【借地期間満了時の建物買取請求権の基本(借地借家法13条)】

1 借地期間満了時の建物買取請求権の基本(借地借家法13条)

借地期間が満了しても、通常は法定更新により、借地契約が終了することにはなりませんが、事案によっては終了します。借地契約が終了すると、借地人は建物を収去(解体)して土地を地主に返還する(明け渡す)必要があります。この状況で、借地人としては建物を地主に買い取らせる権利(建物買取請求権)があります。
本記事では、借地期間満了時の建物買取請求権の基本的な内容を説明します。

2 期間満了時の建物買取請求権の条文

最初に、条文を確認しておきます。旧借地法4条2項が、現在の借地借家法13条(1項)に引き継がれています。多少文言が改良されましたが、実質的な内容に違いはありません。また、借地借家法では、従前の解釈が2項、3項として追加されています。

期間満了時の建物買取請求権の条文

あ 旧借地法

借地権者ハ契約ノ更新ナキ場合ニ於テハ時価ヲ以テ建物其ノ他借地権者カ権原ニ因リテ土地ニ附属セシメタル物ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
※借地法4条2項

い 借地借家法

(建物買取請求権)
第十三条 借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
2 前項の場合において、建物が借地権の存続期間が満了する前に借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者の請求により、代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
3 前二項の規定は、借地権の存続期間が満了した場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。
※借地借家法13条

3 借地期間満了時の建物買取請求権の趣旨

建物買取請求権が作られた理由にはいろいろなものがありますが、主に2つです。建物買取請求権がない場合、期間満了で建物を解体せざるを得ないことになります。その場合、借地人としては建物を取得(建築)するために投下した資金を回収できません。また、社会全体としてみても、使える建物を解体してしまうことで損失といえます。建物買取請求権は、地主の負担の上で、このような不都合、不利益を回避する、という趣旨の制度です。

借地期間満了時の建物買取請求権の趣旨

あ 原則論による不都合

借地契約が終了すると借地人には原状回復義務がある
→建物を解体し、更地として地主に返すことになる
そうすると建物建築費用が無駄になる
投下資本の回収ができない状態になる
経済的価値の大きなものを消失させるので社会的損失でもある

い 建物買取請求権の趣旨

建物買取請求権によって次の事項を実現する
ア 借地人の保護イ 社会的損失の回避

4 建物買取請求権は強行規定

借地人は借地借家法13条で、建物買取請求権が与えられていますが、これは16条で強行規定とされています。つまり、特約で建物買取請求権を排除や制限をしても、その特約は無効になります。

建物買取請求権の強行性

あ 条文

(強行規定)
第十六条 第十条、第十三条及び第十四条の規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。
※借地借家法16条

い 無効となる特約の例

建物買取請求権の行使を制限する、または排除する特約は無効となる

5 建物買取請求権の要件

(1)建物買取請求権の要件のまとめ

では、どのような状況で建物買取請求権を行使できるのでしょうか。条文から読み取れる要件を整理すると次のようになります。

<建物買取請求権の要件のまとめ>

・借地期間が満了した
・更新されない
・建物が存在する

なお、期間が満了した時の更新や終了の基本的な内容については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借地契約の更新・終了の基本(更新の種類・解除・地上権消滅請求)

(2)新版注釈民法・要件→結果的に更新が生じなかった

前記のように要件は単純ですが、これにあたるかどうかが問題となる状況もあります。
たとえば期間満了の時点で、借地人が自ら更新しなくてよいから建物を買い取ってほしいと考えたような状況です。条文上「更新がない」とだけしか書いてありません。そこで、地主が更新してほしいと宣言すれば建物買取請求はできない、という解釈が一般的です。条文上は地主が更新請求をすることはできませんが、結果的に地主が更新を強制することができる結果となります。

新版注釈民法・要件→結果的に更新が生じなかった

あ 基本→更新が生じなかった場合

(注・借地法4条について)
(a)本条2項の買取請求権は、本条1項の更新請求権を補完する形になっているから、この買取請求権が成立する主な場合は、借地人が更新請求権を有しながら、しかも結局は更新が生じなかった場合である(後藤250)。

い 更新が生じないケースの典型→地主による更新拒絶

すなわち、借地人が更新請求権を現実に行使したが、これに対する貸地人の更新拒絶が正当事由をもっていた場合が、最も典型的であろう・・・
※鈴木禄弥・生熊長幸稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p422、423

う 更新拒絶なしの建物買取請求→地主の更新認容により否定

ア 買取請求権行使の状況のバリエーション(前提) ①借地人が更新請求権を行使せず、土地を明け渡すから、建物を買い取ってくれ、という場合と、
②借地人の更新請求に対し、貸地人が更新拒絶をしてきたので、借地人が、土地を明け渡すから、建物を買い取ってくれ、という場合とが考えられ、
これにさらに本法6条が関係してくる場合を加えると、
③借地人の土地使用継続に対し、貸地人が異議を述べてきたので、借地人が、土地を明け渡すから、建物を買い取ってくれという場合が考えられる。
イ 効果発生→地主による更新否定(反対) ①の場合には、借地契約更新についての貸地人の意思はまだ明らかにされていないのだから、貸地人が借地契約の更新を認める意思を明らかにすることによって、買取請求をまぬがれることができる。
②および③の場合は、買取請求権の行使とともに、その効果が確定する。
※鈴木禄弥・生熊長幸稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p430、431

(3)コンメンタール借地借家法・要件→更新が生じなかった

ところで、借地期間が満了した後に借地人が土地の使用を継続しているのに対して異議を述べた場合には、正当事由があれば借地契約は終了します。実務上これを更新拒絶と呼んでいます。もちろんこの場合にも借地人は建物買取請求権を行使できます。むしろ典型的な状況ですが、借地法(旧法)では、条文の位置関係から、このことがハッキリと読み取れなかったのです。借地借家法は読み取りやすくなっています。

コンメンタール借地借家法・要件→更新が生じなかった

あ 要件→更新が生じなかった

(注・建物買取請求権を行使できる場合について)
すなわち、主としては、借地権者が更新を請求(5条1項)したが、借地権設定者が更新を拒絶し、これに正当事由(6条)ありと認められた場合であるが、借地権者が更新請求権を行使せず、直ちに買取請求することも可能であると解される(鈴木=生熊新版注民(15)423。ただし、借地権設定者は更新を認める意思を表明して買取りを免れることができる)。

い 使用継続に対する異議→含む

また、借地期間満了後における借地権者の土地使用の継続に対して借地権設定者から有効な異議が述べられた結果契約の更新が生じなかった場合(5条2項)については、旧法上明文の規定が欠けていた(ただし、解釈により買取請求権が認められていた)が、1項は、規定の表現・位置からみてこの場合をもカバーしていると解される。
※山本豊稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p104

6 債務不履行解除における建物買取請求権→否定(概要)

以上のように、建物買取請求が認められるのは、期間満了の時に更新されない、という状況です。この点、借地人の債務不履行により地主が借地契約を解除した場合はどうでしょうか。形式的には要件にあてはまりません。救済的にこの場合にも建物買取請求を認める見解もありましたが判例によって否定されています。
詳しくはこちら|借地契約の債務不履行解除における建物買取請求権(否定)

7 建物買取請求権の権利濫用

(1)平成13年東京地判・建物買取請求権の権利濫用→肯定

個別的な事情によって、建物買取請求権が否定された裁判例を紹介します。平成13年東京地判の事案は、建物が老朽化した公衆浴場であり、仮に地主が買い取っても、経済的な活用をすることはできず、解体するしかない状況だったのです。一方借地人の方は、更新拒絶に伴う明渡料(立退料)として借地権価格をベースとして算定した金額を地主から受領していました。
このような事情から、裁判所は建物買取請求権の行使は権利の濫用にあたる、と判断しました。

平成13年東京地判・建物買取請求権の権利濫用→肯定

あ 建物買取請求権の趣旨(前提)

しかしながら、借地借家法一三条一項の建物買取請求権の趣旨は、いまだ経済的効用をもつ建物が取り壊されることを回避するという社会経済的要請や借地人が借地上の建物等に投下した費用を回収するなどのために認められた制度である。

い 事案内容

ア 建物収去回避につながらない そうすると、本件では、本件建物は老朽化の傾向にあるのであって、公衆浴場という用途、その建築に高額の費用を要すること等を考慮しても、その取壊しによって社会経済的損失が著しく大きなものになるわけではない
また、本件建物は公衆浴場という特殊な用途にしか使用できないものである上、老朽化傾向のある本件建物を今後継続して公衆浴場として使用するにはかなり困難が伴うものといえるから、仮に被告が本件建物を買い取ったとしても、公衆浴場として利用することは難しく、早晩自己の費用で収去をせざるを得ない状況にある。
したがって、建物の取壊しを回避するという社会経済的な要請を実現することもできないことが予想される。
イ 明渡請求判決確定直後の建物買取請求権行使 しかも、原告は、被告側のこのような事情を知った上で、本件控訴審判決確定後時を移さず本件建物等買取請求権を行使している。
ウ 明渡料を支払済 また、原告が本件建物に投下した費用についても、本件建物は平成六年四月の更新拒絶時において築後四〇年近くが経過している上、本件控訴審判決によって原告は被告から一億五四三五万円の支払を受けていることを考えると、原告の本件建物の収去に伴う損失も実質的にてん補されているものと認められる。

う 結論→権利濫用肯定

以上によれば、本件において、仮に本件建物等買取請求権が認められたとしても、原告がそれを行使することは、借地借家法一三条一項の建物買取請求権の制度趣旨に照らし、その権利濫用に当たるというべきである。
※東京地判平成13年11月26日

(2)明渡料と建物買取請求の両立→特殊ではない

ところで、一般論として、地主が更新拒絶をする場合は通常明渡料の提供(支払)が前提となり、その金額は借地権価格をベースとして計算することが多いです。
詳しくはこちら|借地の明渡料の相場|訴訟と交渉の違い|借地権価格・正当事由充足割合
そして、土地明渡請求訴訟で地主が勝訴する判決の確定後に、借地人が建物買取請求権を行使することはレアではありません。判例でも認めています。
詳しくはこちら|土地明渡請求訴訟における建物買取請求権行使のタイミング(時機遅れ・判決確定後の行使)
つまり、地主としては、土地明渡請求訴訟で決まった明渡料とは別に建物買取請求による代金を支払う、ということは一般的、類型的にあることなのです。
これを前提として平成13年東京地判を読むと、権利濫用を認めた理由(特殊性)は明渡料の授受というよりは建物が実際には使えないものであったところにあると思います。
ということは、建物買取請求を認めた(権利濫用は否定した)上で、代金(時価)の評価を下げる(小さい金額とする)というロジックも成り立ったと思います。

明渡料と建物買取請求の両立→特殊ではない

もっとも、地主の側でも、更新拒絶と正当事由の補完のための立退料の提供に当たっては、将来の建物買取請求権行使の可能性を予期することはできたはずであるのに、自発的に、正当事由の補完のために高額の立退料の提供をしていることからすると、地主の側では、立退料の他に、将来請求されることのあるべき建物買取価格の出捐も覚悟の上のことであったとも考えられる。
立退料自体は、正当事由の補完として提供されたものであるし、先行する訴訟において、裁判所は、処分権主義の制約上、地主の提供する立退料の額を下回る金額の立退料の支払との引換えに建物収去土地明渡しを命じる判決をすることはできないから、後の建物買取請求訴訟による建物価格や収去費用については、もともと地主の側で負担することを予定していたと考える余地もあろう(ただし、先行する訴訟において、地主側は、無条件での建物収去土地明渡しを求めたが一審で敗訴したため、控訴審において立退料を提供して請求の趣旨を減縮するという、いわば背水の陣であったようで、前記のように言い切るのも酷であるかもしれない)。
※佐藤陽一稿/『判例タイムズ1154号臨時増刊 主要民事判例解説』2004年9月p18〜

8 建物買取請求権の行使のタイミング(概要)

ところで、建物買取請求権が実際に行使される状況は、更新拒絶が有効かどうか(更新されるかされないか)について対立している場面が多いです。具体的アクションとしては、地主が土地明渡請求訴訟を提起して、それに対して借地人が建物買取請求権を行使する、という構造です。この場合、借地人としは「建物買取請求権を行使する」ということは「更新されない」結果を認めたことになるので、最初からは主張しないという戦略をとることが多いです。主張が遅くなると、却下されるかどうか、さらに、明渡請求を認める判決が出た後に仕方なく建物買取請求権を主張することはできるのか、という問題が出てきます。
詳しくはこちら|土地明渡請求訴訟における建物買取請求権行使のタイミング(時機遅れ・判決確定後の行使)

9 建物買取請求権行使の効果→売買(概要)

建物買取請求権の行使が認められた場合、文字どおり、地主が建物を買い取ることになります。法律的には売買と同じ扱いとなります。理論的な詳しい効果については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物買取請求権行使の効果(同時履行・代金提供前の使用対価支払義務)

10 建物買取請求における代金(時価)の算定(概要)

建物買取請求に関して大きな問題は代金(時価)の金額がいくらになるかです。これも文字どおり建物の価値が基本であり、借地権価格は加算しません。実際に建物買取請求をする場面では建物は老朽化が進んでいることが多いです。そこで建物価値は低い傾向があります。
この点、場所的利益として、実質的には借地権価格ほどではないけれど一定の金額を(建物評価額に)加算するのが一般的です。
詳しくはこちら|建物買取請求における代金算定方法・場所的利益の意味と相場

11 第三者の建物買取請求権(参考)

以上の説明は、借地期間が満了して更新されない場合の建物買取請求権でした。この点、建物と借地権を第三者に譲渡した場合(借地権譲渡や転貸)でも、建物買取請求権が使えることがあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|第三者の建物買取請求権(無断の借地権譲渡・転貸ケース・借地借家法14条)

本記事では、借地期間満了時の建物買取請求権の基本的な内容について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地期間満了における更新拒絶など、土地明渡請求に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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