1 『寄与分』と『特別受益』の両方がある相続人→差し引き計算
2 『寄与分×特別受益×持戻し免除』→『持戻し免除』はなかったかのように計算する
3 『寄与分』と『特別受益』の計算順序によって結果が異なる場合がある
4 『超過特別受益』がない場合,『寄与分・特別受益』を同時に計算する
5 『超過特別受益あり』の時の計算順序は2つの説がある
6 『超過特別受益あり』の場合『特別受益控除先行説』の方が有力
7 『特別受益控除先行説』の理由は,独立した『寄与分』確定の手続の尊重など
8 超過特別受益ありの場合の2つの説による計算の具体例

1 『寄与分』と『特別受益』の両方がある相続人→差し引き計算

相続人に『寄与分』『特別受益』の両方が認められる,ということもあります。
この場合の基本的な扱いは単純です。

<特別受益×寄与分|基本>

差引計算をする

プラスとマイナスなので,単純に打ち消し合う計算をすることになります。
なお,プラス・マイナスの計算の順序で結果に違いが出る,という特殊な状況もあります。
これについては後述します。

2 『寄与分×特別受益×持戻し免除』→『持戻し免除』はなかったかのように計算する

特別受益について『持戻し免除の意思表示』があれば『特別受益が無効化』されます。
この状態で,さらに『寄与分がある』という場合についての扱いに関する判例を紹介します。

<特別受益の持戻し免除×寄与分>

あ 判例理論

特別受益の持戻し免除をされた相続人について
寄与分が認められる前提条件
→『特別受益の価額を超える寄与分が認められる』場合に限定される
※東京高裁平成9年6月27日

い 要約したルール

寄与分の有無・金額を考える上では『持戻し免除なし』として扱う
=『寄与』と『ナマの特別受益』を差し引き計算する

要するに,特別受益の『無効化』をさらに『無効化』して考える,ということです。

3 『寄与分』と『特別受益』の計算順序によって結果が異なる場合がある

『寄与分』と『特別受益』の『計算順序』によって結果が異なる,という場合があります。
計算順序について,判例などによる解釈があります。
大きく2つに分けて説明します。
まず,特別受益の額が,一応の相続分(本来の相続分)を超過しているか,いないか,で分けます。
つまり,『一応の相続分』マイナス『特別受益』,の段階(=寄与分をプラスする前の段階)で,マイナスになってしまうかどうか,ということです。
一応の相続分 この段階でマイナスとなることを超過特別受益(がある)と言います。

4 『超過特別受益』がない場合,『寄与分・特別受益』を同時に計算する

超過特別受益がない場合,同時適用説が通説です。
寄与分,特別受益を同時に計算する,という方法です。
実務上,裁判所もこれを採用しています。
と言うよりも,寄与分のプラスと特別受益のマイナスをどのような順序で計算しても,結果は変わらないのです。
計算式にすると次のとおりです。

超過特別受益がない場合の,相続分算定方法>

各相続人の相続分 = 一応の相続分 - 特別受益 + 寄与分

5 『超過特別受益あり』の時の計算順序は2つの説がある

超過特別受益となっている場合は,一応の相続分から特別受益を控除(マイナス)した時点でマイナスになります。
特別受益はマイナスつまり,相続人が実際に(生前贈与などで受けた財産を)遺産に戻す,ということは認めていません。
そこで,マイナスとなった場合は,ゼロになります。いわばリセットが行われるのです。
ここで,特別受益のマイナスと寄与分のプラスのどちらを先に行うか,でリセット発動の有無が変わってきます。
この計算順序は民法上,明確な規定はありません。
そこで,見解が2つあるのです。

(1)寄与分合算先行説

寄与分のプラスを先に計算する方法です。

<寄与分合算先行説による計算方法>

各相続人の相続分 = 一応の相続分 + 寄与分 - 特別受益

(2)特別受益控除先行説

特別受益のマイナス(控除)を先に計算する方法です。

<特別受益控除先行説による計算方法>

各相続人の相続分 = ( 一応の相続分 - 特別受益 )(←※1) + 寄与分
※1 この時点でマイナスとなっている場合は,ゼロにする。

6 『超過特別受益あり』の場合『特別受益控除先行説』の方が有力

高裁判例で,特別受益控除先行説が採用されています。
※東京高裁平成22年5月20日
なお,この裁判例の原審である家裁の審判では,寄与分合算先行説が採用されていました。
結論として,現時点では,特別受益控除先行説の方が採用される可能性が高いです。
立法関係者もこの見解を採っています。

<参考情報>

加藤一郎相続法の改正(下)ジュリスト723号115頁

7 『特別受益控除先行説』の理由は,独立した『寄与分』確定の手続の尊重など

(1)特別受益控除先行説は,プラス,マイナスの扱い方が違う

特別受益の控除(マイナス)を先行すると,リセットの恩恵を受けやすくなります。
相続人の立場から考えると,生前もらったもの(=特別受益)は過小評価,生前に(被相続人に)与えたもの(=寄与分)はフル評価,ということになります。
ここだけを見ると不公平,アンバランスだと思えます。
しかし,寄与分については,現実的には寄与分を定める処分調停という手続きによって定めます。
調停で話し合いがまとまらない場合,審判に移行し,家庭裁判所が決定することになります。
※民法904条の2第2項
一方,特別受益については,このような独立した調停・審判はありません。
※民法903条
※最高裁平成7年3月7日
詳しくはこちら|家事事件|手続|種類・基本|別表第1/2事件・一般/特殊調停対象事件

(2)独立した家事調停,審判による寄与分の内容確定を尊重

結局,特別受益については,遺産分割協議(調停・審判)という全体会議の中で,その計算方法の一環として考慮される,ということになります。
逆に言えば,特別受益を計算・考慮する時点では,寄与分は確定済,ということになります。
そこで,確定した寄与分については,極力修正しない方向が望ましい,と言えます。
言い方を変えると寄与分はフル評価が良いということです。
そこで,計算上は後回し,という見解が採用されたのです。
ただし,この見解はあくまでも高裁の決定です。
最高裁で統一的・画一的見解として採用されたわけではありません。
別の説が採用される可能性も一定程度は残っています。

8 超過特別受益ありの場合の2つの説による計算の具体例

2つの説によって,どのように違いが生じるかは具体的計算例で説明します。

(1)2説で共通の算定プロセス

<事例設定>

相続人  妻A,子BCDE
現存遺産 2000万

相続人→
寄与分 600万 280万
特別受益 400万 300万 100万

<みなし相続財産の算定>

2000+(400+300+100)-(600+280)
=1920万

<各相続人の『一応の相続分(本来の相続分)』>

 
A;1920万×1/2=960万
B;1920万×1/8=240万
C;1920万×1/8=240万
D;1920万×1/8=240万
E;1920万×1/8=240万

(2)寄与分合算先行説による計算プロセス

一応の相続分(本来の相続分)にまず寄与分を合算し,その合計額から特別受益を控除します。

<具体的相続分>

A;960+600=1560
B;240+280-400=120
C;240-300=-60
D;240-100=140
E;240

Cの超過分を他の共同相続人が負担することになるため,現存遺産の分配比率を算出します。

<現存遺産の分配比率>

A;1560/(1560+120+140+240)=78/103
B;120/(1560+120+140+240)=6/103
C;0
D;140/(1560+120+140+240)=7/103
E;240/(1560+120+140+240)=12/103

これを現存遺産2000万円に乗じて,それぞれの取得額を算出する。

<各相続人の取得額>

A;1514万5631円
B;116万5049円
C;0
D;135万9223円
E;233万0097円

(3)特別受益控除先行説による計算プロセス

※東京高裁平成22年5月20日
一応の相続分(本来の相続分)からまず特別受益を控除し,その後寄与分を合算します。

<具体的相続分>

A;960
B;240-400=-160
C;240-300=-60
D;240-100=140
E;240

BとCの超過分は,他の共同相続人が負担することになります。
そのため,現存遺産からAとBの寄与分控除した残額の分配比率を算出する。

<寄与分控除後の分配比率>

A;960/(960+140+240)=48/67
B;0
C;0
D;140/(960+140+240)=7/67
D;240/(960+140+240)=12/67

これを現存遺産からAとBの寄与分を控除した残額に乗じます。

<修正後の現存遺産からの配分金額>

A;{2000-(600+280)}×48/67=802万3881円
B;0
C;0
D;{2000-(600+280)}×7/67=117万0149円
E;{2000-(600+280)}×12/67=200万5970円

寄与者A,Bには寄与分が加算されます。

<最終的相続分>

A;802万3881円+600万0000円=1402万3881円
B;0+280万0000円=280万0000円
※他の相続人は上記と同じです。