1 原告の持分回復を超える更正登記を認めた昭和43年大阪高裁の分析
2 実体と不正な登記の内容
3 登記手続としての是正方法
4 裁判所が採用した是正方法(昭和43年大阪高裁)
5 事案の主要項目と判別基準へのあてはめ
6 昭和43年大阪高裁の判断の分析

1 原告の持分回復を超える更正登記を認めた昭和43年大阪高裁の分析

不正な登記の是正方法については,多くの判例があり,いろいろな解釈論があります。
詳しくはこちら|共有不動産の不正な登記の是正の全体像(法的問題点の整理・判例の分類方法・処分権主義)
多くの判例で確立している(と思われる)事項の1つとして,原告の持分の回復を超えた更正登記(一部抹消)は認めないというものがあります。
詳しくはこちら|共有不動産に関する不正な登記の是正方法の新方式判別基準
この判断に沿わない判断をした裁判例(大阪高裁昭和43年12月11日)がありますので,本記事ではこれについて説明します。

2 実体と不正な登記の内容

昭和43年大阪高裁の事案の内容は少し複雑です。最初に事案内容を整理します。実体,つまり本来すべきであった登記の内容と,実際に行われた(不正な)登記の内容をまとめます。

<実体と不正な登記の内容>

あ 実体(=本来すべきであった登記)

ア 1次相続(M死亡)
Mが亡くなった→M所有の不動産について,次のような法定相続による権利移転が生じた
(相続開始当時の民法の規定による法定相続分である)
妻N 9分の3
子X 9分の1
子Y1 9分の1
子A 9分の1
子B 9分の1
子C 9分の1
子D 9分の1(※1)
イ 2次相続(N死亡)
Nが亡くなった→N所有の不動産(共有持分)について,次のような法定相続による権利移転が生じた
子X 18分の1 (合計6分の1)
子Y1 18分の1 (合計6分の1)
子A 18分の1 (合計6分の1)
子B 18分の1 (合計6分の1)
子C 18分の1 (合計6分の1)
子D 18分の1(※1) (合計6分の1)
※1 実際には代襲相続が生じていたが省略する

い 登記(=実際に行われた不正な登記)

ア 登記甲
登記の目的=所有権移転,登記原因=遺贈,登記権利者(M→)Y1(単独所有)
イ 登記乙
登記の目的=所有権移転,登記原因=売買,登記権利者(Y1→)Y2(単独所有)
※大阪高裁昭和43年12月11日

3 登記手続としての是正方法

前記のような不正な登記がなされた状態を前提として,まずは,登記手続として正しい是正方法をまとめます。つまり,裁判所の関与なしに,当事者全員が協力して是正する登記申請を行う場合の登記申請の内容ということになります。
考え方は単純で,結果として実体に一致する物権変動が登記上示されている状態を実現するのです。

<登記手続としての是正方法>

あ 巻き戻し(2件の更正登記)

ア 登記乙の更正
登記乙(Y1→Y2の移転登記)について
登記の目的を『Y1持分全部移転』に更正する
(Y1が取得した権利の内容を単独所有権から『9分の1の持分』と修正することを意味する)
イ 登記甲の更正
登記甲(M→Y1の移転登記)について
登記原因を『相続』,登記権利者(取得者)を『N,X,Y1,A,B,C,D(それぞれ法定相続割合の持分)』に更正する

い 新たな権利取得の登記(通常の持分移転登記)

ア 2次相続(N死亡)
登記の目的=N持分全部移転,登記原因=相続,登記権利者(N→)X,Y1,A,B,C,D(それぞれ法定相続割合の持分)
イ 売買
登記の目的=Y1持分全部移転,登記原因=売買,登記権利者(Y1→)Y2(持分18分の1について売買による移転登記)

4 裁判所が採用した是正方法(昭和43年大阪高裁)

次に,この事案について,裁判所が採用した是正方法を整理します。
登記手続のルールとかけ離れた内容となっています。特に問題があるのは,1つの更正登記の中で2つの登記(物権変動)を更正(修正)しているというところ(あ)です。売買に関する登記の更正(い)については特に問題はありません。

<裁判所が採用した是正方法(昭和43年大阪高裁)>

あ 相続に関する登記の更正登記

『ア・イ』を内容とする更正登記をせよ。
ア MからY1への遺贈を原因とする所有権移転登記(ア)・(イ)の内容の登記に改める
(ア)登記の目的=所有権移転,登記原因=相続,登記権利者=次の内容
N 9分の3
子X 9分の1
子Y1 9分の1
子A 9分の1
子B 9分の1
子C 9分の1
子D 9分の1(※2)
※2 判決では,おそらく代襲相続人であるE・F・Gに27分の1ずつとされていると思われる
(イ)登記の目的=Nの共有持分3分の1の移転(N持分全部移転),登記原因=相続,登記権利者=次の内容
子X 18分の1
子Y1 18分の1
子A 18分の1
子B 18分の1
子C 18分の1
子D 18分の1(※3)
※3 判決では,おそらく代襲相続人であるE・F・Gに54分の1ずつとされていると思われる

い 売買に関する登記の更正登記

Y1からY2への売買を原因とする所有権移転登記を,Y1からY2への持分(6分の1)移転に改める更正登記手続をせよ。
※大阪高裁昭和43年12月11日

5 事案の主要項目と判別基準へのあてはめ

ところで,多くの判例から確立している(と思われる),是正方法の判別基準を元にした判別フローがあります。
詳しくはこちら|共有不動産の不正な登記の是正方法の判別フローと『支障』の整理
昭和43年大阪高裁の事例をこの判別フローにあてはめてみます。
登記単位では2つの不正な登記(登記甲,登記乙)があるのですが,いずれも原告の持分を回復する範囲の更正登記となります。
しかし,昭和43年大阪高裁の判決では原告の持分の回復を超えて(更正登記が)認められています。なぜ他の判例の理論と違う結論になったのか,については後述します。

<事案の主要項目と判別基準へのあてはめ>

あ 主要事項の整理
原告 侵害あり・被害者の一部
被告 実体上の権利あり(共有者)
不正な登記 (登記甲,登記乙ともに)所有権移転登記,所有権移転登記
不正な登記と実体の一致 (登記甲,登記乙ともに)一部あり
第1判別 (登記甲,登記乙ともに)一致あり→是正方法は一部抹消(更正登記)となる→結論1=原告の持分を回復する範囲の一部抹消(更正登記)
法律構成 保存行為の指摘あり
い 他の判例との違い

他の判例における一般的見解では,更正登記(一部抹消)については,原告の持分を回復する範囲に限って認めている
詳しくはこちら|共有不動産の不正な登記の是正方法の判別フローと『支障』の整理
本判決(昭和43年大阪高裁)は,原告の持分の回復を超える更正登記を認めている

6 昭和43年大阪高裁の判断の分析

昭和43年大阪高裁が原告の持分回復を超えた更正登記(原告以外の共有者の持分を回復する更正登記)を認めた理由は,判決文に示されています。共同相続の登記が,相続人(共有者)1人だけで申請できる,ということが指摘されています。
確かに素朴に考えるとそう言えそうな気もします。しかし,他の判例では,同様の状況でも,更正登記として認める範囲を原告の持分の回復の範囲に限定しています。要するに,(単純な)法定相続による移転登記不正な登記の是正(更正登記)は同一には扱えないのですが,昭和43年大阪高裁は同一に扱ってしまったということがいえます。
また,昭和43年大阪高裁は,共有者1人が(単独で)所有権移転登記の全部抹消(抹消登記)を請求することが認めらているということも理由として示しています。しかしこれも,他の判例では全部抹消(抹消登記)かつ,被告が第三者(共有者ではない)場合に限って認めているにすぎません。一部抹消(更正登記)については一貫して原告の持分回復を超えることを認めていません。実質的な理由は,妨害排除請求権よりも処分権(私的自治)や登記手続上の支障を重視するということです。この点でも,昭和43年大阪高裁は確立した理論を誤って適用していると思われます。
いずれにしても,昭和43年大阪高裁は,再現可能性としては低いと思われます。

<昭和43年大阪高裁の判断の分析>

あ 判断の要点

共有不動産の所有権を第三者が取得した旨の不実の所有権移転登記がなされている場合には不動産の共有者の1人は共有不動産の保存行為として共有者全員のために登記上の権利者に対して登記の抹消登記手続を請求することができる
相続による所有権取得登記手続をする以上,相続人全員のための登記でなければならない
不実の登記部分を抹消し,その代わりに請求者自身の実体上の権利のみを表示した登記への更正登記手続を求め,登記を抹消された権利のうち請求者の権利に属しない部分の帰属を不明ならしめるような更正登記手続は許すべきではない
→登記上の権利者でない相続人全員のために,相続人ら各自の権利全部につきそれぞれ実体法上の権利の帰属に一致する登記への更正登記手続を請求することができる
※大阪高裁昭和43年12月11日
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 物権 第2版』第一法規2013年p342参照

い 原告の持分回復を超える更正を認めた理由

ア 相続人1人による共同相続の登記が可能である
不動産を共同相続した場合には相続人の1人は共有物の保存行為として共同相続人全員のために相続不動産について共同相続人全員を取得者として被相続人の死亡による相続を原因として各相続人の相続分の割合による共有持分での所有権取得登記手続をすることができる
イ 共同相続のうち一部の相続だけの登記はできない
相続による所有権取得登記手続をする以上,相続人全員のための登記でなければならない
ウ 共有者1人による抹消登記請求が可能である
共有不動産の所有権を第三者が取得した旨の不実の所有権移転登記がなされている場合には,不動産の共有者の1人は共有不動産の保存行為として共有者全員のために(不正な)登記上の権利者に対して登記の抹消登記手続を請求することができる
※大阪高裁昭和43年12月11日(抜粋)

う 他の判例の理論との抵触

ア 『い』の『ア・イ』に対して
法定相続による移転登記不正な登記の是正(抹消登記・更正登記)に同じ理論が当てはまるわけではない
不正な登記の是正においては,処分権登記手続に関する『支障』が重視される
実際に,他の判例では,相続に関する不正な登記についても,原告の持分を回復する範囲に限定した更正登記が認められている
※最高裁平成22年4月20日
詳しくはこちら|第三者(共有者以外)の不正な登記の抹消請求の判例の集約
※最高裁昭和59年4月24日
詳しくはこちら|共有者の不正な登記の抹消請求の判例・裁判例の集約
イ 『い』の『ウ』について
判例上確立した理論は,一部抹消(更正登記)全部抹消(抹消登記)で扱いが異なっている→同一に扱えない
更正登記(一部抹消)ではなく抹消登記(全部抹消)であれば,(被告が第三者であることを前提として)原告の持分の回復を超える範囲の抹消(全部抹消)が認められている
詳しくはこちら|共有不動産に関する不正な登記の是正方法の新方式判別基準

本記事では,昭和43年大阪高裁が原告の持分の回復を超えた更正登記を認めた理論とその再現可能性が低いということを説明しました。
実際には,個別的な事情によって結論が違ってくることもあります。
実際に不正な登記に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。