1 境界確定訴訟の判断の枠組み
2 境界の判断枠組みの全体像
3 昭和11年判例の境界の判断枠組み
4 ドイツ民法による境界の判断枠組み
5 理由の合理性と検証可能性
6 境界の判断として採用した枠組み別の分類
7 境界の判断の材料となる具体的な事情(概要)

1 境界確定訴訟の判断の枠組み

土地の境界(公法上の境界=筆界)が不明確であり,意見の対立が生じてトラブルとなるケースはよくあります。
いくつかの解決方法がありますが,代表的なものは境界確定訴訟や筆界特定制度です。
いずれの手続でも境界(筆界)を特定することが原則的な最終目標となります。
ここで,境界を判断する方法や基準にはいろいろなものがあります。
本記事では,境界を判断する基準の大きな枠組みを説明します。

2 境界の判断枠組みの全体像

境界の判断の基準には明確な基準として条文として規定されているようなものはありません。
判例としても,しっかりと統一的な基準として明確化したものはありません。
だからこそ,多くの裁判例やその他の見解から,共通するところを枠組みとしてまとめることが必要になっているのです。

<境界の判断枠組みの全体像>

あ 成文法

ア 現在
日本の成文法には境界の判断基準についての規定・基準がない
イ 過去
境界が創設された頃の各種の公的規定について
例=条例・規則・細目など
境界確定基準を間接的に規定するものもあった
※藤澤徹ほか『土地境界基本実務1〜境界鑑定1(基本実務)〜』日本土地家屋調査士会連合会p142

い 判例における基準

基準を明示した判例について
→大審院のもの(後記※1)だけである
内容はドイツ民法(後記※2)を流用したものである
※松村俊夫『境界確定の訴 増補版』有斐閣p10,11
多くの裁判例でドイツ民法を流用している
※藤澤徹ほか『土地境界基本実務1〜境界鑑定1(基本実務)〜』日本土地家屋調査士会連合会p142

う 学説

境界そのものに関する学説は多くない
※藤澤徹ほか『土地境界基本実務1〜境界鑑定1(基本実務)〜』日本土地家屋調査士会連合会p143

3 昭和11年判例の境界の判断枠組み

判例として判断基準(枠組み)自体をテーマとしてしっかりと明示した唯一のものがあります。
現在の最高裁に相当する大審院の昭和11年の判例です。

<昭和11年判例の境界の判断枠組み(※1)>

あ 大原則

常識に訴え最も妥当であると認められるところに従って境界を見出す

い 占有状態

各土地の所有者が各自占有する境を境界とする
※民法186条1項参照

う 平分

占有の境が判明しないときは,争いある部分を平分する
中立・公平に判断する趣旨である

え 他の事情の考慮

確定した事情と牴触する場合は,その事情を参酌して適宜の措置を講ずる
例;土地台帳や登記上の面積(地積)
総合判断をするということになる

お 地勢・地形との整合性

境界を直線とする必要はない
できる限り自然の地勢や人工の地形を利用する
例;山林,水沢,道,崖岸
多少『い・う』の方針を犠牲にしてもよい
※大判昭和11年3月10日
※現代の表現に変えてある

4 ドイツ民法による境界の判断枠組み

日本の法律(民法)には,境界の判断基準(枠組み)は規定されていません(前記)。
この点,ドイツの民法では,境界の判断基準が条文として明記されています。
前記の大審院判例を始めとして,日本の裁判でも流用されています。

<ドイツ民法による境界の判断枠組み(※2)>

あ ストレートな『境界』の事実認定

境界線が分明すれば,これを境界線とする

い 占有状態

境界線が分明しないときは,占有状態による

う 平分

占有状態が分明しないときは,係争地を平分する

え 他の事情の考慮

『い・う』によって, その結果が実情に一致しないときは,,その実情を斟酌して公平に適した方法で境界を定める
主な他の実情=土地の確定面積
※ドイツ民法920条

5 理由の合理性と検証可能性

直接的な境界の判断というわけではないですが,判断した理由の合理性も必要です。
当たり前ではありますが,判決に理由が示されていると,これが上訴(控訴や上告)での審査対象となります。
合理性を複数回検証することができます。3審制という制度の大前提ともいえます。

<理由の合理性と検証可能性>

あ 理由の合理性

判決は裁判所の判断である
合理的な理由が必要である

い 上訴における検証可能性

判決に記載された理由(あ)について
→上訴での審査対象となる
=上訴における合理性の検証可能性が確保される
※大判昭和11年3月10日
※東京高裁昭和39年11月26日
※東京高裁昭和48年8月30日

6 境界の判断として採用した枠組み別の分類

前記の判断枠組みは,実際の多くの裁判で使われています。
この判断枠組みを使ったことが分かりやすい裁判例を紹介します。
つまり,枠組みの中の特定の基準(項目)をほぼそのまま使って判断した事例ということです。

<境界の判断として採用した枠組み別の分類>

あ 占有状態による判断

ア 大判昭和11年3月10日
イ 東京高裁昭和39年11月26日
ウ 岡山地裁昭和42年4月19日

い 係争地の平分

東京地裁昭和46年4月28日

う 他の事情の考慮

『ア〜エ』は面積比率によって境界を確定した
ア 大判昭和11年3月10日
イ 最高裁昭和33年10月21日
ウ 東京高裁昭和48年12月12日
エ 東京地裁昭和51年4月30日

7 境界の判断の材料となる具体的な事情(概要)

以上の説明は,境界の判断の根本的な方針です。判断の枠組みともいえます。
いずれにしても一般的で抽象的な基準です。
実際に判断の材料となる事情(要素)については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|境界の位置を判断(特定)する事情ごとの判断基準と立証方法