1 将来の相続税納税の時に境界未確定が大きな不利益につながる
2 相続開始後に境界確定手続を始めると相続税納税期限を過ぎるリスクがある
3 土地境界未確定→延納物納ができない→自宅の差押,というリスクがある
4 認知症になった場合,売却土地境界確定の手続ができなくなる
5 成年後見人を選任すれば不動産売却土地境界確定の手続を原則的に遂行できる
6 売却境界確定手続成年後見人の権限の範囲外とされることもある
7 成年後見人が境界確定手続を行えたとしても時間,費用,立証の点で不利となる

1 将来の相続税納税の時に境界未確定が大きな不利益につながる

一般的に,相続時に,納税資金をねん出するため,あるいは,遺産分割の手段として金銭に換える(=売却する),という選択肢を取ることがあります。
この場合,意外な落とし穴となるのが境界です。
隣地との境界が確定されていない状態である場合,売却自体が実際にはできない,ということがあります。
相続開始後,,いざ売却しようと思っても売却できないということがよく生じます。
詳しくはこちら|土地境界|取引では確定が必要・公簿売買|額縁分筆・残置求積/全筆求積

2 相続開始後に境界確定手続を始めると相続税納税期限を過ぎるリスクがある

(1)境界確定の手続は完了までに1年以上要することも多い

境界確定が完了するまでに要する時間は,相手方(隣地所有者)の対応次第で大きく変わってきます。
最終的に訴訟をせざるを得なくなり,しかも判決までもつれ込んだ場合は,1年程度かかることも稀ではありません。
逆に,数か月という短期間で和解で終了することもあります。

(2)相続税の納税期限=10か月,を超過する可能性がある

いずれにしても,長期間かかる可能性を排除できないということです。
売却の前処理としての境界確定に時間がかかってしまうと,結果的に,売却が遅れることになります。
状況によっては相続税の納税期限を迎えてしまうということも起きます。

<相続税の納税期限>

相続開始があったことを知ってから10か月
※相続税法27条1項等

3 土地境界未確定→延納物納ができない→自宅の差押,というリスクがある

(1)相続税納税資金調達が困難な場合の解決策は延納,物納,民間融資

一般的に,遺産の規模が大きい場合,相続税の納税自体が大きな問題・困難となります。
遺産の中に処分(売却)しやすい財産がある場合は,これを売却して納税資金とする方法を取ることも多いです。
スムーズに売却できない場合,当該土地を活用して,次のような対処法を取ることがよくあります。

<納税資金不足時の対処法>

・当該土地を担保にして延納手続を取る(相続税法38条~)
・当該土地自体を物納する手続を取る(相続税法41条~)
・当該土地を担保にして民間金融機関から融資を受ける

(2)境界未確定の土地は,延納,物納不適格となる

ここで,対象である土地が境界確定未了の場合,延納物納が許可されにくくなります。
別項目;物納不適格不動産
銀行等の民間金融機関としても同様に担保として認めない可能性が高いです。

(3)延納,物納ができない場合,自宅の差押のリスクがある

納税が間に合わず,かつ,延納,物納の利用や担保設定ができない場合は,最終的に,他の財産が差し押さえられることにつながります。
実際に,売却したい更地が処分できず,一方で自宅が差し押さえられる,という一見おかしな状況に陥るケースも存在します。
このような落とし穴が待ち受けているので,確定未了の境界については,できるだけ早めに解決に着手した方が良いのです。
急いで境界確定の交渉や訴訟を行った場合,相手方に足元を見られて,不利な和解を飲まざるを得ない,という方向に向かうことになりがちです。

4 認知症になった場合,売却土地境界確定の手続ができなくなる

<発想>

父はまだ60歳である
相続の準備として土地境界を確定させるのはもう少し先でも良いと思っている
問題ないか

相続自体が到来しなくても,土地所有者が認知症となってしまうと,いろんな内容の相続対策が取りにくくなってしまいます。
意思能力がないということになると,不動産の売却境界確定の訴訟提起などは,法的にできなくなります。
仮に家族が代行して,移転登記や訴訟提起を行ったとしても,事後的に無効と判断され,覆されるという大きなリスクを負います。
別項目;認知症;財産デッド・ロックリスク;基本

5 成年後見人を選任すれば不動産売却土地境界確定の手続を原則的に遂行できる

<発想>

土地を所有している父が認知症になった場合,境界確定の手続きは不可能となるのか

(1)認知症となった者に成年後見人が選任されると法定代理人として行動できる

土地所有者に意思能力がない場合,原則的に,境界確定の交渉や訴訟手続きは法的に不可能となります。
ただし,家庭裁判所に成年後見人を選任してもらえば別です。
後見人は正式な本人の代理人(法定代理権)となります(民法859条)。
実際には,ストレートに後見人が境界確定の手続をすることが可能,というわけではありません。
本人の保護という目的の範囲から逸脱しているか否かという問題が生じるからです。

6 売却境界確定手続成年後見人の権限の範囲外とされることもある

<発想>

成年後見人が(被後見人所有の)土地について境界確定の手続をすることはできるのか

成年後見人が境界確定の協議や提訴などの手続をできる可能性は高いでしょう。
ただし,『これらの手続はできない』と判断されるリスクが少しはあります。

(1)居住用住居の売却は裁判所の許可が必要

成年後見人の権限のうち,一部については家庭裁判所の許可が必要とされています。
それは居住用不動産の処分です(民法859条の3)。
要は,本人(被後見人)が住む場所を失うことに直結するので,要許可とされているのです。
別項目;被後見人の財産処分;後見人の判断,裁判所の許可

(2)要許可事項以外は成年後見人の判断で行う

逆に,それ以外は,裁判所の許可という制度はありません。
境界確定の手続を行うことについては,裁判所の許可が必要とはされていないのです。
しかしある意味,許可制度がないとやりにくいと言えます。
許可がなくても行動できる→事後的に権限濫用等で責任が生じるというリスクがあるからです。
そうは言っても,現実的には,家庭裁判所は,事実上の相談,には応じてくれます。
法的・正式に免責,ということにはならないですが,裁判所が問題ないというコメントであれば,実際上は問題なく手続きを進めることができるでしょう。
全体的な流れとして,かつて,成年後見制度自体が始まった頃は,保守的消極的でしたが,最近では相続対策を構成する各種手続きについて,比較的実行しているケースが増えてきています。

7 成年後見人が境界確定手続を行えたとしても時間,費用,立証の点で不利となる

(1)資産が多いなどの事情があると親族は後見人に選任されない

成年後見人が相続対策の一環として境界確定の手続を行える可能性はあります。
しかし,ある程度資産をお持ちの場合,成年後見人として親族の選任は認められず,第三者である弁護士が選任される運用が一般的です。
こうなると,選任された弁護士によって,その後の動きが大きく違ってきます。

(2)成年後見人が第三者の場合,裁量の範囲内で個性のブレが生じる

後見人の権限は非常に広いので,逆に言えば,権限を行使しないという裁量も後見人に広く認められている,ということです。
非常に保守的な考えの弁護士が後見人に選任されると,相続対策のアクションは起こしてくれない,ということにつながります。
また,仮に境界確定の交渉や訴訟を実行してくれたとしても,本人が直接行った場合(弁護士に依頼した場合)よりも,時間・費用がかかってしまう傾向にあります。
成年後見人を選任する,というプロセスだけでも一定の時間と費用を要するからです。
別項目;後見人と本人の家族での対立;辞任,解任請求,任意後見契約で法定後見排除

(3)成年後見人による境界確定手続は立証面で不利となる

また,境界確定の手続本体を考えてみます。
境界の判断の重要な事情の1つに過去の占有状況土地の利用状況というものがあります。
この事情の証拠として非常に貴重なのは居住者の記憶(証言)です。
本人(居住者)が認知症ですと,実際上証言できないか,できたとしても信用性が乏しい,ということになりましょう。
このように多くの面で成年後見人を通した境界確定手続は不利と言えます。
やはり,早期の解決への着手が肝要なのです。