1 共有者の不正な登記の抹消請求の判例・裁判例の集約
2 大正8年11月大判(家督相続)
3 大正10年大判(原告の被侵害部分に限定・元祖)
4 昭和37年最高裁(元祖と同様)
5 昭和38年最高裁(元祖と同様)
6 昭和39年1月最高裁(元祖と同様)
7 昭和39年4月最高裁(元祖と同様)
8 昭和43年大阪高裁(原告以外の共有者への更正登記・参考)
9 昭和44年最高裁(元祖と同様)
10 昭和59年最高裁(元祖と同様)
11 昭和60年最高裁(登記上の侵害者の一部を被告から除外)
12 平成8年東京高裁(実体との重複があるが登記原因が異なる)
13 平成17年最高裁(数次相続の中間省略登記)

1 共有者の不正な登記の抹消請求の判例・裁判例の集約

実体上の権利を持たない者の名義の登記は無効です。真の権利者は抹消登記手続を請求できます。請求する者や,請求を認める範囲など,法的な扱いは複雑になります。
詳しくはこちら|不正な登記の抹消請求の全体像(法的問題点の整理・判例の分類方法・処分権主義)
このようなケースの判例は数多くあります。
本記事では,共有者が不正な登記名義を有するケースについての判例・裁判例を紹介します。従来の判例の分類における乙類型とされるものです。
判決(決定)が出された時期の順に説明します。
また,事案内容の整理(表)は,新方式の判断基準に沿ったものです。新方式の判断基準については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不正な登記の抹消を認める範囲(全部抹消の可否)の新方式の判別基準

2 大正8年11月大判(家督相続)

被告は登記上,実体上の権利(共有持分権)を超えて単独所有となっていました。
他の共有者による全部抹消の請求が認められました。
登記原因に着目すると,登記(家督相続)と実体(遺産相続)が異なります。当時のこの2つの相続の制度は質が異なるものと考えられたのです。
そこで,登記原因に着目すると登記と実体は完全に一致しないものとして抹消登記が認められました。結果として,被告が有する共有持分に相当する登記も失われたということになります。

<大正8年11月大判(家督相続)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者(登記上権利を侵害されている者)の全員
被告 実体上の権利あり(共有持分権)
不正な登記 所有権移転登記(単独所有)
登記と実体の一致 完全になし(家督相続遺産相続という違いのため)
判断1(必要な是正登記の種類) 抹消登記(実体上持分を有していても登記上から消去される)
い 事案

家督相続が適用されない相続(共同相続)が開始した
相続人A(長男)は,共有持分権を承継した
しかし,所有権移転登記(家督相続としてのAの単独所有の登記)を行った

う 裁判所の判断

単独所有権の登記は1所有権の1個の登記である
多数の共有持分権の集合の登記ではない
単独所有権の登記のうち,ある部分の共有持分権の登記のみを残存させて,それ以外の共有持分権の登記を抹消するということはできない
単独所有権の登記を共有持分権の登記に改めるために抹消することができる
※大判大正8年11月3日

3 大正10年大判(原告の被侵害部分に限定・元祖)

共有持分の範囲で原告と被告が対抗関係となっており,登記を先に得た原告が優先される状況でした。
つまり実体上の権利としては,被告は共有持分権だけを有する状態だったのです。しかし被告は単独所有の登記を有していました。
そうすると,不正な単独所有登記のうち被告が有する共有持分の範囲は実体と一致しているといえます。
そこで,抹消登記ではなく更正登記により是正する状況となります。要するに登記と実体が一致している範囲の登記は維持する結果といえます。
この考え方はこれ以降の多くの判例でも共通しています。その意味で元祖ともいえる判例です。
なお,原告は実体よりも登記上の持分が少ない共有者の全員でした。そこで,原告の持分を回復する更正登記が問題なく認められました。

<大正10年大判(原告の被侵害部分に限定・元祖)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者の全員
被告 実体上の権利あり(共有持分権)
不正な登記 所有権移転登記(第三取得者の単独所有)
登記と実体の一致 一部あり(原告の共有持分の範囲で対抗関係となり原告が優先する)
判断1(必要な是正登記の種類) 更正登記(実体に合致する部分は登記上維持される)
い 事案

A・Bの共有であり,このとおりに登記がなされていた
AがA持分をX(原告)に譲渡し,移転仮登記を行った
A・BはY1(被告)に所有権全体を譲渡し,移転登記を行った
Y1はY2(被告)に所有権(全体)を譲渡し,移転登記を行った
XはY1・Y2に対して所有権移転登記の抹消登記手続を請求した

う 裁判所の判断(実体(前提))

A持分については二重譲渡であり対抗関係となる
→先に(仮)登記を得ているXが優先となる
=実体上はXとY2の共有となる

え 裁判所の判断(結論)

所有権移転登記の(全部)抹消は,被告が正当に取得した権利についての登記を失うことになる
登記更正(=一部抹消)の手続により共有名義の登記に改めるべきである
登記上Xの共有持分を回復する登記という意味である
※大判大正10年10月27日

お 現行法との違い(参考)

現在の不動産登記法では
Xの本登記の申請の際,Yの承諾が必要である
→(承諾があることを前提として)Yの登記(のうちXの本登記と抵触する部分)は職権抹消される
→現在では前記の判例のような状況は生じない

4 昭和37年最高裁(元祖と同様)

前記の元祖の判例と同じような判断内容です。ただし,対抗関係による優劣は生じず,単純に被告が実体を超える不正な登記を得ていたというケースです。以下の元祖と同様の判例も対抗関係が生じていない単純な実体を超える不正な登記が生じたケースです。

<昭和37年最高裁(元祖と同様)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者の全員
被告 実体上の権利あり(共有持分権)
不正な登記 所有権移転登記(相続による単独所有)
登記と実体の一致 一部あり
判断1(必要な是正登記の種類) 更正登記(実体に合致する部分は登記上維持される)
い 裁判所の判断

抹消登記は認めない
更正登記手続請求への変更を求めるよう釈明すべきである
※最高裁昭和37年5月24日

5 昭和38年最高裁(元祖と同様)

前記の元祖の判例と同じような判断内容です。

<昭和38年最高裁(元祖と同様)>

原告 被害者の全員
被告 実体上の権利あり(共有持分権)
不正な登記 所有権移転登記(相続による単独所有)
登記と実体の一致 一部あり
判断1(必要な是正登記の種類) 更正登記(実体に合致する部分は登記上維持される)

※最高裁昭和38年2月22日

6 昭和39年1月最高裁(元祖と同様)

前記の元祖の判例と同じく,(部分的に)無効な登記の名義人無効な登記の名義人からの譲受人の両方が被告となったケースです。判断内容(結論)も元祖の判例と同じです。

<昭和39年1月最高裁(元祖と同様)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者の全員
被告 実体上の権利あり(共有持分権)
不正な登記 所有権移転登記(相続による単独所有)
登記と実体の一致 一部あり
判断1(必要な是正登記の種類) 更正登記(実体に合致する部分は登記上維持される)
い 事案

Aが死亡した
遺産の不動産を相続人B・Cが承継した
Cが不法に所有権移転登記(単独所有)をした
Cは不動産(全体)をDに譲渡し,Dへの所有権移転登記をした
BはC・Dに対して抹消登記手続を請求した

う 裁判所の判断

B持分についてのみの一部抹消(更正)登記のみを認める
各登記の全部抹消登記は認めない
※最高裁昭和39年1月30日

7 昭和39年4月最高裁(元祖と同様)

前記の元祖の判例と同じ判断です。

<昭和39年4月最高裁(元祖と同様)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者の全員
被告 実体上の権利あり(共有持分権)
不正な登記 所有権保存登記(単独所有)
登記と実体の一致 一部あり
判断1(必要な是正登記の種類) 更正登記(実体に合致する部分は登記上維持される)
い 事案

Aが死亡した
遺産の不動産を相続人B・C・D・E・Fが承継した
Bが不法に所有権保存登記(単独所有)をした
C・D・E・FはBに対して抹消登記手続を請求した

う 裁判所の判断

C・D・E・Fの各自の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続を認める
所有権保存登記の全部抹消は認めない
※最高裁昭和39年4月17日

8 昭和43年大阪高裁(原告以外の共有者への更正登記・参考)

登記と実体の一部が一致しているため,抹消登記はできず,更正登記”により是正する状況でした。
ただ,このケースでは,以上の判例と異なり,登記上侵害を受けている共有者の一部だけが原告となっていました。
結局,更正登記により原告以外の共有者の持分を回復する状況だということです。
他の判例の考え方では原告以外の共有者の持分を回復する更正登記は認められていません。そのため,この裁判例は主流となっている理論とは違う判断をした異例のものといえます。下級審裁判例でもありますし,実際のケースに適用されることはない判断(理論)だと思います。本記事では,参考となるものとして紹介しました。

<昭和43年大阪高裁(原告以外の共有者への更正登記・参考)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者の一部
被告 実体上の権利あり(共有持分権)
不正な登記 所有権移転登記
登記と実体の一致 一部あり
判断1(必要な是正登記の種類) 更正登記(実体に合致する部分は登記上維持される)
更正登記による登記上の持分の増加の有無 増加させる
判断2(更正登記の中の分類) 原告以外の共有者の持分をも回復する更正登記(後記『う』)
法律構成 保存行為の指摘あり
い 裁判所の判断

相続による所有権取得登記手続をする以上,相続人全員のための登記でなければならない
共有不動産の所有権を第三者が取得した旨の不実の所有権移転登記がなされている場合には不動産の共有者の1人は共有不動産の保存行為として共有者全員のために登記上の権利者に対して登記の抹消登記手続を請求することができる
不実の登記部分を抹消しその代りに請求者自身の実体上の権利のみを表示した登記への更正登記手続を求め,登記を抹消された権利のうち請求者の権利に属しない部分の帰属を不明ならしめるような更正登記手続は許すべきではない
→登記上の権利者でない相続人全員のために,相続人ら各自の権利全部につきそれぞれ実体法上の権利の帰属に一致する登記への更正登記手続を請求することができる
※大阪高裁昭和43年12月11日
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 物権 第2版』第一法規2013年p342参照

う 補足説明

登記上の持分を増加させる更正登記については,他の判例の判断では原告の持分のみを回復する範囲で認めている
この裁判例は他の判例の判断基準に従っていない

9 昭和44年最高裁(元祖と同様)

前記の元祖の判例と同じ判断内容です。

<昭和44年最高裁(元祖と同様)>

原告 被害者の全員
被告 実体上の権利あり(共有持分権)
不正な登記 所有権保存登記(単独所有)
登記と実体の一致 一部あり
判断1(必要な是正登記の種類) 更正登記(実体に合致する部分は登記上維持される)

※最高裁昭和44年5月29日

10 昭和59年最高裁(元祖と同様)

前記の元祖の判例と同じ判断内容です。

<昭和59年最高裁(元祖と同様)>

原告 被害者の一部
被告 実体上の権利あり(共有持分権)
不正な登記 所有権移転登記
登記と実体の一致 一部あり
判断1(必要な是正登記の種類) 更正登記(実体に合致する部分は登記上維持される)

※最高裁昭和59年4月24日

11 昭和60年最高裁(登記上の侵害者の一部を被告から除外)

原告が登記上侵害を受けている範囲で一部の抹消を認める,という意味では前記の元祖の判例と同じです。
このケースでは,登記上侵害している共有者(加害者)が4名存在しました。しかし,原告はこの4名のうち1名だけを被告にしていました。つまり,加害者のうち3名を意図的に除外したのです。
この点,不当な登記の抹消の請求は必要的共同訴訟ではありません。そのため,加害者(や被害者)の一部が訴訟の当事者から除外されていても問題ないのです。
詳しくはこちら|不正な登記の抹消請求における共同訴訟形態・原告になれる共有者の問題

<昭和60年最高裁(登記上の侵害者の一部を被告から除外)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者の全員
被告 実体上の権利あり(共有持分権・後記『う』)
不正な登記 所有権移転登記・所有権保存登記(共有・真実の持分割合と異なる・人物は一致している)
登記と実体の一致 一部あり
判断1(必要な是正登記の種類) 更正登記(実体に合致する部分は登記上維持される)
い 事案

Eが不動産を所有していた
Eが亡くなった
相続人はX(原告)・Y(被告)・D・F・Gであった
遺言による相続分の指定がなされていた
しかし法定相続登記(X・Y・D・F・Gの共有)が行われた
Xだけは真の共有持分割合よりも登記上の持分割合が少なかった
他の相続人(共有者)は,真の共有持分割合よりも登記上の持分割合が多かった

う 訴訟(請求)の当事者

XはYに対して一部抹消(更正)登記手続を請求した
=登記上侵害している共有者の一部(D・F・G)を被告から除外した

え 裁判所の判断

一部抹消(更正)登記手続請求は固有必要的共同訴訟ではない
一部抹消(更正)登記手続請求を認めた
※最高裁昭和60年11月29日

12 平成8年東京高裁(実体との重複があるが登記原因が異なる)

前記の元祖の判例は登記と実体が一致している部分については抹消を認めない(登記を維持する)というものでした。
ここで,登記と実体の一致は,単に共有持分だけで判断するものではありません。登記原因(やその日付)も含めて一致しているかどうかを判断します。
このケースでは,所有権(共有持分)については登記と実体に部分的な一致がありました。しかし,登記上の登記原因を見ると,登記と実体が一致していません。
そこで全部抹消を認めました。結果的に被告の有する共有持分に相当する登記も解消されることになりました。

<平成8年東京高裁(実体との重複があるが登記原因が異なる)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者の全員
被告 実体上の権利あり(共有持分権)
不正な登記 所有権移転登記(贈与による単独所有)
登記と実体の一致 完全になし(後記『お』)
判断1(必要な是正登記の種類) 抹消登記(実体上持分を有していても登記上から消去される)
い 事案

不動産について
AからB(子)に贈与による所有権移転登記がなされた
これは実体のない不正な登記であった
Aが死亡した
Aの相続人B・Cが法定相続により承継した

う 実体と登記の異同の整理

所有権移転登記自体は無効である
ただし,実体上Bは共有持分権を有する
共有持分権の存在という意味では実体と登記が一致(重複)している
登記原因(原因日付)はまったく異なる

え 裁判所の判断

共有持分権に基づき,保存行為として,法律上無効な登記原因であり,真実の実体的権利関係の変動の過程を反映していない不実の本件登記について,その全部の抹消を請求することができる
抹消登記手続請求を認めた
※東京高裁平成8年5月30日
※東京地裁平成6年2月16日(同趣旨)
※東京高裁平成7年5月31日(同趣旨)

お 更正登記の可否(補足)

更正登記により登記を実体に合致させたと仮定すると
相続前の登記原因日付において相続により所有権が移転したことになる
完全に理論的に成り立たない
=登記と実体が完全に一致しない
→更正登記による是正は不可能である
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 物権 第2版』第一法規2013年p344参照

13 平成17年最高裁(数次相続の中間省略登記)

これも,登記と実体が共有持分の範囲では一致しているというケースです。
しかし,この不正な登記は,数次相続の中間省略登記という特殊なものでした。
そのため,登記と実体が登記原因の点で一致していないことになります。
そこで,全部抹消を認めました。

<平成17年最高裁(数次相続の中間省略登記)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者の全員
被告 実体上の権利あり(共有持分権)
不正な登記 所有権移転登記(数次相続による中間省略)
登記と実体の一致 完全になし(後記『お』)
判断1(必要な是正登記の種類) 抹消登記(実体上持分を有していても登記上から消去される)
法律構成 保存行為の指摘なし
い 相続の発生(事案)

Aが不動産を所有していた
Aが亡くなった
Aの相続人X(原告)・Bが承継した
Bが亡くなった
Bの相続人Y(被告)が承継した

う 実体上の権利の状態(事案)

A→X+B
B持分→Y
最終的状態=X+Yの共有

え 登記された内容(事案)

AからYに対して直接所有権移転登記がなされた
登記原因=A→B→Yという数次相続

お 裁判所の判断

Yには共有持分権がある
共有持分権の範囲では登記と実体が一致(重複)する
しかし数次相続登記のため登記と実体の同一性がない
更正登記ができない
→全部抹消(抹消登記手続請求)を認めた
※最高裁平成17年12月15日
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 物権 第2版』第一法規2013年p343参照

本記事では,共有者が有する不正な登記名義の抹消を求めたケースの判例を紹介しました。
前述のように,判断の内容となる理論は複雑です。
実際に不正な登記に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。