1 借地法における異議を無視した再築の効果(総論)
2 異議を無視した再築の扱い(基本)
3 異議を無視した再築と法定更新
4 異議を無視した再築と正当事由の関係
5 正当事由の評価の例
6 正当事由の判断の具体例
7 異議を無視した再築後の建物買取請求権
8 建物買取請求における代金
9 再築禁止特約と再築許可の裁判(概要)
10 再築と用法違反(概要)
1 借地法における異議を無視した再築の効果(総論)
借地法では,建物の再築について地主の異議がない場合,借地期間が延長します。
詳しくはこちら|旧借地法における異議のない建物再築による期間延長(基本)
一方,地主がしっかり異議を述べれば借地期間の延長という効果は生じません。
逆に,地主が異議を述べても,原則として,再築自体を止められる(違法となる)わけではありません。
実際に地主の異議を無視して借地人が建物を再築するケースも多くあります。
このような場合には,借地法ではどのような扱いとなるのか,について本記事で説明します。
2 異議を無視した再築の扱い(基本)
建物の再築について地主が再築に反対しても,原則的に借地が終了する(解除できる)というわけではありません。
従前どおりの借地期間がそのまま生きている状態になります。
<異議を無視した再築の扱い(基本)>
あ 契約の存続
再築について地主が遅滞なく異議を述べた
借地人は再築を完了した
→期間の延長の効果が生じない
その結果は,『い・う』のいずれかとなる
※星野英一『法律学全集26 借地・借家法』有斐閣1969年p101
い 残存期間の存続(原則)
借地権は,残存期間について存続する
う 旧建物の朽廃時期に終了
朽廃に近づいていた建物の再築の場合
→『旧建物が朽廃したであろう時期』に終了する
※星野英一『法律学全集26 借地・借家法』有斐閣1969年p101
3 異議を無視した再築と法定更新
地主の反対を押し切って建物を再築したのだから,残る借地期間が終わったら今度こそ借地は終了するという発想もあります。
しかし,判例や学説を含めて法定更新が適用されることは一致しています。
つまり『更新が原則』ということになるのです。
<異議を無視した再築と法定更新>
あ 将来の法定更新の適用
地主の異議があるのに借地人が再築した場合
→法定更新の制度は適用される
※最高裁昭和47年2月22日;前提として
※通説
※星野英一『法律学全集26 借地・借家法』有斐閣1969年p102
※幾代通ほか『新版注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p456
い 正当事由の判断(概要)
正当事由において
地主の異議を無視して借地人が再築したことについて
法的な扱いは複数の見解がある(後記※1)
一般的な借地の法定更新や正当事由については別の記事で説明しています。
<→★旧借地法の法定更新
詳しくはこちら|借地の更新拒絶・終了における『正当事由』・4つの判断要素の整理
4 異議を無視した再築と正当事由の関係
法定更新の枠組みとして,『正当事由』があれば地主が更新拒絶をすることができます。
つまり,正当事由がなければ地主は更新を止められないのです。
この点,異議を無視して借地人が再築したことをどのように扱うか,については見解が分かれています。
一般的には,このことが一律に借地人に不利になるわけではありません。
<異議を無視した再築と正当事由の関係(※1)>
あ 借地人にマイナスの要素とする見解
正当事由の判断において
借地人による再築(取壊し+築造)が考慮される
=借地人に不利に働く
※鈴木禄弥『借地法(上)改訂版』青林書院1980年p366,367
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p188
い ニュートラルな見解
正当事由の判断において
『異議を無視した再築』は不利な材料にはならない
=一律に借地人に不利になるわけではない
※一般的な見解
※幾代通ほか『新版注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p456
※星野英一『法律学全集26 借地・借家法』有斐閣1969年p102
5 正当事由の評価の例
更新拒絶の正当事由として考慮される典型的な事情をまとめます。
<正当事由の評価の例>
あ 借地人にマイナス
改築の必要性が低かった
残存期間が極めて短いのに耐用年数の長い建物を築造した
用法違反がある
=非堅固建物所有目的であったが堅固建物を再築した
い 借地人にプラス
合理的理由がないのに地主が異議を述べた
相当な金銭の提供があったのに地主が異議を述べた
※幾代通ほか『新版注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p456
※星野英一『法律学全集26 借地・借家法』有斐閣1969年p102
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p191
6 正当事由の判断の具体例
更新拒絶の正当事由は,広い範囲の事情が考慮されます。
結果的に正当事由が否定された,つまり更新が止められなかった裁判例を紹介します。
<正当事由の判断の具体例>
正当事由を否定した裁判例
※名古屋高裁昭和51年9月16日
※名古屋高裁昭和54年6月27日
7 異議を無視した再築後の建物買取請求権
異議を無視して建物を再築しても,借地法では残存期間はそのまま生きています(前記)。
そして残存期間が満了した時に,借地人が建物買取請求権を行使するという発想があります。
詳しくはこちら|建物買取請求権の基本・要件・趣旨
複数の見解がありますが,建物買取請求権を認めるのが一般的です。
<異議を無視した再築後の建物買取請求権>
あ 前提事情
借地人が建物を再築した
地主は異議を述べた
従前の借地期間(残存期間)が満了した
借地人が建物買取請求権を行使した
い 建物買取請求権を肯定する見解(一般的)
認められる見解が一般的である
※東京地裁昭和14年11月29日
※通説
※幾代通ほか『新版注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p457
う 建物買取請求権を否定する見解(少数説)
買取請求権自体を否定する(少数説)
※東京控判昭和9年4月30日
8 建物買取請求における代金
地主の反対を押し切って建物を再築した後に建物買取請求権が行使されることがあります(前記)。
この場合は次に,買取代金の金額が問題となります。
まず,新建物と旧建物のどちらかを基準とする見解があります。
さらに,新築した建物の評価額を用いるが,支払方法としては猶予期間を設定する,という折衷的な見解もあります。
<建物買取請求における代金>
あ 旧建物を基準にする見解(多数説)
旧建物(滅失した建物)が現存するとしての時価による
※高島良一『借地・借家法(下)』p889
※広瀬次郎『借地人の建物買取請求権』/『契約法大系3』p15
い 新建物を基準にする見解(少数説)
新建物(再築建物)の時価による
※我妻栄『債権各論 中巻1 民法講義5-2』岩波書店1973年p494
う 折衷説
原則は再築建物の時価(い)による
新旧建物の時価の差額の範囲内において
裁判所が地主に支払の猶予期限を与える
※民法608条2項類推適用;賃借人の費用償還請求権
※鈴木禄弥『借地法(上)改訂版』青林書院1980年p376
※星野英一『法律学全集26 借地・借家法』有斐閣1969年p209
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p191,192
※幾代通ほか『新版注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p457
9 再築禁止特約と再築許可の裁判(概要)
以上の説明は再築を禁止する内容の特約がないケースを前提としています。
実際には,特約で再築を禁止する内容が決められていることも多いです。
このような特約は単純に有効とはいいきれません。
一般的には有効とされる傾向がありますが,具体的な適用の場面でいろいろな調整的な解釈がなされます。
裁判所による許可の手続(非訟手続)の利用もできます。
詳しい内容は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|再築禁止特約と増改築許可の利用(新旧法共通)
10 再築と用法違反(概要)
地主は借地人による建物の再築自体は原則的に止められません(前記)。
他方,再築が用法違反に該当することもあります。
この場合は,地主は解除することができる可能性があります。
<再築と用法違反(概要)>
あ 前提事情
借地人が建物の再築をした
再築した建物は用法違反に該当する
い 異議による解除
地主の異議がある場合
→用法違反による解除の対象となる
ただし,信義則の判断により解除が認められないこともある
※高松高裁昭和47年10月31日
詳しくはこちら|旧借地法における異議なしの建物再築の効果や法的扱い