1 第三者(共有者以外)の不正な登記の抹消請求の判例の集約
2 大正12年大判(鉱業権の移転登録)
3 大正15年大判(先順位抵当権の抹消)
4 昭和31年最高裁(登記原因の同一性が欠ける)
5 昭和33年最高裁(組合財産)
6 昭和35年最高裁(先順位の仮登記の本登記の優先扱い)
7 平成15年最高裁(侵害を受けていない共有者の抹消請求)
8 平成22年最高裁(原告への更正登記のみ認めた)

1 第三者(共有者以外)の不正な登記の抹消請求の判例の集約

実体上の権利を持たない者の名義の登記は無効です。真の権利者は抹消登記手続を請求できます。請求する者や,請求を認める範囲など,法的な扱いは複雑になります。
詳しくはこちら|不正な登記の抹消請求の全体像(法的問題点の整理・判例の分類方法・処分権主義)
このようなケースの判例は数多くあります。
本記事では,第三者(共有者以外)が不正な登記名義を有するケースにおいて,登記上,持分を侵害された共有者(被害者)のうち一部の者だけが原告となって登記の是正を求めた事例(判例)を紹介します。従来の判例の分類における甲類型とされるものです。
判決(決定)が出された時期の順に説明します。
また,事案内容の整理(表)は,新方式の判断基準に沿ったものです。新方式の判断基準については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不正な登記の抹消を認める範囲(全部抹消の可否)の新方式の判別基準

2 大正12年大判(鉱業権の移転登録)

鉱業権について,実体上の権利の移転はないのに移転の登録がなされたケースです。鉱業権の公示制度は登記ではなく登録です。しかし法的には登記と同じ扱いです(鉱業法59条2項)。
裁判所は,準共有者の1人が保存行為として,全部の抹消を請求できると判断しました。なお,登記と異なり鉱業権登録効力要件です(鉱業法60条)が,この判例の判断とは関係ありません。

<大正12年大判(鉱業権の移転登録)>

原告 被害者の一部
被告 実体上の権利なし
無効な登録 鉱業権の移転登録(権利者=被告,義務者=原告・A)
登録と実体の一致 完全になし
判断1(必要な是正登録の種類) 抹消登録(必然的に原告以外の共有者の持分をも回復する)
法律構成 保存行為の指摘あり

※大判大正12年4月12日

3 大正15年大判(先順位抵当権の抹消)

後順位抵当権の準共有者の一部が実体を欠く先順位抵当権の抹消を求めたケースです。裁判所は保存行為として全部抹消を認めました。所有権(共有持分権)についても成り立つ考え方です。

<大正15年大判(先順位抵当権の抹消)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者の一部
被告 実体上の権利なし
無効な登記 (先順位の)抵当権設定登記
登記と実体の一致 完全になし
判断1(必要な是正登記の種類) 抹消登記(必然的に原告以外の共有者の持分をも回復する)
法律構成 保存行為の指摘あり
い 事案

第1抵当権が被担保債権の消滅により消滅した
第2抵当権の共有者の1人が債権消滅の確認+第1抵当権の登記抹消を請求した

う 裁判所の判断

後順位抵当権の準共有者1人が請求できる
※大判大正15年5月14日

4 昭和31年最高裁(登記原因の同一性が欠ける)

共有者の1人が,不正な単独所有登記名義を持つ者に対して抹消を求めたケースです。被告が持つ共有持分の範囲では登記と実体が一致しているように思えます。しかし,登記原因の点では登記と実体の同一性はないという状態でした。そこで裁判所は全部抹消を認めました。
結果的に原告以外の共有者の登記上の持分も回復につながることになります。このことについては,抹消登記であれば妨害排除請求権,あるいは保存行為という理論により認められています。

<昭和31年最高裁(登記原因の同一性が欠ける)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者の一部
被告 実体上の権利なし
無効な登記 所有権移転登記
登記と実体の一致 完全になし
判断1(必要な是正登記の種類) 抹消登記(必然的に原告以外の共有者の持分をも回復する)
法律構成 保存行為の指摘あり
い 事案

AがBに売却した
Bが死亡し,X(原告)・Cが2分の1ずつ承継した
AからY(被告)に不正な移転登記がなされた

う 裁判所の判断

共同相続人(共有者)の1人が単独で所有権移転登記の全部の抹消を請求できる
※最高裁昭和31年5月10日

5 昭和33年最高裁(組合財産)

共有者の1人が,不正な単独所有登記名義を持つ者に対して抹消を求めたケースです。裁判所は全部抹消を認めました。結果的に原告以外の共有者の登記上の持分の回復につながることになりました。

<昭和33年最高裁(組合財産)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者の一部
被告 実体上の権利なし
無効な登記 (建物の)保存登記(単独所有)
登記と実体の一致 完全になし
判断1(必要な是正登記の種類) 抹消登記(必然的に原告以外の共有者の持分をも回復する)
い 事案

原告とAが組合契約を締結した
組合財産である建物について被告名義の保存登記がなされていた

う 裁判所の判断

組合員の1人は単独で,組合財産である不動産につき登記簿上の所有名義人に対して登記の抹消を求めることができる
※最高裁昭和33年7月22日

6 昭和35年最高裁(先順位の仮登記の本登記の優先扱い)

仮登記に劣後する抵当権が実行され,買い受けた者が所有権登記名義を得ました。この時点で,後から所有権が否定される状態だった,という非常に特殊な入札といえます。
その後,仮登記の本登記によって,その名義人は優先されることになります。この優先される名義人が,相続人よって2人存在することになりました。その一方,つまり共有者の1人が買受人の所有権登記の抹消を求めました。
仮登記の本登記により,被告名義の登記は実体とまったく合致しない状態になっていたのです。そこで裁判所は全部抹消を認めました。

<昭和35年最高裁(先順位の仮登記の本登記の優先扱い)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者の一部
被告 実体上の権利なし
無効な登記 所有権移転登記(単独所有)
登記と実体の一致 完全になし
判断1(必要な是正登記の種類) 抹消登記(必然的に原告以外の共有者の持分をも回復する)
法律構成 保存行為の指摘あり
い 事案

AからBへの所有権移転請求権保全の仮登記がなされた
その後,抵当権が設定された
抵当権が実行された
Y(被告)が買受人となり,所有権を取得した
Yへの所有権移転登記がなされた
Bが,所有権移転請求権保全の仮登記の本登記を得た
Bが死亡し,相続人X(原告)・Cが承継した

う 裁判所の判断

共同相続人(共有者)の1人は,保存行為として,単独で所有権移転登記の抹消登記手続を請求できる

え 改正前の不動産登記法(補足)

昭和35年の不動産登記法の改正前においては
仮登記の本登記において,劣後することになる登記名義人の承諾が不要であった
※不動産登記法105条,146条1項参照
※最高裁昭和35年12月9日

7 平成15年最高裁(侵害を受けていない共有者の抹消請求)

これまでの判例は,いずれも原告が登記上,侵害を受けている者でした。
このケースでは,登記上は侵害を受けていない者(共有者)が原告となっていました。
裁判所は,共有物の妨害が生じているので,各共有者は抹消登記手続を請求できると判断しました。
登記と実体の一致がまったくないために抹消登記を認めたと考えるととてもシンプルです。一般に抹消登記では原告の持分の回復を超えた是正がなされることは許容されているのです。

<平成15年最高裁(侵害を受けていない共有者の抹消請求)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者ではない(登記上侵害を受けていない共有者)
被告 実体上の権利なし
無効な登記 共有持分移転登記
登記と実体の一致 完全になし
判断1(必要な是正登記の種類) 抹消登記(必然的に原告以外の共有者の持分をも回復する)
法律構成 保存行為の指摘なし
い 事案

Aが死亡した
相続で共同相続人B・C・Dが不動産を承継した
B・C・Dの共有とする移転登記がなされた
B持分をEに移転する実体のない登記がなされた(不正登記)
C・DがEの持分移転登記の抹消を請求した

う 裁判所の判断

不正(無効)な登記は共有物の妨害である
共有者は妨害排除請求権を行使できる
※最高裁平成15年7月11日

このケースでは,差戻審で和解が成立したと思われますが,仮に原告が勝訴判決を得た場合には,登記申請手続はどのようになるのか,という問題があります。
詳しくはこちら|不正な登記の抹消請求における共同訴訟形態・原告になれる共有者の問題

8 平成22年最高裁(原告への更正登記のみ認めた)

共有者の1人が,不正な共有持分の登記名義を持つ者に対して抹消(更正)を求めたケースです。登記手続としては,登記上新たに共有持分を得る者が登記権利者となる加入(記入)更正です。そこで,裁判所は認める範囲を原告の持分を回復する部分に限定しました。

<平成22年最高裁(原告への更正登記のみ認めた)>

あ 主要事項の整理
原告 被害者の一部
被告 実体上の権利なし
無効な登記 所有権保存登記
登記と実体の一致 一部あり(原告・被告以外の共有者の持分の一部は一致する)
判断1(必要な是正登記の種類) 更正登記(実体に合致する部分は登記上維持される)
更正登記による登記上の持分の増加の有無 増加させる
判断2(更正登記の中の分類) 原告の持分のみを回復する更正登記
い 事案

建物はA・Bの共有であった
しかし,A・B・Cを共有者とする所有権保存登記がなされていた
AがCに対してC持分の抹消登記手続を請求した

う 裁判所の判断

C持分の抹消登記B(原告に入っていない共有者)への更正登記を含む
→Aが請求することはできない
AはA持分についての一部抹消登記だけを請求できる
登記手続上は更正登記となる
※最高裁平成22年4月20日

本記事では,第三者(共有者以外)が有する不正な登記名義の抹消を求めたケースの判例を紹介しました。
前述のように,判断の内容となる理論は複雑です。
実際に不正な登記に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。