【建物賃貸借の中途解約と解約予告期間(解約権留保特約)】

1 建物賃貸借の中途解約と解約予告期間(解約権留保特約)

建物賃貸借では通常、期間が設定されています。
当然ですが、決められた期間は賃貸借の関係が継続します。
契約として賃貸人・賃借人を拘束します。
法律上は当事者の意向によって期間中に契約を終了させることはできません。
しかし、実際には入居者が退去しやすいように、契約上で期間中の解約が認められているものがほとんどです。
法律上は、解約権留保特約と呼びます。
一般的には『中途解約』『解約予告』『退去予告』などと呼ぶこともあります。
本記事ではこのような解約について説明します。

2 期間の定めのある建物賃貸借と中途解約(基本)

賃貸借の期間が2年や3年というように定められている場合は、その期間は契約が続くということになります。当事者の一方の都合で、期間中に解約する(契約を終了させる)ことはできません。ただし、実際には、契約の中で途中で解約できるという条項(解約権留保特約)があることが多いです。このような特約による解約は原則として可能です。

期間の定めのある建物賃貸借と中途解約(基本)

あ 解約申入の規定の適用

期間の定めのある建物賃貸借について
借地借家法27条は適用されない
→解約申入はできない
詳しくはこちら|期間の定めのない建物賃貸借の解約申入・解約予告期間

い 解約権留保特約の有効性(概要)

『期間の途中で解約できる』内容の条項(特約)がある場合
→特約は有効である(後記※1
→当事者は解約申入をすることができる
一定期間経過後に契約が終了する(後記※2

3 解約権留保特約の意味と有効性(全体像)

解約権留保特約(中途解約)は、約束した期間を破るものといえます。
そこで、賃貸人による解約を認める特約は借地借家法による賃借人の保護に反するので無効とすべきではないか、という発想もあります。詳しいことは後述します。
一方、賃借人による解約を認めても、賃借人保護に反しないので、これは問題なく有効です。

解約権留保特約の意味と有効性(全体像)(※1)

あ 解約権留保特約の意味

契約において解約権が留保されている
=当事者の一方が期間内に解約する権利を留保している
※民法618条

い 解約権留保特約の具体例

『賃貸人及び賃借人は、いずれも6か月前に相手方に通知することによって、本借家契約を中途解約することができる』
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p233

う 賃借人の解約権留保特約の有効性

賃借人の解約申入を認める解約権留保特約は有効である

え 賃貸人の解約権留保特約の有効性(概要)

賃貸人の解約申入を認める解約権留保特約の有効性についてはいくつかの見解がある
有効であるが、解約のためには正当事由を要するという見解が一般的(通説)である(後述)

4 賃貸人の解約権留保特約の有効性(概要)

前述のように、賃貸人が中途解約をすることができる特約があるからといって、無条件にこれを認めると、賃借人保護が害されます。そこで、解約を制限する解釈がとられています。正当事由がある場合に限って解約できる、という解釈が一般的です。
詳しくはこちら|建物賃貸借の賃貸人からの中途解約(解約権留保特約)の有効性

5 解約申入期間(解約予告期間)

特約による中途解約を認める(有効)としても、解約の意思表示(通知)からどのくらいの期間が経過した時点で契約が終了するのか、という別の問題があります。解約申入期間、あるいは解約予告期間と呼んでいます。解約申入期間については、借地借家法の規定が適用されます。
賃貸人からの解約だけ、最低限で6か月、という制限があります。
賃借人からの解約については、法律上の制限はありません。規定していないと3か月となります。

解約申入期間(解約予告期間)(※2)

あ 賃貸人の解約申入期間(解約予告期間)

ア 一般的見解 解約権留保特約による賃貸人からの解約申入について
借地借家法27条が適用される
→解約申入期間は最低限6か月となる
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p201
イ 裁判例 本件解約条項のうち1か月前の予告期間については、借主に不利な内容であり、同法30条及び27条によりその期間は6か月とすべきである
※東京地判平成22年9月29日

い 賃借人の解約申入期間(解約予告期間)

解約権留保特約による賃借人からの解約申入について
借地借家法27条は適用されない
→解約申入期間は自由に設定できる
合意がない場合は3か月となる
※民法617条1項2号
詳しくはこちら|期間の定めのない建物賃貸借の解約申入・解約予告期間

6 賃借人の解約予告期間6か月の裁判例(有効判断)

賃借人からの解約予告期間は、民法上3か月と定められています。そして、特約で違う期間を設定することが認められています(前記)。
この点、長い設定をすると、賃借人は解約しにくくなる、つまり賃借人に不利です。
一方、賃貸人(オーナー)の立場から考えると、賃借人が自由に解約できると、入居者なしの空室リスク(収入なしの状態)が大きくなります。
これを回避するために、賃借人からの解約を制限すること自体は合理性があると考えられています。
具体例としては、解約予告期間を長めに設定するとか、途中解約時の違約金を規定しておく、などです。
解約申入期間(解約予告期間)の6か月という設定を有効とした裁判例を紹介します。

賃借人の解約予告期間6か月の裁判例(有効判断)

あ 解約予告期間の特約

(賃貸人からの解約について)解約予告期間を6か月と設定してあった

い 退去時期との関係

解約予告期間のうち賃借人が退去後の期間について
→約2か月半にすぎなかった

う 特約の有効性

暴利・公序良俗違反とは言えない
※民法90条
→有効である
『6か月』全体の有効性は判断されていない
※東京地裁平成22年3月26日

7 解約留保特約と中途解約違約金(概要)

賃借人の解約を制限する目的は、賃貸人の空室リスクの低減です(前記)。
そこで通常、賃借人の解約申入期間は、中途解約の違約金と一体となっています。
解約権留保特約の有効性は、中途解約違約金の有効性と大きく関連します。
つまり、解約留保特約は、中途解約の違約金などの内容・条件も合わせて有効性が判断されるということです。
詳しくはこちら|建物賃貸借の中途解約の可否・中途解約違約金の有効性(賃料1年分基準)

8 賃借人の解約申入期間(解約予告期間)の相場

一般的に、建物賃貸借では、賃貸人からの解約申入を認める特約はあまりありません。
一方、賃借人による解約申入を認める特約は、条項として存在することがほとんどです。
賃借人からの解約申入の期間(解約予告期間)として設定する期間の平均的・相場的な目安をまとめます。
もちろん、個別的事情でこれとは大きく異なる期間を設定するケースも多くあります。

賃借人の解約申入期間(解約予告期間)の相場

あ 居住用賃貸

1か月が多い
2か月という設定もある

い 事業用賃貸の賃貸借

事業用賃貸の具体例=店舗・事務所
平均的には3~6か月という設定が多い
個別的な契約に至る経緯によって大きく異なるケースも多い

9 解約申入の実務的な方法(概要)

解約申入をした後から、解約申入をしたかどうかが不明確になるトラブルがよくあります。
そこで、実際に解約申入を行う場合は、記録に残しておくことが好ましいです。
実務的な解約申入の方法については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物賃貸借の解約申入の実務的な方法(登記の要否と記録化)

10 定期借家における中途解約権・解約権留保特約(参考)

以上の説明は、一般的な建物賃貸借(普通借家)についてのものでした。
一方、定期借家の場合には、中途解約について特有のルールや解釈があります。特約がなくても一定の状況があれば中途解約が認められます。また、特約による解約の場合に、正当事由は不要ですし、また解約申入期間の制限もないという見解が一般的です。
詳しくはこちら|定期借家における解約権留保特約(普通借家との比較)

本記事では、建物賃貸借契約(普通借家)における解約権留保特約(中途解約)についての基本的事項を説明しました。
実際には、細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることがあります。
実際に建物賃貸借の解約に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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