【共有名義人への登記請求の共同訴訟形態を判断した判例の集約】

1 共有名義人への登記請求の共同訴訟形態を判断した判例の集約
2 大判明治35年・物権的→固有必要的共同訴訟
3 神戸地判大正13年・物権的→必要的共同訴訟
4 大判昭和7年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟
5 大判昭和8年・物権的→必要的共同訴訟
6 大判昭和10年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定
7 最判昭和34年・物権的→必要的共同訴訟
8 最高裁昭和36年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定(概要)
9 最判昭和38年・物権的→必要的共同訴訟(概要)
10 最判昭和39年7月16日・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定
11 最判昭和39年7月28日・債権的→必要的共同訴訟否定
12 最高裁昭和44年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定
13 最高裁昭和60年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定(概要)
14 東京高判昭和61年・物権的→必要的共同訴訟

1 共有名義人への登記請求の共同訴訟形態を判断した判例の集約

共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態についてはいろいろな解釈があります。
詳しくはこちら|共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態の全体像
いろいろな解釈の中では過去の多くの判例が分析,検討されます。本記事では,この共同訴訟形態を判断した過去の判例だけを集めて紹介します。解釈の内容については前記の記事をご覧ください。

2 大判明治35年・物権的→固有必要的共同訴訟

物権的な登記手続請求(物上請求権)について,固有必要的共同訴訟と判断した判例です。現在の一般的解釈とは異なります。

<大判明治35年・物権的→固有必要的共同訴訟>

2人の土地共有名義人に対し所有権移転登記手続を請求する訴訟
→固有必要的共同訴訟である
※大判明治35年10月15日
※ 千種秀夫稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和43年度』p325p328参照

3 神戸地判大正13年・物権的→必要的共同訴訟

物権的な登記請求について必要的共同訴訟と判断した裁判例です。

<神戸地判大正13年・物権的→必要的共同訴訟>

共同相続人に対して所有権取得登記の抹消登記手続を請求する訴訟
→必要的共同訴訟である
※神戸地判大正13年4月16日
※田中澄夫稿『共同相続人に対する土地所有権移転登記手続請求と必要的共同訴訟の成否』/藤原弘道ほか編『民事判例実務研究 第5巻』判例タイムズ社1989年p394参照

4 大判昭和7年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟

債権的な登記義務を共同相続人が承継したという事例です。現在は少なくとも固有必要的共同訴訟ではないというのが一般的なので,これとは異なる判断をした判例といえます。

<大判昭和7年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟>

買主が共同売主(共有名義人)に対して所有権移転登記手続を請求する訴訟
→必要的共同訴訟である
※大判昭和7年3月7日
※幸良秋夫著『改訂 設問解説 判決による登記』日本加除出版2012年p126参照

5 大判昭和8年・物権的→必要的共同訴訟

物権的な登記請求について必要的共同訴訟とした判例です。

<大判昭和8年・物権的→必要的共同訴訟>

遺産共同相続人に対して物上請求権に基づき所有権移転登記の抹消登記手続を請求する訴訟
→必要的共同訴訟である
※大判昭和8年3月30日
※田中澄夫稿『共同相続人に対する土地所有権移転登記手続請求と必要的共同訴訟の成否』/藤原弘道ほか編『民事判例実務研究 第5巻』判例タイムズ社1989年p394参照
※ 千種秀夫稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和43年度』p325p328,329参照

6 大判昭和10年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定

債権的な登記義務を共同相続により承継したケースで,必要的共同訴訟を否定しました。現在の一般的見解と同じです。

<大判昭和10年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定>

買主がその売主の相続人に対して(売買を原因とする)所有権移転登記手続を請求する訴訟
売主の相続人が承継した登記義務は不可分債務である
→必要的共同訴訟ではない
※大判昭和10年11月22日
最高裁昭和36年12月15日と同じ解釈である

7 最判昭和34年・物権的→必要的共同訴訟

物権的な登記請求について必要的共同訴訟であると判断した判例です。物権的と債権的で判別する見解に結びついています。

<最判昭和34年・物権的→必要的共同訴訟>

共有名義人に対して贈与契約の無効確認・所有権移転登記抹消登記手続を請求する訴訟
→必要的共同訴訟である
※最判昭和34年3月26日
固有必要共同訴訟と判示したものではない
※奈良次郎稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和44年度(下)』法曹会1970年p1016,1017

8 最高裁昭和36年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定(概要)

債権的な登記義務を共同相続人が承継したケースで,必要的共同訴訟を否定した判例です。物権的と債権的で判別する見解に結びついています。

<最高裁昭和36年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定(概要)>

買主がその売主の相続人に対して(売買を原因とする)所有権移転登記手続を請求する訴訟
売主の相続人が承継した登記義務は不可分債務である
→必要的共同訴訟ではない
※最高裁昭和36年12月15日
詳しくはこちら|相続による登記義務の承継(不可分性・共同訴訟形態)
※宮田信夫稿/最高裁判所調査官室編『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和38年度』法曹会1964年p96参照
大判昭和10年11月22日と同じ解釈である

9 最判昭和38年・物権的→必要的共同訴訟(概要)

物権的な登記請求について,必要的共同訴訟であると判断した判例です。これはその後の多くの学説による分析・検討の対象となっています。この判例の読み取り方にも複数の見解があります。

<最判昭和38年・物権的→必要的共同訴訟(概要)>

共有名義人に対して所有権に基づき所有権移転登記の抹消登記手続を請求する訴訟
→必要的共同訴訟である
※最判昭和38年3月12日
詳しくはこちら|共有名義人への登記請求を必要共同訴訟とした昭和38年判例

10 最判昭和39年7月16日・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定

債権的な登記請求について必要的共同訴訟を否定した判例です。

<最判昭和39年7月16日・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定>

契約上の義務履行として所有権移転登記手続を請求する訴訟
→必要的共同訴訟ではない
※最判昭和39年7月16日

11 最判昭和39年7月28日・債権的→必要的共同訴訟否定

債権的な登記請求について必要的共同訴訟を否定した判例です。
このあたりの判例で,(少なくとも)債権的な請求は不可分債務なので必要的共同訴訟ではない,という判断が確立したと考えられています。

<最判昭和39年7月28日・債権的→必要的共同訴訟否定>

契約上の義務履行として所有権移転登記手続を請求する訴訟
→必要的共同訴訟ではない
※最判昭和39年7月28日

12 最高裁昭和44年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定

債権的な登記請求について必要的共同訴訟を否定した判例です。

<最高裁昭和44年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定>

買主が売主の相続人に対して所有権移転登記手続を請求する訴訟
売主の相続人が負う登記義務は不可分債務である
→必要的共同訴訟ではない
※最高裁昭和44年4月17日

13 最高裁昭和60年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定(概要)

債権的な登記請求について必要的共同訴訟を否定した判例です。

<最高裁昭和60年・債権的・登記義務承継→必要的共同訴訟否定(概要)>

買主がその売主の相続人に対して(売買を原因とする)所有権移転登記手続を請求する訴訟
売主の相続人が承継した登記義務は不可分債務である
→必要的共同訴訟ではない
※最高裁昭和60年11月29日
詳しくはこちら|相続による登記義務の承継(不可分性・共同訴訟形態)

14 東京高判昭和61年・物権的→必要的共同訴訟

物権的な登記請求について,必要的共同訴訟であると判断した裁判例です。近年の解釈からは外れていると思えます。

<東京高判昭和61年・物権的→必要的共同訴訟>

Xは取得時効により所有権を得た
所有権に基づき所有名義人の共同相続人らに対して所有権移転登記手続を請求する訴訟
→必要的共同訴訟である
※東京高判昭和61年8月28日

本記事では,共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態を判断した判例を集めて紹介しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に不正な登記の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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