1 境界を判断する事情の分類と立証方法
2 境界の判断材料となる事情の分類
3 占有状況による境界の判断
4 占有状況の立証方法
5 面積による境界の判断
6 公簿面積の正確性・精度
7 面積に関する立証方法
8 公図その他の図面による境界の判断(概要)
9 境界標となる木・石による境界の判断
10 境界標となる木や石に関する立証方法
11 自然地形による境界の判断
12 自然的地形に関する立証方法
13 道路・山道による境界の判断
14 道路・山道に関する立証方法
15 林相・樹齢による境界の判断
16 林相・樹齢に関する立証方法

1 境界を判断する事情の分類と立証方法

境界のトラブルでは境界を特定するという解決を目指します。
この点,境界の特定の判断では多くの事情を元に判断します。
詳しくはこちら|境界確定訴訟における境界の判断の枠組み(判例とドイツ民法)
本記事では,境界の判断に用いる多くの事情を分類します。
そして,分類されたそれぞれの事情を使って境界を判断する方法やそのような事情を立証する方法を説明します。

2 境界の判断材料となる事情の分類

最初に,境界の位置を判断する材料となる事情を分類します。

<境界の判断材料となる事情の分類>

あ 占有状況
い 面積

公簿面積(登記上の地積)との関係

う 公図その他の図面
え 境界標

境界木or境界石など

お 自然地形

尾根・崖・谷など

か 道路・山道
き 林相・樹齢

※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p481
※大阪地方裁判所民事訴訟実務検討委員会計画審理検討小委員会『訴訟類型に着目した訴訟運営』/『判例タイムズ1077号』p6

この分類の中の各項目(事情)については,以下,順に説明します。

3 占有状況による境界の判断

土地を占有していた状況は,境界の判断と強く結びつきます。

<占有状況による境界の判断>

あ 占有と所有の関係(前提)

占有によって所有権が推定される
※民法186条1項
→所有権の境と筆界は一致する傾向がある

い 境界の判断への影響

占有状況は重視される
※大判昭和11年3月10日参照
※東京高裁昭和39年11月26日参照

う 正確性

占有状況(占有境)は不明確であることもよくある
例=共用の通路・土地の小さい範囲の貸与

4 占有状況の立証方法

例えば,塀ではっきりと区切られていれば,これが占有の境です。
しかし,このようにはっきりと占有状況が判明しないことが多いです。
実際には,過去にさかのぼると,昔は塀があったというようなケースもあります。
そこで,過去の占有状況を,写真や証言で再現するということがよくあります。

<占有状況の立証方法>

あ 立証目標

現地の実際の使用状況を再現する

い 立証方法

ア 住民の記憶(証言)
例=当事者・近隣住民・長老的人物の証言
イ 写真
一般的な地上の写真
ウ 航空写真
エ 検証
現時点の占有状況を把握する

5 面積による境界の判断

土地の面積も境界の判断に大きな影響があります。
例えば,実際に計測した面積が登記上の面積(公簿面積)と一致していたら,境界として正しいと考えられます。

<面積による境界の判断>

あ 公簿面積の精度の低さ(前提)

公簿面積は実測面積と一致しないことが多い
精度自体は低い傾向がある(後記※1)

い 実測面積と公簿面積の比較

境界に接する両方の土地について面積を実測する
公簿面積と比較する
※福岡高裁昭和46年5月17日参照
※福岡高裁昭和46年7月22日参照

う 公簿面積の割合の考慮

両方の土地の公簿面積の割合も考慮する
※最高裁昭和33年10月21日参照

6 公簿面積の正確性・精度

実際には登記上の地積(公簿面積)は非常に粗い,つまり,誤差が大きいという傾向があります。

<公簿面積の正確性・精度(※1)>

あ 公簿面積の起源

当初の公簿面積は
明治6年の地価台帳制の施行時のものである
→測量の精度が低かった(い)

い 不正確な測量
縄延び 実測面積が公簿面積よりも大きい (元)農地に多い
縄縮み 実測面積が公簿面積よりも小さい 市街地に多い
う 不正確性の補正

対象地域における縄延び(縄縮み)の割合が参考になる
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p481,482

え 精度の高い公簿面積

近年の測量結果が公簿面積となっていることも多い
例=比較的新しい時期に分筆や合筆が行われた

7 面積に関する立証方法

面積を元に境界の位置を判断するためには,計測した面積と公簿面積が必要です。
実測した面積は,測量図が適しています。
また,鑑定を実施する際は,その中の1事項として測量を含むことが多いです。

<面積に関する立証方法>

あ 立証目標

現状の面積と公簿面積の比較ができるようにする

い 立証方法

ア 登記事項証明書(書証)
イ 地積測量図(準書証)
ウ 実況測量図(準書証)
エ 鑑定
測量を含むもの

8 公図その他の図面による境界の判断(概要)

公図はもともと土地の境界(公法上の境界)を示すために作られた公的な資料です。
直接的な境界を判断(再現)するための資料です。
ただし,不正確であること多いので,信用性の判断には大きな幅があります。
公図やその他の図面・地図による境界の判断については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|公図・地図・図面による境界の判断(特定)と立証方法

9 境界標となる木・石による境界の判断

現地で境界を示すものにはいろいろなものがあります。
近年測量したところでは,人工の境界杭がよく使われています。
詳しくはこちら|境界標の設置|隣地所有者の承諾|確定判決・筆界特定の扱い
このようなしっかりした境界標がないから境界が判明せず,トラブルになるわけです。
一方,はっきりはしないけれど境界を示していたはずの木や石があることも多いです。
境界を示していたことさえ判明すれば,境界を特定することにつながります。

<境界標となる木・石による境界の判断>

あ 境界木・境界石の利用の実情

木や石が境界を示すものとして用いられることがある
山林では境界木が多い
都市部では境界石が多い

い 当事者の合意の効力

隣接する土地所有者が合意して境界を定めた(境界標を設置した)場合であっても
筆界が特定するわけではない
※最高裁昭和31年12月28日

う 境界の判断における評価

境界石・境界木・境界石について
→いずれも有力な資料となる
背景となる事情(え)によって評価が異なる
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p483

え 評価に影響を及ぼす事情

ア 境界を示すものかどうか
イ 誰がいつどのような経緯で設置したのか
ウ 移動されていないか
当事者が境界木や境界石を移動する可能性もある
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p483

お 境界木による境界の判断の実例

『牛殺し』と呼ばれる境界木が存在した
これを主たる根拠として境界を特定した
※東京高裁昭和54年6月19日

境界標(当事者の合意)と筆界(特定)の関係
筆界の特定において,
隣接する土地所有者が合意して境界を定めた(境界標を設置した)
→筆界が特定するわけではない
境界標は判断材料の1つという位置づけである
※最高裁昭和31年12月28日

10 境界標となる木や石に関する立証方法

境界木や境界石による境界の立証では,現在これらが存在している位置と,設置した背景(過去)の両方を判明する必要があります。

<境界標となる木や石に関する立証方法>

あ 立証目標

境界を示す木や石の現状と設置経緯を明らかにする

い 現状の立証方法

ア 検証
イ 写真
ウ 測量
現況測量図・鑑定

う 設置経緯の立証方法

ア 住民の記憶(証言)
イ 設置した時期の写真

11 自然地形による境界の判断

境界の起源を考えると,尾根・崖・谷のような自然地形が境界として使われた可能性が高いです。
そこで,これらの自然地形は山林エリアの土地の境界の判断につながります。

<自然地形による境界の判断>

あ 自然地形と境界の関係

山林では自然地形によって境界を設定していることが多い
自然地形の例=尾根・崖・谷

い 関係性の程度

地形は長い年月の間に変化することがある
地形にがある場合
→中心線が境界を示すとは限らない
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p483

12 自然的地形に関する立証方法

自然地形を境界の判断に使うためには,位置を特定する必要があります。
大雑把なものであれば写真が使えますが,より精度の高い位置の特定には測量が必要となります。

<自然的地形に関する立証方法>

あ 立証目標

尾根・崖・谷の位置を明らかにする

い 立証方法

ア 検証
イ 写真
一般的な地上の写真や航空写真
ウ 測量
現況測量図・鑑定

13 道路・山道による境界の判断

道路や山道を使って境界が設定されたということもよくあります。
そこで,道路や山道の位置は境界を判断で使われることがあります。

<道路・山道による境界の判断>

あ 道路・山道と境界の関係

道路や山道を境界として定められていることもある

い 関係性の程度

特に山道は容易に作られる,移動することがある
自然地形よりは境界を示す程度(価値)が低い
けもの道を山道と見誤るリスクもある
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p483

14 道路・山道に関する立証方法

道路や山道を境界の判断に使うためには,正確な位置を判明させる必要があります。
公道であれば,官民査定図として測量結果が保存されているはずです。
また,新たに測量をして立証に使うケースも多いです。

<道路・山道に関する立証方法>

あ 立証目標

道路・林道の位置を明らかにする

い 立証方法

ア 官民査定図
イ 検証
ウ 写真
一般的な地上の写真や航空写真
エ 測量
現況測量図・鑑定

15 林相・樹齢による境界の判断

一見すると森や林でも,細かく木の状況を観察するとが見えてくることがあります。
木などの植物の種類や古さ(年輪)が,ある場所を境に違っているという状況です。
この場合,別の者が管理していたことが分かります。
ということは,別の者の所有地だったという判断につながります。

<林相・樹齢による境界の判断>

あ 林相・樹齢と境界の関係

植林している場合
林相や樹齢が異なることにより
植林者(占有者)が異なることが推認できる
→境界を判断する参考になる
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p483

い 伐採後の痕跡

伐採後において
切株によって樹齢を判定できることがある

う 正確性の傾向

実際には対象地が雑木林や雑草地であることが多い
→占有状況は判定しにくい
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p483,484

16 林相・樹齢に関する立証方法

林相や樹齢を境界の判断に使うためには,木などの植物の状態とその位置を判明させる必要があります。
検証として現地で観察するとか,鑑定として植物の種類を専門的に調査するなどの立証方法があります。

<林相・樹齢に関する立証方法>

あ 立証目標

植林状況・樹齢・樹木の種類・植林時期を明らかにする

い 立証方法

ア 検証
イ 写真
ウ 鑑定

本記事では,筆界(公法上の境界)の位置を特定する材料となる事情とその立証方法を説明しました。
実際のトラブルでは,多くの細かい事情を丁寧に主張・立証することが有利な結果(判断)につながります。
実際に境界に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。