1 不正な登記の抹消請求における共同訴訟形態・原告になれる共有者の問題
2 原告の状態による判例の分類(共同訴訟形態・原告になれる共有者)
3 共同訴訟形態の判断
4 大正8年4月大判(必要的共同訴訟を否定)
5 原告となれる共有者の判断
6 登記申請の共同申請の原則と判決による単独申請(前提)
7 登記上の侵害なしの原告による登記申請の問題

1 不正な登記の抹消請求における共同訴訟形態・原告になれる共有者の問題

不正な登記の抹消請求については,いろいろな法的な問題点があります。
詳しくはこちら|不正な登記の抹消請求の全体像(法的問題点の整理・判例の分類方法・処分権主義)
法的な問題点の中に,請求する者(原告)に関するものがあります。この中身はさらに2つに分けられます。
1つは,登記上侵害を受けている者が複数いる場合に,全員が原告(または被告)となる必要があるかという問題です。これを共同訴訟形態といいます。
もう1つは,登記上侵害を受けていない者が原告になれるのかという問題です。
本記事では,この2つの法的な問題について説明します。

2 原告の状態による判例の分類(共同訴訟形態・原告になれる共有者)

不正な登記の抹消請求が問題となった判例は数多くあります。
詳しくはこちら|第三者(共有者以外)の不正な登記の抹消請求の判例の集約
詳しくはこちら|共有者の不正な登記の抹消請求の判例・裁判例の集約
これらを誰が原告となっているかで分類すると次のようになります。このようにまとめると,原告に関する問題の結論がみえてきます(後述)。
なお,この表では,被告が第三者か共有者かということも分けていますが誰が原告かということとは関係ありません。便宜的に分類しただけです。

<原告の状態による判例の分類(共同訴訟形態・原告になれる共有者)>

原告の状態↓ (対第三者) (対共有者)
被害者の全員 大正8年11月大判・大正10年大判・昭和37年最高裁・昭和38年最高裁・昭和39年1月最高裁・昭和39年4月最高裁・昭和44年最高裁・平成8年東京高裁・平成17年最高裁
被害者の一部 大正12年大判・大正15年大判・昭和31年最高裁・昭和33年最高裁・昭和35年最高裁・平成22年最高裁 昭和43年東京高裁・昭和59年最高裁・昭和60年最高裁
被害者以外 平成15年最高裁

3 共同訴訟形態の判断

前記の表をみると,被害者の一部が原告となっている判例がたくさんあります。これらの判例では登記の抹消の請求は認められています。
ということで,被害者(登記上侵害を受けている者)が全員でなくても提訴(請求)できるということがよく分かります。法的には,必要的共同訴訟ではないということになります。
実際に,前記に整理した判例よりも過去の判例で,必要的共同訴訟ではないと明示されています(後記)。その後の判例でも同じ判断が繰り返し示され,確立した判断となっています。

4 大正8年4月大判(必要的共同訴訟を否定)

不正な登記の抹消請求について,必要的共同訴訟ではないと示した最も古い(と思われる)判例を紹介しておきます。この判例では,それ以外の判断(認める抹消の範囲など)は示していません。そこで,前記の判例の集約からは除外してあります。

<大正8年4月大判(必要的共同訴訟を否定)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者(登記上権利を侵害されている者)の一部
被告 実体上の権利なし
不正な登記 地上権設定登記
更正登記の可否 (原告への更正登記は不可能)
判断 (全部抹消の可否は判断していない)
い 事案の内容

共有者=XABCDE
Aが書類を偽造して単独の所有権移転登記を得た
Yのために地上権設定登記をした
XがYに対して,共有持分権確認+地上権設定登記の抹消登記手続請求をした

う 裁判所の判断

Xの請求は必要的共同訴訟ではない
→X以外の共有者と共同して訴訟を提起する必要はない
単独で訴訟提起できる
全部抹消の可否は判断していない
(共有持分への地上権設定はできないので一部抹消ができないのは当然である)
※大判大正8年4月2日

5 原告となれる共有者の判断

次に,前記の表の中に被害者なしというものとして平成15年最高裁の判例があります。
詳しくはこちら|第三者(共有者以外)の不正な登記の抹消請求の判例の集約
登記上侵害を受けていない共有者が原告となった判例です。これも不正な登記の抹消請求が認められています。
ということで,共有者であれば,自身が登記上侵害されていなくても抹消登記を請求できるということが分かります。
なお,平成15年最高裁は,請求を認める範囲に関してもいろいろな議論があります。従来方式,新方式のいずれの立場を前提としても理論的な検討が加えられています。これらは原告となれる共有者とは別のテーマなので,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不正な登記の抹消を認める範囲(全部抹消の可否)の従来方式の判別基準
詳しくはこちら|不正な登記の抹消を認める範囲(全部抹消の可否)の新方式の判別基準

6 登記申請の共同申請の原則と判決による単独申請(前提)

平成15年最高裁のように,登記上侵害を受けていない者による抹消請求を認めた結果,また別の問題が生じます。それは登記の申請方法です。
問題点を理解するためには,登記申請の基本的なルールを把握することが必要です。
共同申請の原則と,その例外である判決による単独申請という手続上のルールです。原告が勝訴判決を獲得すれば,被告の協力なしで単独で登記申請ができます。
一方,単独で登記申請ができる者は,登記権利者(または登記義務者)でなくてはなりません。登記権利者とは,登記によって直接に利益を受ける者のことです。要するに,登記申請をした結果,登記上の権利を獲得する(登記名義を得る)者であることが必要なのです。

<登記申請の共同申請の原則と判決による単独申請(前提)>

あ 共同申請の原則

登記権利者と登記義務者の共同申請が原則である
※不動産登記法60条

い 登記権利者の定義

権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に利益を受ける者をいい、間接に利益を受ける者を除く。
※不動産登記法2条12号

う 登記義務者の定義

権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人をいい、間接に不利益を受ける登記名義人を除く。
※不動産登記法2条13号

え 判決による単独申請

確定判決による登記は,一方の当事者が単独で申請することができる
※不動産登記法63条1項

7 登記上の侵害なしの原告による登記申請の問題

以上で説明した登記申請の基本ルールを前提にして,登記上侵害を受けていない者が抹消登記手続請求の勝訴判決を得たケースを考えてみます。
この原告は,登記申請の結果,登記名義を獲得することはありません。つまり登記権利者には該当しないので,通常は登記申請をすることはできないのです。
このように,理論的に判決を獲得できるが,その後の登記申請をどうすれば良いのかという問題は残っています。確立した解釈や法務局の扱いはありませんが,代位による登記として扱うという考え方が指摘されています。
なお,平成15年最高裁のケースでは,その後の差戻審での判決についての情報がなく,和解が成立していると思われます。つまり,判決による単独申請は回避されたまま終わっているようです。

<登記上の侵害なしの原告による登記申請の問題>

あ 実現する抹消登記手続の内容(前提)

原告Xの共有持分は実体どおりに登記されている
原告以外の共有者CからY(被告)への所有権(共有持分)移転登記についての抹消登記手続をする(ことを命じる判決が確定した)

い 抹消登記手続の当事者

登記権利者=登記上,直接に利益を受ける者=C
登記義務者=登記上,直接に不利益を受ける者=Y
※不動産登記法2条12号,13号

う 問題点

原告Xは登記権利者ではない
→ストレートには登記申請ができない

え 工夫(アイデア)

『ア・イ』などの構成があり得る
今後の議論の深まりが期待される
ア 代位による
イ 共同相続人の1人による相続登記の申請と同視する
※『最高裁判所判例解説 民事篇 平成15年度(下)』法曹会2006年p399,400

本記事では,不正な登記の抹消請求における共同訴訟形態と原告となれる共有者について説明しました。
前述のように,法律的な理論は複雑です。
実際に不正な登記に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。