1 全面的価格賠償と現物分割の優先順序
2 奈良次郎氏による判例の読み方・現物分割優先方向
3 奈良次郎氏見解・現物分割不能必要方向
4 河邉義典氏見解・現物分割不能不要
5 直井義典氏見解・相当性の中に現物分割の可能性を含める
6 現物分割の不合理性を全面的価格賠償の判断要素とした裁判例(概要)
7 奈良次郎氏見解・現物分割の希望の考慮を否定
8 河邉義典氏見解・現物分割の希望の考慮を否定
9 令和3年改正による分割類型に関する条文規定の変化

1 全面的価格賠償と現物分割の優先順序

共有物分割の主な分割類型は3つあり,選択の優先順序(選択基準)はありますが,確実に,一般的にあてはまるものではありません。
詳しくはこちら|共有物分割の分割類型の選択基準(優先順序)の全体像
分割類型の優先順序のうち,全面的価格賠償と現物分割の関係(優劣)については,いろいろな見解があります。他の分割類型同士の優劣よりも複雑です。
本記事では,これについて説明します。

2 奈良次郎氏による判例の読み方・現物分割優先方向

分割類型の選択について判断した判例は多くありますが,分割類型の優先順序を明確に読み取ることはできません。いろいろな読み取り方があるのです。
これに関して,奈良氏は,全面的価格賠償よりも現物分割が優先であるという読み取り方を指摘しています。

<奈良次郎氏による判例の読み方・現物分割優先方向>

あ 現物分割を優先するという読み取り

ただ,平成8年10月31日・1380号では,その理由付けの中で「共有物分割の申立てを受けた裁判所としては,現物分割するに当たって,持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ,過不足の調整をすることができる」(最大判昭和六二年四月二二日民集四一巻三号四〇八頁参照)「のみならず,当該共有物の性質及び形状,共有関係の発生原因,共有者の数及び持分の割合,共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値,分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し,当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ,かつ,その価格が適正に評価され,当該共有物を取得する者に支払能力があって,他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは,共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし,これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法,すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきである。」
とし,かつ,引き続き,
「全面的価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情が存するか否かをみるに,本件不動産は,現物分割がすることが不可能である」こと等を判示していること等に鑑みると,この判例の趣旨は,少なくとも,いわゆる現物分割それ自体と同一的な位置付けをしたものと認めることは困難なように考えられ,いわゆる現物分割が不能ないし極めて困難なときに認められるべき,一種の次段階の分割方法であると理解すべきものである。
その意味では,民法二五八条二項に定める本来のいわゆる現物分割自体よりは後順位に位置づけられている。

い 換価分割を劣後とする指摘

しかし,同時に,最判平成8年10月31日・677号は,「全面的価格賠償方法による共有物を分割することの許される特段の事情の存」否について審理判断することなく,競売による分割をすべきものした原判決には,民法二五八条の解釈適用の誤り」があると判示していることが注意されなければならない点ではある。

う 全体の順位

これらの裁判例の文言及び審理の態度並びに分割方式の性質等に鑑みると,現物分割等と競売による(代金)分割方式との間に,この全面的賠償方式による分割方式を位置づけていると理解するのが妥当であると考える。
すなわち,現物分割(一部過不足の(微)調整による金額等を含む)が第一順位で,全面的価格方法による共有物分割方式が第二順位となり,最後に,競売による代金分割方式と位置づけるのが正当であると考えたい。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p16,17

3 奈良次郎氏見解・現物分割不能必要方向

続けて,いろいろな見解を紹介,説明しますが,全面的価格賠償を選択するためには,現物分割が不可能(または著しい損害を生じさせるおそれがある)といえることが必要かどうかということに着眼した見解を紹介します。
奈良氏は,現物分割が不可能であることは必要である,という見解をとっています。別の言い方をすると,前述の判例の読み取り方のとおりに,全面的価格賠償よりも現物分割の方が優先であるということになります。

<奈良次郎氏見解・現物分割不能必要方向>

あ 問題提起

・・・狭義の現物分割が可能であり,又は,著しい損害を生じさせないのにかかわらず,全面的価格賠償方式を容認するというようなことは,理論的に,可能なのであろうか。
それとも,そのようなことを認めることは許されず,又は否定されているというべきなのであるろうか。

い 判例の解釈

この点は,まだ,最高裁の判例上は,明確には,判断されてはいない

う 現物分割を優先する見解

しかし,このような場合にも全面的価格賠償方式を肯定することは,論理的には,少なくとも,おかしい
もし,狭義の現物分割等が可能であるのならば,裁判所は,当事者からのその旨の申立がなくても(仮に金銭の代価分割方式による分割の申立がなされていても),やはり,狭義の現物分割を命じるべきなのであり,少なくとも,全面的価格賠償方式による広義の現物分割方式による分割を命じ,又はその旨の由立を容認すべきことにはならない筈だからである。
そうだとすると,やはり,審理手続上,論理的には,狭義の現物分割等の要件を慎重に検討する必要があると同時に,そうすべき価値は十分にあるといえる。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p20
・・・狭義の現物分割と全面的価格賠償との関係は,やはり,狭義の現物分割が本来優先的に実施されるべきであり,これが不可能ないし著しく損害を生じる虞が認定された後に,はじめて,この新しい全面的価格賠償方式が許容されるかどうかということになると解すべきである。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p22

え 緩和的な判断の許容性

ただ,現実の問題として考えると,もし現物分割不能ないし著しい損失のおそれの肯定が非常に困難であり,そのための審理に(主張及び証拠調べの両方について)長時間要することが予測されるような場合には,ある段階で,多少はしょって,いわゆる全面的価格賠償方式による分割方法を採用することも,社会通念に反しない限り,実際上,起こり得ない訳でもないだろう。
これを審理不尽ないし理由離語とまでの違法性を主張することができるかとなると,正直にいって,実務感覚としては,このような審理方式の違法性があるとまで断定することはできないと考える。
要は粗雑さの程度によるのではないだろうか。
絶対的肯定も躊躇されるが,全く,許されないと断定して,否定しさることも躊躇される。
要は,程度によるものではないかとも考える。
理論的ではないが,右のように考えたい。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p20

4 河邉義典氏見解・現物分割不能不要

ところで,全面的価格賠償を認めた判例はいずれも,全面的価格賠償を認めるためには現物分割が不可能であるということを明言しているわけではありません。そこで素直に読むと,現物分割が不可能であることは必要ではないということになります。
河邉氏は,理念として現物分割が優先的であることを指摘した上で,現物分割が可能である状況でも全面的価格賠償を選択することはできる,という見解を示しています。

<河邉義典氏見解・現物分割不能不要>

あ 問題提起

全面的価格賠償は,「現物分割(物理的分割)をすることができず,又は分割によって著しく価格を損するおそれがあること」を要件とするものか否かが問題となる。

い 理念

共有物分割は,できる限り,現物分割によることが望ましいのはいうまでもない。
この意味で,現物分割は,第一次的な裁判上の分割方法というべきである。

う 遺産分割の参照

このことは遺産分割でも同様であり,現物分割が原則であって,債務負担の方法による代償分割は例外的なものと位置付けられている(家事審判規則109条参照)。

え 現物分割不能を不要とする見解

しかし,これは現物分割の不能等が全面的価格賠償の要件であることを意味するものではない
本判決(最判平成8年10月31日・1380号)は,全面的価格賠償の要件として現物分割が不能等であることを挙げているわけではなく,共有物に対する特定の共有者の利用を保護する必要がある場合のように,現物分割が可能であっても,共有物の性質・形状,その利用状況,分割方法についての共有者の希望等を考慮し,「当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当である」と認められるときは,全面的価格賠償によることの相当性が肯定されることになろう
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p888

5 直井義典氏見解・相当性の中に現物分割の可能性を含める

以上のように,全面的価格賠償を選択するためには,現物分割が不可能であることが必要か不要か,ということについて両方の見解があります。
この点,ある意味中間的な見解もあります。現物分割が不可能であることは必須ではないが(相当性の判断材料の1つとして)考慮はされるというような見解です。

<直井義典氏見解・相当性の中に現物分割の可能性を含める>

本判決(最判平成8年10月31日・1380号事件)においては,物理的分割が不可能あるいは物理的分割によって価格を損ずることは全面的価格賠償の必要的要件とされておらず,物理的分割が可能あるいは分割によって価格を損じない場合も全面的価格賠償が認められる可能性が理論上は残されている。
したがって,そうした事情は当該共有物の性質及び形状あるいは当事者の希望の合理性として,共有物を特定の者に取得させることの相当性を判断する中で考慮されることとなるのであろう。
※直井義典稿『いわゆる全面的価格賠償の方法による共有物分割の許否』/『法学協会雑誌115巻10号』1998年p1589

6 現物分割の不合理性を全面的価格賠償の判断要素とした裁判例(概要)

前述のように,全面的価格賠償を選択する際に,現物分割の可否を1つの判断材料とする見解があり,実際に,ほぼこの方法を使って判断した裁判例があります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|現物分割の不合理性を全面的価格賠償の相当性の1事情とした裁判例の集約

7 奈良次郎氏見解・現物分割の希望の考慮を否定

ところで,全面的価格賠償を選択するためには,現物分割を希望する共有者がいないことも必要であるという見解もあります。しかしこれについては反対する意見の方が一般的だと思われます。奈良氏は,当事者の希望(申立)を重視することの弊害を指摘して反対しています。
なお,文中の「金銭代価分割方式」(換価分割)は誤記で,「現物分割」が正しいように思います。

<奈良次郎氏見解・現物分割の希望の考慮を否定>

あ 現物分割希望を重視する他説(前提)

佐藤岩夫・民法判例レビュー判タ957号p78以下は,全面的価格賠償の方法に関する最高裁の一連の判決に関連する判例研究であるが,最高裁判例の基準命題では,裁量権の範囲が広く,不当に拡大する恐れがあり,実質的に不都合な結果をもたらしていると批判し(p81中欄から下欄まで),「共有物の単独取得(全面的価格賠償の方法による分割)を希望している共有者以外の共有者が現物の分割を求めている場合,その共有者の意思を無視して裁判所が全面的価格賠償を命ずることはできないと解すべきであると考える」(p82上欄)とし,最後に,「裁判所が全面的価格賠償の方法による分割を命じることは,①共有者のうちの一人または数人が共有物を自己の単独所有又は数人の共有とし,これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法による分割をすることを希望し,②他の共有者が現物での分割を希望する意思を現していない場合で,かつ,③共有物の価格が適正に評価され,当該共有物を取得する者に支払能力が適正に評価され,当該共有物を取得する者に支払能力があって,他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる場合に限り許容される,ということになる。」(p82下欄)と提言している。
現物分割について,単に申立をした当事者の意思のみならず,相手方当事者の意思をも重視する結果をもたらしているが,実質的に,目的物件の利用を申し立てているかどうかによって,大きな法律効果上の相違を容認しようというものである。

い 批判(妨害目的の申立のリスク)

興味深い提案ではあるが,申立という形式のみで,事実上の効果として,大きな相違を生じさせようとすると,その法律効果を狙っての申立がなされることにならないか
また,代価的分割方式の申立が,現実に即する申立内容であれば,そのような申立のために,逆効果を与えるという着想には若干疑問がある。
申立形式には拘らないで,客観的事実関係に即しての判断が必要なのではないだろうか。
相手方は,目的の共有物件については自分が利用できないのならば,申立人にも利用させたくないとの感情乃至気持ちが強いのでないか。
それが金銭代価分割方式の申立として現れるのではないだろうか。
そのようなことだから,裁判例は,申立の形式に拘らないで,いわゆる基準的なものを表示したのであろう。

う 裁判所の裁量拡大への懸念

なお,同教授が,最高裁の示した,判断基準ないし基準命題について,「裁判所の裁量を不当に拡大する危惧があるのみならず,実質的にも不都合な結果をもたらしているように思われる。」と論していることが注目されると共に,基準命題に関する危惧は,恐らく,将来具体化する可能性が強いことを私は懸念する(前掲判タ953号p45下欄からp47下欄まで特にp46下欄参照)。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p14,15

8 河邉義典氏見解・現物分割の希望の考慮を否定

現物分割の希望がないことを全面的価格賠償の要件とする見解に対して,河邉氏も反対しています。平成8年判例からはそのようなことは読み取れない,ということを指摘しています。

<河邉義典氏見解・現物分割の希望の考慮を否定>

あ 現物分割希望を重視する他説(前提)

佐藤岩夫・判例タイムズ957号p82は,「共有権者自身が物自体の取得に関心をもつ場合には,その意思は最大限の尊重に値する」とした上で,全面的価格賠償を希望する者以外の共有者が現物分割を求める意思を有している場合には,その共有者の意思を無視して裁判所が全面的価格賠償を命ずることはできず,もし現物分割が不可能であるか(例えば,区分所有の対象にならない建物の分割を求める場合),又は現物分割によりその価格が著しく損なわれるおそれがあるとき(例えば,僅少の土地の分割を求める場合)には,民法258条2項の文言に忠実に,競売による分割に移行すべきであるとする。

い 現物分割希望の考慮を否定する見解

しかし,結果の妥当性には疑問があり,本判決(最判平成8年10月31日・1380号)の立場からは,このような当事者の意思(希望)は,合理性のないものとして考慮されないことになるであろう。
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p903

9 令和3年改正による分割類型に関する条文規定の変化

ところで,令和3年の民法改正で,裁判による共有物分割の規定が変わりました。
平成8年判例で創設された全面的価格賠償が条文に追加されました。そして,条文上は現物分割と全面的価格賠償の優劣は示されていません
結局,現物分割と全面的価格賠償の優劣については従前の解釈がそのまま活きているといえます。

<令和3年改正による分割類型に関する条文規定の変化>

あ 令和3年改正前

2 前項の場合において,共有物の現物を分割することができないとき,又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは,裁判所は,その競売を命ずることができる。
※民法258条2項

い 令和3年改正後

2 裁判所は,次に掲げる方法により,共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて,他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき,又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは,裁判所は,その競売を命ずることができる。
※民法258条2項,3項
(参考)令和3年改正について別の記事で説明している
詳しくはこちら|令和3年改正民法258条〜264条(共有物分割・持分取得・譲渡)の新旧条文と要点

本記事では,全面的価格賠償と現物分割の優先順序(選択における優劣)を説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。