【借地権譲渡の承諾料の相場(借地権価格×10%)と借地権価格の評価法】

1 借地権譲渡の承諾料の相場(総論)
2 借地権譲渡には地主の承諾を要する(前提)
3 借地権譲渡の承諾料の意味とネーミング
4 借地権譲渡の承諾料の相場(借地権価格×10%)
5 借地権価格の評価・算定方法
6 例外的な借地権価格の評価額

1 借地権譲渡の承諾料の相場(総論)

借地権の譲渡の際には地主の承諾が必要です。
地主が承諾するのと引き換えに,承諾料の支払が行われるのが一般的です。
一般的には,借地権の売却の承諾料とか名義書換料・名義変更料などと呼ばれることもありますが同じ意味です。
また,地主の承諾に代わって裁判所が許可する手続もあります。
裁判所が許可する際には,財産上の給付を命じます。
要するに承諾料と同じ趣旨のものです。
借地権譲渡の交渉でも裁判でも承諾料の相場があります。
本記事では承諾料の相場について説明します。

2 借地権譲渡には地主の承諾を要する(前提)

承諾料の支払が行われる構造的な背景は地主の承諾が必要ということにあります。

<借地権譲渡には地主の承諾を要する(前提)>

あ 前提

借地上の建物を譲渡すると『借地権』も移転する
→地主の承諾が必要である
詳しくはこちら|借地上の建物の譲渡は借地権譲渡に該当する

い 無断譲渡による解除

無断譲渡をすると解除される
※民法612条
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸と賃貸人の承諾と無断譲渡・転貸に対する解除

3 借地権譲渡の承諾料の意味とネーミング

借地権譲渡の承諾料は地主が与える承諾の対価という性質があります。
また名義書換料,名義変更料などと呼ぶこともあります。

<借地権譲渡の承諾料の意味とネーミング>

あ 承諾料の実質的な意味

借地権の譲渡において
一般的に地主の承諾の対価の支払が行われる

い 承諾料の法的性質

『譲渡承諾料』は,法律上の『義務・請求権』という位置付けではない
経済的な『承諾の対価・条件』という位置付けである

う 承諾料のネーミング

次のように呼ばれている
『譲渡承諾料』
『名義書換料』
『名義変更料』

4 借地権譲渡の承諾料の相場(借地権価格×10%)

借地権譲渡の承諾料は,標準的なケースでは借地権価格の10%が相場です。
譲受人(新たな借地人)が,将来相続で承継する予定の者である場合は3%程度まで下がります。

<借地権譲渡の承諾料の相場(借地権価格×10%)>

あ 通常の承諾料の相場

借地権価格×10%
※東京地裁借地非訟部(民事22部)の運用
※東京地裁昭和44年2月12日など
※稻本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第3版』日本評論社p142

い 推定相続人への譲渡

譲受人が借地人の推定相続人の場合
例;配偶者・子
→将来『承諾料ゼロ』で承継される者である
詳しくはこちら|借地人の相続は『借地権譲渡』ではないので『名義書換料』は不要
→譲渡の承諾料は通常より低くなる
→借地権価格×3%程度
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p256

5 借地権価格の評価・算定方法

承諾料を算定する際に借地権価格が使われます(前記)。
『借地権価格』にはいろいろなものがあります。
詳しくはこちら|借地の明渡料の相場|訴訟と交渉の違い|借地権価格・正当事由充足割合
借地権譲渡に伴う承諾料の算定では,実勢価格が元になります。
実際の算定(評価)では裁判所の鑑定委員会や不動産鑑定士が関与することが多いです。

<借地権価格の評価・算定方法(※1)

あ 基本

借地権価格の算定について
→一般的には『実勢価格』(『い』)を用いる

い 実勢価格の具体化

一般的には客観的な評価額を用いる

う 客観的な評価額の具体例

ア 鑑定委員会による評価 借地権譲渡許可の裁判において
鑑定委員会が意見を出す制度がある
詳しくはこちら|借地非訟の裁判における鑑定委員会とその意見
※東京地裁昭和44年2月12日
イ 鑑定結果 裁判所の鑑定手続による調査(評価)
私的に不動産鑑定士に依頼する(私的鑑定)もある

なお,現実的な借地権の売買では公的な借地権割合とはかけ離れた相場ができています。
詳しくはこちら|借地権・底地の『第三者』への売却|代金相場|路線価の借地権割合は使わない
借地権譲渡の承諾料の算定では,ここまで低い金額が使われることは通常ありません。

6 例外的な借地権価格の評価額

借地権価格についてしっかりした評価・算定を行うと,ある程度のコスト・時間がかかります。
そこで,実務では簡略化した方法を用いることもあります。

<例外的な借地権価格の評価額>

あ 例外的な算定方法(基本)

当事者に異議がない場合
→前記※1以外の評価額(算定方法)を用いることもある
『い・う』のようなものがある
ただし,あくまでも例外である
当事者の意向が揃わない場合は原則どおりとする
=客観的な評価額(前記※1)を用いる

い 個別的売買金額

当該借地権売買契約の代金額が明確になっている場合
→これを用いることもある

う 更地の公的評価額と借地権割合を用いる方法

便宜的に『ア・イ』のような公的な更地評価額に借地権割合を乗じる
ア 公示価格イ 路線価による算定額=相続税評価額 これらは実勢価格との乖離が大きい傾向がある
→用いるとしても調整という位置付けに過ぎない

これらはあくまでも例外的なものです。理論的な面で不備もあります。
例えば個別的売買代金は,文字どおり個別的な売買当事者の事情が反映されています。客観的な借地の事情以外の事情の影響を含んでいるのです。
もっと言えば,売買当事者の馴れ合いで恣意的に金額を設定することも可能です。いずれにしても当事者が納得していない限りは利用(採用)すべきものではないのです。

本記事では,借地権譲渡の承諾料の相場について説明しました。
実際には,多くの個別的事情によって具体的な承諾料の金額が判断されるので,相場とは違う結論となることもあります。
実際に承諾料の問題に直面されている方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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