1 建物賃貸借では『中途解約条項』を盛り込むのが一般的
2 賃借人からの中途解約|違約金の有効性の目安は『賃料1年分』まで
3 中途解約違約金条項の有効性を判断した判例
4 解約違約金の有効性判断要素
5 中途解約条項がないのに中途解約→解除の条件|相場=賃料数か月分〜1年分程度
6 定期借家の全期間賃料分の損害金(有効裁判例;概要)

1 建物賃貸借では『中途解約条項』を盛り込むのが一般的

賃貸借契約において,通常,『賃借人からの期間中の中途解約』について条項に定めてあります。
『解約権留保特約』と呼ぶこともあります。
詳しくはこちら|建物賃貸借の中途解約と解約予告期間(解約権留保特約)
中途解約は,オーナー(賃貸人)の立場からは『想定していた賃料収入が途絶える』ことになります。
経済的なダメージです。
これに対する配慮として,次のような条項を定めてあることも多いです。

<一般的な『中途解約』条項>

あ 解約予告期間

賃借人から契約期間中に解約する場合,1か月前に通知する

い 中途解約違約金(損害金)

『解約予告期間』に満たない場合は,不足する期間に相当する賃料相当額を支払う

この趣旨は,オーナーの『経済的ダメージ』の補償です。
具体的には,『次の賃借人を見付けるための時間的余裕』を確保するためです。

2 賃借人からの中途解約|違約金の有効性の目安は『賃料1年分』まで

<中途解約違約金の有効性の目安>

『1年分の賃料相当額』程度まで→有効
※東京地裁平成8年8月22日

中途解約違約金については,有効性が問題になることもあります。
中途解約時の違約金が高過ぎる場合,無効とされることがあるのです。
限度がどのくらいかはあまり明確な基準がありません。
『1年分の賃料相当額』という違約金の設定を有効とした裁判例があります。
もちろん,他の多くの要素によって有効性は判断されます。
上記の裁判例の判断はあくまでも目安です。
この判例の内容については次に説明します。

3 中途解約違約金条項の有効性を判断した判例

<解約違約金の有効性に関する判例>

あ 事案

建物賃貸借契約締結
期間=4年
使用目的=英語教室
契約締結後10か月経過時点で,賃借人が『解約申し入れ』を行った
オーナーが『残存期間3年2か月分の賃料相当額』を違約金として請求

い 裁判所の判断(判決)

『1年分の賃料』だけを違約金として認めた

う 理由

ア 違約金条項自体の有効性
違約金の設定自体は有効
イ 不合理性
・あまりに高い違約金の設定は解除を不当に制限する
・オーナーが家賃の2重取りになる
→一定限度以上は無効
ウ 有効な範囲
次の入居者=賃借人を確保するまでの空室期間
→1年程度と思われる
→『1年分の賃料相当額』だけの請求を認めた
※東京地裁平成8年8月22日

4 解約違約金の有効性判断要素

建物賃貸借契約における『解約違約金』の条項の有効性については,多くの事情を元に判断されます。

<解約違約金の有効性判断要素>

あ 解約の理由

賃借人側の都合,という場合は,(高めの)違約金が有効となる傾向

い 賃貸借契約締結時の金額設定とその理由

例;本来授受されるべき礼金をディスカウントする代わりとして,高めの違約金を設定した
→高めの違約金と引き換えに賃借人が利益をもらっている
→高めの違約金は合理性がある
→有効となる傾向

う 当事者の認識の程度

ア 例;賃借人が,契約締結時に,あまり説明をよく聞いていなかった
→無効となる傾向
イ 例;賃借人が十分な説明を聞いた上,詳しくリスクを書いた書面にサインした
→有効となる傾向

え 賃貸借契約の目的・用途

ア 居住用アパート・マンション
→賃借人の保護が強い
→高めの違約金は無効となる傾向
イ 事業用の店舗・事務所
→賃借人の保護は弱い
→高めの違約金は有効となる傾向

具体的事案については,以上の事情が総合的に考慮されて,違約金規定の有効性が判断されます。

5 中途解約条項がないのに中途解約→解除の条件|相場=賃料数か月分〜1年分程度

賃借人が,期間の途中で転居するなど,対象建物を使わないという状況になることもあります。
この点,一般の居住用建物の賃貸借契約には,『中途解約の条項』が含まれているのが一般的です。
この場合,『解約』ができるので問題ありません。
しかし仮に,中途解約の条項がない場合は,『中途解約できない』ということになります。
形式的に考えると,退去しても『賃貸借契約は継続し,賃料支払義務が期間満了まで続く』ということになります。
しかし,この解釈は有効性に問題があります。
特に居住用の物件においては,借家人の保護が強いです。
また,常識的に,通常の個人の入居者としては途中で退去して契約を終了できるという考えが一般的でしょう。
一定の限度で借家人に不利として残存期間の賃料請求の有効性が否定されることがあり得ます。
他方,事業用の物件では『残存期間の賃料請求』は認められる(有効)可能性も十分にあり得ます。
ただし,解約違約金の判例(上記)に準じて『賃料請求の範囲』を『1年分まで』と制限される可能性はあります。
訴訟にならないとしても,任意交渉によって『合意解除の条件』として一定の違約金を決めることは妥当な解決です。
実務上のおおまかな目安をまとめておきます。

<期間中の合意解除の条件|中途解約条項がない場合|目安>

あ 一般的な住居

1~3か月分の賃料相当額

い 事業用の店舗・事務所

半年~1年分の賃料相当額

ただし,これらはあくまでも大まかな目安です。
契約締結の経緯・金額その他の条件設定の経緯(理由)によって解釈は違ってきます。

6 定期借家の全期間賃料分の損害金(有効裁判例;概要)

以上の説明の前提は一般的な建物賃貸借(普通借家)です。
一方,定期借家の場合は有効性判断の方向性が違ってきます。
定期借家では,一定期間内は契約が継続することが想定されているのです。
そこで,契約期間全体分の賃料相当額の損害金も違約金として認められる傾向があります。

<定期借家の全期間賃料分の損害金(有効裁判例;概要)>

あ 違約金の規定

定期借家について
違約金=残存する契約期間全体の賃料相当額

い 裁判所の判断

違約金は有効である
※東京地裁平成25年6月25日
詳しくはこちら|中途解除によるフリーレント撤回と全期間賃料分の損害金(裁判例)