【建物買取請求権の基本・要件・趣旨】

1 建物買取請求権の基本と要件
2 建物買取請求権の本質的な趣旨
3 建物買取請求権の実務的な趣旨・狙い
4 建物買取請求権は強行規定
5 建物買取請求権の効果・代金算定方法|概要
6 建物『収去』の判決による『退去』の強制執行

1 建物買取請求権の基本と要件

借地が終了すると,借地人は,所有している建物を使えなくなります。
一定の場合,借地人は地主に建物を買い取らせることができます。
これを『建物買取請求権』と言います。
まず,建物買取請求権の基本と行使できる要件をまとめます。

<建物買取請求権の基本と要件>

あ 建物買取請求権の基本

次の『い・う』のいずれかに該当する場合
→借地人は建物買取請求権を行使できる
→地主が借地上の建物を買い取る結果となる

い 期間満了

次の3つすべてに該当する
ア 借地期間が満了したイ 更新されないウ 建物が存在する ※借地借家法13条,借地法4条2項
詳しくはこちら|借地契約の更新・終了|基本|更新の種類・解除・地上権消滅請求

う 譲渡・転貸の拒否

次の2つ両方に該当する
ア 借地権(土地賃借権)の譲渡・転貸を地主が承諾しないイ 借地上に建物が存在する 『い』と区別して『第三者の建物買取請求権』と呼ぶこともある
※借地借家法14条,借地法10条

2 建物買取請求権の本質的な趣旨

建物買取請求権の趣旨を説明します。
まずは本質的な趣旨をまとめます。

<建物買取請求権の本質的な趣旨>

あ 原則論

借地契約が終了すると借地人には原状回復義務がある
→建物を解体し,更地として地主に返すことになる
そうすると『建物建築費用』が無駄になる
『投下資本の回収』ができない状態になる
経済的価値の大きなものを消失させるので社会的損失でもある

い 建物買取請求権の趣旨

建物買取請求権によって次の事項を実現する
ア 借地人の保護イ 社会的損失の回避

地主に一定の負担を負わせつつ,借地人を保護する制度なのです。

3 建物買取請求権の実務的な趣旨・狙い

建物買取請求権の実務的な趣旨があります。
現実的な効果が期待されているのです。

<建物買取請求権の実務的な趣旨・狙い>

あ 地主の負うリスク

地主は次の場合,建物買取請求権を行使される状況になる
ア 借地権譲渡・転貸を承諾しないイ 更新を拒絶する

い 譲渡承諾・更新の促進

地主は『あ』のリスクを避けようとする
→借地権譲渡の承諾・更新の許容につながる
※大阪高裁昭和58年4月28日
※澤野順彦『実務解説 借地借家法』青林書院p442

4 建物買取請求権は強行規定

地主にとって建物買取請求権はやっかいな側面があります。
そこで,特約で排除する,という発想があります。
しかし,これは法律上否定されています。

<建物買取請求権は強行規定>

あ 趣旨

建物買取請求権は,借地人を保護する趣旨がある(前記)
→法定更新と並ぶ重要なものとして位置付けられている

い 強行規定

建物買取請求権は強行規定である
=これより借地人に不利な特約は無効となる
例;建物買取請求権の行使を制限or排除する特約
※借地借家法16条,借地法11条

5 建物買取請求権の効果・代金算定方法|概要

建物買取請求権により地主が建物を買い取ることになります。
理論的な詳しい効果については別に説明しています。
詳しくはこちら|建物買取請求権の行使の効果=形成権
実際に重要なのは『金額がいくらになるか』です。
代金算定方法については別に説明しています。
詳しくはこちら|建物買取請求における代金算定方法・場所的利益の意味と相場

6 建物『収去』の判決による『退去』の強制執行

建物買取請求権は行使されるタイミングに特徴があります。
借地人の敗訴の前後ということが多いのです。
明渡請求の認容判決確定後に建物買取請求権が行使されるケースもあります。
そうすると,既に言い渡された判決との食い違いが問題となります。

<建物『収去』の判決による『退去』の強制執行>

あ 前提事情

地主が借地人に対して建物収去土地明渡請求訴訟を提起した
勝訴判決が確定した
借地人が『建物買取請求権』を行使した
建物は地主の所有となった
しかし,借地上の建物には,借地人が居住したままである

い 裁判所の判断

『建物収去土地明渡請求』の勝訴判決によって
→『建物退去請求』の強制執行ができる
※東京高裁昭和38年11月30日
※札幌高裁昭和40年9月27日

通常は,判決内容と執行内容が同一であることが要求されます。
この例外が認められているのです。

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