1 建物賃貸借の期間中の解約(総論)
2 建物賃貸借の期間と中途解約(基本)
3 解約権留保特約の意味と有効性
4 解約権留保特約と正当事由
5 解約申入期間(解約予告期間)
6 賃借人の解約予告期間6か月の裁判例(有効判断)
7 解約留保特約と中途解約違約金(概要)
8 賃借人の解約申入期間(解約予告期間)の相場
9 解約申入の実務的な方法(概要)

1 建物賃貸借の期間中の解約(総論)

建物賃貸借では通常,期間が設定されています。
当然ですが,決められた期間は賃貸借の関係が継続します。
契約として賃貸人・賃借人を拘束します。
法律上は当事者の意向によって期間中に契約を終了させることはできません。
しかし,実際には入居者が退去しやすいように,契約上で期間中の解約が認められているものがほとんどです。
法律上は『解約権留保特約』と呼びます。
一般的には『中途解約』『解約予告』『退去予告』などと呼ぶこともあります。
本記事ではこのような解約について説明します。

2 建物賃貸借の期間と中途解約(基本)

期間中の解約について,理論的には原則としてできませんが,例外として特約により可能となります(前記)。
この根本的なところをまとめておきます。

<建物賃貸借の期間と中途解約(基本)>

あ 解約申入の規定の適用

期間の定めのある建物賃貸借について
→解約申入はできない
借地借家法27条は適用されない
詳しくはこちら|期間の定めのない建物賃貸借の解約申入・解約予告期間

い 解約権留保特約(概要)

『期間の途中で解約できる』内容の条項(特約)がある場合
→特約は有効である(後記※1)
→当事者は解約申入ができる
一定期間経過後に契約が終了する(後記※3)

3 解約権留保特約の意味と有効性

ところで,解約権留保特約(中途解約)は,約束した期間を破るものといえます。
そこで,借地借家法による借家人の保護に反するという発想もあります。
これについては,現在では有効という解釈が一般的です。

<解約権留保特約の意味と有効性(※1)>

あ 解約権留保特約の意味

契約において解約権が留保されている
=当事者の一方が期間内に解約する権利を留保している
※民法618条

い 一般的な有効性の見解(通説)

賃貸人の解約申入を認める解約権留保特約は有効である
正当事由を要する(後記※2)
※広瀬武文『判例コンメンタール』p208,223
※星野英一『借地・借家法 法律学全集』有斐閣1969年p493

う 下級審裁判例の有効性判断

ア 過去の見解
解約権留保特約は無効である
※東京地裁昭和27年2月13日
イ 現在の見解
解約権留保特約は有効である
※東京地裁昭和36年5月10日
※東京地裁昭和55年2月12日

4 解約権留保特約と正当事由

特約で規定したからといって,賃貸人の意向だけで契約を終了させることはできません。
更新拒絶や期間の定めのない場合の解約申入と同様に『正当事由』が必要となります。
これにより賃借人が保護されます。保護されているからこそ,解約権留保特約自体が有効と解釈されているのです(前記)。

<解約権留保特約と正当事由(※2)>

解約権留保特約によって
賃貸人が解約申入をする場合
→正当事由を要する
※借地借家法28条
詳しくはこちら|建物賃貸借終了の正当事由の内容|基本|必要な場面・各要素の比重
※広瀬武文『判例コンメンタール』p208,223
※星野英一『借地・借家法 法律学全集』有斐閣1969年p493

5 解約申入期間(解約予告期間)

解約申入期間(解約予告期間)については,借地借家法の規定が適用されます。
賃貸人からの解約だけ,最低限で6か月,という制限があるのです。
賃借人からの解約については,法律上の制限はありません。規定していないと3か月となります。

<解約申入期間(解約予告期間;※3))>

あ 賃貸人の解約申入期間(解約予告期間)

解約権留保特約による賃貸人からの解約申入について
借地借家法27条が適用される
→解約申入期間は最低限6か月となる
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p201

い 賃借人の解約申入期間(解約予告期間)

解約権留保特約による賃借人からの解約申入について
借地借家法27条は適用されない
→解約申入期間は自由に設定できる
合意がない場合は3か月となる
※民法617条1項2号
詳しくはこちら|期間の定めのない建物賃貸借の解約申入・解約予告期間

6 賃借人の解約予告期間6か月の裁判例(有効判断)

賃借人からの解約予告期間は,民法上3か月と定められています。そして,特約で違う期間を設定することが認められています(前記)。
この点,長い設定をすると,賃借人は解約しにくくなる,つまり賃借人に不利です。
一方,賃貸人(オーナー)の立場から考えると,賃借人が自由に解約できると,入居者なしの空室リスク(収入なしの状態)が大きくなります。
これを回避するために,賃借人からの解約を制限すること自体は合理性があると考えられています。
具体例としては,解約予告期間を長めに設定するとか,途中解約時の違約金を規定しておく,などです。
解約申入期間(解約予告期間)の6か月という設定を有効とした裁判例を紹介します。

<賃借人の解約予告期間6か月の裁判例(有効判断)>

あ 解約予告期間の特約

解約予告期間を6か月と設定してあった

い 退去時期との関係

解約予告期間のうち賃借人が退去後の期間について
→約2か月半にすぎなかった

う 特約の有効性

暴利・公序良俗違反とは言えない
※民法90条
→有効である
『6か月』全体の有効性は判断されていない
※東京地裁平成22年3月26日

7 解約留保特約と中途解約違約金(概要)

賃借人の解約を制限する目的は,賃貸人の空室リスクの低減です(前記)。
そこで通常,賃借人の解約申入期間は,中途解約の違約金と一体となっています。
解約権留保特約の有効性は,中途解約違約金の有効性と大きく関連します。
つまり,解約留保特約は,中途解約の違約金などの内容・条件も合わせて有効性が判断されるということです。
詳しくはこちら|中途解約条項・中途解約違約金|有効性|賃料1年分までが目安

8 賃借人の解約申入期間(解約予告期間)の相場

一般的に,建物賃貸借では,賃貸人からの解約申入を認める特約はあまりありません。
賃借人による解約申入を認める特約は,条項として存在することがほとんどです。
平均的・相場的な賃借人からの解約申入の期間(解約予告期間)をまとめます。
もちろん,個別的事情でこの期間は大きく変わることもあります。

<賃借人の解約申入期間(解約予告期間)の相場>

あ 居住用賃貸

1か月が多い
2か月という設定もある

い 事業用賃貸の賃貸借

事業用賃貸の具体例=店舗・事務所
平均的には3~6か月という設定が多い
個別的な契約に至る経緯によって大きく異なるケースも多い

9 解約申入の実務的な方法(概要)

解約申入をした後から,解約申入をしたかどうかが不明確になるトラブルがよくあります。
そこで,実際に解約申入を行う場合は,記録に残しておくことが好ましいです。
実務的な解約申入の方法については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物賃貸借の解約申入の実務的な方法(登記の要否と記録化)