1 共有不動産の不正な登記の是正方法の判別フローと『支障』の整理
2 不正な登記の是正方法の判別フロー・完全版
3 判別フローをさらに分岐させる考え方(概要)
4 結論(類型)ごとの妨害排除請求の制限の有無と支障の内容
5 過去の判例の事案のあてはめ(分類)の結果
6 結論3(是正方法は抹消登記・原告の侵害なし)の具体例

1 共有不動産の不正な登記の是正方法の判別フローと『支障』の整理

実体上の権利と合致しない登記は無効です。そこで,一定の関係者は登記の是正を請求することができます。具体的には,不正な登記の抹消登記や更正登記手続,あるいは真正な登記名義の回復による移転登記手続の請求です。
このような登記手続の請求が,共有が関係する不動産で行われる場合,誰が請求できるか(原告となれるのか),どのような登記(抹消登記,更正登記,移転登記)を請求できるのか,また,更正登記の場合には原告の持分を回復する範囲を超えた回復を請求できるか,という問題があります。
詳しくはこちら|共有不動産の不正な登記の是正の全体像(法的問題点の整理・判例の分類方法・処分権主義)
これについて,従来提唱されていた考え方と,現在一般的になっている考え方の2つがあります。
詳しくはこちら|共有不動産に関する不正な登記の是正方法の従来方式判別基準
詳しくはこちら|共有不動産に関する不正な登記の是正方法の新方式判別基準
当事務所(MC)としては,新方式による判別基準を元にして,具体的事案に適用される是正方法を簡単に判断できるよう,判別フローとして完成させました。
また,新方式による判別基準の理論(解釈)の中では,支障を避けるという理由が登場します。その支障についても一緒に整理します。

2 不正な登記の是正方法の判別フロー・完全版

判別フローの全体(完全版)を示します。

<不正な登記の是正方法の判別フロー・完全版>

あ 第1判別

質問 不正な登記と実体に(一部)一致があるかどうか?

Yes(一致あり)→是正方法は一部抹消(更正登記)となる→結論1=原告の持分を回復する範囲の一部抹消(更正登記)(後記※4)
No(完全になし)→是正方法は全部抹消(抹消登記)となる→第2判別へ

い 第2判別(抹消登記の中の分類)

質問 原告は登記上侵害を受けているか?

Yes(侵害あり)→結論2=全部抹消(抹消登記)を請求できる(当然範囲の限定なし)(後記※5)
No(侵害なし)→第3判別へ

う 第3判別(抹消登記・原告の侵害なし)

質問 被告は共有者か?(共有持分を有する者か?)

Yes(共有者である)→結論3=いかなる是正の請求もできない
No(第三者である)→結論4=全部抹消(抹消登記)を請求できる(当然範囲の限定なし)

前記のように,この判別フローは,新方式の判別基準を元にしています。新方式の判別基準の内容(理論・解釈)については次の記事をご覧ください。
詳しくはこちら|共有不動産に関する不正な登記の是正方法の新方式判別基準

3 判別フローをさらに分岐させる考え方(概要)

前記の判別フローは,過去の判例の理論どおりの結果にたどり着くように作ってあります(後述)。ただし,過去の判例には登場していない状況については,確実に適切な結論にたどり着くとは言い切れません。過去の判例からは判定できない(未解決の)問題がいくつかあります。高度な議論になりますので,それぞれ別の記事で説明しています。

<判別フローをさらに分岐させる考え方(概要)>

あ 更正登記の場合分け(※4)

結論1を,更正登記の内容によって次のように分けて扱う発想もある
権利取得の実質がある→原告の持分を回復する範囲にとどめる(結論1のまま)
権利取得の実質はない→原告の持分回復を超えることを認める
詳しくはこちら|共有不動産の更正登記請求において原告の持分回復を超えることの可否の検討

い 抹消登記の場合分け(※5)

全部抹消(抹消登記)(主に結論2)を,事情によっては認めず,一部抹消(更正登記)の範囲を認めるにとどめる見解もある
詳しくはこちら|複数の共有者の持分全部移転が不実であったケースにおける全部抹消(抹消登記)の可否

4 結論(類型)ごとの妨害排除請求の制限の有無と支障の内容

判別フローでは案件の内容によって4つの類型に分類しました(結論1〜4)。それぞれの分類(類型)ごとに,結論が決まる理由は,妨害排除請求権に制限がかかるかどうかや,支障の内容(生じるかどうか)です。これらについては新方式による判別基準の記事で説明していますが,ここでは結果だけを表にまとめます。

<結論(類型)ごとの妨害排除請求の制限の有無と支障の内容>

あ まとめ
類型 妨害排除請求権の制限の有無 原告以外の者の処分権に関する支障 登記手続上の支障
結論1 ―(普通) (原告の持分回復を超えると)支障が生じる (原告の持分回復を超えると)支障が生じる(※1)
結論2 ―(普通) (原告の持分回復を超えると)支障が生じる (原告の持分回復を超えても)支障は生じない(登記手続上の保存行為であるため)
結論3 制限あり 支障が生じる 支障が生じる
結論4 制限なし 支障が生じる 支障が生じる
い 注記

※1 原告の持分回復を超える一部抹消(更正登記)であっても,更正登記の内容(登記が示す物権変動)に,権利取得の実質がない場合には支障は生じない(がそのような事例は判例にはみあたらない),このことを理由として,結論1をさらに場合分けする考え方もある(前記※4)

5 過去の判例の事案のあてはめ(分類)の結果

過去の判例(裁判例)の事案について,前記の判別フローに当てはめた結果を分類してみました。1件を除いて裁判所の判断結果と一致した結論にたどり着いています。
唯一結論が異なっているのは昭和43年大阪高裁(後記※2)です。なぜ異なっているのか,については別の記事で説明しています。

<過去の判例の事案のあてはめ(分類)の結果>

あ 結論1

平成22年最高裁
(大正8年大判(判例変更前・※6)),大正10年大判,昭和37年最高裁,昭和38年最高裁,昭和39年1月最高裁,昭和39年4月最高裁,(昭和43年大阪高裁(※2)),昭和44年最高裁,昭和59年最高裁,昭和60年最高裁

い 結論2

大正12年大判,(大正15年大判),昭和31年最高裁,昭和33年最高裁,昭和35年最高裁
平成8年東京高裁,平成17年最高裁

う 結論3

該当なし(後記※3)

え 結論4

平成15年最高裁

お (注記)

緑色は,従来方式における甲類型(被告が共有者ではない)を示す
昭和43年大阪高裁(前記※2)は,判別フローへあてはめた結果と当該裁判例の結果(裁判所の判断)が異なっている,その理由については別の記事で説明している
詳しくはこちら|原告の持分回復を超える更正登記を認めた昭和43年大阪高裁の分析
大正8年大判(前記※6)は,判別フローへあてはめた結果と当該判例の結果(裁判所の判断)が異なっている,大正10年大判による判例変更より前の判断であったためであると思われる
詳しくはこちら|第三者(共有者以外)の不正な登記の抹消請求の判例の集約

6 結論3(是正方法は抹消登記・原告の侵害なし)の具体例

判別フローにあてはめた結果が,結論3に該当する事案は過去の判例ではみあたりません。そこで,具体例を挙げておきます。

<結論3(是正方法は抹消登記・原告の侵害なし)の具体例(※3)>

あ 事案

ア 最初の状態
ABCの共有であり,登記もそのとおりであった
イ 実体
物権変動なし
ウ 不正な登記
B持分→Cに移転
エ 是正の請求
AがCに対して抹消登記を請求した

い 主要事項の整理
原告 侵害なし・被害者ではない
被告 実体上の権利あり(共有者)
不正な登記 共有持分移転登記
不正な登記と実体の一致 完全になし
う 判別フローへのあてはめ

ア 第1判別
不正な登記と実体の一致は完全になし→是正方法は抹消登記である
イ 第2判別
原告は登記上侵害を受けていない
ウ 第3判別
被告は共有者である
エ 結論
いかなる是正の請求もできない(『結論3』)

本記事では,共有不動産に関する不正な登記の是正方法の判別基準のうち,新方式による判別基準を元にした判別フローと,解釈の中で登場する支障の整理を紹介(説明)しました。
理論は複雑で,いろいろな見解があります。
実際に不正な登記に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。