1 オーバーローンの共有不動産の全面的価格賠償
2 裁判例の事案と結論の要点
3 全面的価格賠償の相当性の判断
4 賠償金の金額算定
5 事案の特殊性(離婚・財産分与との関係)
6 オーバーローン不動産の賠償額算定の一般的規範

1 オーバーローンの共有不動産の全面的価格賠償

不動産の共有物分割で、全面的価格賠償が選択される場合、賠償金の金額が決定されることになります。ここで、不動産に担保権が設定されている場合、その負担(被担保債権の金額)を控除するかしないか、という問題があります。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の賠償金算定における担保負担額の控除
ここで、控除することを前提にすると、オーバーローン、つまり、不動産の価値よりも被担保債権の額の方が大きい場合、賠償額がマイナスとなってしまいます。これも新たな問題となります。このような事案について、個別的な事情を考慮して、賠償額を100万円と定めた裁判例があります。
本記事では、オーバーローン不動産の全面的価格賠償の場合の賠償額の算定について、裁判例を紹介しつつ説明します。

2 裁判例の事案と結論の要点

賠償額を100万円と定めた裁判例を紹介します。最初に、要点だけをまとめます。
共有物分割の対象の不動産は建物で、建築資金を出し合った2人が共有者となっていました。一方はローンとして負担したので、この建物には抵当権が設定されていました。
共有者のうちX(原告)は元夫であり、Y(被告)は妻の妹でした。要するに夫婦のマイホームとして新築して、夫婦が居住していた建物だったのです。妻はローンを組めなかったので、妻の妹が代わりにローンを組んだのです。
建物の敷地(土地)は、妻の母など、妻側の親族が所有(共有)していました。借地権は設定しておらず、無償で土地を使用していました。
結論として、Y(妻側)が建物を100万円で取得する(単独所有とする)ことになりました。

裁判例の事案と結論の要点

あ 建物(共有物分割の対象)

建物はX・Yの共有であった
Yは、Xの元妻Aの妹である
建築資金はX(現金)とY(ローン)が負担した(新築した)
オーバーローンの状態であった

い 土地(共有物分割の対象外)

土地(敷地)は、Yとその親族の共有であった
土地の利用権原は使用貸借であった(借地権は設定されていなかった)

い 判決(結論)

裁判所は、Yが取得する全面的価格賠償を決定した
賠償金は100万円とする
※東京地判平成18年6月15日

この裁判例の判断の内容は以下説明します。

3 全面的価格賠償の相当性の判断

共有物分割訴訟となっている時点では、夫婦はすでに離婚して、夫はこの建物を退去していました。そしてYや妻、その子など、妻側の親族だけが建物に居住していたのです。
そこでYは自身が取得する全面的価格賠償を主張しました。
裁判所が全面的価格賠償を選択するには、相当性が認められる必要があります。
詳しくはこちら|共有物分割における全面的価格賠償の要件(全体)
本件ではまず、他の分割類型である換価分割(競売)を仮定してみます。土地と建物の所有者が同一であれば法定地上権が成立します。本件では共有者の一部に一致する者がいますが、一致していない(土地の共有者だけである者がいる)ので、法定地上権は成立しません。
詳しくはこちら|共有者の『容認』による例外的な法定地上権の成立とその判断基準
そこで、競売にした場合には、土地の占有権原がない建物となります。買い手がつかないか、ついたとしても極端に低い金額となってしまいます。さらに、競売で売却できたとしても、ローンの返済が優先になるので(消除主義)、分配する剰余金が発生しないことになります。
このように換価分割は合理的ではない(また現物分割は物理的に不可能である)ため、消去法的に全面的価格賠償が合理的といえます。
また、建物に居住しているのはY側(妻側)の親族でした。居住している者が取得することは合理的です。一方、Xがこの建物に居住する(戻ってくる)ことは常識的にありえません。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の相当性が認められる典型的な事情
以上の事情から、Yが取得する(全面的価格賠償)ことについて、相当性が認められました。

全面的価格賠償の相当性の判断

あ オーバーローン(前提)

本件建物の固定資産評価額は954万300円であり、被担保債権残額は2200万円を超えている。
また、本件土地はY、花子、葉子の共有であり、その固定資産評価額は1563万1570円である。

い 土地利用権原と競売を仮定した場合の剰余金

本件建物の敷地利用権は使用貸借にすぎないものと考えられる。
なお付言すれば、本件の事実関係では法定地上権も成立しないと考えられる。
そうすると、本件建物を競売した場合に原Yに分割する剰余金が生じるとは考えにくい(むしろ、かなりのローン債務が残存するものと考えられる)。

う 占有(居住)状況

本件建物には花子、Y、葉子、Xと花子の子らが居住しており、Xと花子は離婚しているし、XY間にも熾烈な争いがあることは本件からも明らかであるから、Xがここに居住する可能性も現実問題としてはほとんどありえないと考えられる。

え まとめ

以上のような事実関係の下では、本件建物の共有物分割の方法として全面的価格賠償によることは、価格賠償の金額が適性に評価され、Yがその資力を有する場合には、相当な方法であると考えられる。
※東京地判平成18年6月15日

4 賠償金の金額算定

Yが取得することが決まったので、YがXに支払う賠償金の金額を計算することになります。
Xは、ローン残額の控除をしないで、単純に建物の価値(のうちXの持分割合相当額)を基準とするべきであると主張しました。
これについて裁判所は、換価分割(競売)と仮定した場合には分配する剰余金が発生しないということを指摘し、控除をしない計算方法は不合理であると判断しました。
ところで、共有者のXとYは(元)夫婦でありませんが、Yは妻の代わりにローンを組んだため、Yの代わりに共有者となったという経緯がありました。仮にXと妻の共有だったと仮定すると、離婚の時に財産分与として処理されるはずだったのです。この点、夫婦の共有財産がオーバーローンである場合、財産分与の中ではなにもされないのが一般的です。
詳しくはこちら|オーバーローンのマイホームの財産分与では価値ゼロとして扱う
つまり、価値がゼロの不動産として考えるといえます(少し語弊がありますが)。
一方、一般論として、賠償金の金額は、共有持分を失う共有者(対価取得者)共有持分の価値といえます。たとえば、実際に居住している者にとっては、ローン残額がどうであっても、居住できるということに価値があります。
本件ではXはこの建物に居住していないし、将来居住することになるということも常識的にありません。
結局、共有持分の価値をはっきりと計算することはできず、ゼロに近いということは分かりました。ところでYは賠償金として100万円を提示していました。そこで裁判所は、少なくとも100万円であれば十分である、という趣旨で、賠償金を100万円と定めました。100万円という金額は便宜的なものであるといえます。

賠償金の金額算定

あ 被担保債権控除なしの主張(否定)

この点につき、Xは、全面的価格賠償に当たって基準とする本件建物の価格は、抵当権の被担保債権を控除しない本件建物の時価と考えるべきであると主張し、その根拠として、前記(ア)、(イ)のとおり述べる。
しかし、右(ア)、(イ)の主張については、本件建物の処分によって抵当権の被担保債権が消滅あるいは減少することを前提としているが、全面的価格賠償の場合についてはそのようなことはないし、また、右主張は、競売による代金分割の場合(前記のとおりXに分割すべき剰余金も生じない)と比較して著しく不均衡であることからしても、採ることができない(なお、Xの主張する本件建物の価格〔3461万9256円〕を基準にその主張に基づいて計算すると、全面的価格賠償の金額〔1700万円を超える〕がX主張の出費の金額〔1254万8000円〕を超えてしまうが、このことも、Xの主張自体の問題点を示すものと言えよう)。

い 財産分与との比較

むしろ、本件における利益状況は、花子をY側の人間と考えるならば、Y主張のとおり、離婚財産分与の場合に近いのであり、その場合には、通常、不動産の時価から債務額を控除した残額が財産分与に当たって考慮されるにとどまり、オーバーローンの場合、ことに本件のように不動産を取得する側が債務をも全面的に負担する場合には、オーバーローンに係る不動産は財産分与に当たって考慮の対象とされないことを考慮すべきであろう。

う 規範=対価取得者の持分の潜在的利益

そうすると、本件における全面的価格賠償の適正な金額は、前記のX持分割合を前提として本件建物についてXが有するところの潜在的利益を総合的に考慮した金額とするほかないと思われるが、

え 結論

前記のとおり、Xがここに居住する可能性が現実問題としてはほとんどありえないことを考慮するならば、その金額が、Y主張の100万円を超えることはないものと解される。

お 主文

別紙物件目録記載の建物を次のとおり分割する。
同目録記載の建物はYの所有とする
Yは、Xに対し、金100万円を支払え
※東京地判平成18年6月15日

5 事案の特殊性(離婚・財産分与との関係)

この裁判例の事案をふりかえると、共有者が夫婦ではなく、夫と「妻の妹」となっていたため、離婚の時に財産分与として処理されないままとなったという特殊事情がありました。

事案の特殊性(離婚・財産分与との関係)

いずれにしても、通常であれば離婚ないし財産分与の争いの中で解決される事柄が、本件においては、建物が夫婦の共有ではなかったために、こうした形で紛争として残ってしまったものであることは、間違いがなさそうである)。
※『判例タイムズ1214号』p222〜

ただ、仮に夫婦の共有であったとしても、財産分与で解決しないこともあります。むしろ、オーバーローンの場合は財産分与では放置されるのが一般的であり、実際に、離婚から長期間が経過した後に、元夫婦で共有持分割合を決める、あるいは共有物分割をすることになる、ということもよくあります。
詳しくはこちら|共有であるかどうか・持分割合の認定(民法250条の推定・裁判例)

6 オーバーローン不動産の賠償額算定の一般的規範

この裁判例が示した賠償金の計算方法からは、対価取得者が有していた利益(全面的価格賠償により失う利益)を金銭評価したものを賠償金の金額とする、という一般論が読み取れます。
本件では、対価取得者(X)が居住(使用)していなかったのでゼロに近く評価されました。逆に、居住している場合は、居住の価値を算定することになりますし、第三者に賃貸している場合は、将来の賃料収入(の現在の価値)を評価することになるはずです。

オーバーローン不動産の賠償額算定の一般的規範

あ 一般化

本判決の論旨を一般化すれば、オーバーローン不動産に係る全面的価格賠償の適正金額は、不動産の所有権を失う側の当事者が当該不動産について有している利益を金銭的に総合評価したものであるということになろう。

い 考慮要素の例

そうすると、たとえば、他に賃貸されている不動産双方が利用している不動産の場合には、全面的価格賠償の金額の算定方法は、本件とはまた異なってくるということになろうか。
※『判例タイムズ1214号』p222〜

本記事では、オーバーローン不動産の全面的価格賠償における賠償金の算定について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、共有不動産や共有物分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。