キャバレー内で10人並の容貌の持主であり,客扱いもよかったので,24.7年より35年まで,10年5か月間右程度の収益をあげることは可能と認める。
(なお,36歳以後の同女の得べかりし収益を合理的に算定しうべき証拠はない)。』
※高知地裁昭和41年4月14日

なお,時代の違いを理解するために,収支算定の中身も示しておきます。

<逸失利益算定の詳細>

あ 収入の部

ア 平均基本給 1日1200円
 指名料1回500円;1晩5回以上の人気ホステスも多い
イ 1か月の平均出勤日数26日

1か月平均収入4万円以上

い 支出の部(経費)

ア レンタル衣装1200円
イ 化粧品代2000円
ウ 美容代3000円
エ 生活費(大阪市内)
・食費1万円
・賃料(6畳キッチン付き)7000円
・交通費1800円

合計2万5000円

う 年間利益

1万5000円

5 美貌算定期間は38歳まで+39歳以降は女子平均年収に下がる|昭和52年新潟地裁

<『美貌算定期間』判例事案概要|昭和52年新潟地裁>

あ 事案概要

27歳のクラブホステス(既婚)が事故により,後遺症を生じた

い 逸失利益算定の前提

ア 38歳まではホステスの収入が継続する
イ 39歳〜63歳の収入は女子平均年収となる
小学・新中卒女子労働者平均年間給与94万円
当時の平均寿命から判断した稼働上限年齢63歳(現在は67歳)

う 算定の補足

後遺障害による労働能力喪失割合を60%として算定
※新潟地裁昭和52年4月13日;交民10・2p544

6 美貌算定期間は35歳まで+36歳以降は女子平均年収に下がる|平成21年名古屋地裁

<『美貌算定期間』判例事案概要|平成21年名古屋地裁>

あ 事案概要

20歳ホステスが事故により,顔面の醜状が遺った(後遺障害等級7級)

い 逸失利益算定の前提

ア 35歳まではホステスの収入が継続する
→労働能力喪失割合56%
イ 36歳〜67歳の収入は女子平均年収となる
→労働能力喪失割合25%

う 判決の言葉(引用)

『ホステスという職業は,容貌が非常に重要な意味を持つから,被害者が上記のとおりの顔面醜状痕を負った以上,ホステスの職業を継続することは客観的にも困難であると解される。そして,前記のとおり,被害者が本件事故まで1年以上継続してホステスとして稼働しており,その後もホステスの職業を継続していく意向であったこと,本件事故による受傷がなくても被害者が早期にホステスを辞めたであろうと推認し得る具体的な事情は認められないこと等からすると,少なくとも35歳まではホステスとして稼働し,本件事故当時と同程度の収入を得ることができたと解するのが相当である』
『顔面醜状痕の存在によって,女性である被害者の選択し得る職業が制限されたり,被害者の就労意欲等に影響を与えたりする可能性がある』
※名古屋地裁平成21年8月28日;自保ジャーナル1814号