【第三者(共有者以外)の不正な登記の抹消請求の判例の集約】

1 第三者(共有者以外)の不正な登記の抹消請求の判例の集約

実体上の権利を持たない者の名義の登記は無効です。真の権利者は抹消登記手続を請求できます。共有に関係するケースでは、請求する者や、請求を認める範囲など、法的な扱いは複雑になります。
詳しくはこちら|共有不動産の不正な登記の是正の全体像(法的問題点の整理・判例の分類方法・処分権主義)
このようなケースの判例は数多くあります。
本記事では、第三者(共有者以外)が不正な登記名義を有するケースにおいて、共有者が原告となって登記の是正を求めた事例(判例)を紹介します。従来の判例の分類における乙類型とされるものです。
判決(決定)が出された時期の順に説明します。
また、事案内容の整理(表)は、新方式の判別基準を元にした判別フローに沿ったものです。『判別1〜3』と『結果1〜4』は、判別フローに記載したものと対応しています。新方式の判断基準とこれを元にした判別フローについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有不動産に関する不正な登記の是正方法の新方式判別基準
詳しくはこちら|共有不動産の不正な登記の是正方法の判別フローと『支障』の整理

2 大正12年大判(鉱業権の移転登録)

鉱業権について、実体上の権利の移転はないのに移転の登録がなされたケースです。鉱業権の公示制度は登記ではなく登録です。しかし法的には登記と同じ扱いです(鉱業法59条2項)。
裁判所は、準共有者の1人が保存行為として、全部の抹消を請求できると判断しました。なお、登記と異なり鉱業権登録効力要件です(鉱業法60条)が、この判例の判断とは関係ありません。

大正12年大判(鉱業権の移転登録)

原告 侵害あり・被害者の一部
被告 実体上の権利なし(第三者)
不正な登録 鉱業権の移転登録(権利者=被告、義務者=原告・A)
不正な登録と実体の一致 完全になし
第1判別 一致は完全になし→是正方法は抹消登録となる
第2判別 (原告の)侵害あり→結論2=全部抹消(抹消登録)を請求できる(当然範囲の限定なし)
法律構成 保存行為の指摘あり

※大判大正12年4月16日

3 昭和15年大判(先順位抵当権の抹消・参考)

後順位抵当権の準共有者の一部が実体を欠く先順位抵当権の抹消を求めたケースです。
同一の物権の帰属に関する対立ではありません。そこで本記事のテーマからは外れますが、似ているところもあるので参考として紹介します。
結論として、裁判所は保存行為として全部抹消を認めました。このことは所有権(共有持分権)と共通する考え方です(現在では保存行為という構成は否定される傾向がありますが)。

昭和15年大判(先順位抵当権の抹消・参考)

あ 主要事項の整理
原告 侵害あり・被害者の一部
被告 実体上の権利なし(第三者)
不正な登記 (先順位の)抵当権設定登記(当初から不正な登記だったわけではない)
不正な登記と実体の一致 完全になし
第1判別 一致は完全になし→是正方法は全部抹消(抹消登記)となる
第2判別 (原告は)(実質的には)侵害あり→結論2=全部抹消(抹消登記)を請求できる(当然範囲の限定なし)
法律構成 保存行為の指摘あり
い 事案

第1抵当権が被担保債権の消滅により消滅した
第2抵当権の準共有者の1人が債権消滅の確認+第1抵当権の登記抹消を請求した

う 裁判所の判断

後順位抵当権の準共有者1人が請求できる
※大判昭和15年5月14日

4 昭和31年最高裁(原則的判断)

共有者の1人が、不正な単独所有登記名義を持つ者に対して抹消を求めたケースです。裁判所は全部抹消(抹消登記)を認めました。共有の不動産に第三者の登記がある場合には抹消登記(全部抹消)が認められるという判断のリーディングケースです。

昭和31年最高裁(登記原因の同一性が欠ける)

あ 主要事項の整理
原告 侵害あり・被害者の一部
被告 実体上の権利なし(第三者)
不正な登記 所有権移転登記
不正な登記と実体の一致 完全になし
第1判別 一致は完全になし→是正方法は全部抹消(抹消登記)となる
第2判別 (原告は)侵害あり→結論2=全部抹消(抹消登記)を請求できる(当然範囲の限定なし)
法律構成 保存行為の指摘あり
い 事案

AがBに売却した
Bが死亡し、X(原告)・Cが2分の1ずつ承継した
AからY(被告)に不正な移転登記がなされた

う 裁判所の判断

共同相続人(共有者)の1人が単独で所有権移転登記の全部の抹消を請求できる
※最高裁昭和31年5月10日

5 昭和33年最高裁(組合財産)

共有者の1人が、不正な単独所有登記名義を持つ者に対して抹消を求めたケースです。裁判所は全部抹消を認めました。結果的に原告以外の共有者の登記上の持分の回復につながることになりました。
なお、所有権保存登記を抹消すると、当該不動産(建物)についての登記記録全体が閉鎖されるのが原則です。しかし、このケースのように真実の所有者を登記に反映させる場合には、抹消登記と同時に新たな所有権保存登記を申請することになります。そうすると例外的に登記記録は閉鎖されず、登記上、所有者の名義が入れ替わるような状態となります。

昭和33年最高裁(組合財産)

あ 主要事項の整理
原告 侵害あり・被害者の一部
被告 実体上の権利なし(第三者)
不正な登記 (建物の)保存登記(単独所有)
不正な登記と実体の一致 完全になし
第1判別 一致は完全になし→是正方法は全部抹消(抹消登記)となる
第2判別 (原告は)侵害あり→結論2=全部抹消(抹消登記)を請求できる(当然範囲の限定なし)
法律構成 保存行為の指摘なし
い 事案

原告とAが組合契約を締結した
組合財産である建物について被告名義の保存登記がなされていた

う 裁判所の判断

ア 組合財産の所有形態(前提) 組合財産が理論上合有であるとしても・・・組合財産については、民法667条以下において特別の規定のなされていない限り、民法249条以下の共有の規定が適用されることになる
イ 登記の是正方法 組合員の1人は単独で、組合財産である不動産につき登記簿上の所有名義人に対して登記の抹消を求めることができる
※最高裁昭和33年7月22日

え 所有権保存登記の抹消登記の後の処理(参考)

ア 原則 所有権保存登記の抹消登記が行われた場合、登記記録は閉鎖される
→その後、表題部登記(新築登記など)からやり直しになる
イ 例外 真実の所有者でないAの所有権保存登記の抹消登記申請と同時に、真実の所有者Bの当該建物についての所有権確認の確定判決等、登記官が所有者をBと認定するに足りる確実な資料を添付して、B名義の所有権保存登記を申請したときは、甲区の登記記録を閉鎖しないで、当該甲区登記記録を用い、その順位番号は甲区順位番号を追って付すことになる
※昭和44年11月20日民甲2530号

6 昭和35年最高裁(先順位の仮登記の本登記の優先扱い)

仮登記に劣後する抵当権が実行され、買い受けた者が所有権登記名義を得ました。この時点で、後から所有権が否定される状態だった、という非常に特殊な入札といえます。
その後、仮登記の本登記によって、その名義人は優先されることになります。この優先される名義人が、相続人よって2人存在することになりました。その一方、つまり共有者の1人が買受人の所有権登記の抹消を求めました。
仮登記の本登記により、被告名義の登記は実体とまったく合致しない状態になっていたのです。そこで裁判所は全部抹消を認めました。

昭和35年最高裁(先順位の仮登記の本登記の優先扱い)

あ 主要事項の整理
原告 侵害あり・被害者の一部
被告 実体上の権利なし(第三者)
不正な登記 所有権移転登記(単独所有)
不正な登記と実体の一致 完全になし
第1判別 一致は完全になし→是正方法は全部抹消(抹消登記)となる
第2判別 (原告は)侵害あり→結論2=全部抹消(抹消登記)を請求できる(当然範囲の限定なし)
法律構成 保存行為の指摘あり
い 事案

AからBへの所有権移転請求権保全の仮登記がなされた
その後、抵当権が設定された
抵当権が実行された
Y(被告)が買受人となり、所有権を取得した
Yへの所有権移転登記がなされた
Bが、所有権移転請求権保全の仮登記の本登記を得た
Bが死亡し、相続人X(原告)・Cが承継した

う 裁判所の判断

共同相続人(共有者)の1人は、保存行為として、単独で所有権移転登記の抹消登記手続を請求できる

え 改正前の不動産登記法(補足)

昭和35年の不動産登記法の改正前においては
仮登記の本登記において、劣後することになる登記名義人の承諾が不要であった
※不動産登記法105条、146条1項参照
※最高裁昭和35年12月9日

7 平成15年最高裁(侵害を受けていない共有者の抹消請求)

これまでの判例は、いずれも原告が登記上、侵害を受けている者でした。
このケースでは、登記上は侵害を受けていない者(共有者)が原告となっていました。
裁判所は、共有物の妨害が生じているので、各共有者は抹消登記手続を請求できると判断しました。
登記と実体の一致がまったくないために抹消登記を認めたと考えるととてもシンプルです。一般に抹消登記では原告の持分の回復を超えた是正がなされることは許容されているのです。

平成15年最高裁(侵害を受けていない共有者の抹消請求)

あ 主要事項の整理
原告 侵害なし・被害者ではない
被告 実体上の権利なし(第三者)
不正な登記 共有持分移転登記
不正な登記と実体の一致 完全になし
第1判別 一致は完全になし→是正方法は全部抹消(抹消登記)となる
第2判別 (原告は)侵害なし
第3判別 被告は第三者である→結論4=全部抹消(抹消登記)を請求できる(当然範囲の限定なし)
法律構成 保存行為の指摘なし
い 事案

Aが死亡した
相続で共同相続人B・C・Dが不動産を承継した
B・C・Dの共有とする移転登記がなされた
B持分をEに移転する実体のない登記がなされた(不正登記)
C・DがEの持分移転登記の抹消を請求した

う 裁判所の判断

不正(無効)な登記は共有物の妨害である
共有者は妨害排除請求権を行使できる
抹消登記手続請求を認めた
※最高裁平成15年7月11日

このケースでは、差戻審で和解が成立したと思われますが、仮に原告が勝訴判決を得た場合には、登記申請手続はどのようになるのか、という問題があります。
詳しくはこちら|不正な登記の抹消請求における共同訴訟形態・原告になれる共有者の問題

8 平成22年最高裁(原告への更正登記のみ認めた)

共有者の1人が、不正な共有持分の登記名義を持つ者に対して抹消(更正)を求めたケースです。登記手続としては、一部抹消(更正登記)ということになります。そこで、裁判所は認める範囲を原告の持分を回復する部分に限定しました。妨害排除請求権よりも、原告以外の(登記上の侵害を受けている)共有者の処分権に介入しない(私的自治を保護する)ことを重視した結論であるといえます。
事案内容は少し複雑です。そこで、判断の要素が分かるように、事案と裁判所の判断を簡略化したものを記載するとともに、オリジナルの事案内容も別に記載しました。

平成22年最高裁(原告への更正登記のみ認めた)

あ 主要事項の整理
原告 侵害あり・被害者の一部
被告 実体上の権利なし(第三者)
不正な登記 所有権保存登記
不正な登記と実体の一致 一部あり(原告・被告以外の共有者の持分の一部は一致する)
第1判別 一致あり→是正方法は一部抹消(更正登記)となる→結論1=原告の持分を回復する範囲の一部抹消(更正登記)
法律構成 保存行為の指摘なし
い 事案(簡略化)

建物はA・Bの共有であった
しかし、A・B・Cを共有者とする所有権保存登記がなされていた
AがCに対してC持分の抹消登記手続を請求した

う 裁判所の判断(簡略化)

C持分の抹消登記B(原告に入っていない共有者)への更正登記を含む
→Aが請求することはできない
AはA持分についての一部抹消登記だけを請求できる
登記手続上は更正登記となる

え 正確な事案と判決の内容
A1=原告 A2=原告 C=被告 B
実体 50% 25% 0% 25%
不正な保存登記 25% 12.5% 50% 12.5%
更正登記の結果(判決) 50% 25% 12.5% 12.5%

※最高裁平成22年4月20日

本記事では、第三者(共有者以外)が有する不正な登記名義の抹消を求めたケースの判例を紹介しました。
前述のように、判断の内容となる理論は複雑です。
実際に不正な登記に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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