1 共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態の全体像
2 注釈民法による判例・学説の要約的説明
3 昭和38年判例の読み方(概要)
4 判例の読み取り方や学説のまとめ(表)
5 それぞれの見解の内容(概要)
6 共有名義人への登記請求の共同訴訟形態を判断した判例(概要)
7 相続により登記義務を承継した共同相続人が被告である訴訟の共同訴訟形態(概要)
8 複数の登記の抹消登記手続請求の共同訴訟形態(参考・概要)
9 共有者が原告である訴訟の共同訴訟形態(参考・概要)

1 共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態の全体像

登記上の共有者に対して抹消や移転登記を請求する訴訟では,被告の候補者が複数人存在することになります。そこで,誰を被告にするか(一部でよいのか全員なのか)という問題があります。これを共同訴訟形態といいます。
本記事では,この解釈論を説明します。

2 注釈民法による判例・学説の要約的説明

共有名義人に対する登記手続請求訴訟の共同訴訟形態については,多くの判例があります。また判例の読み方などの解釈にも多くのバリエーションがあります。
判例や学説をコンパクトに要約したものとして,注釈民法の説明を最初に紹介します。

<注釈民法による判例・学説の要約的説明(※1)

あ 学説・判例の概観(抜粋)

所有権移転登記の共有名義人を被告とする該登記の抹消登記手続を求める訴訟は固有必要的共同訴訟か否かにつき,学説が分かれているが(略),判例はこれを肯定する(大判昭和8年3月30日,最判昭和34年3月26日,昭和38年3月12日)。この問題については後にふれる。
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p441

い 大まかな見解(抜粋)

共有者を被告とする訴訟が必要的共同訴訟となるか否かという問題である。
第三者が一部の共有者の持分権に関してだけでなく,共有者全員の利害に関する請求をする場合,たとえば共有物に対し第三者が所有権移転登記の抹消登記手続を求めるような場合は,実体法上は各共有者は自らの持分権を主張しうることはもちろんだが,判決が不揃いになるのを避けるというもっぱら訴訟法上の要請により,必要的共同訴訟になると解することができる。
そこでこの場合の必要的共同訴訟の理由づけを実体法たる民法252条に求めるのは正当でないと考えられる。
この点,最判昭和38年3月12日が『本件は,本件建物につき所有権移転請求権保全の仮登記にもとづき所有権移転の本登記を経由したAから,右建物につきBらが共同して競落したことを原因として所有権移転登記を経由したBらに対し,右共有名義の所有権移転登記の抹消登記手続を請求する訴訟であることは記録上あきらかであるところ,右訴訟は必要的共同訴訟であると解すべきである』と述べるのは正当である。
もっとも共有者を被告とする訴訟がつねに必要的共同訴訟になるのではなく,場合ごとに決するべきで,判例も場合に応じた処理を図っている。
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p446

3 昭和38年判例の読み方(概要)

前記の注釈民法でも紹介されているように,昭和38年判例は,判決文において必要的共同訴訟であると示しています。これは,実務における共同訴訟形態の解釈に大きな影響を与えています。
この点,当時はこれを固有必要的共同訴訟と判断した,という読み方がありましたが,その後,固有とは明示していないので,類似必要的共同訴訟と読む(解釈する)傾向となり,さらにその後,他の判例との関係で,昭和38年判例の解釈は変更されているという解釈がされるようになってきています(後記)。
いずれにしても,昭和38年判例の読み取り方自体が単純ではありません。
そこで,昭和38年判例については別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|共有名義人への登記請求を必要共同訴訟とした昭和38年判例

4 判例の読み取り方や学説のまとめ(表)

多くの判例をどのように読み取るか,ということを踏まえて,現時点ではどのように解釈するべきか,ということについていろいろな見解(学説)があります。バリエーションが多いので,項目を絞って違いが分かるように表にまとめました。
項目とは,物権的請求権と債権的請求権で区別する見解(物権債権2分論),登記申請行為の性質により判定する見解共有権に関する請求か,持分権による請求かで区別する見解全面的に通常共同訴訟または類似必要的共同訴訟とする見解の4つです。
結局,現在では,全面的に通常共同訴訟とするという解釈の傾向が強くなっていると思います。

<判例の読み取り方や学説のまとめ(表)>

公表時期 主張者 物権債権2分論 登記申請行為の性質による判定 共有権持分権2分論 オール通常共同訴訟(類似必要的共同訴訟)
1964年 宮田信夫(昭和38年判例解説) 否定 採用
1969年 福永有利 採用
1969年 千種秀夫 採用方向
1970年 奈良次郎(昭和44年判例解説) 採用方向
1989年 田中澄夫 採用(後記※2
1992年 窪木稔(裁判実務大系) 否定 採用
1993年 大内俊身 否定 採用
2007年 (注釈民法)(前記※1
2012年 幸良秋夫 否定方向 採用 採用

※2 相続による登記義務の承継について

5 それぞれの見解の内容(概要)

前記のように,このテーマの解釈について,多くの見解(学説)があります。それぞれの見解の内容については,似ているごとにまとめて別の記事で説明しています。
まず,物権的請求と債権的請求で区別する見解を否定し,登記申請行為の性質で判定する見解として,宮田信夫氏,窪木稔氏(裁判実務大系),幸良秋夫氏の見解があります。
詳しくはこちら|共有名義人への登記請求の共同訴訟形態を登記申請行為の性質で判定する見解
次に,共有権に関する主張と持分権に関する主張で区別する見解として,大内俊身氏の見解があります。
詳しくはこちら|共有名義人への登記請求の共同訴訟形態を共有権と持分権で区別する見解
最後に,現在ではほぼ全面的に通常共同訴訟または類似必要的共同訴訟である(固有必要的共同訴訟ではない)という方向性の見解として,福永有利氏,千種秀夫氏,奈良次郎氏,田中澄夫氏,幸良秋夫氏の見解があります。
詳しくはこちら|共有名義人への登記請求の共同訴訟形態を通常共同訴訟・類似必要的共同訴訟とする見解

6 共有名義人への登記請求の共同訴訟形態を判断した判例(概要)

共有名義人が被告である登記手続請求の共同訴訟形態を判断した判例には多くのものがあり,学説の検討対象となっています。多くの判例は,別の記事に集めてあります。判例だけでも時代の流れとともに見解が変わってきたことが分かります。
詳しくはこちら|共有名義人への登記請求の共同訴訟形態を判断した判例の集約

7 相続により登記義務を承継した共同相続人が被告である訴訟の共同訴訟形態(概要)

以上のように,共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態については見解が分かれています。この点,相続により登記義務を承継した共同相続人が被告である場合には,通常共同訴訟となる(必要共同訴訟ではない)ことについては見解が一致しているといえます。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|相続による登記義務の承継(不可分性・共同訴訟形態)

8 複数の登記の抹消登記手続請求の共同訴訟形態(参考・概要)

本記事で説明したのは,抹消を求める登記は1個であるけれど,名義人が複数であるというケースでした。これとは違って,抹消を求める(不実の)登記が複数個あるというケースでも,共同訴訟形態が問題となります。ただ,結果としては必要共同訴訟ではないということで見解は統一されています。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|複数の登記の抹消登記手続請求の共同訴訟形態

9 共有者が原告である訴訟の共同訴訟形態(参考・概要)

以上で説明したのは共有者(共有名義人)が被告である場合の登記手続請求訴訟の共同訴訟形態でした。
これとは逆のケースでも同様の解釈の問題もあります。原告が共有者であるケースの抹消登記手続請求訴訟の共同訴訟形態について,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不正な登記の抹消請求における共同訴訟形態・原告になれる共有者の問題

本記事では,登記上の共有名義人に対する登記手続請求訴訟の共同訴訟形態について説明しました。
実際には,個別的な事情により,法的判断や最適な対応方法は違っています。
実際に共有名義の登記に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。