1 共有者の『容認』による法定地上権の成立(総論)
2 共有持分の競売と法定地上権の否定(昭和29年判例)
3 『容認』による例外(昭和44年判例・概要)
4 昭和44年判例の事案の特殊事情
5 法定地上権の現実的効果(平成6年判例の理由)
6 共有者の『容認』の判断基準(平成6年判例)
7 形式的競売における法定地上権否定事例
8 土地共有者の合意による利用権原(概要)

1 共有者の『容認』による法定地上権の成立(総論)

法定地上権の成立要件の1つに,抵当権設定時に土地・建物の所有者が同一であった,というものがあります。
この点,土地や建物が共有のケースでは,この要件に該当するかどうかは解釈で決まります。
詳しくはこちら|法定地上権の基本的な成立要件
実際にいろいろなパターンの権利関係のケースにおいて,法定地上権が成立するかどうかの判例があります。
判例の判断の中で,抵当権を設定していない共有者の立場(利益)が大きく影響しています。
判断基準の1つとして,抵当権を設定していない共有者が,法定地上権の成立を『容認』していた場合に,法定地上権を成立させるというものがあります。
この例外的な扱いは,その後の判例で大きく制限されています。
本記事では,このような,共有者の『容認』による例外的な法定地上権の成立と,その判断基準を説明します。

2 共有持分の競売と法定地上権の否定(昭和29年判例)

まず,基本的には,土地の共有持分の競売(抵当権実行)では法定地上権が成立しません。
これが現在でも大原則となっています。

<共有持分の競売と法定地上権の否定(昭和29年判例)>

あ 権利関係
建物 A単独所有 抵当権設定なし
土地 A・Bの共有 A持分に抵当権設定
い 抵当権実行

抵当権が実行された
競売により土地・建物の所有者が異なる状態になった

う 法定地上権の成否

他の共有者(B)の権利が制約されるのは不当である
→法定地上権は成立しない
※最高裁昭和29年12月23日

3 『容認』による例外(昭和44年判例・概要)

昭和29年判例は法定地上権を一般的に否定しましたが,昭和44年の判例は,これの例外を認めます。
抵当権の設定に関与していない土地共有者が,法定地上権の成立を容認していた場合に限って例外的に法定地上権を肯定するという判断です。

<『容認』による例外(昭和44年判例・概要・※2)>

あ 権利関係
建物 A単独所有 抵当権を設定した
土地 A・Bの共有 抵当権設定なし

抵当権が実行された

い 法定地上権の成否(原則)

原則として法定地上権は成立しない(前記※1)

う 法定地上権の成否(例外)

Bが法定地上権の発生をあらかじめ容認していた場合
→例外的に法定地上権は成立する

え あらかじめ認容する具体例

Bが持分に基づく使用収益を事実上放棄した
BがA(建物所有者である土地共有者)の処分に委ねていた

お 個別事案の判断

Bは法定地上権の発生を容認していたと認定した
→例外的に法定地上権の成立を肯定した
※最高裁昭和44年11月4日
詳しくはこちら|共有と法定地上権の成否(単独所有への抵当権設定)

4 昭和44年判例の事案の特殊事情

前記の昭和44年の判例は,具体的事案をみると非常に特殊な事情があります。
理論的には土地は共有ですが,実質的には単独所有とほぼ同様の状況だったのです。
そこで,昭和44年判例の基準は一般化できないと指摘されています。

<昭和44年判例の事案の特殊事情>

あ 事案の特殊性

昭和44年判例(前記※2)の事案について
法律上は(従前地の)共有持分であった
実質的には仮換地の特定部分の売買である

い 一般化することの問題

『あ』のような特殊な事案に関する判断である
一般化することには問題がある
※東京地裁民事執行実務研究会編『改訂不動産執行の理論と実務(上)』法曹会1999年p266

5 法定地上権の現実的効果(平成6年判例の理由)

『容認』による法定地上権の成立を認めた昭和44年判例を無力化する判例が登場しました。
まずはこの平成6年判例では,法定地上権が成立した場合の現実的効果を整理して示しています。これが後記の判断につながっています。

<法定地上権の現実的効果(平成6年判例の理由・※3)>

あ 経済的な効果

地上権は強力な権利である
法定地上権が成立すると土地の売却価格を著しく低下させる

い 土地共有者の意思

法定地上権が成立することについて
→土地共有者らの通常の意思に沿わない
通常の意思=自己の持分の価値を十分に維持,活用する

う 利害関係者の期待・予測

ア 基本的事項
法定地上権が成立することについて
→共有持分の価値に利害関係を有する第三者の期待や予測に反する
イ 利害関係者(第三者)の例
土地共有者の一般債権者
後順位抵当権者
土地の競落人

え 執行手続の法的安定性

法定地上権の成否が明確ではないことについて
執行手続の法的安定を損なう
※最高裁平成6年12月20日

6 共有者の『容認』の判断基準(平成6年判例)

平成6年判例では,昭和44年判例の基準の中の『容認』の判断の基準が示されました。
現実的には,そう簡単には『容認』を肯定しないという内容となっています。
例外的な法定地上権の成立を事実上封印したといえます。

<共有者の『容認』の判断基準(平成6年判例)>

あ 権利関係
建物 A・他の8人 抵当権設定なし
土地 A・B・Cの共有 全体に抵当権を設定した

抵当権が実行された

い 前提となる基準(昭和44年判例)

ア 原則
法定地上権が成立すると不合理である(前記※3)
→原則として法定地上権は成立しない
イ 例外
『共有者が法定地上権の発生をあらかじめ容認していた』場合
→法定地上権が成立する(前記※2)

う 『あらかじめ容認』の判断の方法

『客観的かつ明確に外部に公示されるもの(え)ではない事情』(お)は
第三者にはうかがい知ることができない
→そこで『認容』の有無の判断では考慮しない

え 客観的・明確な公示の例

登記簿の記載(登記された情報)
→『容認』の判断で考慮する

お 公示されていない事情の例

土地共有者間の人的関係
→『容認』の判断で考慮しない
※最高裁平成6年12月20日

か 執行の実務

執行の実務でも『い・う』の判断基準(方法)が用いられている
※東京地裁民事執行実務研究会編『改訂不動産執行の理論と実務(上)』法曹会1999年p266

7 形式的競売における法定地上権否定事例

平成6年判例の後に,この基準を適用して法定地上権を否定した裁判例があります。
ただし,担保権の実行ではなく形式的競売であることも,法定地上権を否定する理由として明言しています。
いずれにしても,『容認』を否定することが明確に示されているので,参考となる事例として紹介します。

<形式的競売における法定地上権否定事例>

あ 権利関係
建物 A単独所有 抵当権設定なし
土地 A〜Eの5人の共有 A持分に抵当権を設定した

土地について換価分割による形式的競売が行われた
土地・建物の所有者が異なる状態になった

い 法定地上権の判断基準時点

法定地上権の成否は先行する抵当権を基準として判断する
詳しくはこちら|実行していない先行抵当権を基準として法定地上権の成否を判断する

う 法定地上権の成否

抵当権設定時点において
Aは土地の共有者でありかつ建物所有者であった
B〜Eが『法定地上権の発生をあらかじめ容認していた』場合
→法定地上権が成立する(前記※2)

え 裁判所による『容認』の判断

『容認していた』とみることはできない

お 補足説明

法定地上権を否定する理由として
形式的競売であることも示している
詳しくはこちら|形式的競売では法定地上権の成立は否定される傾向がある
※福岡高裁平成19年3月27日;形式的競売について

8 土地共有者の合意による利用権原(概要)

以上のように,現実的には法定地上権が成立しないことが多いです。
その場合には,法定地上権とは別に,当初,土地の共有者で合意した利用権原の扱いが問題となります。
結論としてはこの利用権原は存続することになります。
詳しくはこちら|担保権実行における土地共有者が合意した利用権の消滅か存続