1 平成12年3月1日以前の居住用建物の普通借家は定期借家への切替ができない
2 平成11年改正附則3条の条文
3 普通借家から定期借家への切り替えの可否
4 居住用建物の意味(解釈)
5 「当分の間」の意味
6 切替禁止に違反する合意の効果
7 期限付合意解除の活用(参考)
8 切替可能なケースにおける切替の方法

1 平成12年3月1日以前の居住用建物の普通借家は定期借家への切替ができない

平成11年の借地借家法改正で,定期借家の方式が誕生し,平成12年3月から施行されました。定期借家は,法定更新がないので,賃貸人(オーナー)の立場としては,期間満了の時に確実に戻ってくるという大きなメリットがあります。
詳しくはこちら|定期借家の基本(更新なし=期間満了で確実に終了する)
そこで,既存の普通借家契約を,新しくできた定期借家に切り替えよう,という発想があります。しかし,既存の借家契約を定期借家に切り替えることは制限されています。
本記事では,普通借家から定期借家への切替禁止のルールについて説明します。

2 平成11年改正附則3条の条文

定期借家への切替禁止のルールは,定期借家が誕生した平成11年の改正の附則として作られました。最初に条文を確認しておきます。
改正法の施行,つまり平成12年3月1日よりも前に締結されていた契約が対象です。さらに,居住用建物の賃貸借が対象となっています。
禁止される行為は,従前の賃貸借契約を合意によって終了させて,引き続き賃貸借契約を締結するという流れの手法です。
条文上は「禁止」とは記述されているわけではなく,「借地借家法38条を適用しない」と記述されています。38条は(法定)更新がないというルール(定期借家)なので,要するに,定期借家に切り替わらない,ということになります。

平成11年改正附則3条の条文

第五条の規定の施行前にされた居住の用に供する建物の賃貸借(旧法第三十八条第一項の規定による賃貸借を除く。)の当事者が,その賃貸借を合意により終了させ,引き続き新たに同一の建物を目的とする賃貸借をする場合には,当分の間,第五条の規定による改正後の借地借家法第三十八条の規定は,適用しない
※借地借家法平成11年改正附則3条

3 普通借家から定期借家への切り替えの可否

条文の文言は少し把握しにくいので整理します。
普通借家から定期借家への切替が禁止されるのは,平成12年3月1日より前に開始した契約であり,かつ,居住用建物,に当てはまる契約だけです。
たとえば,平成11年6月から始まって,平成13年6月に更新された契約の場合は,契約開始日(契約締結日)は平成11年6月になります。更新の契約日(契約書調印日)ではありません。そこで(居住用建物であれば)定期借家への切替禁止が適用されます。
また,従前の契約を合意解除で終わらせるのではなく,期間満了で終わらせれば,切替禁止のルールが適用されないという発想もあるかもしれません。しかし,この場合も,法定更新をしないという意味では,当事者が合意しているので,(合意解除と同じように)切替禁止ルールは適用されます。

普通借家から定期借家への切り替えの可否

あ 居住用建物
契約開始時点(締結日) 定期借家への切換の可否
平成12年3月1日以前
平成12年3月1日以降
い 事業用建物

普通借家から定期借家への切り替えは可能

4 居住用建物の意味(解釈)

前述のように,定期借家への切替禁止ルールの対象は,居住用建物です。店舗などの事業用建物は対象外です。
では,店舗と住居の兼用の建物はどうなるのでしょうか。条文の文言をみると,「住居の用に供する」とだけ書いてあります。「もっぱら住居の用に供する」(住居専用)とは書いてありません。そこで,兼用(一部だけ住居)もこれに該当するといえます。結局,店舗兼住居でも,切替禁止ルールが適用されるということになります。

居住用建物の意味(解釈)

あ 解釈

居住の用に供する建物とは,38条5項と同様に,もっぱら事業の用に供する建物以外の建物をいう。
したがって,居住と事業と両方の用途に供される建物,いわゆる店舗併用住宅などは居住の用に供する建物に含まれる
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p405

い 借地借家法38条5項の解釈(参考)

借地借家法38条5項にも「居住の用に供する建物」という文言が出てくる
店舗兼住宅もこれに含まれると解釈されている
詳しくはこちら|定期借家における賃借人からの法定中途解約権

5 「当分の間」の意味

定期借家への切替禁止の規定には,「当分の間」のルールであると記述されています。この言葉が使われるのは通常,改正に伴う経過措置として,一定の年数だけ使われるという場合です。つまり,一定年数が経過したら撤廃する予定,ということです。
しかし,このルールについては,現在(2022年=施行(平成12年)から22年経過)でも,廃止(撤廃)されていません。結局,現時点でも切替禁止ルールは生きているのです。次の法改正までは切替禁止ルールは廃止されないと思われます。
ただし実務では,20年以上賃貸物件に居住しているというケースがほとんどなくなっています。切替禁止ルールの対象となるケース自体がレアになっています。逆に,これに該当するケースでは,切替禁止ルールのことを見落としてしまうミスが発生しやすいともいえます。

「当分の間」の意味

あ 前提

平成11年改正附則3条では,普通借家から定期借家への切替禁止のルールは「当分の間」適用すると規定している(前記)

い 解釈

筆者は,本書第2版において,「しかし,4年後の政治情勢は予測がつかないので,4年と言い切ってよいかは,疑問である」と述べたが,すでに18年が経過しても見直しはなされていない。
「当分の間」とは次の改正がなされるまでということを意味するものでしかないこととなったと解すべきである。
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p406

6 切替禁止に違反する合意の効果

定期借家への切替禁止ルールが適用されるのに,切り替えてしまった場合にはどうなるでしょうか。附則の条文には,借地借家法38条を適用しないということが定められています。38条は「(法定)更新がない」という内容なので,結局,「更新がある」契約となります。つまり,定期借家にはならずに,従前どおり普通借家のまま,という結果になります。更新廃除特約が無効になるという言い方をすることもあります。

切替禁止に違反する合意の効果

・・・平成12年3月1日前に成立した建物賃貸借契約を消滅させて,同一建物について新たに38条による定期建物賃貸借の特約をしても,定期建物賃貸借契約は,成立しない。
すなわち,新たにした賃貸借契約全体が無効になるのではなく,「更新がない」とする特約部分およびそれに伴う賃料改定特約部分が無効となるのである。
したがって,新たになされた建物賃貸借契約は,正当事由制度の適用のある期間の定めのある普通建物賃貸借契約としての効力が認められることになる。
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p406

7 期限付合意解除の活用(参考)

定期借家への切替禁止ルールが適用されるケースでも,将来の一定時期に確実に(賃借人に)退去してもらうことを実現する(合意の)方法があります。それは,たとえば「1年後に解除する合意」の方式です。やり方によっては無効となってしまうので,しっかり準備して条項を工夫する必要があります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物賃貸借における期限付合意解除(合意解除+明渡猶予)の有効性

8 切替可能なケースにおける切替の方法

現在ではほとんどの借家契約は平成12年3月以降に開始したものですので,定期借家への切替禁止ルールは適用されません。事業用の建物の賃貸借(借家)であればいつ開始したものでも切替可能です。
普通借家から定期借家に切り替えが可能なケースで,賃貸人・賃借人が切替に合意した場合には,まず,従前の普通借家契約(賃貸借契約)について,合意解除します。その上で(合意解除とセットで),新たな定期借家契約を締結します。
定期借家契約には,細かいルールが決まっています。契約書自体を書面にすることは意識しなくても通常やるでしょうけど,それ以外に,締結前に説明する書面を交付するなどのルールがあるのです。このような細かいルールをすべてクリアしないと定期借家としては無効となります(つまり普通借家となってしまいます)。
詳しくはこちら|定期借家の基本(更新なし=期間満了で確実に終了する)
せっかく定期に切り替えたと思っても切り替わったことにならない,という実例もみかけます。しっかりと切替の手続を行う必要があります。

本記事では,普通借家から定期借家への切替禁止のルールについて説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に,借家契約(建物賃貸借)の契約書の効力や明渡に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。