1 被後見人の財産処分のうち『居住用建物,敷地』以外は後見人の判断だけで行える
2 成人後見;居住用建物の処分;『居住の用に供する』の解釈
3 成人後見;要許可以外の財産の処分;後見人の判断基準
4 成人後見;居住用建物の処分;裁判所の許可;判断要素
5 成人後見;居住用建物の処分;裁判所の許可;実例

1 被後見人の財産処分のうち『居住用建物,敷地』以外は後見人の判断だけで行える

まず,条文上『(被後見人の)居住の用に供する建物』『敷地』について,処分する場合は家裁の許可が必要とされています(民法859条の3)。
逆に,これに該当しない場合は,家裁の許可は必要ではありません。
例えば,第三者に賃貸している収益物件などが被後見人の居住用には該当しない典型です。
結果的に処分するかどうかは後見人が判断することになります。

2 成人後見;居住用建物の処分;『居住の用に供する』の解釈

処分時に裁判所の許可が必要な建物は,条文上,居住の用に供する建物という表現です(民法859条の3)。
この趣旨は被後見人の生活の本拠の保護,です。
当然転居が前提となるでしょうけど,転居自体が,一般的に大きな精神的負担となります。
そこで,本人以外(後見人)の判断だけで行う,ということにブレーキをかけているのです。
そうすると,この趣旨自体は,毎日寝泊まりしているという場合以外でも該当します。
実務上は居住の用に供する建物については,ある程度広めに解釈することが多いです。
具体例について↓に示しておきます。

<居住用建物,の解釈の具体例>

※あくまでも原則的な例です。別の解釈となることも実際にあります。

あ 居住の用に供するに該当する例

→被後見人が生活の本拠として現に居住の用に供している,または居住の用に供する可能性がある建物およびその敷地
・被後見人が現に居住する建物
・被後見人が将来居住する可能性のある不動産
 ・被後見人が近い将来,家を建てて住むつもりで購入した土地
 ・被後見人が近い将来,転居する予定で建築(購入)した建物で居住実績のない建物
・被後見人が施設・病院にいて帰る見込みが全く立たない自宅
 →帰る予定があるものも当然に含む
・過去に被後見人の生活の本拠であった不動産

い 居住の用に供するに該当しない例

→被後見人が生活の本拠として現に居住しておらず,かつ居住する可能性が全くない建物およびその敷地
・転居前の建物(現在居住している建物に転居する前に居住していた建物,施設に入所直前まで居住していた建物に転居する前に居住していた建物)
・第三者に賃貸中の共同住宅
・別荘
・農地
・山林
※『基本法コンメンタール 第5版 親族』日本評論社p262
※『相談事例からみた成年後見の実務と手続』日本評論社p150

<参考情報>

片岡武他『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』日本加除出版46〜50頁

3 成人後見;要許可以外の財産の処分;後見人の判断基準

条文上,後見人が被後見人の財産を処分することについて,一般的な判断基準が規定されているわけではありません。
居住用不動産については,家庭裁判所の許可を要するという規定があります(民法859条の3)。
しかし,それ以外の財産の処分については,後見人の判断で行うということになります。
ここで,解釈上,後見人は次のような基準で判断することとされています。

<後見人による財産処分の一般的要件>

あ 実質的要件

ア 当該処分が被後見人の生活の維持,よりよい生活の実現のために必要であること
《必要,と認められる例》
・被後見人の生活費や施設入所費,入院費,医療費の捻出のための不動産売却
・被後見人が扶養義務を負担する者への扶養義務履行のための財産処分
→ただし,規模(金額)については,適正な規模に収まっていることが前提です。
《必要,とは認められない例》
・ 親族や第三者を援助するための不動産売却・贈与
・他人の債務を担保するための抵当権設定
・土地・家屋を無償で貸すこと
イ 処分内容が,市場価格や一般の取引慣行に照らして不利なものではないこと
《処分内容,の要素例》
・売却代金
・支払方法
・履行条件

い 形式的要件

後見監督人の同意
→後見監督人が選任されている場合だけですが,後見監督人の同意が必要となる
※民法864条,13条1項3号

<参考>

片岡武他『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』日本加除出版46〜50頁

4 成人後見;居住用建物の処分;裁判所の許可;判断要素

後見人による『居住用建物,敷地』の処分について,裁判所が許可するかどうかの判断基準を説明します。

裁判所の許可について,条文上何らかの基準や判断要素が明記されているわけではありません(民法859条の3)。
この規定の趣旨は,被後見人の保護です。
そこで,保護として欠けることがないかどうか,という観点が判断の基礎となります。
具体的には,判断要素として↓のようなものが挙げられます(後掲文献3)。

<裁判所許可における判断要素>

・被後見人の意向
・当該処分の内容
・当該処分を許可した場合に考えられる被後見人の心身の状態への影響
 →影響の大きさ,影響が生じる可能性の大小
・被後見人の生活の状況
・当該処分の必要性
※『基本法コンメンタール第5版親族』日本評論社p263

5 成人後見;居住用建物の処分;裁判所の許可;実例

被後見人の自宅について,裁判所の処分許可が出た実際の具体例を紹介します。

住居の売却,については,確定的に失うので,ハードルは高いです。
また,担保権設定,については,債務者による返済がなされれば,最終的に住居は維持されます。
ハードルは低めです。
それぞれの実例,具体例を示します。

<住居の売却が認められた例;類型>

・被後見人は施設に入居している
・施設から従前の住居に戻る可能性が皆無である
・入居費,生活費が欠乏している
・資金捻出のためには,住居の売却以外に手段がない

<住居への担保権設定が認められた例;事例>

被後見人の従前居住していた不動産に担保(抵当権)設定
→裁判所が許可を出した
被担保債権の債務者(借主)=被後見人の息子が経営する法人
融資金の使途=投資;太陽光発電システム導入のための経費
融資の金額=約1900万円

<許可のポイント>

・融資の条件が良かった,具体的には金利が特に低かった=固定金利0.7%
・太陽光発電→売電 のため,20年間にわたる高い単価が確保されていた
・太陽光発電という性質上,収入(売上)(発電量)の変動リスクが小さかった→収益,返済の確実性が高い

判例・参考情報

(文献1)
[基本法コンメンタール 第五版 親族 日本評論社 p262]
現在は居住していないが,過去において生活の本拠として居住の用に供していた不動産も場合によっては含まれる余地があることを認めるべきであろう。
たとえば,被後見人が永年にわたって居住していた住居を離れ,既に施設に入所している場合において,そのかつての住居を処分することは,被後見人の精神の状況に著しい悪影響をもたらすことがある。
本条の趣旨からすると,そうした場合も家庭裁判所の後見監督の対象というべきであろう。

(文献2)
[相談事例からみた成年後見の実務と手続 日本評論社 p150]
居住の有無は,本人の住民票の住所などの形式的な基準で判断されるのではなく,これまでの本人調書の生活実態に鑑みて実質的に判断されます。
現実にも,本人が,各種施設に入所したり,病院に長期入院するなどして,処分を検討する時点では住民票上の住所地に居住していないケースが多いのですが,安易に非居住用不動産と判断するのではなく,「現在本人は居住していないが過去に本人の生活の本拠として実態があった建物及びその敷地」と考えるのが,制度の趣旨に合致します。

(文献3)
[基本法コンメンタール 第五版 親族 日本評論社 p263]
家庭裁判所としては,成年後見人が負う身上配慮義務と同様の視点から許可すべきか否かを判断することとなろう。
すなわち,被後見人の意思,当該処分の内容,当該処分を許可した場合に考えられる被後見人の心身の状態への影響,被後見人の生活の状況と当該処分の必要性等の事情が綜合して考慮される。
もっとも,成年後見制度は本人の自己決定(自律)の尊重に大きな比重を置いているのだから,被後見人が居住用不動産の処分について反対の意向を表明しているような場合は,処分につき特別な必要性がない限り,許可を与えることには慎重な態度をとるべきであろう。